不遇弓使いの英雄譚ー無敵スキル『絶対反転』を得て救世主となる

たからかた

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六章

神龍酒

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「い、いや、俺は英雄じゃない」

俺は慌てて否定した。
英雄なんて、天に選ばれた生まれながらの強者のことだろう?

でも、吟遊詩人は力強く応えてくる。

「いいえ。あなたのおかげで、私は何度も命を拾った」

「……?」

「あなたが、今のパーティーの皆さんと組む前、他の方々と冒険していらしたでしょう?もちろん、ネプォン王のことではありませんよ?」

「……はい」

「その時、何度か魔物討伐をされてる」

「そうですね……単発の」

「私が魔物にも詳しいのは、時折冒険者と行動を共にするからです。吟遊詩人として」

「とはいっても、俺と会ったことないですよね」

「直接はありませんが、私はあなたの戦いの場に、何度か遭遇していたのです」

「そうですか……。討伐対象が冒険者同士でかぶることもありますからね」

「えぇ。私は盲目ですから、目以外の五感を全て使って状況を把握します。ですが、逃げ遅れることも多い」

「……」

「戦闘に巻き込まれれば、当然真っ先に危険な目に遭う。でも、あなたがいると、安全だった」

「……」

「敵は自分の攻撃力によって、自滅していくだけだから」

「……」

「それに、あなたはそれだけの力を持っていても、スカウトの慎重さを忘れなかった。事前に調べ、決して力技で進もうとはしない」

「それは……余計な犠牲を出したくないですから」

「ええ。でも、あなたほどの力があれば、時間を優先して、猪突猛進になりやすい。でも、あなたは、他の冒険者にも気配りを忘れなかった」

「それは俺が……」

ネプォンたちと組んでいた時、散々な目に遭ったからだ。同じ目に遭うのも、同じ目に遭っている人を見るのも不愉快。

気配りといえば聞こえはいいけど、そうすれば円滑に旅が進められて、気持ちよく生きられるというだけ。

我が身を守るための、処世術でしかない。

「……辛い立場を経験した人間は、必ずしもそれがいい方向に向くとは限りません」

吟遊詩人が、会話が途絶えた俺に、そっと告げてきた。

「え?」

「自身の悔しさを、他の人間にぶつける者、関係ない人間を、同じ目に遭わせて苦しませようとする者もいる。どちらも他者を、苦しませます」

「……」

「抉られた心の埋め合わせが、うまくできなければ、そうなっても仕方がない。ですが、あまりにひどいと、被害者はたまりません。迷惑でしかない」

「……」

「あなたは、うまく癒される環境に、いたのでしょう? その点、恵まれた人かもしれない」

「ええ……じっちゃんが、俺を癒してくれました。……時間をかけて。それに手にした新たな力は、俺の自尊心を取り戻すのに、役に立ちました」

「ふふ、そうでしょう。だとしても、あなたは受けた屈辱を、その時の怒りを、他者を気遣うことで昇華している。素晴らしいことだ」

「……そうでしょうか」

「そこをいいように使う人間もいるでしょうが、あなたの行いは多くを助けている」

「……」

「私も助けられた一人。そして、見返りを求められたこともない。私には魔王を倒したネプォン王より、あなたこそが英雄なんです」

「いえ、そんな。それに、今回は見返りを求めようとしています」

「?」

「さっき、神龍酒のことを歌っていたでしょ?詳しく教えてもらえませんか?その、“助けた見返り”に」

「ふふふ、情報提供ですね。やっと私もあなたの役に立てる」

「お願いします」

「ええ。私は神龍酒の伝説に詳しい冒険者と旅をしたのです。何故、彼が詳しかったかはわかりません」

「そうですか……」

「そして、その時、龍王が倒される現場に偶然居合わせたのです」

「!!」

「私が同行したその冒険者が、龍王と戦おうとしていましたからね。その時、我々の前にレディオークが現れた。見えなくても、それはわかりました」

「……!」

「二体は、すぐに戦いに突入した。最初は、龍王が優勢でした。これはもう、勝負は決まったと思えるくらいに」

「劣勢に見えたレディオークは、瀕死になるまで攻撃力を溜め、やがて体力変換と高めた攻撃力で、龍王を撃破したんですか?」

「はい、その通りです」

レディオークの固有スキル、『ダメージ変換』と『体力変換』。

瀕死になるまで、溜め込まれたダメージは、自分の攻撃力に加算される。

それから、瀕死の自分の体力と、相手の体力を入れ替えて、自分は回復、相手は瀕死状態にさせる。

瀕死の龍王は、ひとたまりもなかっただろうな……。

「それで?」

「レディオークは、我々にも向かってきました。その時、同行していた冒険者が、持っていた酒を奴の前に撒いたんでます」

「撒いた?」

「ええ、死に物狂いで。そして、逃げろと言って逃げました」

「レディオークは?」

「我々には目もくれず、地面に落ちた酒を舐めていました。でも、舐め終わると、すぐに追いかけてきたんです」

「……」

「冒険者は、もう一度酒を、入れ物ごとレディオークに投げつけたのです。香りがとても良くて、すぐに高価なお酒だとわかりました」

「それは、神龍酒だったのですか?」

「いいえ、でも、神龍酒を真似たお酒だったと後から教えてもらいました」

「それは、レディオークの足止めになったのですか?」

「えぇ、もう一度追いかけてきた時は、かなり距離が空いたし、少し酔っているようでした」

「酔った……」

「正常な判断ができないようでした。効果は短時間でしたが、逃げる時間は稼げました」

「つまり本物の神龍酒であれば、奴は長く酔っ払った上に、まともな判断ができなくなる」

「そうです。その冒険者はそう言ってました」

「その、神龍酒のことを知っていた冒険者は?」

「別の国で別れました」

「そうですか」

神龍酒を真似たお酒でも、そう長くは保たないということだな。やはり本物が必要だ。

「ありがとうございます。とても役に立つ情報でした」

俺たちは、吟遊詩人に頭を下げた。
彼は、薄く笑って噛み締めるように『いいえ』と言った。

ひとまず話を終えた吟遊詩人は、俺に手を伸ばしてくる。

「あの、あなたに触れても?」

「え」

「私は目が見えないので、触れて相手を確かめるのです」

「あ、はい、どうぞ」

俺は吟遊詩人の前に立って、彼の手に触れさせてあげた。

彼は椅子から立ち上がると、腕や顔に触れてきて、輪郭を確認するように指の腹を滑らせる。

「……大いなる力が宿っていますね」

「はい」

「初めて感じる力です。ですが、危機に瀕している。龍王たちが次々と倒されたことに、関係するのですね?」

「ええ……」

「ということは、この力は大帝神龍王……そうか、だから敵は三の倍数の攻撃回で、自滅するのか」

「はい」

「すごい、大帝神龍王を従えた人間など、見たことがない。過去の歴史にもありません」

「偶然なんです」

「いいえ」

彼はゆっくり俺から手を離して、元の椅子に手探りで腰掛けた。

「大帝神龍王は、あなたに感服したのです。これは、力で服従させるよりも、遥かにすごいこと。力で服従させれば、弱まった時に襲ってきますから」

それには、魔導士ティトも頷く。

「確かにな。ワシらも契約という形で魔術を行使するが、弱まった状態で使うと逆に精霊や魔獣に取り殺されてしまう」

それは知らなかった。魔法を使うということは、恐ろしさと背中合わせなんだな。

じっちゃんが、ティトの修行を邪魔しないように身を引いたのも、これも理由の一つかもしれない。

ティトも、そのことに気づいたのか、ふっと、表情を曇らせた。
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