不遇弓使いの英雄譚ー無敵スキル『絶対反転』を得て救世主となる

たからかた

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八章

神弓

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「この、アシンメトリーな装飾の配置……気になるな」

柄に施された彫刻と、埋め込まれた宝石が、左右で微妙に異なる。

剣の鞘の方を見ると、似たような装飾になっているけど、こちらは左右対称だった。

こんなヒントがあったのに、ネプォンの奴……。

俺もこんなにマジマジと見てなかったから、あの時は気づかなかった。

「装飾を触っても、ぴくりとも動かないな」

俺は埋め込まれた宝石を指の腹で押して、左右対称にしようとしたけど、びくともしない。

その部分だけ触っても、意味がないのか。

他には……と。

剣を前後左右に回転させながら、あちこち調べていると、剣の鍔がクルリと回った。

あ!

剣の柄の一番底を押し上げながら、鍔を回すとカチリと装飾が動いた。

それと同時に、剣の刃が亀裂にそって変形していく。

そのまま装飾を、左右対称になるまで動かすと、剣の刃が全く違う形に変形していった。

「こ、これは、なんだ?」

「ベル……?」

楽器になるなんて、予想外だ。
軽く振ると『リーン……』と、心に染み渡るような美しい音がする。

「いい音ニャ。神々が愛でそうな音ニャ」

ニャルパンが、そう言った時だ。

目の前に光が集まり始め、光り輝く何かが形作られていく。

「おお!」
「な、なんだ?」
「わぁ」
「これはこれは……」

みんな口々に、感嘆の声をあげた。
俺も驚いてる。

この形……弓!?

それは、大帝神龍王を模したような彫刻が施された、見事な弓だった。

弓は俺の手の中に自ら降りてくると、ゆっくりと輝きが鎮まっていく。
すごく手にしっくりくる弓だ。

「すごいニャ……これは、神々の愛でる神木『シュラルドグ』から切り出した弓じゃニャいか?」

「わかるのか? ニャルパン」

「師匠が教えてくれた特徴に、よく似てるニャ。紛れもなくこれは、兄さんの神器ニャ!」

「俺の……? 俺は、ネプォンじゃないぞ?」

「神器は自ら持ち主を選ぶニャ。この弓が兄さんの手に降りてきたのだから、問題ないニャよ」

「これが、本物の神器……」

みんなも集まってくる。ケルヴィン殿下も、興味津々で眺めていた。

「精巧な作りだな……なぁ、ちょっと貸してくれないか?」

「え? ええ、どうぞ」

ケルヴィン殿下は、構えて弓を引こうとしたけど、弦がぴくりとも引けなかった。

「びくともしないぞ」

それを聞いた聖騎士ギルバートも、ケルヴィン殿下から受け取って弓を引く。

「う……く! 何これ。鋼のように硬い。アーチロビン、引いてみて」

俺は驚きながら弓を受け取って、弦を引く。

弦は簡単に引けて、淡く輝きだした。

「まさに神器。アーチロビンだけにしか使えぬ、本物の神弓じゃな」

魔導士ティトが、感心したように俺を見る。
お、俺が神器を持てるのか?

天の選定がなかったはずなのに。

「よかったね!! やっぱり、あなたがふさわしいんだ!!」

フィオが、花が咲いたような笑顔で喜んでくれた。
つられて、俺も嬉しくなる。だけど……。

「アーチロビン? 嬉しくないの?」

フィオが顔を覗き込んでくる。
嬉しさよりも、戸惑いの方が上回っているんだよな。

「いや、あの……」

「?」

「俺は、ただの弓使いだ。伝説では、天が選ぶ英雄はその時代に一人だけ。幾重にも重ねた、転生前の苦労によって魂を鍛えた存在」

「そうだけど、それが?」

「納得できないんだ」

「ネプォン王が健在な現状に、あなたが選ばれるのはおかしい、と言いたいの?」

「ああ。あいつは、戦えないほど怪我を負ったわけでも、死んだわけでもない。なぜ、俺が神器を手にできたんだろう」

「英雄が世界を裏切った時、英雄は交代するニャんよ。『稀有な魂を持つ者』に」

「!!」

「!?」

「!!!」

「ええ!?」

裏切った? ネプォンが?
それに、稀有な魂?

「ネプォンが、世界を裏切った、てどういうことだ?」

「歴史的には珍しくないニャよ。過去の英雄たちの中には、魔王と取引をして、世界と引き換えに永遠の命や富を得ようとした人もいたニャ」

「なに!? じゃ、ネプォンも?」

「あり得るニャよ? トドメを刺そうとした直前に、魔王から何か提案された可能性もあるニャ」

「でも、ネプォンはトドメを刺してる。魔王の復活を認めないくらい、完膚なきまでに倒したと自負していたのに」

「何か契約したかもニャ」

「ん?」

「例えばニャ。ネプォン王も魔王も、彼の剣が神剣ではないことに気づいた、と、するニャよ? 戦う直前になって」

「!!」

「そうなると、ニャ。今更引き返せないネプォン王と、魂までは砕かれないことに気づいた魔王は、ある一点で利害が一致するニャ」

「まさか……」

「仮初の魔王の消滅」

「!!」

「肉体は消滅するから、明確に倒したと言う実績にはなるニャ。魔王も肉体を捨てて転生ができるニャ」

「そこまではわかる。契約、って?」

「復活した魔王が真っ先にすることは、なんだニャ?」

「世界征服?」

「違うニャ。倒した勇者に復讐ニャ。自分を倒す可能性を持つ勇者を真っ先に狙うニャ」

「!!」

そういえば、以前シャーリーがそんなことを言っていたな。

“魔王は、倒した私たちを忘れない”と。

「魔王は、このままこの剣で倒してくれたら、復活してもネプォン王を見逃す、と提案したかもニャ」

「でもそれだと、復活をあそこまで否定しないだろ? 自分は安全なんだから。身分は失うかもだけど」

「もしくは、ネプォン王が『復活は自分が死んだ後にしてくれ』と頼んだかもしれニャいよ? 対決しなくて済むように」

「!!」

「だから、あいつ、復活を否定していたのか!? 早すぎる……て!!」

「かもニャ。それにこの契約は、寿命が来て死んだ後なら、魔王に世界を好きにしていいと、約束したようなものニャ」

「世界を売ったことと、同じ」

「そうニャ。世界に対する裏切り」

「あいつ……!!」

「こうならないための、お助けや導きはあったはずニャんよ。英雄には天の助けがつきものニャ」

「?」

「この剣の哭声は聞こえていたはず。倒すではなく、封印のためのアイテムも、持っていたはず」

「!!」

俺は胸を押さえた。

あの、三叉のクリスタルだな。

シャーリーが、本来は魔王ダーデュラの封印のために大聖女オベリア様に託されたと言っていた。

ところが奴は、ハクをつけるために大帝神龍王に挑み、クリスタルをそこで俺に埋め込んで封印に使ってしまった。

剣の哭声も聞こえていたはずなのに、無視して仲間に相談もしなかった。

最終的にピンチになって、魔王と取引をして世界と引き換えに自分の安全を約束させた。

なんてことだ…!!

「魔王ダーデュラは、約束を反故にしたんだな」

「ネプォン王が、なぜ、魔王が約束を守ると思ったか、理由はわからないニャ。それでも……」

「?」

「やり直すことは出来たニャンよ。もう一度この剣を調べて、彼の神器を手に取り、魔王に立ち向かうことは」

「だが、奴は売ってしまった。魔王が以前より強い相手になると、わかっていたから」

「そうニャ。戦いから逃げたニャ。だから、兄さんに順番が来たニャよ。兄さんは、神々すら予測出来ないほど、『稀有な魂を持つ者』なんニャ」

「実感ないよ。ただの弓使いなのに。それに、稀有な魂と言われても……」

「兄さんの力は、『ただの弓使い』じゃないニャん」

「はは……まあな」

「このニャルパン様の見立てでは、兄さんの魂は、突然変異ニャと思う」

「突然変異?」

「魂を管理する神々ですら、予測不可能な変異を遂げた魂。だから『稀有な魂』として、次の英雄に選ばれたニャよ」

「いや……それだけじゃないよ」

俺は、手にした神弓を見つめた。
俺がここに辿り着けたのは、俺だけの力じゃない。

大帝神龍王と、それから……。

そこにいる仲間たちを、改めて見回す。

この人たちが、いたからだ。

そして、何より。

そばにいるフィオを見る。

彼女が、俺を呼んでくれたからだ。
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