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ヒロインを欲するものの計略

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ライオネルは、王を見つめて、

「毒を混入させたのは、私だからでございます。」

と、答えた。

一同がざわつき始め、王もティモシー王子も、みんな驚いた顔をする。

「お前が?」

「なぜだ?
ライオネル。
お前ほど優秀な侍従はおらぬのに!」

王も王子も、信じられないと言った態度で、質問してくる。

「全ては、レモニー様の仕業だということにして、処刑するため。」

そう言うと、ライオネルはチラリと私を見た。

その顔は許しを乞うような、悲しそうな顔。

「ライオネル!
おぬし、血迷うたでおじゃるか!?」

左大臣が席を立って怒鳴りつける。

「今回に限ったことではありません!
数々のレモニー様によるとされる過去の出来事、全て私が計画し、実行いたしました。
レモニー様は何もしておりません!!」

と、ライオネルは、声を荒げて叫んだ。

「なんだと!?」

流石さすがに右大臣も席を立つ。

「何のために?」

右大臣と左大臣を手で制した王が、静かに語りかける。

「レモニー様を悪女とすることで、右大臣の力を削ぎ、そして、ライカ様とティモシー王子の恋路に、揺るぎない華を添えるためでございます。
最後は処刑することで悪は除かれたと、周囲に印象付けることができます。」

ライオネルは、淡々と語る。

「揺るぎない華を?
どう言うことだ?」

ティモシー王子が、首を傾げる。

「ある方の意を受けて、私は動いておりました。
お二人の恋が、周囲から見ても憧れの対象であるように、誰もがライカ様を尊崇の対象と見えるように、この世で一番の女性にせよと。
そのためには、悪役が必要だと言われたのです。」

ライカとティモシー王子が視線を交わし、左大臣は、怒りに震える手で畳んだ扇を両手で握り締めている。

王は意外な顔をして、ライオネルを見た。

「二人の恋など、周りは静かに見守るだけでいいだろうに、そのような演出が何のために必要だと言うのだ。」

「愛しい相手に愛されるだけではなく、それを静かに賞賛される立場は、とても気持ちが良いものでございます。

ましてや、悪役による妨害も、愛の力で乗り越えたとなれば、もはや神話に近い語り草となって人々の心に刻まれます。

この世で一番の女性になること。

それは手放し難い輝きとなって、ライカ様を包むのです。」

ティモシー王子が、ライオネルの言葉を聞いて身を乗り出す。

「ライカはそんなものがなくても、誰よりも気高く素晴らしい女性だ。
私はそれだけで十分だ。」

と、ティモシー王子は言った。

「そう思えるのは、共に苦難を乗り越えたからなのです、ティモシー王子。」

ライオネルは、静かにティモシー王子を見つめる。

「苦しい時こそ、そのものの本性が見えます。

お二人は困難に直面するたびに、手を取り合って乗り越えた、そこでお互いを認め合ったからそう言えるのです。

そして、共に仕組んだレモニー様を憎む。

共通の敵と戦う構図もまた、お二人の結束を強くしました。」

ライオネルの言葉にティモシー王子も、ライカも目を伏せる。

「そしてそれは見ている方も、お二人を応援する気持ちが強くなる。

レモニー様が悪であればあるほど、あなた方の正義の愛が印象づけられ、ライカ様の評価を押し上げるのです。」

王は全てを聞いて、ライオネルを見る。

「つまり、ライカ姫は過大に評価されている、と?」

「ライカ様ご自身の素晴らしさも、もちろんございます。
ただ、私が手を貸さねば、ここまで皆が注目するほどの恋路にはならなかったはずです。
王子との誰も知らない静かな恋に始まり、それが実る。
それだけだったはずです。」

「・・・。」

ライカも何も言わない。

このゲームの世界において、ヒロインはもちろん一番人気がある存在。

それは、ライカ自身のものだけではなく、この世界が、ライカを尊崇するよう仕向けられた構造によるもの。

それはどの乙女ゲームでも変わらないはず。

ただ、この世界は、意図的な脚色が行われてしまっているのね。

「そなたにそうせよと、命じたものは何が目的なのだ。」

王はライオネルに質問した。

「自分から、離れられないようにするためです。
一度最上を経験したものは、その場所から降りるのを拒むようになります。
その心理を利用して、その演出をこれからも約束する代わりに、ライカ様を自分の花嫁として迎えるつもりなのです。」

一同が騒然となり、顔をしかめる人までいる。

「おぞましい。
何という浅ましい考えだ。」

そんな声が聞こえて来る。

「見下げ果てた心根だ。」

「そんなもので彼女の愛を得ようなどと・・・。」

「堂々と告白でもして、あとは彼女に選ばせればいいだろうに・・・。」

次々と非難の声が上がっていく。

バキバキ!!

扇子が折れる音がして、左大臣が立ち上がった。

「・・・当たり前でおじゃる。
これほど、お膳立てをしてあげたのでおじゃる。
自分の力だけで、ここまで輝けるわけないのでおじゃるからな。
人の力を借り、演出を受け、舞台に上がっていただけでおじゃるよ。
いわば、慈しんで育てられた果実でおじゃる。」

皆が見ている前で、左大臣は暗い目でライカを見ている。

「いきなりこの国に現れた小娘。
王子と一目で恋に堕ちて、次々と周りの男まで魅了していく不思議な女。
まろも魅了されたでおじゃる。
でも、小娘はまろの方を見ることはないでおじゃる。
王子しか見ていないからでおじゃるよ。」

不穏な空気を察して、ティモシー王子がライカに駆け寄って、その背中に庇う。

「でも、まろは知っているでおじゃる。
自己顕示欲は、ライカ姫にもちゃんとあるでおじゃ。
時として、それが愛情を上回ることがあることも気づいたのでおじゃるよ。」
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