14 / 76
ヒロインを欲するものの計略
しおりを挟む
ライオネルは、王を見つめて、
「毒を混入させたのは、私だからでございます。」
と、答えた。
一同がざわつき始め、王もティモシー王子も、みんな驚いた顔をする。
「お前が?」
「なぜだ?
ライオネル。
お前ほど優秀な侍従はおらぬのに!」
王も王子も、信じられないと言った態度で、質問してくる。
「全ては、レモニー様の仕業だということにして、処刑するため。」
そう言うと、ライオネルはチラリと私を見た。
その顔は許しを乞うような、悲しそうな顔。
「ライオネル!
おぬし、血迷うたでおじゃるか!?」
左大臣が席を立って怒鳴りつける。
「今回に限ったことではありません!
数々のレモニー様によるとされる過去の出来事、全て私が計画し、実行いたしました。
レモニー様は何もしておりません!!」
と、ライオネルは、声を荒げて叫んだ。
「なんだと!?」
流石に右大臣も席を立つ。
「何のために?」
右大臣と左大臣を手で制した王が、静かに語りかける。
「レモニー様を悪女とすることで、右大臣の力を削ぎ、そして、ライカ様とティモシー王子の恋路に、揺るぎない華を添えるためでございます。
最後は処刑することで悪は除かれたと、周囲に印象付けることができます。」
ライオネルは、淡々と語る。
「揺るぎない華を?
どう言うことだ?」
ティモシー王子が、首を傾げる。
「ある方の意を受けて、私は動いておりました。
お二人の恋が、周囲から見ても憧れの対象であるように、誰もがライカ様を尊崇の対象と見えるように、この世で一番の女性にせよと。
そのためには、悪役が必要だと言われたのです。」
ライカとティモシー王子が視線を交わし、左大臣は、怒りに震える手で畳んだ扇を両手で握り締めている。
王は意外な顔をして、ライオネルを見た。
「二人の恋など、周りは静かに見守るだけでいいだろうに、そのような演出が何のために必要だと言うのだ。」
「愛しい相手に愛されるだけではなく、それを静かに賞賛される立場は、とても気持ちが良いものでございます。
ましてや、悪役による妨害も、愛の力で乗り越えたとなれば、もはや神話に近い語り草となって人々の心に刻まれます。
この世で一番の女性になること。
それは手放し難い輝きとなって、ライカ様を包むのです。」
ティモシー王子が、ライオネルの言葉を聞いて身を乗り出す。
「ライカはそんなものがなくても、誰よりも気高く素晴らしい女性だ。
私はそれだけで十分だ。」
と、ティモシー王子は言った。
「そう思えるのは、共に苦難を乗り越えたからなのです、ティモシー王子。」
ライオネルは、静かにティモシー王子を見つめる。
「苦しい時こそ、そのものの本性が見えます。
お二人は困難に直面するたびに、手を取り合って乗り越えた、そこでお互いを認め合ったからそう言えるのです。
そして、共に仕組んだレモニー様を憎む。
共通の敵と戦う構図もまた、お二人の結束を強くしました。」
ライオネルの言葉にティモシー王子も、ライカも目を伏せる。
「そしてそれは見ている方も、お二人を応援する気持ちが強くなる。
レモニー様が悪であればあるほど、あなた方の正義の愛が印象づけられ、ライカ様の評価を押し上げるのです。」
王は全てを聞いて、ライオネルを見る。
「つまり、ライカ姫は過大に評価されている、と?」
「ライカ様ご自身の素晴らしさも、もちろんございます。
ただ、私が手を貸さねば、ここまで皆が注目するほどの恋路にはならなかったはずです。
王子との誰も知らない静かな恋に始まり、それが実る。
それだけだったはずです。」
「・・・。」
ライカも何も言わない。
このゲームの世界において、ヒロインはもちろん一番人気がある存在。
それは、ライカ自身のものだけではなく、この世界が、ライカを尊崇するよう仕向けられた構造によるもの。
それはどの乙女ゲームでも変わらないはず。
ただ、この世界は、意図的な脚色が行われてしまっているのね。
「そなたにそうせよと、命じたものは何が目的なのだ。」
王はライオネルに質問した。
「自分から、離れられないようにするためです。
一度最上を経験したものは、その場所から降りるのを拒むようになります。
その心理を利用して、その演出をこれからも約束する代わりに、ライカ様を自分の花嫁として迎えるつもりなのです。」
一同が騒然となり、顔を顰める人までいる。
「おぞましい。
何という浅ましい考えだ。」
そんな声が聞こえて来る。
「見下げ果てた心根だ。」
「そんなもので彼女の愛を得ようなどと・・・。」
「堂々と告白でもして、あとは彼女に選ばせればいいだろうに・・・。」
次々と非難の声が上がっていく。
バキバキ!!
扇子が折れる音がして、左大臣が立ち上がった。
「・・・当たり前でおじゃる。
これほど、お膳立てをしてあげたのでおじゃる。
自分の力だけで、ここまで輝けるわけないのでおじゃるからな。
人の力を借り、演出を受け、舞台に上がっていただけでおじゃるよ。
いわば、慈しんで育てられた果実でおじゃる。」
皆が見ている前で、左大臣は暗い目でライカを見ている。
「いきなりこの国に現れた小娘。
王子と一目で恋に堕ちて、次々と周りの男まで魅了していく不思議な女。
まろも魅了されたでおじゃる。
でも、小娘はまろの方を見ることはないでおじゃる。
王子しか見ていないからでおじゃるよ。」
不穏な空気を察して、ティモシー王子がライカに駆け寄って、その背中に庇う。
「でも、まろは知っているでおじゃる。
自己顕示欲は、ライカ姫にもちゃんとあるでおじゃ。
時として、それが愛情を上回ることがあることも気づいたのでおじゃるよ。」
「毒を混入させたのは、私だからでございます。」
と、答えた。
一同がざわつき始め、王もティモシー王子も、みんな驚いた顔をする。
「お前が?」
「なぜだ?
ライオネル。
お前ほど優秀な侍従はおらぬのに!」
王も王子も、信じられないと言った態度で、質問してくる。
「全ては、レモニー様の仕業だということにして、処刑するため。」
そう言うと、ライオネルはチラリと私を見た。
その顔は許しを乞うような、悲しそうな顔。
「ライオネル!
おぬし、血迷うたでおじゃるか!?」
左大臣が席を立って怒鳴りつける。
「今回に限ったことではありません!
数々のレモニー様によるとされる過去の出来事、全て私が計画し、実行いたしました。
レモニー様は何もしておりません!!」
と、ライオネルは、声を荒げて叫んだ。
「なんだと!?」
流石に右大臣も席を立つ。
「何のために?」
右大臣と左大臣を手で制した王が、静かに語りかける。
「レモニー様を悪女とすることで、右大臣の力を削ぎ、そして、ライカ様とティモシー王子の恋路に、揺るぎない華を添えるためでございます。
最後は処刑することで悪は除かれたと、周囲に印象付けることができます。」
ライオネルは、淡々と語る。
「揺るぎない華を?
どう言うことだ?」
ティモシー王子が、首を傾げる。
「ある方の意を受けて、私は動いておりました。
お二人の恋が、周囲から見ても憧れの対象であるように、誰もがライカ様を尊崇の対象と見えるように、この世で一番の女性にせよと。
そのためには、悪役が必要だと言われたのです。」
ライカとティモシー王子が視線を交わし、左大臣は、怒りに震える手で畳んだ扇を両手で握り締めている。
王は意外な顔をして、ライオネルを見た。
「二人の恋など、周りは静かに見守るだけでいいだろうに、そのような演出が何のために必要だと言うのだ。」
「愛しい相手に愛されるだけではなく、それを静かに賞賛される立場は、とても気持ちが良いものでございます。
ましてや、悪役による妨害も、愛の力で乗り越えたとなれば、もはや神話に近い語り草となって人々の心に刻まれます。
この世で一番の女性になること。
それは手放し難い輝きとなって、ライカ様を包むのです。」
ティモシー王子が、ライオネルの言葉を聞いて身を乗り出す。
「ライカはそんなものがなくても、誰よりも気高く素晴らしい女性だ。
私はそれだけで十分だ。」
と、ティモシー王子は言った。
「そう思えるのは、共に苦難を乗り越えたからなのです、ティモシー王子。」
ライオネルは、静かにティモシー王子を見つめる。
「苦しい時こそ、そのものの本性が見えます。
お二人は困難に直面するたびに、手を取り合って乗り越えた、そこでお互いを認め合ったからそう言えるのです。
そして、共に仕組んだレモニー様を憎む。
共通の敵と戦う構図もまた、お二人の結束を強くしました。」
ライオネルの言葉にティモシー王子も、ライカも目を伏せる。
「そしてそれは見ている方も、お二人を応援する気持ちが強くなる。
レモニー様が悪であればあるほど、あなた方の正義の愛が印象づけられ、ライカ様の評価を押し上げるのです。」
王は全てを聞いて、ライオネルを見る。
「つまり、ライカ姫は過大に評価されている、と?」
「ライカ様ご自身の素晴らしさも、もちろんございます。
ただ、私が手を貸さねば、ここまで皆が注目するほどの恋路にはならなかったはずです。
王子との誰も知らない静かな恋に始まり、それが実る。
それだけだったはずです。」
「・・・。」
ライカも何も言わない。
このゲームの世界において、ヒロインはもちろん一番人気がある存在。
それは、ライカ自身のものだけではなく、この世界が、ライカを尊崇するよう仕向けられた構造によるもの。
それはどの乙女ゲームでも変わらないはず。
ただ、この世界は、意図的な脚色が行われてしまっているのね。
「そなたにそうせよと、命じたものは何が目的なのだ。」
王はライオネルに質問した。
「自分から、離れられないようにするためです。
一度最上を経験したものは、その場所から降りるのを拒むようになります。
その心理を利用して、その演出をこれからも約束する代わりに、ライカ様を自分の花嫁として迎えるつもりなのです。」
一同が騒然となり、顔を顰める人までいる。
「おぞましい。
何という浅ましい考えだ。」
そんな声が聞こえて来る。
「見下げ果てた心根だ。」
「そんなもので彼女の愛を得ようなどと・・・。」
「堂々と告白でもして、あとは彼女に選ばせればいいだろうに・・・。」
次々と非難の声が上がっていく。
バキバキ!!
扇子が折れる音がして、左大臣が立ち上がった。
「・・・当たり前でおじゃる。
これほど、お膳立てをしてあげたのでおじゃる。
自分の力だけで、ここまで輝けるわけないのでおじゃるからな。
人の力を借り、演出を受け、舞台に上がっていただけでおじゃるよ。
いわば、慈しんで育てられた果実でおじゃる。」
皆が見ている前で、左大臣は暗い目でライカを見ている。
「いきなりこの国に現れた小娘。
王子と一目で恋に堕ちて、次々と周りの男まで魅了していく不思議な女。
まろも魅了されたでおじゃる。
でも、小娘はまろの方を見ることはないでおじゃる。
王子しか見ていないからでおじゃるよ。」
不穏な空気を察して、ティモシー王子がライカに駆け寄って、その背中に庇う。
「でも、まろは知っているでおじゃる。
自己顕示欲は、ライカ姫にもちゃんとあるでおじゃ。
時として、それが愛情を上回ることがあることも気づいたのでおじゃるよ。」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
88
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる