交渉犬パロ

たからかた

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さよなら、交渉犬パロ

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「あぁ、あれね。
イカサマしたんです。」

パロはしれっと答えた。

「イカサマ?」

パロがニコニコしていう。

「彼らがこちらの端末を覗いているのかと思ったのですが、コード入力画面以外を開いても何も言ってこない。
これはコード入力画面を同時に見ているだけで、こちらの端末を覗いてるわけではないんだなと」

それからパロが笑い出した。

「ダンゴ、実行ボタンが押されたどうか、あなたならどうやって確認します?」

「そ、それは実行ボタンを押した後に色が変わる仕様になっていれば、色を見ます。
あとはシステムが実行されてるか、プログラムコードを確認しますね。」

「普通はそうですね。
でも今回は、レオゲルト自身に実行ボタンをクリックさせて、押せないと確認させることが必要でした。」

「え?どういうことですか?」

「まあ、まあ、全部聞いていただければわかりますよ。」

興味津々で身を乗り出した僕を、パロは笑ってなだめた。

「だからボクはレオゲルトを煽って、ボタンを押すよう誘導したんです。

ボタンを押せないことを確認したとして、次はどうしますか、ダンゴ?」

「コードを入力し直して、もう一度押します。」

「一度しか入力できないルールなのに?」

「あ、そうか。
もう一つ入力可能なコードがあるなら、それを入れて、実行ボタンを押します。
、て、え?」

パロはクスクス笑う。

「そう、ここで追い込みをかけると、大概の犬はもう一つのコード、つまり無効化のコードを入れるでしょう。

ボクの狙いはここでした。

自分で組んだシステム、自分で作ったルール。
優秀で自信家であればあるほど、その枠を疑うなんてしませんからね。」

「で、でも、なぜ、実行ボタンが押されたようになっていたんですか?」

あの時、安楽死のプログラムも、無効化のプログラムも起動していなかった。
なのに実行ボタンが押されていたなんて、どう考えてもおかしい。

「それはね、レオゲルト側に表示された入力画面が、スクリーンショットだったからですよ。」

「ええ!?」
ボクはびっくりした。

「写真の実行ボタンなんて押しても、反応するわけないでしょ。」
パロはケロッとした表情で言う。

「い、いつ表示させたんです?」

「カピィたちが警察署の見取り図のデータを抜くために、ウィルスを仕掛けてたでしょ?
あのウィルスの初期プログラムが、カピィの端末に入ってたんです。

こちら側の端末で開いてる画面をスクショして、同じサイトを開く相手に、一時的にそれを『最前面』に表示させることができる、と筆談で教えてもらいましてね。
ウィルス感染の発覚を遅れさせるためのプログラムなんですけどね。」

そうだったのか・・・。
驚いて二の句が告げないボクを尻目に、パロはこともなげな様子で続ける。

「次に重要なのはスクショと本来の画面の切り替えなんですが、レオゲルトには、画面から目を逸らしてもらう必要がありました。

だからレオゲルトに、ドアの方を確認しろ、後半はメモを見ろと言ったんです。

レオゲルトはそうそう不手際を起こす部下は従えないでしょうが、万が一がある。
チラリと、ドアに目線を向けたでしょうね。

メモに関しては、記憶力に過度に自信がある人ほど、メモを近くに置きませんから。

メモを見るには、一瞬でも、完全に画面から視線を逸らさないといけない。
ボクにはそれで充分でした。

高すぎるプライドは、害にしかなりませんね。」

パロは、嬉しそうに言った。

「端末の中で密かにプログラムを実行させる時間が必要だったので、ボクはコードを一本指でちまちま打ってるかのような真似をしたんですよ。」

「つまり、カピィの端末にあるプログラムを実行して、レオゲルトにスクショを見せていたと?」

「ええ。
彼らのシステムは、あくまで共有ウインドゥ内での操作を監視しているだけ。
ボクらが、その他のウィンドウで何かしていてもわからない。

画面のタブを確認されてたらアウトだったんですけど、こういう時は必死に画面しかみませんもんね。」

パロの冷静な話に、ボクはその凄さを実感した。

「写真が起動してるわけだから、レオゲルト側もプログラムの影響を受けてたわけでしょ。
よく、相手のウィルスチェックにひっかかりませんでしたね・・・。」

「ボクたちが最初に交渉に行った時に、武器がないか検査してきたカピィの部下をおぼえてますか?

彼はこの道のエキスパートだったそうです。

短時間であれば決してバレない。

でも、時間をかけすぎるなと。

だから、相手に思考させないように追い込む必要がありました。」

ボクはあの時、迷ってばかりいたことを思い出していた。

「ボクはなかなか穴を開けなかった。
確信がもてなかったからですけど、そこも計算のうちに?」

「もちろん。
あなたは不確かな情報で動く犬じゃないですからね。」

パロはにこやかに話した。

「また、いつか会えますかね?パロ。」

ボクが言うと、パロは

「現場でまたご一緒するかもしれませんが。
その時はまた多分名前や姿を変えてます。
ボクは本名も本当の姿も秘密にしたいので。」

と、答えた。

「そうですか。」
「ええ、ではまた。」

これがパロと名乗る交渉犬との最後の会話になった。

寂しいけど、これも彼のやり方なんだろう。

不思議な交渉犬との出会いは、ボクの心に決して小さくない大きさで、思い出になっていった。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

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次回作「金塊を探せ」です。
ドタバタ金塊ハンターの挑戦をご覧ください。

※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。


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