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51.交渉
朔は結局その日そのままベッドに横になり死んだように眠り、起きたのは翌日、休みの最終日の夜だった。
その日は母親が夜勤の日で、朔は少しほっとしながらシャワーに入ったあと、冷蔵庫からパックの野菜ジュースを取り出しストローを差し込む。さすがに体調に配慮し栄養を少しでも摂ろうと悪あがきで選んだ野菜ジュースを飲み、カップラーメンをリビングで食べて夕飯を済ませた。
母親が作った料理があるのはわかっていたが、数日食べないだけで胃が小さくなったのか、あまり食欲がわかずそれには手をつけなかった。
朔は部屋に戻りまたベッドの上に寝転んだ。
あと数時間すればまた学校へ行かなければいけない。柏木に会わなければいけない。
思い出しただけで呼吸が浅くなり身体は小さく震えた。柏木の家で受けた数々の陵辱は、確実に朔の恐怖心を育て、時折本当に死をも連想させた。
ただ恐怖を感じる一方で気になることも幾つかあった。
朔を解放した最後の日の柏木の今までと違う様子や、拓人と柏木の家族の所在。
そして柏木と拓人の関係や、柏木の孤独。
朔は昔から他人の心配をよくしていた。
昔と性格が変わっても根本は変わらず、酷い目に遭っているにも関わらずその張本人の心配をしている自分自身に、朔は呆れ嫌悪した。それでも柏木と、拓人のことがどうしても気になった。
1人であれこれ考えても答えは出なかった。わからないことが多かった。考えていると最終的に行きつくのは、拓人のことだった。
拓人の事がもう少しわかれば、柏木のことや家族の事もわかってくる気がした。知ってどうすると自問自答して考えを放棄しようとするが、どうしても自分が2人に関わっていることを考えると無視できなかった。
朔はベッドの上で寝返りをうつ。誰も居ない、広い自分のベッド。
──拓人のことを知る。
そう思うと身体が拒否反応を示しているのか、頭がズキズキと痛んだ。
知りたくないから、というより知るべきではないという警告のような痛み。
朔はその痛みから逃れるために目を閉じた。
◆
枕元に置いていたスマホの振動で朔は目を覚ました。意識がまだ完全に覚醒しないまま目を擦りその液晶に視線を向けると、哲史からの着信だった。
「…もしもし」
『はよ!おい、体調大丈夫か?全然返事も無いしどうなんだよ!?』
朝から声の大きい哲史の着信に、朔は思わず電話を少し耳から離した。
「わり…、大丈夫……。結局入院はしてないから。家でずっと寝てた…」
朔は柏木から言われた通り哲史に事情を説明した。柏木からの仕打ちを受けるならこれくらいの嘘をつく方がマシだと思い素直に説明した。
『そうだったんだ。はじめまじで死んだかと思ってすげー取り乱した。全然起きないし、血出てたし。柏木がいてくれてまじで助かったんだよ!』
「……うん…」
意識がない間のことは朔は知らなかったが、哲史からのその話を聞いて何となく状況を理解できた。
『今からお前の家寄るわ!漫画貸す!んで一緒に学校行こう!』
漫画?と一瞬考えたが、哲史がその後に、柏木もそのまま貸していいって、と言った言葉を聞き、哲史にその場の思いつきでついた嘘のことを思い出す。朔は平静を装って哲史に返答しながら、哲史にも母親にも自分は嘘ばかりついているという罪悪感を感じ気分が落ち込んだ。
そこから15分ほどで哲史が迎えに来て、漫画を家に置いて2人で学校に向かった。正直、哲史が来なければ1人で学校に行く勇気は湧かなかったかもしれない。朔は学校に近づくにつれて増していく息苦しさを紛らわす為にいつも以上に哲史の他愛もない話に集中した。今の朔にとっては、その他愛のない話は気分転換と現実逃避ができる救いに感じた。
教室に入り着席すると、すぐに席の近くに寄ってくる人物がいた。
朔は一呼吸置いてその人物を見上げる。
「おはよ、野坂。体調は大丈夫?」
柏木がいつも通り優しい笑顔で朔の机の横に立ち朔を見下ろしていた。
「…あぁ。運んでくれてありがとう」
朔は前回の失敗を生かし、そこに感情を一切介入させないように淡々と与えられたタスクをこなすように、そう答えた。
「柏木おはよー!あの漫画今日はじめに貸したから」
2人の元に哲史もやって来た。
「東海林おはよう。うん、全然いいよ。野坂もあの漫画読みたいって言ってたのに、遅くなってごめんな」
柏木は哲史の言葉にその場ですぐ話を合わせた。いつも通り、そこにいるのは隙が無く綺麗に優等生の仮面を被った柏木だった。
「そうだ、野坂。授業前にちょっといい?あのこと…相談したかったんだけど」
柏木は少し困ったような顔で声を潜めて朔に言った。朔は何の話か検討がつかなくて黙って柏木を見返し考え込んでしまう。
「時間ないのに、ごめん。ここじゃ話にくいからちょっと外でいい?」
そう言い柏木は朔を教室の外へと誘導しようとする。朔はそれでもよく話が見えなかったが、肩に手を置かれた瞬間、察した。
哲史が不思議そうに2人に視線を向けていた。
柏木の相談なんてものは適当な口実で、朔と2人になるための手段なのだ。断ったり取り乱したりすれば…それ以上は想像したくなかった。
朔は行きたく無かったが、柏木に哲史の前で普通に出来なかったことを理由に屋上で最奥を貫通させられ犯された記憶が蘇り拒否できなかった。
重い腰を持ち上げ、先に教室を出て行く柏木の後を朔は距離を空けてついて行く。
連れて行かれたのは、男子トイレ前だった。
「さすがに学んだね。今日はいい子じゃん」
柏木は辺りを見回して人が居ないことを確認すると朔に冷ややかな視線を向けながら言葉を放った。
「…約束したのは…昼休みの筈だけど」
朔は柏木との約束をもちろん忘れていなかった。昼休みは柏木と過ごすという約束。
昼休みと約束したのにわざわざ朝に呼び出され、朔は不満と敵意をむき出しの視線で柏木を睨みつける。
「そんな怖い顔しないでよ。これは野坂の為だよ。いいから両手出して」
柏木は朔の視線に全く動じることなく笑顔で手を出すように言った。
何かここで凶行に及ぶつもりは無いのか、柏木はトイレの前の壁に凭れかかり笑顔を朔に向けてくる。いつもの柏木だった。
朔は嫌々言われた通り両手を柏木の前に差し出した。柏木はその手の上に自身の手を近づけ、手の中に持っていた何かを朔の手のひらの上にそっと落とした。
ころんと手のひらに転がる物体を朔は落とさないようにゆっくり確認する。それは、見覚えのある球体の物体。
朔の顔色がサッと変わった。
それは柏木の家の浴室で犯された時に使用されていたローターだった。
「俺ここで待ってるから、トイレでケツにそれ挿れてきてよ」
「ッ…い、やに決まってるだろ!」
「言うこと聞かないと野坂が苦しむ事になるよ?大人しく挿れたら、昼休みまでは遠隔スイッチ押さないであげるから。ただ異物感あるだけ。別に何の問題もないだろ?」
「ざけんな…。戻る」
朔はその物体を柏木に押し付け踵を返す。
「野坂のレイプ中出し画像、クラスの連絡先に匿名で流そうかな」
柏木から背中に投げかけられた言葉に思わず朔は足を止める。立ち止まった朔の元に柏木が歩み寄る。
「画像と一緒に兄貴とのセックス動画も晒したら面白いよね。根っからの男好きの淫乱だってクラスのみんなに知って貰おうか。そしたら何人かは野坂のこと犯してくれるんじゃないかな。野坂は可愛いからね」
そう言いながら柏木は朔の背中から左腕を回し、身体を拘束すると反対の手で自らのスマホに写る画面を見せつけてくる。
そこには幼い朔と拓人が絡み合う動画が流れていた。
「ッ!!」
朔は突然見せられた自分のあられも無い姿に背筋が凍りついた。
「やめ」
「これ挿れたいよな?」
柏木は左手に持っていたローターを朔の目の前に差し出し、朔の言葉を遮り有無を言わせないような口調で朔の耳元で楽しそうに訊ねた。
その日は母親が夜勤の日で、朔は少しほっとしながらシャワーに入ったあと、冷蔵庫からパックの野菜ジュースを取り出しストローを差し込む。さすがに体調に配慮し栄養を少しでも摂ろうと悪あがきで選んだ野菜ジュースを飲み、カップラーメンをリビングで食べて夕飯を済ませた。
母親が作った料理があるのはわかっていたが、数日食べないだけで胃が小さくなったのか、あまり食欲がわかずそれには手をつけなかった。
朔は部屋に戻りまたベッドの上に寝転んだ。
あと数時間すればまた学校へ行かなければいけない。柏木に会わなければいけない。
思い出しただけで呼吸が浅くなり身体は小さく震えた。柏木の家で受けた数々の陵辱は、確実に朔の恐怖心を育て、時折本当に死をも連想させた。
ただ恐怖を感じる一方で気になることも幾つかあった。
朔を解放した最後の日の柏木の今までと違う様子や、拓人と柏木の家族の所在。
そして柏木と拓人の関係や、柏木の孤独。
朔は昔から他人の心配をよくしていた。
昔と性格が変わっても根本は変わらず、酷い目に遭っているにも関わらずその張本人の心配をしている自分自身に、朔は呆れ嫌悪した。それでも柏木と、拓人のことがどうしても気になった。
1人であれこれ考えても答えは出なかった。わからないことが多かった。考えていると最終的に行きつくのは、拓人のことだった。
拓人の事がもう少しわかれば、柏木のことや家族の事もわかってくる気がした。知ってどうすると自問自答して考えを放棄しようとするが、どうしても自分が2人に関わっていることを考えると無視できなかった。
朔はベッドの上で寝返りをうつ。誰も居ない、広い自分のベッド。
──拓人のことを知る。
そう思うと身体が拒否反応を示しているのか、頭がズキズキと痛んだ。
知りたくないから、というより知るべきではないという警告のような痛み。
朔はその痛みから逃れるために目を閉じた。
◆
枕元に置いていたスマホの振動で朔は目を覚ました。意識がまだ完全に覚醒しないまま目を擦りその液晶に視線を向けると、哲史からの着信だった。
「…もしもし」
『はよ!おい、体調大丈夫か?全然返事も無いしどうなんだよ!?』
朝から声の大きい哲史の着信に、朔は思わず電話を少し耳から離した。
「わり…、大丈夫……。結局入院はしてないから。家でずっと寝てた…」
朔は柏木から言われた通り哲史に事情を説明した。柏木からの仕打ちを受けるならこれくらいの嘘をつく方がマシだと思い素直に説明した。
『そうだったんだ。はじめまじで死んだかと思ってすげー取り乱した。全然起きないし、血出てたし。柏木がいてくれてまじで助かったんだよ!』
「……うん…」
意識がない間のことは朔は知らなかったが、哲史からのその話を聞いて何となく状況を理解できた。
『今からお前の家寄るわ!漫画貸す!んで一緒に学校行こう!』
漫画?と一瞬考えたが、哲史がその後に、柏木もそのまま貸していいって、と言った言葉を聞き、哲史にその場の思いつきでついた嘘のことを思い出す。朔は平静を装って哲史に返答しながら、哲史にも母親にも自分は嘘ばかりついているという罪悪感を感じ気分が落ち込んだ。
そこから15分ほどで哲史が迎えに来て、漫画を家に置いて2人で学校に向かった。正直、哲史が来なければ1人で学校に行く勇気は湧かなかったかもしれない。朔は学校に近づくにつれて増していく息苦しさを紛らわす為にいつも以上に哲史の他愛もない話に集中した。今の朔にとっては、その他愛のない話は気分転換と現実逃避ができる救いに感じた。
教室に入り着席すると、すぐに席の近くに寄ってくる人物がいた。
朔は一呼吸置いてその人物を見上げる。
「おはよ、野坂。体調は大丈夫?」
柏木がいつも通り優しい笑顔で朔の机の横に立ち朔を見下ろしていた。
「…あぁ。運んでくれてありがとう」
朔は前回の失敗を生かし、そこに感情を一切介入させないように淡々と与えられたタスクをこなすように、そう答えた。
「柏木おはよー!あの漫画今日はじめに貸したから」
2人の元に哲史もやって来た。
「東海林おはよう。うん、全然いいよ。野坂もあの漫画読みたいって言ってたのに、遅くなってごめんな」
柏木は哲史の言葉にその場ですぐ話を合わせた。いつも通り、そこにいるのは隙が無く綺麗に優等生の仮面を被った柏木だった。
「そうだ、野坂。授業前にちょっといい?あのこと…相談したかったんだけど」
柏木は少し困ったような顔で声を潜めて朔に言った。朔は何の話か検討がつかなくて黙って柏木を見返し考え込んでしまう。
「時間ないのに、ごめん。ここじゃ話にくいからちょっと外でいい?」
そう言い柏木は朔を教室の外へと誘導しようとする。朔はそれでもよく話が見えなかったが、肩に手を置かれた瞬間、察した。
哲史が不思議そうに2人に視線を向けていた。
柏木の相談なんてものは適当な口実で、朔と2人になるための手段なのだ。断ったり取り乱したりすれば…それ以上は想像したくなかった。
朔は行きたく無かったが、柏木に哲史の前で普通に出来なかったことを理由に屋上で最奥を貫通させられ犯された記憶が蘇り拒否できなかった。
重い腰を持ち上げ、先に教室を出て行く柏木の後を朔は距離を空けてついて行く。
連れて行かれたのは、男子トイレ前だった。
「さすがに学んだね。今日はいい子じゃん」
柏木は辺りを見回して人が居ないことを確認すると朔に冷ややかな視線を向けながら言葉を放った。
「…約束したのは…昼休みの筈だけど」
朔は柏木との約束をもちろん忘れていなかった。昼休みは柏木と過ごすという約束。
昼休みと約束したのにわざわざ朝に呼び出され、朔は不満と敵意をむき出しの視線で柏木を睨みつける。
「そんな怖い顔しないでよ。これは野坂の為だよ。いいから両手出して」
柏木は朔の視線に全く動じることなく笑顔で手を出すように言った。
何かここで凶行に及ぶつもりは無いのか、柏木はトイレの前の壁に凭れかかり笑顔を朔に向けてくる。いつもの柏木だった。
朔は嫌々言われた通り両手を柏木の前に差し出した。柏木はその手の上に自身の手を近づけ、手の中に持っていた何かを朔の手のひらの上にそっと落とした。
ころんと手のひらに転がる物体を朔は落とさないようにゆっくり確認する。それは、見覚えのある球体の物体。
朔の顔色がサッと変わった。
それは柏木の家の浴室で犯された時に使用されていたローターだった。
「俺ここで待ってるから、トイレでケツにそれ挿れてきてよ」
「ッ…い、やに決まってるだろ!」
「言うこと聞かないと野坂が苦しむ事になるよ?大人しく挿れたら、昼休みまでは遠隔スイッチ押さないであげるから。ただ異物感あるだけ。別に何の問題もないだろ?」
「ざけんな…。戻る」
朔はその物体を柏木に押し付け踵を返す。
「野坂のレイプ中出し画像、クラスの連絡先に匿名で流そうかな」
柏木から背中に投げかけられた言葉に思わず朔は足を止める。立ち止まった朔の元に柏木が歩み寄る。
「画像と一緒に兄貴とのセックス動画も晒したら面白いよね。根っからの男好きの淫乱だってクラスのみんなに知って貰おうか。そしたら何人かは野坂のこと犯してくれるんじゃないかな。野坂は可愛いからね」
そう言いながら柏木は朔の背中から左腕を回し、身体を拘束すると反対の手で自らのスマホに写る画面を見せつけてくる。
そこには幼い朔と拓人が絡み合う動画が流れていた。
「ッ!!」
朔は突然見せられた自分のあられも無い姿に背筋が凍りついた。
「やめ」
「これ挿れたいよな?」
柏木は左手に持っていたローターを朔の目の前に差し出し、朔の言葉を遮り有無を言わせないような口調で朔の耳元で楽しそうに訊ねた。
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