88 / 92
88
しおりを挟む静人達が来ることのできない日中に桔梗は、青藍と一緒に軒先から足をプラプラとさせながらぼーっと空を仰ぐ。
「今日は暇なのだ」
「いつも暇な気がするけど?」
「うむ、確かにそうなのだ。今日も暇なのだ」
即座に帰ってきた返事に納得した桔梗はすぐさま言い直し、また空を見つめる。青藍も暇なのか体を丸めて寝転がるとぼそりと呟く。
「今日は何かすることあったっけ?」
「うーむ、茜が帰ってきたら畑を作ろうとは思っているのだ」
「あれ、まだ作ってなかったの?」
「作る予定だったのだ。けど、最近はお姉ちゃんたちの家に遊びに行ってたから、まだ進んでないのだ」
畑を作ると聞いたのがだいぶ前のことのように感じていた青藍は不思議そうに首を傾げたが、それを見た桔梗は首を横に振りつつ説明してくれた。
「あー、ならしょうがない……、のかな?」
「しょうがないのだ。まぁ、今日は茜も帰ってくるはずなのだ。そしたら、一緒に畑を作ろうと思うのだ」
「野菜何作るの?」
茜が手伝うことは確定しているからかそこには触れずに、これから作ることになる食べ物のほうに気が向いていた。
「冬に作れる、ホウレンソウ、ラディッシュとかにしようかと思ってるのだ」
「ラディッシュ?」
「なんか赤いやつなのだ」
「食べたことあったっけ?」
「多分ないのだ。あ、でも、もしかしたら静人がソースに使っていたかもしれないのだ」
桔梗の言葉を聞いて、今までの料理を思い出すように青藍は目を瞑る。
「ソースかー。おにいさんたちが作ってたソースに使ってたかもしれないけれど、料理のことは分からないから使っていたかは分からないや」
「もみじに聞いてみたらわかるかもしれんのだ」
そこまで料理に詳しいわけではない青藍は目を開き、首を横に振ってから桔梗に頷き返す。
「もみじちゃんなら聞いてたかもしれないけど。まぁ、あとで聞いてみようかな。もみじちゃんはまだ寝てるの?」
「まだ寝てるのだ。正直、毎日わしより早く起きてたから、今日もわしより早いと思ってたのだ」
「まぁ、おにいさんたちの家にいたときは楽しみすぎて早く起きてた感じだったし。最終日は体力が持たなかったのか朝ご飯に遅れてたけど」
「それもそうかなのだ。うむ? あ、多分起きたのだ。もみじの寝室から音が聞こえるのだ」
「ん……、ホントだ。この時間に起きたなら別にそこまで遅いわけでもない……かな?」
青藍はもみじの言葉を聞いてから耳を澄まし、それで気付いたのかもみじの寝室のほうに視線を向ける。
「ふわぁ、おはよう。青藍ちゃん。桔梗お姉ちゃん」
「うん、おはよう」
「おはようなのだ。もみじ」
眠たげに目をこすりながら寝室から出てくるもみじに、青藍と桔梗が挨拶する。もみじはそのまま水を汲みに行き、顔を洗ってすっきりしたように目をぱちぱちさせる。
「うーん! よし、目が覚めた! 朝ご飯どうしようか」
「うむ? 食材はあるのだ?」
「あ、い、芋ぐらいならあるけど。外に出かけるわけにもいかないし、どうしよう」
「芋だけはたくさんあるのだ……。うーむ、別に焼き芋でもわしは構わんのだ」
いつものように料理を作ろうと意気込むもみじだったが、桔梗の言葉を聞いて一転、慌てた様子で手をパタパタさせる。その二人の様子を見ていた青藍があることに気が付いて愕然とする。
「あ、今日からは魚が毎日出るとは限らないんだっけ。う、お魚……」
「我慢するのだ。というか今までが食べすぎなのだ。別にお肉も嫌いなわけではないのだ?」
「そうだけど。うん、我慢する。でも、出てきたときはたくさん食べるからね」
「う、うむ。覚悟しておくのだ」
青藍の様子に顔を引きつらせて桔梗が頷く。そんな三人の会話が終わったタイミングでみどりが現れる。その両手には大量の荷物を抱えている。
「やっほー、お届け物やでー」
「あれ、みどりお姉さんだ!」
「うん、みどりお姉さんやでー。こっちに戻ってきても食材が無いかもと思って持ってきたんやけど、どない?」
いきなり現れたみどりに嬉しそうに近寄るもみじに桔梗は笑顔で答える。両手の荷物を掲げてもみじに見せる。
「良かったー。実はお芋しかなくて困ってたところだったんです」
「そうなん? せやったらちょうどよかったわ」
「お魚もある?」
青藍はちょこちょことみどりに近づいて自分の好物を目で探しつつ質問する。その質問にみどりは頬をかいて困ったように苦笑する。
「持ってきてあげたいんやけどな。お魚は鮮度の問題があるからなぁ。冷蔵庫とかあればええんやけど。食材が痛むともったいないし。さすがに毎日は持ってこれんしな」
「うぅ、無いの……。森の中にお魚いたかな?」
「そんな悲しそうな顔せんでも。さすがにこの世界……。あー、パレットにはいないと思うで」
魚がどうしても食べたいのか悲しそうな顔をする青藍に、みどりはさらに困ったように眉をひそめる。
「あー、みどり。今更なのだがパレットの世界にはわしら以外にはどんな生物もおらんのだ?」
「多分やけど、というかこの世界はもともと桔梗が持ってたものなんやろ? なんで桔梗が知らへんねん」
桔梗はみどりの言葉に少し考えた後話し出す。
「うむ? あー、元々の持ち主はわしじゃないのだ。この世界は元々わしの……、うーむ、師匠的な人のものだったのだ。いろいろと世界の管理の仕方は教えてもらったがの。それに、この世界を渡してきたと思ったらいなくなったのだ」
「え、桔梗師匠おったん?」
桔梗に師匠がいたことを知らなかったからか、みどりは驚いた様子を見せる。そんなみどりに首を小さく横に振り離し始める。
「師匠というか、しばらくやっかいになっておったのだ。その時に師匠と呼ぶようにと言われただけなのだ」
「あー、なんというか。変人そうやなぁ」
「変人ではあった気がするのだ。今も暇つぶしで誰かを拾って世話してたりするかもしれんのだ」
「暇つぶして……、そう言われたん?」
「言われたのだ。でも、本当にそう思ってたかまでは分からんのだ」
桔梗たちの話を聞いて気になったのか青藍が会話に混ざろうと近づいてくる。
「桔梗、世界の管理を任されたってことは川に魚を増やすこともできる……?」
「さすがに増やすことは出来んのだ。出来ても暮らしやすい空間にするくらいなのだ。養殖でも始めるのだ?」
青藍の提案に首を横に振りつつも別の提案した桔梗の言葉に、青藍は少し考えてから頷く。
「お魚食べたいから始めるかも」
「あー、畑を作る方が先やからな。魚のえさも必要になるんやし、畑でついでにエサも作ればええんやない? まぁ、魚のえさにも魚使うらしいんやけどな」
「む、がんばる。……? 魚のえさにも魚使うの?」
青藍はこぶしを握り締めて意気込んだあと、みどりの最後の言葉にキョトンとした顔で首を傾げる。
「まぁ、小麦粉とかと一緒に使うらしいから、たくさんはいらんのやろうけど。いっそのこと川の整備をして、藻を大量に作ったりする方が早いかもしれへんよ?」
「藻? あの緑色のやつ?」
「せやせや。この世界やったらそっちの方がむしろ楽かもしれんし」
「そうなんだ。じゃあ、頑張ってみる。でも肝心のお魚はどうするの?」
藻のことは知っているのか頑張ると意気込んだ後、魚について疑問を呈する。みどりはその言葉に安心させるように頷き親指を立てる。
「それはまぁ、うちに任せといてな。用意できると思うから」
「分かった。みどり姉に任せる」
「おんおん。任せとき」
軽い調子で頷くみどりに青藍は安心したようにゆるく口角をあげる。
0
あなたにおすすめの小説
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる