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しおりを挟む畑のことを考えていた青藍たちのすぐ近くの空間が開いたかと思うと茜がやってきた。晴れやかな表情で出てきた茜は周りの人に気が付いたのか、そのままの表情でみんなに挨拶をする。
「ただいまー。あ、みどりさん。桔梗ちゃんも青藍ちゃんももみじちゃんもこんにちは」
「お、茜が帰ってきたのだ。おかえりなのだ」
「おかえりなさい。茜お姉さん!」
「おかえりなさい。茜さんが帰って来たってことは今から畑を作るの?」
挨拶を交わしつつ、青藍の言葉に茜はキョトンとした顔で聞き返す。
「え、畑?」
「あれ、茜さん聞いてなかったの?」
「あれ、茜に言ってなかったのだ?」
伝えてあると思っていた青藍と桔梗は驚いた顔でみどりの方を振り向く。全員の視線を浴びたみどりは首を傾げた後、自分の記憶を振り返る。
「おん? ……そういえば言ってなかったかもしれんなぁ。あー、茜。今日は畑を作ろうと思うからよろしゅうな」
「えー? いや、まぁいいですけど。あたしの休日は?」
「え? 休日? 茜にとっては体を動かしてるときのほうが休日みたいなもんやろ?」
いきなりの作業に不満そうな顔をした茜の言葉に、みどりはぽかんとした表情を作る。
「いや、まぁ、確かに頭使って書類整理してる時よりかは気が楽ですけど。うーん。まぁいっかー。たまには思い切り体を動かしたいと思っていたし、それがこの村に役に立つなら」
「じゃあ、そういうことで。よろしゅうな」
「はーい。給料は出しといてくださいね」
「おんおん。了解や」
休日にすることもないしいいかと了承した茜は先ほどまでの不満そうな表情を一変させやる気に満ちた表情で笑う。もみじはそんな茜の様子を見つつ口を開く。
「でもその前にご飯作っちゃおう?」
「お、そやな。せっかく食材持ってきたんやし作ろか。まぁ、さすがに簡単な物になるやろけどな」
「簡単な物でも美味しいのは作れるから大丈夫!」
「まぁ、設備はもう少ししたら改修する予定やけどな」
改修という言葉に興味をひかれたのか、青藍が口を挟む。
「改修? 何かを作るの?」
「もうちょい簡単に料理を作れるように、な?」
「そんなことできるの!?」
緑の言葉に嬉しそうに驚いたもみじに、みどりは笑みを浮かべて頷く。
「火を起こすのと調節は楽になると思うで」
「それが変わるだけで大分楽になるよ。お兄さんたちの家で料理してた時は火の調節が楽だったもん」
「そやろなぁ。うちも流石に、火の調節が出来ない状態で料理をうまく作れる自信ないもんなぁ」
もみじの不満にみどりは同意するように頷く。そして今の調理場を見てため息をつく。
「でも、どんな風に改修するの?」
「プロパンガスっていう、まぁ燃える気体を使ったガスコンロをなつけようかと思ってな。ほら、静人さんとかが持って来とるやろ? あれはキャンプ用やさかい小さいんやけど。それを大きくした物があるんよ」
「ガス。確かにお兄さんが持ってきてたのがそんな名前だった気がする!」
「まぁ、いろいろと準備が必要やさかい、その辺はおいおいな」
ガスという文字に見覚えがあるのかもみじが反応する。みどりはそんな少し興奮した様子を見せたもみじを、落ち着かせるように話を一旦終わらせる。
「まぁ、今日はそんなものは無いからいつものように火を起こして作るんだけどね!」
「まぁ、肉焼くだけでも普通においしいし、そこまで凝った料理に挑戦しようとせんでもええんやない?」
「じゃあ、今日はお肉を焼いたものにする! あれ? このたれ何に使うの?」
みどりが持ってきていた食材を整理していた時に、焼き肉のたれと書かれたもみじ達にはなじみのない容器を見てもみじは首を傾げる。そんなもみじの言葉が聞こえたみどりは指さされた容器を見る。
「おん? あー、これは焼き肉のたれやな。まぁ、簡単に言うと焼いた肉に絡めて使う物やよ。せや、ちょうどええからこれ使って肉焼こか。それだけでも充分にご飯に合うおかずになると思うしな。もみじはご飯の用意してもらってもええ?」
「分かった! じゃあ、そのお肉はみどりお姉さんにお願いします!」
「おんおん。任せとき。焼くだけやし、複雑な工程はなんも無いんやから」
みどりの提案にもみじは元気な声で返事をして、肉と焼き肉のたれを渡す。渡されたみどりは軽く頷き、火を起こした場所にフライパンを置きみどりは料理を始める。
一方で料理をしない三人はテーブルの上を片付けて食器の準備をしていた。
「いい匂いなのだ。食器はここでいいのだ?」
「テーブルは拭いたし、大丈夫。あとはおとなしく料理を待つだけ」
「楽しみなのだ。……まだなのだ? お腹空いたのだ……」
「もう少しだと思うから待っとこう? 待った分だけ美味しくなるよ」
「そうなのだ? とはいえそう言ってる茜もそわそわしてるように見えるのだ」
「え、そ、そんなことないよ? ホントだよ?」
桔梗の指摘にビクッとした後、取り繕うように首を横に振る茜だったが、他の二人は信じていない様子だった。そんなときみどりがテーブルに出来上がった料理を持ってくる。
「ほい、おまたせ。焼き肉のたれを絡めて焼いただけの簡単な物やけどな」
「うむ、いい匂いなのだ。絡めて焼いただけでもこんなにおいしそうな匂いになるのだ」
「そうやで? 簡単なんやから二人もやってみいひん?」
緑の提案に桔梗は苦笑しつつ首を横に振る。青藍も同じように否定する。しれっと仲間外れにされた茜は自分を呼び指して落ち込む様子を見せる。
「わしは遠慮しとくのだ。どうせ食べるならおいしいものがよいのだ」
「私も遠慮しとく。私は物作りのほうに集中したいから」
「あれ、私には聞かないんですか? いやまぁ、ピザとか作ってますけど……」
そんな桔梗たちの言葉を聞いてみどりは苦笑いを浮かべる。
「青藍はともかく、桔梗……。まぁ、桔梗が作ったもので成功したことが無いのは知っとるけども。茜はピザ作るしわざわざ言わんでもええかなって」
「なんでか分からんのが困るのだ。変な物を入れたわけではないし、手順を間違えたわけでもないのに変なのが出来るのだ。一人で作ったときのみだから誰かと一緒に作れば大丈夫なのだ」
「ですよねー。知ってましたよ」
茜はみどりの言葉に諦めたように肩を落とす。そんな茜を尻目に二人の会話は続く。
「ホンマ、よう分からん特技やよなぁ。まぁ、ええか。たまに手伝ってくれれば。一人でやらせなければええんやろ?
「うむ、今まで一人以外で料理を作ったときは大丈夫だったのだ」
「だったら、今度手伝ってな?」
笑みを浮かべたみどりに桔梗が自信満々な様子で頷くと、それを聞いていたもみじが会話に入ってくる。
「あ、私もその時は手伝うからね? みどりお姉さん!」
「もちろん、その時は頼りにするからよろしゅう。もみじ」
「うん! 任せて!」
もみじが胸を張って笑顔を見せて話が終わると、もみじ達は料理に手を出し始めた。
「うむ、美味しいのだ。もみじはお味噌汁を作ったのだ?」
「うん! お兄さんたちが汁物を一品は欲しくなるって言ってたから。お豆腐ときのこのお味噌汁作ってみたの!」
「分かるわぁ。確かに汁物は欲しくなるんよ。寒い日は特に」
「やっぱりそうなんだ! 作っててよかった!」
「せやなぁ。ありがたいわ」
いつの間にか用意されていたお味噌汁を口に含んで、ほっと一息をつき最後まで食べ終えた青藍は満足そうにお腹をさする。
「お肉美味しい。お味噌汁も美味しい。満足。でも、お魚も食べたい」
「お魚はまた今度。というか、夜に静人さんらが来たときには魚も出るやろ」
「楽しみ。ごちそうさまでした」
「おんおん。楽しみにしとき。今日はこれから畑作るんやし、お腹もすくやろうしな」
いつも通りの青藍に呆れた様子で笑顔を見せるみどり。そんなみどりの言葉に茜は拳をポンッと叩き快活な表情で笑う。
「確かに、今日はたくさん動くから夜ご飯が楽しみですね!」
「あ、茜の分の夕飯あるやろか。一応、聞いてくるわ。もしかしたら用意しとらん可能性あるし」
「え、お、お願いします! 私だけ仲間外れはちょっと」
「まぁ、頼んだら普通に作ってくれるやろな。いつもは茜がおらんから料理一人分余っとるし」
茜はみどりの言葉に罪悪感を感じた表情でうなだれる。
「うぐ、最近は忙しかったので。はい」
「まぁ、一人分程度やからうちらの腹に納まるんやけどな。そこまでたくさんあるわけやないし」
「きょ。今日は食べますから! 仕事いれたりしてないですよね?!」
「畑作ってもらおうと思っとったから今日と明日は休みやで」
明日も休みだと言われた茜は嬉しそうな表情で握り締めた拳を突き上げる。
「よし! 明日もご飯食べれますね!」
「明日の夜は分からんけどな。まぁ、多分大丈夫やろ。変な間違いとかしてなければ」
「変な間違い……、してないと良いなぁ」
「ああ、うん。頑張れ」
自分のことを信用できないのか、茜は先ほどまでの溌剌とした表情は鳴りを潜め、自信なさそうに肩を落とす。そんな茜を見てみどりは慰めようとしたが、慰める言葉が出てこずにあいまいに笑った。
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