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第38話 挨拶周り
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俺達が王様から報酬を貰ってから三日が経過した。
実はシャリーとは既に別れて行動している。
シャリーが元々泊まっていた宿屋だが、ソフィアからどうしてもレストラン『スザク』に泊まって欲しいとお願いされたためだ。
それからシャリーとは会っていないし、会いにも行ってない。
彼女は王都でも有望な冒険者であり、俺と一緒にいても得られるものは少ないと思っているからだ。
それに…………
「どうしたんだい? そんな悲しそうな表情をして」
いつも明るく笑顔を浮かべているリアちゃんだが、昨日から時折暗い表情を浮かべて周囲を見回している。
俺が事情を聞いても彼女は答えることなく、にぱっと無理に笑顔を作る。
子供にこういう想いをさせたくはないが理由が分からず、俺にもどうしようもないし、無理に聞き出す訳にはいかないから困っている。
ソフィアちゃんに相談してみたんだが、彼女も分からないそうだ。
こういう時に『言葉』ということの大切さに気付いた。
そもそも意思疎通するために、最も便利なのが言葉だ。
転生して言葉に不安を覚えたけど、母さんや妹弟達とも普通に話せているので、久しぶりに話せないもどかしさを感じる。
それに、リアちゃんが無理に笑顔を作ると、三日前に宿屋を出る時、無理矢理笑顔を作って俺を見送ってくれたシャリーが浮かんでくる。
レストランに居候した初日と二日目。つまり一昨日と昨日は冒険者ギルドで初めて魔物を狩る依頼を受けた。
どれも簡単で近くの平原だったり、森にいる魔物を倒して、証拠となる部位と依頼された部位を切り取って報告して報酬を貰った。
冒険者としての仕事は思っていたよりも楽しく、でも手に入る報酬を見て、王様から頂いた報酬の量から比べてあまりのちいささに思わず苦笑いを浮かべてしまったのは言うまでもない。
食事や寝床はレストラン『スザク』で提供してくれたので、今のところは食事を取らなくても問題ない。
リアちゃんの事も色々あるけど、明日出発するために、今日は最後にお世話になった人々に会いに周ることにした。
◆
最初にやってきたのは、錬金術を見せてくれたビゼルさんのところだ。
「アルマくん! 聞いてくれたまえ! 君のおかげで研究が大成功し、ハイポーションに迫る程の効果を持つポーションを生成する事に成功したんだ! ハイポーションのような貴重な材料を必要とせずに作れる! これで多くの命が助かるだろう! ありがとう!」
俺が頑張った事なんて何もない。ただ彼が欲しがった素材を売ってあげただけだ。それにその素材は知らず知らずのうちに俺が占拠してしまった素材だから、高騰した値で買ってもらったし、俺からすれば感謝されるのは申し訳ないとも思う。
それでも彼が悩んでいたことを解決して、次の一歩を踏み出せたのなら嬉しい。
◆
次は洋食屋『猫ノ手』。
料理人のガイルさんと店員のソリューさんのおかげで、レストラン『スザク』の準備が整ったと言っても過言ではない。
「なに。食事処が増える事に越したことはない。支配人さんの熱い想いがあれば、あのレストランはこれからも繁盛するだろう。それにアルマくんが言ってくれたあのレストランの意義。俺は信じているから協力するまで。だからこれからあのレストランの生き様を見届けたいと思っているさ」
「アルマさんがいなくなるのは寂しいですが、人は常に流れるモノだと聞きます。また出会う日が必ずくるでしょう。次もまた皆さんで…………シャリーさんとミールさんとも一緒に来てくださいね?」
レストラン『スザク』の存在意義。それは俺がただ理想郷を謳って、それに同調してくれた冒険者ギルドマスターの協力によって始まり、その意志は現在支配人に継がれている。これからは王都にとって、王国にとって、世界にとってよりよい方向に進んで欲しいと願っている。
◆
次にやってきたのは、珍しく王城。
目の前にはイケメン騎士様であるベルハルト様が見える。
「そうか。旅立つのか。そればかりは仕方がない。俺も若い頃は旅を夢見た時期もあった。もし向かうならここから真っすぐ西に進んで、隣国である魔道王国セルライトに行ってみるといい。魔道具の最先端の国だから面白いモノが沢山見れると思う」
ずるいと思うくらい品性が高くてイケメンで優しい。
全てを兼ね備えたと思える騎士様は最後に「もし王国内で困ったことがあったらこれを見せるといい」と言いながら十センチくらいのサイズの紋章が描かれた円盤を渡してくれた。
ベルハルト様から認められている信用できる人物という意味らしい。
それはCランク冒険者でも証明できるけど、貴族相手なら冒険者よりこの円盤の方が良さそうだ。
◆
「アルマくん……行っちゃうのね…………」
「ええ。ギルドマスターにもよろしく伝えてください」
「会いに行かないの?」
「まさか挨拶くらいでギルドマスターの時間を奪うのは、ただの冒険者には荷が重いですよ」
「ふふっ。そればかりは今更と言ってもいいかしらね」
ミールさんがクスクスと笑い、そして、真っすぐ俺を見つめてから深々と頭を下げる。
「冒険者ギルドを代表して、多くの民や冒険者を救ってくださった恩義は絶対に忘れません。心より感謝申し上げます」
いつもよりも凛々しいミールさんと最後の挨拶をして、冒険者ギルドを後にする。
外に出ると、窓から俺を呼ぶ声が聞こえて、窓越しだがギルドマスターがこちらに軽く手を振った。
彼に向かい、頭を下げてから冒険者ギルドを後にした。
◆
最後にやってきたのは――――
「お兄ちゃん。これ預かっているよ」
宿屋『安らぎの木』のカウンターで待ち構えていたのは、エマちゃんから渡された一枚の手紙だった。
「はい。出てってくださ~い~最低な人は入る事ができない宿屋なんです~」
「えええ!? 最低な人!?」
「さあ、しっしっ!」
身の覚えのない事を言われて宿屋を追い出された。
あはは……ちょっと悲しいな。でも…………最後ちょっとだけ涙ぐんでいたよな。エマちゃん。
近くのベンチに座り込み、綺麗な封筒の手紙を眺める。
そこには『アルマくんへ』と可愛らしい字で書かれていた。
この字って、シャリーの字だよな…………最後くらいは顔を合わせて挨拶をしたかったな。
そして、俺は手紙を開いた。
!?
俺は全速力で走り出した。
実はシャリーとは既に別れて行動している。
シャリーが元々泊まっていた宿屋だが、ソフィアからどうしてもレストラン『スザク』に泊まって欲しいとお願いされたためだ。
それからシャリーとは会っていないし、会いにも行ってない。
彼女は王都でも有望な冒険者であり、俺と一緒にいても得られるものは少ないと思っているからだ。
それに…………
「どうしたんだい? そんな悲しそうな表情をして」
いつも明るく笑顔を浮かべているリアちゃんだが、昨日から時折暗い表情を浮かべて周囲を見回している。
俺が事情を聞いても彼女は答えることなく、にぱっと無理に笑顔を作る。
子供にこういう想いをさせたくはないが理由が分からず、俺にもどうしようもないし、無理に聞き出す訳にはいかないから困っている。
ソフィアちゃんに相談してみたんだが、彼女も分からないそうだ。
こういう時に『言葉』ということの大切さに気付いた。
そもそも意思疎通するために、最も便利なのが言葉だ。
転生して言葉に不安を覚えたけど、母さんや妹弟達とも普通に話せているので、久しぶりに話せないもどかしさを感じる。
それに、リアちゃんが無理に笑顔を作ると、三日前に宿屋を出る時、無理矢理笑顔を作って俺を見送ってくれたシャリーが浮かんでくる。
レストランに居候した初日と二日目。つまり一昨日と昨日は冒険者ギルドで初めて魔物を狩る依頼を受けた。
どれも簡単で近くの平原だったり、森にいる魔物を倒して、証拠となる部位と依頼された部位を切り取って報告して報酬を貰った。
冒険者としての仕事は思っていたよりも楽しく、でも手に入る報酬を見て、王様から頂いた報酬の量から比べてあまりのちいささに思わず苦笑いを浮かべてしまったのは言うまでもない。
食事や寝床はレストラン『スザク』で提供してくれたので、今のところは食事を取らなくても問題ない。
リアちゃんの事も色々あるけど、明日出発するために、今日は最後にお世話になった人々に会いに周ることにした。
◆
最初にやってきたのは、錬金術を見せてくれたビゼルさんのところだ。
「アルマくん! 聞いてくれたまえ! 君のおかげで研究が大成功し、ハイポーションに迫る程の効果を持つポーションを生成する事に成功したんだ! ハイポーションのような貴重な材料を必要とせずに作れる! これで多くの命が助かるだろう! ありがとう!」
俺が頑張った事なんて何もない。ただ彼が欲しがった素材を売ってあげただけだ。それにその素材は知らず知らずのうちに俺が占拠してしまった素材だから、高騰した値で買ってもらったし、俺からすれば感謝されるのは申し訳ないとも思う。
それでも彼が悩んでいたことを解決して、次の一歩を踏み出せたのなら嬉しい。
◆
次は洋食屋『猫ノ手』。
料理人のガイルさんと店員のソリューさんのおかげで、レストラン『スザク』の準備が整ったと言っても過言ではない。
「なに。食事処が増える事に越したことはない。支配人さんの熱い想いがあれば、あのレストランはこれからも繁盛するだろう。それにアルマくんが言ってくれたあのレストランの意義。俺は信じているから協力するまで。だからこれからあのレストランの生き様を見届けたいと思っているさ」
「アルマさんがいなくなるのは寂しいですが、人は常に流れるモノだと聞きます。また出会う日が必ずくるでしょう。次もまた皆さんで…………シャリーさんとミールさんとも一緒に来てくださいね?」
レストラン『スザク』の存在意義。それは俺がただ理想郷を謳って、それに同調してくれた冒険者ギルドマスターの協力によって始まり、その意志は現在支配人に継がれている。これからは王都にとって、王国にとって、世界にとってよりよい方向に進んで欲しいと願っている。
◆
次にやってきたのは、珍しく王城。
目の前にはイケメン騎士様であるベルハルト様が見える。
「そうか。旅立つのか。そればかりは仕方がない。俺も若い頃は旅を夢見た時期もあった。もし向かうならここから真っすぐ西に進んで、隣国である魔道王国セルライトに行ってみるといい。魔道具の最先端の国だから面白いモノが沢山見れると思う」
ずるいと思うくらい品性が高くてイケメンで優しい。
全てを兼ね備えたと思える騎士様は最後に「もし王国内で困ったことがあったらこれを見せるといい」と言いながら十センチくらいのサイズの紋章が描かれた円盤を渡してくれた。
ベルハルト様から認められている信用できる人物という意味らしい。
それはCランク冒険者でも証明できるけど、貴族相手なら冒険者よりこの円盤の方が良さそうだ。
◆
「アルマくん……行っちゃうのね…………」
「ええ。ギルドマスターにもよろしく伝えてください」
「会いに行かないの?」
「まさか挨拶くらいでギルドマスターの時間を奪うのは、ただの冒険者には荷が重いですよ」
「ふふっ。そればかりは今更と言ってもいいかしらね」
ミールさんがクスクスと笑い、そして、真っすぐ俺を見つめてから深々と頭を下げる。
「冒険者ギルドを代表して、多くの民や冒険者を救ってくださった恩義は絶対に忘れません。心より感謝申し上げます」
いつもよりも凛々しいミールさんと最後の挨拶をして、冒険者ギルドを後にする。
外に出ると、窓から俺を呼ぶ声が聞こえて、窓越しだがギルドマスターがこちらに軽く手を振った。
彼に向かい、頭を下げてから冒険者ギルドを後にした。
◆
最後にやってきたのは――――
「お兄ちゃん。これ預かっているよ」
宿屋『安らぎの木』のカウンターで待ち構えていたのは、エマちゃんから渡された一枚の手紙だった。
「はい。出てってくださ~い~最低な人は入る事ができない宿屋なんです~」
「えええ!? 最低な人!?」
「さあ、しっしっ!」
身の覚えのない事を言われて宿屋を追い出された。
あはは……ちょっと悲しいな。でも…………最後ちょっとだけ涙ぐんでいたよな。エマちゃん。
近くのベンチに座り込み、綺麗な封筒の手紙を眺める。
そこには『アルマくんへ』と可愛らしい字で書かれていた。
この字って、シャリーの字だよな…………最後くらいは顔を合わせて挨拶をしたかったな。
そして、俺は手紙を開いた。
!?
俺は全速力で走り出した。
応援ありがとうございます!
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