便利すぎるチュートリアルスキルで異世界ぽよんぽよん生活

御峰。

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 数日後。
 マグナ部族に何日も通ってみんなと仲を深めた。
 中でも防衛隊の隊長を任されているヘンブさんと、族長の娘のルナちゃんとはとても仲良くなった。
 エレナちゃんは同年代の友達ができたと嬉しそうにエリアナさんに話していた程だ。
 今日もいつものようにマグナ部族の部落を訪れる。
 そんな中、遠くのところに雨雲が見えた。
「あの方角は……」
 雨が降るということは戦いが起きてるってことだ。
 もちろん、部落にいたみんなの表情が強張っている。
「ワタルくん。今日は帰った方がいい」
「それってここも戦いが起きるからですか?」
「……起きる確証はないが、巻き込まれる可能性がある」
 ボロモロシア大荒野に住む部族達にとって雨はとても大切な資源だ。
 今でこそマグナ部族にはうちが持ってきた水と絹と交換していて水不足の悩みから多少は解放されているが、それはあくまでマグナ部族だけであり、他の多くの部族は今でも水不足が一番の悩みだ。
「ヘンブさん。いくら大荒野とはいえ、水場がないとは考えにくいですが……そこは使えないんですか?」
「それは……」
 何か答えにくそうに言葉を濁すヘンブさんだ。
「そんなことよりも、今は君たちの安全の方が大事だ。すぐに発った方がいい」
「ありがとうございます。ですが問題ありません。僕達にも戦う力はあります」
「だが……」
「それにマグナ部族は僕達の大切な顧客です。見て見ぬふりはできません。こちらが好き勝手にするだけなので気にしないでください」
「ワタルくん……」
「それよりも以前から気になったことではありますが……あの日、どうしてルナちゃんは一人で追われていたのかと、追っていた部族のことを教えてください」
 ずっと気にはなっていたが、最初から聞くのは無粋な真似かなと思って聞いてなかった。
 そのとき、突然コテツが吠えた。
「わんわん!」
「コテツ? どうしたんだ?」
「ワタルッ! コテツくんが、向こうから敵がくるって!」
「っ……!? ヘンブさん!」
「あ、ああ!」
 僕も急いで【レーダー】に注目してみると、赤い丸――――つまり、こちらに敵意を持った人が何人もやってくるのが見えた。
「かなり速いですね。おそらく、ホウマドリに乗っていると思います。数は大体三十人くらい」
「どうしてそんなことを!?」
「それはあとで!」
「お、おう! 感謝する!」
 ヘンブさんがすぐに走っていく。
 ホウマドリというのは、ルナちゃんが乗っていた大型鳥のことで、飛べないけど長距離を走ることができて、ボロモロシア大荒野に生息していて人によく懐くから移動手段としてよく使われている鳥のことだ。
 部落の中にカンカンと鐘の音が鳴り響く。
 すぐにみんなが慌ただしくテントに入っていく。
「エレナちゃん! すぐにユートピア号に!」
「ワタルは!?」
「僕はここに残って戦――――」
「私も残る!」
「ダメだ!」
「ワタル……」
 そのとき、僕とエレナちゃんの間にカミラさんが割り込んできた。
「カミラさん……?」
『ワタル。エレナちゃんが危なくなったら私が逃すよ。だから一緒に戦わせてあげて』
「ですが、それでは危険が……」
『危険なのはワタルだって一緒でしょう』
「だからこそです!」
『フェアラート王国との戦いでは一緒に戦ったじゃない』
「あのときは……エヴァさんや他の皆さんもいてくれて、エレナちゃんが安全なところにいたから」
『でも最後の戦いではエレナちゃんも一緒に隣で戦っていたでしょう?』
「それは……」
 カミラさんの隣にいるエレナちゃんは、今にも泣き出しそうな表情だ。
『エレナちゃんが心配なのはわかるけど、ちゃんと強くなってるから。信じてあげて。それに危なくなったら私が命に代えても守るから』
「カミラさん……いえ、カミラさんも大切な仲間です。誰も……失いたくはありません」
 コテツが僕の足元に立ち、体を寄せてきた。
「だから――――みんなで戦いましょう。みんなが生きられるように」
「ワタルッ!」
「うわあ!?」
 飛び込んできたエレナちゃんの肌の温もりが伝わってくる。
 フェアラート王国との戦いにはエレナちゃんも参加していた。
 もちろん、彼女のレベルも上がり、いくつもの戦いを経て強くなったから。
 でも危険だったのは間違いなく、エリアナさんには全てを報告している。
 当然……エリアナさんは怒ったりはしなかった。
 でも、安堵したように溜息を吐いていたエリアナさんの姿が忘れられない。
 かけがえのない一人娘だからこそ、ずっと心配していたんだ。
「ホウマドリはとても素早い。エレナちゃんの弓ならきっと当てられると思うから、援護よろしくね?」
「うん! 任せて!」
 少しだけ目元に涙が浮かんでいた彼女を、ハンカチで拭いてあげる。
「えへへ……」
「みんなを守ろう」
「うん!」
「カミラさん! アルトくん! コテツ! 行こう!」
『任せて』
『我に乗れ! ワタル!』
『ワンワン!』
 すぐにアルトくんの背中に乗り込んで、敵がやってくる方に視線を向ける。
 遥か遠くだが、土埃が見える。
 ――――と同時に、空から雨が降り始めた。
 敵の姿が目視できるくらい近付いてきた。
 どうやら以前戦った部族ではなさそう。
 まだ弱く降る雨の中、一本の矢が鋭く飛んでいき、こちらに向かってくる敵を射抜いた。
 続いてヘンブさん率いる護衛部隊がスリングを振り回して石を投げ始める。
 ボロモロシア大荒野は木材がないからか、矢を使わずに投石で相手を攻撃するのが定石という。
 こちらに仕掛けてくる敵が次から次へと倒れていく。
 そんな中でも数人がこちらにたどり着いた。
 大きな斧を振り回す人と対峙する。
 彼の斧は子供だからと容赦するような気持ちはなく、殺意を全開に僕に向けられる。
 振り下ろされた斧を交わすと同時に、アルトくんの強烈な飛び蹴りで男が吹き飛ぶ。
 すぐに飛んできた石が男に降り注いだ。
 一瞬だけ見えた男の頬には――――涙が流れていた。
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