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5話 風渡り

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「の、ノア! 大丈夫?」

「セレナは心配性だな。ほら、どこにも当たってないし、これでも十年くらい剣術を習っているから」

 まあ、才能がものをいう異世界なので、剣術系統のスキルのない僕の剣術なんて大したことはないが、コーンラビットくらいなら何とかなる。

 セレナには悪いけど、移動中のコーンラビットは極力僕が倒す方向で進めている。

 一応、無傷で倒せるくらいには鍛えているつもりだ。コーンラビット以上となるとちょっと身が重いが。

 それからコーンラビットを倒しつつ森の中を移動し続ける。

 森の中だと方向感覚が狂いそうだが、そこは異世界ならではの方法がある。

 空を見上げると、地球と変わらない青空が広がっているが、ここから東を見ると眩しい太陽が光り輝いている。その名前は【ソール】といい、大陸の中心部である世界樹ユグドラシルの上部に浮かんでいる。そして動かない。夜になるにつれ色が暗くなっていき、満月のように輝く。雨でも降らない限り常に方向がわかるのは異世界ならではの良さかも知れない。

 その日も日が暮れて、大樹の下に隠れて眠った。



 ◆



 森を歩いて三日目。

 このままだと明日には目的地に着けれるはずだ。

 その時、空に巨大は翡翠色の風・・・・・が舞い上がる。

「っ!? セレナ!」

「うん!」

 すぐに僕に掴まって近くの樹木にしがみつく。

「まさか【風渡り】を見る日がくるなんて……」

「ノア。絶対に離れないで!」

「ああ!」

 上空を通り過ぎるのは、翡翠色の風がぐるぐると回っている現象、通称【風渡り】である。

 【風渡り】というのは、大陸唯一の自然災害で、巻き込まれた地域の全てを別な地域に飛ばすものだ。人も家も魔物も、何もかも吹き飛ばす自然災害だが、実際飛ばされたモノは一切被害を受けない・・・・。ただ運ばれるだけ。

 それでも過ごしていた土地から離れた土地に飛ばされるので、災害なのは間違いない。

 一番の問題はどこに飛ばされるかわからない点だ。さらに一度巻き込まれたら、大陸の反対側まで運ばれると言われている。

 ある意味、この地から離れる絶好のチャンスではあるんだけど、どこに着くかわからないのでギャンブルはしたくない。無人島とかだと嫌だからね。

 【風渡り】は基本的に自然は運ばない。なので樹木の根元に逃げれば、隠れられると言われている。

 樹木の根元から見上げていると、美しい翡翠色の風が通り過ぎる。

 その時、森の奥で翡翠色の風がその場に止まり、ぐるぐると同じ場所を回りながら散り始めた。

「どうやらここが着地点みたい?」

「そうみたい。あ! 何かが落ちて来るよ!」

 上空に小さな白い何かが落ちていくのが見える。

「セレナ。焼肉で満腹にしよう。胸騒ぎがする」

「わ、わかった」

 セレナが満腹になれば百人力だ。

 もぐもぐと急いで食べるセレナが頬いっぱいに頬張っているのでリスみたいになってて可愛い。

 樹木の根元から外に出た時、森の向こうから何かが僕達に向かってやってくるのが見えた。
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