破滅のアダムとイヴ 〜Sランクと記憶喪失と東京と〜

新進真

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承『記憶喪失の《討伐者》』

第23話 ユー・エンド

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「その村は平和でモンスターとかいう輩に襲われることなく、僕もシアンもすくすくと育っていった。あの事故……いや事件が起きるまでは」

 事故ではなく事件、となるとブルート村のようなことがあったのだろうか。
ヘイトリッドは真剣な顔のまま説明を続ける。

「僕とシアンが10歳になったばかりの朝、村に大量のモンスターがいた。大人たちはみなゴブリンに襲われ、シアンの母親はそこで殺されたらしい。まだ討伐者でなかったシアンの父親は誰かを助ける訳でもなく、僕たちを連れてその村から逃げ出した」

 なるほど、彼女から自身の母親の話が出ないのも納得だ。父親の話はよく出るが、母親に関する話は一切出ない。離婚したとか彼女が生まれる前に亡くなった……と思っていたが、それ以上に完全に記憶にない言い方をしていた。

「そこから色々とありストラート村に行き着いた。シアンは母親を失ったショックでその事件以前の出来事は全て忘れてしまった。彼女も自身が記憶喪失ということを理解していない」

 全てが繋がった。脳の中で切れていた糸が結ばれたように。彼女が母親のことを話していなかったこと、ガイアさんが討伐者になった理由、彼女がモンスターに惹かれる理由も何となく分かった。

「モンスターに母親を殺されたのにも関わらず、記憶も失った上、惹かれて研究しているって皮肉にも程があるな」とロックが口を挟む。

「調べるうちに、その村を襲ったモンスターたちは洗脳されていたことが分かった。そこで僕はモンスター保護団体に入り、有力な情報を得ようとした」

 村をモンスターに襲われたのにも関わらず、何故モンスター保護団体に入ったのか。その理由が分かった。ルンフイ村もまた洗脳されたモンスターに襲われ、情報収集のために団体に入ったということか。

 となるとルンフイ村を襲った理由は分からないが、それもまたライムートの人間が洗脳させたのか?
 彼はまた口を開いた。

「『記憶喪失の青年を家で泊めている』とシアンから聞いた時は驚いた。もしかすればその青年も同じ状況で……と思い、君を観察した。しかし、君に関する情報は一切得られなかった」

 俺に関する情報は……。
 そりゃ、そうだろうな。俺自身、過去に何があった一切分からない。幻覚のような物が見えたり見えなかったり、また見えたり。
 幻覚が見えたからと言って、過去の記憶が蘇る訳でもない。意味が分からない、ただの人間の殺戮行為を永遠と見せられるくらいだ。

「まずはアミティエと、その近くのブルート村に行くことが最優先だが、君の記憶が1番気になる。過去に何があったか、少しだけでもいいから思い出してくれ」

 無理なことを言うな、記憶喪失の人に記憶を思い出せって無理だろう。
 俺が言い返そうとしたのを察知したのか、彼は無理やり話を終え、森から出ようとした。
 このドラゴンをそのまま森を放っておくことはできない。鈴を受け取り、ヤツを雲の上に隠しておくことにした。これで何があっても、この鈴でヤツを呼べる。

「警備はどうくぐり抜ける気だ?」と俺が聞くも無視。強行突破でもするつもりなのだろうか。

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「意外と行けるものだな……レインマークとは大違いだ」

 ロックがそう呟いている。潜入のためとはいえ元々はレインマークの役所で働いていた人間だ。この警備の杜撰さに驚く素振りを見せた。
 レインマークと同じように大きな壁があり、中に入るためには門をくぐらなければならないのだが、その門を警備しているはずの人間もその場に突っ立っているだけ、許可証の提示なども特になく、スルッと通り抜けることができた。

「怪しまれないように行くぞ、目的地は五番街の喫茶店、”ユー・エンド”へ」

 話を聞くに、いつもその喫茶店の地下で集会が行われるとのこと。喫茶店の主人が保護団体のサブリーダーらしく、集会がなくても団体員はよくここで茶を楽しむそう。今日もこれを狙っている。集会はないが、それでも何人かの団体員はいるはずだ。居なくても、その主人に話を聞くことさえできれば……。

 辺りをキョロキョロしながら見渡すも、あまりレインマークと変わらない様子だ。背の高い赤い屋根の建物が並び、上には大量の小さな旗が靡いており、更に”屋台”……というものが出店されている。お祭り気分なのか、実際にお祭りなのか分からないが……楽しそうだな。市民もみな笑顔。

「前から人が来る、話を合わせろ」

 この言葉を発したのはヘイトリッドか。顔を上げると、20m先に兵士がいた。ただの兵士なのか、それとも門の警備をしていた人が異変に気づき戻ってきたのか。
 で、その話を合わせろ……というのは?

「チョスパヒロのターセンキは美味しかったな。ヴィルマルクローズベルクのサントーリサントーリイットも綺麗だったな」

「それよりピックピットピンクのボルケーノロックメキントもよかったな」

 ん? ちょっとどころかだいぶ、彼らの言っている意味が分からない。俺は相槌を打つしかやることはなかった。
 予想通り、前の兵士らは会話に入れていない俺を不審に思ったような顔をしていたが、特に止めるようなこともせずそのまま歩いていく。

「で、そのぴっぴぴっぴぴっぴとか、さんとーさんとーさんとーみたいなやつは何だ?」と聞くと、彼らは笑いながら答える。

「そんなもの存在しないさ」と。

 そのせいで俺が会話に入れずに、兵士からも怪しみの目で見られたのだから、一発ぐらいは入れさせてほしいものだが。この場でやるのはやめておこう、あとで人気のない所でこっそり殴ることにしよう。

「着いた、ここがユー・エンドだ。入ろう」

 ロックがそう言いつつ扉を開けると、中に客は居らず、代わりに気さくな店主がいた。店員もいない、本当にこの店主ただ1人。
 俺が保護団体について聞こうとすると、それを察知したのか、ヘイトリッドが手を挙げてこう言った。

「マスター、いつもの3つ」

 更に俺に向かって小声で言う。

「まだその話は早い、まずは腹ごしらえからだ」

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