破滅のアダムとイヴ 〜Sランクと記憶喪失と東京と〜

新進真

文字の大きさ
60 / 87
承『記憶喪失の《討伐者》』

第46話 最終決戦「被検体」

しおりを挟む
----------

「ここは強制労働所だな?」

 俺は奴に聞く。まぁ、記憶上ほぼ間違いないのだが。

「世間からはそう呼ばれている、正式名称は『平和保護のための研究所』なのだがな」

 目の前の男は、強制労働所という非合法で倫理的にも危うい施設を『平和保護のための研究所』と謳っていた。冗談もほどほどにしてほしい。

「何が平和保護だよ」と、また無意識のうちに呟いていた。拳を強く握る。今奴が目の前にいたら本能的に飛びかかり殴ってしまいそうなほどに力を込めている。

 小声で呟いたつもりだが、奴には聞こえていた。

「お前は……被検体番号0818か。久しぶりだな、化け物は元気しているか?お前の中にいる、穢れた血を啜っているモンスターは」

 やはりここは強制労働所で、俺はここの出身で、被検体としてここにいた。その上、モンスターが俺の中にいるのも本当だった。

「これも何かの縁だ、平和保護のための……アムスカリスの花計画の説明でもしておこう。これが遂行されれば、世界に真の平和が訪れる」

 奴は空中に浮いたまま、ある計画の説明を始めた。誰もその場から動くことができない。何か結界でも張られている訳でもない、不思議な力が働いている訳でもない、緊張感からか。

「世界全体を平和にするためには、全員を同じにすればいい。価値観も感受性も全てが同じになれば、争いは起きない。1つの生命体にまとめることも考えたが、それは今の技術では難しい。ならば、永遠に解けない洗脳でこの世を一体化させる」

 そう言って男が取り出したのは、片手大の瓶。中には紫色に光る液体が入っている。

「この液体があれば、星全体の生物の行動を掌握できる。これからこれをガスにして、世界中にばら撒く。全てが私と同じ思考となり、本当の平和が訪れる」

 奴は計画の全貌を語った。

「僕の村の仇、絶対に止めてみせる」

 ヘイトリッドが、奴に聞こえるくらいの大きな声を発した。彼もまた昔、村をゴブリンに襲われた者だ。シアンとガイアさんも襲われた上、シアンの母親はそこで命を落としたとも言っていた。ヘイトリッドの父母がどうなったかは明言されてなかったが、それもまたこの平和を保護する帝王の仕業だろう。

「懐かしいな、ルンフイ村のアレか……」

 帝王はその出来事を覚えていたらしく、またニヤリと笑った。顔は見えないが、口元は少しだけ見える。

「計画のために、あるモンスターとの合成を試みた。合成方法は分からない、故に方法を熟知している2人の女性を誘拐する計画を立てた。その女性の名前は、マリア・エスパースと、メイ・スノート・オン……だったかな」

 この言葉を聞いた瞬間、ロックとガイアの顔が一気に青ざめた。

 確か、ガイアさんの本名は……ガイア・エスパース。となるとマリアさんというのは、シアンの母親で、ガイアさんの奥さん。
 ロックの本名は……ロック・オン。ミドルネームだとするなら、彼女もまたロックの奥さんだった人だろう。

 マリアさんもメイさんも、ゴブリンに襲われて亡くなったと聞いた。その理由が、モンスターとの合成方法を熟知していたから、ということらしい。何故その2人が知っていたのか? ガイアさんやロックはその事を知っていたのだろうか。

「洗脳のさせ方が悪くてな、マリアの方は殺してしまった。断末魔も目の前で聞いた。メイの方は捕まえたが、今生きているかは知らんな」

 その言葉を聞いたシアンは地面にうずくまった。ガイアさんは激昂し、奴の元に向かおうとしたが、奴は宙に浮いているため攻撃手段もない。ロックは生きていることに対して一瞬安堵したものの、生きているか知らないという無責任な言葉に腹を立て、剣を構えた。

「申し訳ない。もう計画を実行に移さねばならぬ。あの2人は役に立った、今こうやって私が能力を使えるのだからな」

 奴は浮遊したまま巨大な穴に戻っていく。「待て!」と叫ぶも、奴は浮遊しており、素手で捕まえることなんてできない。

----------

 穴から少し離れた村から巨大な音が聞こえる。遠くから村を見てみると、巨大な煙突が三本、地面からメリメリと生えてきた。ガスを世界中にばら撒くための煙突か。
 
 世界中にガスをばら撒くとなれば、想像を絶するパワーが必要になる。例えば火力だったり水力だったり。どれをどうやって賄っているのか気になるな。

「すまないスカイ、取り乱した。作戦を考えたから聞いてくれ」

 深呼吸して落ち着いたロックは、地面に木の枝を立て、作戦を話し始めた。

「スカイの記憶では、他にも強制的に労働させられている者と、実験に使われているモンスターがいたはずだ、それらは逃がそう。それと装置を止める人もほしい」

 ロックの分析で、俺たちは逃がす班と装置を止める班に分かれた。中がどんな構造か、ロックですら分からないからこそ慎重に、複数人で突撃する。

「スカイ、お前は帝王の気を引いてほしい、奴と互角に戦えるのはお前だけだ」というロックの熱い要望もあり、俺は単身で乗り込むことになった。

 青いドラゴンに乗り、巨大な穴の中へ向かった。奴が平和保護と謳う物は、所詮生命体としての本質を見失った上での結論付けだ。俺が止めてやる、生命の美しさと愚かさが少しだけ理解できるようになってきた、この俺が自らの手で制してやる。

----------
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

処理中です...