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承『記憶喪失の《討伐者》』
第52話 最終決戦7「無力」
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穴の周りには、ゴブリンがわんさかといる。ドラゴンたちの攻撃を掻い潜って、俺たちの所まで来たんだろう。それをここにいる人だけで倒さなければならないが、空中にはドラゴンがいる。いつも通り戦えば、倒せる。
一体ずつ左手で掴んでは、右の剣で斬り落とす。丁寧に斬って斬って、逃げ出そうとした者はロックやヘイトリッドが代わりに斬ってくれる。ここにキミカも合流した。五人で、動きながら倒していく。
「悪い、ロックの方にゴブリンが行った!」
「心配するな、私なら倒せる。それより女性の保護を優先しよう」
「大丈夫だって! 私は平気! 助けるならシアンを助けてね!」
連携は大事だ、ひとりで得られない物も複数人なら得ることができる。ひとりで完成させられる物があるなら、複数人いれば早く完成させられる。複数人の素晴らしさに早く気づけばよかったな。これまでは一匹狼で突き進みすぎた。
「そう、お前はひとりでよい。ひとりで死ねばよい」
何処からか声が聞こえた。
これは奴の声だ。奴は生きていたのか、それにしても姿は見えない。また脳内に直接語りかけているのか。
しかし、今回は前回とは違う。俺だけじゃない、ロックはヘイトリッドたち、俺以外の他の人間にもこの声が聞こえているらしい。
「何だよ……この声」
「何? 世界の帝王って人の声?」
奴は間違いなく俺の手で殺した。ナイフで奴の首を刺した。感触も残っている、明らかに首に刺さった音もしたし、血も大量に出ていた。
「私にはトールという化け物の力がある。お前と違って、私は化け物となる。世界を救うためには……やむを得ん。化け物となって、世界を統治するのだ!」
トールの力を持った奴には、あらゆる攻撃も効かないということか? 俺のナイフ攻撃も無効だった、ならどう倒せばいいんだ。それに、”私は化け物になる”って……何をする気だ。
「グラァァァ!!」
周りにいた、洗脳されていたはずのモンスターが一斉に穴に向かって走り始めた。前にいる俺たちなんかお構い無しに、穴の中に落ちていく。捕まえようにも、速すぎる。
のろまなはずのオークや巨人ですら、スパイダーの蜘蛛の糸でも捕まえられないほどに、高速で移動している。
更には空にいたヴァンパイアやファントムまでもが、穴の中に行く。あまりの奇妙さに、穴にも近づくことができない。
「何が起きている?」
「分からない……穴の中に何かがあるはずだ」
ロックとヘイトリッドは辺りを警戒しながらも、ゆっくりと穴の方に向かう。
すると、上空にいたドラゴンが慌てふためきながら、俺の目の前に地面に降り立った。
「穴の中は危険だ! 逃げろ!」
何を見たとかは言ってくれないが、ドラゴンが慌てるとなると、とんでもないのだろう。ロックとヘイトリッドはもう穴の方に向かったと伝えると、ドラゴンは急いで彼らを回収しようと動いたが、遅かった。
バリバリ……!!
巨大な穴に向かって、大量の雷が落ちる。何発も、いや何十発、何百発もの雷が激しい音を立てて、俺たちの目の前の穴に落ちる。
間近にいたヘイトリッドやロックが、その場で腰を抜かすほどの音と閃光。あまりの眩しさに、目をつぶるしかなかった。目を開いたら失明するくらいの光、彼らを助けることなんてできなかった。
閃光も音も無くなり目を開くと、穴の近くにいたはずのヘイトリッドが居なくなっていた。ロックはその場に残っているのに、ヘイトリッドだけが姿を消した。急いでドラゴンがロックを回収し、事情を聞いたが、ロック自身も何が起きたか分かっていない。
「1人しか奪えなかったが、この1人のお陰で私は究極的な進化を遂げる。ありがとう」
穴の中から、ある男が横たわったまま浮かび上がる。あれは、ヘイトリッドだ。助けに行こうにも、彼は宙に浮かんでいる。ドラゴンが助けようとしたところ、謎の結界が彼の周りに張られているらしく、空を飛んでも近づくことができなかった。
ドゴン……!!
激しい音と共に、横たわるヘイトリッドに雷が落ちる。直撃だ、彼の身体は雷で焼け切り、生首がポロリと穴の中に落ちていった。頭のついていない、血の色で染まった身体だけが宙に浮いている。
「ヘイトリッド……!」
「アレア!」
叫んだところで、彼の死体は浮かんだまま、帰ってこない。シアンは直視できないようで、木の裏でうずくまりつつ嘔吐を繰り返している。キミカは真逆、彼の浮かんだままの死体を直視している。
「私はこれで、真の世界の帝王となった」
奴の言葉と共に、ヘイトリッドの死体は重力に従い、そのまま穴の中に落ちていった。
ゴゴゴゴ……と大きな音が鳴り響いている。地面も揺れている。ガイアさんなど、村にいた人たちも戻ってきた。気分が悪そうにしてうずくまっているシアンを見つけ、何があったのかを俺たちに聞いてくるが、答えられない。
何も考えられないからだ。
皆の視線は、目の前の……世界の帝王に釘付けになっている。見とれている訳じゃない、この世では有り得ない現象が、今目の前で起きている。
巨大な穴から、巨大な生首が回転しながら上に上がってくる。髪の毛のない男の人の顔、鼻や目の大きさからして、奴の顔なのは間違いない。肌は紫に変色しており、所々透けているようにも見える。
奴の巨大な生首に地面が耐えられなくなったのか、地面にヒビが入った。急いで、うずくまっているシアンを無理矢理起こして、穴から離れるように移動した。
巨大な生首の下には身体も付いていた。が、生首と身体を無理矢理くっ付けたような、そんな奇妙な外見をしている。少しでも触れたら、生首が転がっていきそうな不気味さ。
それはそうと、周りの地形を破壊しながら、奴の身体が地中から現れる。屈強な男の人の身体……といえば想像がつくだろう。しかし肌は紫色で、所々透けているため向こう側が丸見えだ。
身体も付いているということは、腕も手もある。これもまた紫色で透けている巨大な腕だ。上半身までしか見えないため、
足があるかどうか分からないが、奴は巨人となった。いや、巨人とも呼べない。神だ、どこか神秘的な要素も感じる。
「私は世界の帝王で、唯一の神だ」
奴の生首ではない、また別のところから声が聞こえる。奴の口は動いていない、これもまた脳内に直接語りかけているやつか。
「全生物をこの場に呼び寄せる。全てが私になる。私が世の頂点となり、私ひとりが世に存在する」
奴は、皆の思考を一つにする計画から、一人に魂を集めるという計画に変えたみたいだ。神となった奴には、何でもできるのか? 尚更、その計画には賛同できない。
奴はその大きな両腕を天に掲げるように上げ、近くにいた逃げそびれたドラゴンを、片手で握り潰した。奴の手は、ドラゴン数十体が手のひらに収まるほどの大きさだ。軽々しくドラゴンを握り潰した後、ドラゴンの死体を宙に浮かせた。死体は何故か消滅せずに浮いたまま、奴は死体の血を吸収し、こう言った。
「力を手に入れた。お陰で翼を授かることができた」
奴は言葉通りにドラゴンの能力を使った。奴の巨大な身体から、紫色に発光する大きな翼が生えた。天に届くほどの大きさ、それどころか翼の先端の方は雲に届いていた。
「お前たちは最後に取っておこう。今、周囲の人間を呼び寄せた。もう来るはずだ」
言葉通り、洗脳された人間が次々と森から現れ、奴の身体の方へ走り出す。どんなに力ずくで止めても、人間たちは奴の方へ走っていく。奴は自身の近くに集まった人間たちを、自らの拳で叩き潰し、拳についた血を吸収して更に進化を遂げる。
「お前たちは無力だ。こうして、私の進化を見守っておればいい」
いや、見守るようなことはしたくない。でも、抵抗することもできない。抵抗する手段が思いつかない。特攻すれば死、遠距離攻撃の手段は無い。剣を投げてみるか、それは不可能か。奴のあの巨体に、こんな1本の剣など無力だ。
俺たちは見ていることしかできないのか。
そんなことはない。
ヘイトリッドが目の前で奴にやられた。これ以上、被害者を出す訳にはいかない。この身を挺してでも、奴を止めなければならない。
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穴の周りには、ゴブリンがわんさかといる。ドラゴンたちの攻撃を掻い潜って、俺たちの所まで来たんだろう。それをここにいる人だけで倒さなければならないが、空中にはドラゴンがいる。いつも通り戦えば、倒せる。
一体ずつ左手で掴んでは、右の剣で斬り落とす。丁寧に斬って斬って、逃げ出そうとした者はロックやヘイトリッドが代わりに斬ってくれる。ここにキミカも合流した。五人で、動きながら倒していく。
「悪い、ロックの方にゴブリンが行った!」
「心配するな、私なら倒せる。それより女性の保護を優先しよう」
「大丈夫だって! 私は平気! 助けるならシアンを助けてね!」
連携は大事だ、ひとりで得られない物も複数人なら得ることができる。ひとりで完成させられる物があるなら、複数人いれば早く完成させられる。複数人の素晴らしさに早く気づけばよかったな。これまでは一匹狼で突き進みすぎた。
「そう、お前はひとりでよい。ひとりで死ねばよい」
何処からか声が聞こえた。
これは奴の声だ。奴は生きていたのか、それにしても姿は見えない。また脳内に直接語りかけているのか。
しかし、今回は前回とは違う。俺だけじゃない、ロックはヘイトリッドたち、俺以外の他の人間にもこの声が聞こえているらしい。
「何だよ……この声」
「何? 世界の帝王って人の声?」
奴は間違いなく俺の手で殺した。ナイフで奴の首を刺した。感触も残っている、明らかに首に刺さった音もしたし、血も大量に出ていた。
「私にはトールという化け物の力がある。お前と違って、私は化け物となる。世界を救うためには……やむを得ん。化け物となって、世界を統治するのだ!」
トールの力を持った奴には、あらゆる攻撃も効かないということか? 俺のナイフ攻撃も無効だった、ならどう倒せばいいんだ。それに、”私は化け物になる”って……何をする気だ。
「グラァァァ!!」
周りにいた、洗脳されていたはずのモンスターが一斉に穴に向かって走り始めた。前にいる俺たちなんかお構い無しに、穴の中に落ちていく。捕まえようにも、速すぎる。
のろまなはずのオークや巨人ですら、スパイダーの蜘蛛の糸でも捕まえられないほどに、高速で移動している。
更には空にいたヴァンパイアやファントムまでもが、穴の中に行く。あまりの奇妙さに、穴にも近づくことができない。
「何が起きている?」
「分からない……穴の中に何かがあるはずだ」
ロックとヘイトリッドは辺りを警戒しながらも、ゆっくりと穴の方に向かう。
すると、上空にいたドラゴンが慌てふためきながら、俺の目の前に地面に降り立った。
「穴の中は危険だ! 逃げろ!」
何を見たとかは言ってくれないが、ドラゴンが慌てるとなると、とんでもないのだろう。ロックとヘイトリッドはもう穴の方に向かったと伝えると、ドラゴンは急いで彼らを回収しようと動いたが、遅かった。
バリバリ……!!
巨大な穴に向かって、大量の雷が落ちる。何発も、いや何十発、何百発もの雷が激しい音を立てて、俺たちの目の前の穴に落ちる。
間近にいたヘイトリッドやロックが、その場で腰を抜かすほどの音と閃光。あまりの眩しさに、目をつぶるしかなかった。目を開いたら失明するくらいの光、彼らを助けることなんてできなかった。
閃光も音も無くなり目を開くと、穴の近くにいたはずのヘイトリッドが居なくなっていた。ロックはその場に残っているのに、ヘイトリッドだけが姿を消した。急いでドラゴンがロックを回収し、事情を聞いたが、ロック自身も何が起きたか分かっていない。
「1人しか奪えなかったが、この1人のお陰で私は究極的な進化を遂げる。ありがとう」
穴の中から、ある男が横たわったまま浮かび上がる。あれは、ヘイトリッドだ。助けに行こうにも、彼は宙に浮かんでいる。ドラゴンが助けようとしたところ、謎の結界が彼の周りに張られているらしく、空を飛んでも近づくことができなかった。
ドゴン……!!
激しい音と共に、横たわるヘイトリッドに雷が落ちる。直撃だ、彼の身体は雷で焼け切り、生首がポロリと穴の中に落ちていった。頭のついていない、血の色で染まった身体だけが宙に浮いている。
「ヘイトリッド……!」
「アレア!」
叫んだところで、彼の死体は浮かんだまま、帰ってこない。シアンは直視できないようで、木の裏でうずくまりつつ嘔吐を繰り返している。キミカは真逆、彼の浮かんだままの死体を直視している。
「私はこれで、真の世界の帝王となった」
奴の言葉と共に、ヘイトリッドの死体は重力に従い、そのまま穴の中に落ちていった。
ゴゴゴゴ……と大きな音が鳴り響いている。地面も揺れている。ガイアさんなど、村にいた人たちも戻ってきた。気分が悪そうにしてうずくまっているシアンを見つけ、何があったのかを俺たちに聞いてくるが、答えられない。
何も考えられないからだ。
皆の視線は、目の前の……世界の帝王に釘付けになっている。見とれている訳じゃない、この世では有り得ない現象が、今目の前で起きている。
巨大な穴から、巨大な生首が回転しながら上に上がってくる。髪の毛のない男の人の顔、鼻や目の大きさからして、奴の顔なのは間違いない。肌は紫に変色しており、所々透けているようにも見える。
奴の巨大な生首に地面が耐えられなくなったのか、地面にヒビが入った。急いで、うずくまっているシアンを無理矢理起こして、穴から離れるように移動した。
巨大な生首の下には身体も付いていた。が、生首と身体を無理矢理くっ付けたような、そんな奇妙な外見をしている。少しでも触れたら、生首が転がっていきそうな不気味さ。
それはそうと、周りの地形を破壊しながら、奴の身体が地中から現れる。屈強な男の人の身体……といえば想像がつくだろう。しかし肌は紫色で、所々透けているため向こう側が丸見えだ。
身体も付いているということは、腕も手もある。これもまた紫色で透けている巨大な腕だ。上半身までしか見えないため、
足があるかどうか分からないが、奴は巨人となった。いや、巨人とも呼べない。神だ、どこか神秘的な要素も感じる。
「私は世界の帝王で、唯一の神だ」
奴の生首ではない、また別のところから声が聞こえる。奴の口は動いていない、これもまた脳内に直接語りかけているやつか。
「全生物をこの場に呼び寄せる。全てが私になる。私が世の頂点となり、私ひとりが世に存在する」
奴は、皆の思考を一つにする計画から、一人に魂を集めるという計画に変えたみたいだ。神となった奴には、何でもできるのか? 尚更、その計画には賛同できない。
奴はその大きな両腕を天に掲げるように上げ、近くにいた逃げそびれたドラゴンを、片手で握り潰した。奴の手は、ドラゴン数十体が手のひらに収まるほどの大きさだ。軽々しくドラゴンを握り潰した後、ドラゴンの死体を宙に浮かせた。死体は何故か消滅せずに浮いたまま、奴は死体の血を吸収し、こう言った。
「力を手に入れた。お陰で翼を授かることができた」
奴は言葉通りにドラゴンの能力を使った。奴の巨大な身体から、紫色に発光する大きな翼が生えた。天に届くほどの大きさ、それどころか翼の先端の方は雲に届いていた。
「お前たちは最後に取っておこう。今、周囲の人間を呼び寄せた。もう来るはずだ」
言葉通り、洗脳された人間が次々と森から現れ、奴の身体の方へ走り出す。どんなに力ずくで止めても、人間たちは奴の方へ走っていく。奴は自身の近くに集まった人間たちを、自らの拳で叩き潰し、拳についた血を吸収して更に進化を遂げる。
「お前たちは無力だ。こうして、私の進化を見守っておればいい」
いや、見守るようなことはしたくない。でも、抵抗することもできない。抵抗する手段が思いつかない。特攻すれば死、遠距離攻撃の手段は無い。剣を投げてみるか、それは不可能か。奴のあの巨体に、こんな1本の剣など無力だ。
俺たちは見ていることしかできないのか。
そんなことはない。
ヘイトリッドが目の前で奴にやられた。これ以上、被害者を出す訳にはいかない。この身を挺してでも、奴を止めなければならない。
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