破滅のアダムとイヴ 〜Sランクと記憶喪失と東京と〜

新進真

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承『記憶喪失の《討伐者》』

第61話 アルファス村

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「私ね……アオイ村で暮らす前に、アルファス村という場所で暮らしていたの。もう5年くらい前のことかな」

 アルファス村、聞いたことがない。
 どうやら、国が違うらしい。リバイル村もセルバー村もストラート村も、アミティエもレインマークもハルカーレも、大きな国・ライムートに属している。

 アルファス村は、小国・カザリに属している小さな村……だったとのこと。

「5年前、盗賊に村が襲われたの。ゴブリンじゃない、人間に。勇敢に立ち向かったお父は死に、逃げ遅れたおじいちゃんも死んだ。おばあちゃんとお母を逃がそうとした時、目の前に盗賊が現れた」

 彼女は辛そうな顔をしながら、ちょいちょい言葉に詰まりながらも、俺に伝える。

「私は足の悪いおばあちゃんを逃がすのに必死で、お母のことを後回しにしていたの。後ろを振り向いた時には、もうお母は盗賊に殺されていた。これって私のせいだよね……」

 彼女は俯いたまま俺に話す。
 多分、それは彼女のせいではない。そもそもの話、襲ってきた盗賊が悪い。もしも彼女が悪かったとして、これからどうするつもりだ。彼女は悪くない、盗賊が悪い。

「そうだよね、良かった」

 彼女は突然高らかに笑いだした。奇妙だが、俺の声が響いたなら、それでいい。変に自殺でも考えられたら困っていた。

 リバイル村に戻るまで、お互いに無言だった。

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「お疲れ様、スカイ。警護の話だったか」

 リバイル村内の馬小屋でロックに話しかけられた。彼は全身汗だくで、何か重要な作業をしていたようだった。

「いいや、”何でも屋”のお手伝いさ。ちょうど強制労働所跡地付近での仕事だから着いて行った。そこでこれも手に入れた」

 彼は片手大の透明な瓶に入った紫色の液体を、誰にも見えないように手で隠しながら俺に見せる。この場にはキミカも居ない、彼女ならもう既に家に戻ったはずだ。更に辺りはもう真っ暗で、明かりがついている家の中に皆いると思う。
にしても、この液体は……。

「そう、奴が計画に使っていた紫の液体。モンスターの力を借りて、地下から掘り出した」

 奴……世界の帝王が計画のために使っていたあの液体だ。強制労働所の地下に貯蔵されていて、そこから煙突のような塔で世界に成分を拡散しようとしていたわけだが。

 どうして、このような危険なものをこの村に持ってきたのか。あれは、強制労働所跡地の、誰も踏み入れないような魔界の場所に放置しておくべきだった。

「流石に全部は持ってきていない。それに、研究だ。我々の力で、スカイの神の能力や液体のことを解明しなければならない」

 だが、リバイル村……近くのセルバー村に迷惑をかけることは許されないはずだ。どこか安全な場所に置いておかなければ。

「そう言うと思って、ゴーレムにお願いした。私の家に来い」

 彼の言うままに、家に向かう。
 家の中に入るや否や、ある物を見つけた。

「これは……?」
 俺は思わず声を漏らした。
 彼の家の中に、地下室の入り口が作られていた。ゴーレムがこれ作ったのか?

 いざ地下室に入ってみると、中はゆとりを持っても10人ほどは入れるくらいの空間が広がっていた。ユー・エンドの地下室と同じくらい、いやそれより少し大きいくらいの地下室だ。まだ本や研究に必要そうなものは無いが、端の方に何も入っていない古びた本棚が置かれている。

「ゴーレムに地下室を作ってもらった。ここでなら人の目を気にせず、自由に研究ができる。人に迷惑をかけることもない」

 俺が聞きたかったのはそういうことじゃないが、まぁいいだろう。
 地下室の本棚に瓶を隠し、俺たちは外に出た。ちょうど夜飯時だったためシアンたちのいる家に向かったが、ロックは何か俺と話したいことがあるそうで、夜飯だけシアンから貰って、彼の家で食べることにした。

「で、話とは?」

 俺はスープを啜りながら、彼に問いかける。
飯の時間くらいは明るい話をしていたいのだが、彼の暗い顔を見るに、話題も暗いものなのだろう。

「近頃、セルバー村付近から強い”何か”を感じる。恐らくは、モンスターの位置を示す力がそれに反応しているのだろう」

 彼にはモンスターの位置を特定する能力を持っている。どこでどうやってその能力を手に入れたのか分からないが、その能力は今でも保持している。
 昔はモンスターが人に見つからないように隠れて生活していたため、彼の能力の範囲外にいることがほとんどだったが、現在はモンスターと人間が共存しているため、その能力が常に作動し続けている状態となっている。

「どのモンスターか分かるか?」

 俺は彼に尋ねる。強い”何か”と表現するということは、普通のモンスターではないはずだ。となれば何だ?

「いや、分からない。だから明日向かうことにした。スカイも来れるな?」

 彼はパンを噛みながらそう強く言い放った。彼の厳しい眼を、今まで見たことは無い。冷や汗もかいている、これは彼にとって前代未聞の状況なんだろう。
 幸い、明日は休日で仕事も無い。俺も行くことにしよう。

 そう決心したところで、スープが冷めないうちに、飲み干す。
 強い”何か”の正体を考えながら。

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