破滅のアダムとイヴ 〜Sランクと記憶喪失と東京と〜

新進真

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承『記憶喪失の《討伐者》』

第63話 封印

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 外に出ると、道のど真ん中で何人もの人が突っ立っていた。足元を見てみると、やはり白い刃があった。彼女らもスケルトンにやられたのだろう。丁寧に馬までもが地面からの刃によって刺されて、命を落としている。

 ふと丘の方を見ると、そこには上半身を顕にした巨大なスケルトンが居た。

 セルバー村の大通りの奥には、ラグナーレ城が丘の上に建っていた。そのため俺たちからも、巨大なスケルトンからも丸見えである。

「お前らか、封印を解いたのは」

 肺も心臓も無いはずのスケルトンは、そう大通りにいる俺らに、遠くから話しかける。返答すべきなのだろうが、距離は物凄く離れており、人間の声じゃ奴には届かない。

 ロックに、シアンやキミカのいる研究所の様子を見に行ってもらった。その間に俺は、巨大な奴の相手をする。

 武器は何も無いわけではない。大通りにある武器の売店から奪う。この際仕方がない、対モンスターの武器ではないが、あった方がマシだろう。
残念ながら鎧は無かったが、剣が2本あるだけで、個人的には十分だ。

 2本の剣を背中に収め、奴のいる丘に向かう。
 奴の身体は既に上半身が露出している。肋骨が地面に強く突き刺さっており、身体が完全に地面に固定されている。

 しかし、弱点らしい弱点がみつからない。骨しかない、見る限り。どうやって声を出しているかすら分からないのに、奴を倒せ……どうやったらできるのか。

「問う、封印を解いたのはお前らか?」

 一応人間の俺でも声が届く範囲まで近づいた。それは良いとして、奴は封印されてたのか。間違いなく、起こしたのは俺たちだ。

 とは言っても、返す言葉もない。はい、そうです……なんて言えないよな。そうこう迷っているうちに、奴は奇妙な動きを始めた。

 奴はうねるように上半身を動かす。すると、肋骨が徐々に地面から抜けていき、奴は身動きが自由に取れるようになった。

「残念ながら、元から人間を恨んでいるモンスターも居る。私のようにな!」

 奴は肋骨を上手いこと動かし、抜き刺しすることで前に進む。丘を降り、大通りに沿って進む。住宅の屋根に肋骨を突き刺し、抜いては刺してを繰り返しながら、俺の元に向かって進んでいく。

 まずい、巨大な奴は俺の元に向かってきている。それは分かるのだが、どうしようもない。このまま俺も逃げるべきか、いや、避難が終わっていないはずだ。このまま行けば、シアンやキミカやセルバー村の人達を巻き込むことになる。

 なら、弱点が分からなくとも挑んでみるしかない。力を使えるか分からないが、やってみるしかない。

「止まれよ」

 俺は奴にそう告げ、大通りのど真ん中にいる奴の肋骨に向かって剣を突き刺す。
 しかし、奴の硬い骨の前には剣を通用せず、逆に奴の攻撃を受けそうになった。

「歯向かうつもりか、人間ごときが」

 奴は怒りも露わにする。この隙に急いで弱点を探そう。
 心臓は……無い。肺も無い。断ち切れそうな筋肉も無い。この剣すら通用しない、白くて硬い骨しか、奴の身体には無い。

 あるなら、頭蓋骨の中か? ならどう狙えばいい? 剣が通じないのならば、どうやって骨を壊せばいい?

 くそっ、これなら鈴を持参するおくべきだった。何故こんな時に限って家に置いていってしまったのか。いつも持参していた訳では無い、誤って鈴が鳴ってしまったら申し訳ないため、いつも置いていってるが、今日は持ってくるべきだった。

 申し訳ないが、この土地の地理には詳しくない。セルバー村の近くにゼロワ村という、また変わった小さな村があると聞いた。それがどの方角に位置するかは知らないが、とにかく村が近くに無さそうな方向に、奴を誘導しよう。

 草原なら戦えるか。今は村人のことを考えずに、戦える環境が欲しい。ここでは犠牲者を出さないようにと、無意識に力をセーブしてしまう。

「来いよ」とだけ、奴に向かって言ってみる。煽りのつもりだ。これに釣られて着いてきてほしいが……予想通り、奴は俺に着いてくる。

 セルバー村の中でも、あまり人が居ない地域を通って、草原の方へ向かう。村人は大体は避難しきったか。俺のいる場所からは確認ができない。

 自慢の脚力で、奴に追いつかれないように、小さな通りを走り抜ける。奴は肋骨を駆使して、前に進むが、抜いては刺してを繰り返すため、ある程度遅い。

 奴を引き付けつつ、草原に向かう。幸い、村人達はこの草原には避難しに来てないようだった。好都合だ、ここでなら思う存分、お互いに暴れられる。

 奴が草原に到着するまでの間、俺はへそに力を込める。トールの力を、今度こそ使ってみせる。前回は馬を探すといった、重要度は低い出来事に対して力を使おうとしていた。それは謝る、だから今は力を貸してくれ。

 今回は……現に目の前で村長が亡くなった。俺に絵画を見せた、セルバー村の村長がだ。確か『劇終』がどうとか言ってたな。いや、今はトールの力を使うことに集中しよう。

 ゴロロ、ゴロロと雷の響く音がする。
 しかし、これはトールの力を使えているのか……いや、使えていない気がする。世界の帝王と戦った時の、妙な高揚感や謎の好奇心が今は無い。ただただ、謎の絶望に身体が襲われている。絶望が俺の身体を蝕んでいく。その感覚のみがある。

 試しに草原に着いた奴の身体に向かって雷を打とうとしても、何も起こらない。手をかざしても、手を上げて下ろしても、何も起こらない。

「何を、している?」

 手をちゃかちゃかと動かす俺に気づいたのか、奴はそう声をかける。そうだよな、何も知らない人から見たら、俺の動きは奇怪にも滑稽にも見える。
 巨大なスケルトンを目の前にして、剣を使わずに、素手で何かをしている。ただのおかしな人にしか見えないな。

「スカイ! 何やってるの?」

 この声は……キミカか?
 後ろを振り向くと、少し離れた場所に、剣を持ったキミカとシアンが立っていた。
その近くにはゴーレムとスライムと、避難をさせていたロックがいる。

「スカイ、思う存分行け」

 ロックの言葉と共に、俺は奴の肋骨に向かって走り出す。

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