破滅のアダムとイヴ 〜Sランクと記憶喪失と東京と〜

新進真

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承『記憶喪失の《討伐者》』

第71話 空間の石

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 奴の振るう拳を避けつつ、奴の腹に拳を入れる。どうやら、戦闘面で言えば俺の方が上のようだ。性別の差ってものがあるかもしれないが、戦闘の前では性別なんてこれっぽちも関係ない。俺に挑むのが悪いだけ。

「トドメだ」

 俺は奴の顔面を強く叩き込むように、拳を振るう。これを食らえば、数時間は起き上がれないだろう、それくらいの威力を持つ。更にトールの力も上乗せされているため、下手すれば丸一日は起き上がれない。精神的にも立ち直れないかもな。

 いざ、叩き込もうとすると、俺は空虚に拳を振るっていることに気がついた。さっきまで目の前にいた少女が居なくなっていた。
 奴に避けられたのか、いや、俺の目の前にいた少女は偽物だった。俺が相手をしていた少女は、白い小さな人形の姿になっており、本物の少女は俺の真上に浮かんでいた。

 そのまま、俺は踏みつけられるように、空中から背中に蹴りを入れられる。たった一撃だが、もう起き上がれない。トールの力が抜けていく感触も味わった。

「創造魔法、これで私の分身を作ったの。実際は、渦を作る前から屋根の上に居たんだけどね。気づかなかった?」

 奴が手をかざすと、また渦が草原の前に出現した。これもまた奴の作った物だったのか。
俺は奴の足元で痛みを堪えている。たった一撃でこれほどとは、思いもしなかった。

《ワープ》

 シュッ……といった軽い音と共に、うめき声が聞こえる。踏まれたままのため見にくいが、どうにかして無理矢理見上げると、少女はロックの首を持って、大人のロックを軽々と持ち上げていた。

「ワープで、君のお友達を召喚したの。手も足も出ないでしょ? 大人しく、石を渡しなよ」

 奴は石を渡せと言うように、手を出した。
 渡してやりたいが、石の存在を知らない。石ってなんだよ、そんなに欲しいのなら、その辺の森で拾えばいいじゃないか。都市の方にある石屋でも行って、好きな物何でも買えばいい。

「ふざけないで、空間の石の反応が出ている。しらばっくれるようなら、殺してもいいかな」

 奴は本気でロックと俺を殺すつもりだ。
 本当に知らないんだ、それだけは信じてほしい。

「レッドさん……どうしてここに」

 いつの間にかエストが、家の外に出ていた。そして更に、奴の名前はレッドということが分かった。薄々感づいてはいたが。

 レッドはロックと俺を離し、エストの方に向かった。阻止しようと雷の剣を奴の前に配置するも、奴の一振で全て消滅し、逆に俺とロックが吹き飛ばされた。

 奴はエストの頬を右手で撫でながら、何かを話していた。距離が遠くて聞こえないが、徐々にエストの顔が青ざめていくのが確認できた。

 話し終えたのか、奴は草原の真ん中に立ち、風を感じながら、手を広げた。
 エストの方に向かうと、彼はとてつもなく怯えていた。何を言われたのかと聞くも、怯えているせいで、中々声が発せていない。

「さてと、空間の石は貰うね」

 奴はそう言うと、ワープを使ってある物を草原のど真ん中に出現させた。そう、俺とロックしか知らない、紫色の液体が入った……あの金庫。
 もしや、世界の帝王が使用していた紫色の液体が、空間の石ってやつなのか。石ではなく液体だが、細かいことはいいのだろう。

《火炎魔法》

 奴は金庫の上で拳を赤く発光させ、金庫を叩き始めた。ガキン、ガキンと金属音が響く。火炎魔法を使ったのか、鋼鉄で簡単には開けられない金庫が、鍵も使わずに外から開けられていく。

「懐かしいね、トートも王側近室の金庫を開けてたよね。あれも嘘なんだけどね、リーゼを殺した兵士も、私が魔法で作った人形だよ。あ、これは言ったかもね。設定が多くて困るわ、コンパスの話はまだしてないっけ?」

 奴は中から紫色の液体の入った瓶を取り出しつつそう言った。
 トートもリーゼも、エストの仲間として奴に作られた幻影のような存在と聞いた。過去に何かやっていたのか。
 そのリーゼを殺した兵士を、エストは深く憎んでいたが、なんとその兵士は存在しなかったのだ。その兵士は奴に作られただけの物。

 何とも皮肉な。

「思い出した、懐かしいね。時の石の位置を指し示すコンパスなんて存在しない。全てはアダムと合流するための時間稼ぎ。時の石の位置は知ってたし、いつでも王から奪えた。でもね、厄介な事情ってのがあるの」

 奴の狙いは、エストに世界を滅ぼさせること。創造魔法と対になるくらいの言葉だぞ、創造と滅亡。創造から滅亡が生まれるとかそんな感じか? 急に訳が分からないな。お前らはどこから来たんだ。それは教えてほしい。厄介な事情とか、時間稼ぎとか、全て説明してほしい。

「さぁ、私はどこから来たんだろう。どこがスタートで、どこがゴールか。一旦ゴールしてみないと分からないんじゃない?」

 奴は首を傾げつつも、紫色の液体が入った瓶を蓋を開け、口をつけて飲み始めた。
 空間の石……と奴が呼称し、実際に世界の帝王が悪事に利用していた紫色の液体を、だ。人間が飲めたものでは無いと思うが、飲んだこともないため分からない。止めようにも、迂闊に近づけない。これは何だ、俺の野生の勘が止めているのか?

「これで用はないわ。ありがとう、世界滅亡に一歩近づいた。次会う時に、全てを説明するよ。世界が残っているといいね、でもまた会えるのを楽しみにしているよ」

 奴はそう言った後、また渦を出現させた。追いかけようにも、足が動かない。足が動かせるようになったのは、既に彼女も渦も消滅しきった後だった。

 地面には、空間の石が入っていた瓶と、奴の着ていた鎧が落ちていた。

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