婚約破棄寸前なので開き直ったら溺愛されました

迷井花

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3.史上最悪のデート①

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 シーフォードの馬車は広々としていて、立派な体躯のフェイトと同乗しても狭いと感じることはなかった。
  
 にも関わらず、グレースは身の置きどころに困り、車窓に目を向け勝手知ったる森の木々を食い入るように見つめていた。

 向かいに座るフェイトから少しでも遠くに逃げる為だ。

 彼は眉間にシワを寄せ、唇を薄く結んで、何かを冷静に分析しているように見える。
 それが何かといえば、ここには二人きりしかいないのだから、グレースに決まっている。
  
 噂の貴公子を見物するつもりでいたら、逆に自分も見られているということに、今更ながら気づいてしまった。
 
「何か面白いものでも?」

 ビロードのような落ち着いた声がグレースに問いかけてきた。

 反射的に視線を向けると、彼は真っ直ぐにグレースを見ていた。

 こうなるとその視線を外すのは困難だった。深海のような瞳に吸い寄せられるようにグレースの瞳は釘付けにされた。
 
「何も……いえ、外の景色なら馬車を止めてご案内したいぐらいですけど。実は今はあなたに緊張していました」

 取り繕うつもりでゆっくりと唇を開いたのに、元来率直なグレースは結局本音を吐いてしまった。
 フェイトは、グレースの言葉に一瞬目を丸くし、うっすらと唇を緩めた。まるで、予想外の答えを聞いたかのような表情だ。
 
「……そうか」
 
 表情を戻した彼は短く息を吐くと、グレースと同じように車窓に目を向けた。
 
 馬車はちょうど森のでこぼこ道に差し掛かり、ガタガタと揺れ、グレースは窓の桟にそっと手を添えた。光る新緑の森は、今の時期は本を読んでも馬を走らせても最高だ。

 フェイトはグレースに視線をうつすと、ぽつりと漏らした。

「実は私もだ。緊張していた」

 思いもよらぬ返答に再びグレースは瞳を見開き、彼と見つめった。
 泣く子も黙る騎士団長が、こんなか細いグレースを前に緊張している――!?
 思わず、ふふっと吹き出すとフェイトの瞳もほころんだ。
 鋭いばかりかと思いきや、ほんの少し緩むだけで、随分と印象が変わる。

 初対面だもの、誰だって緊張するわよね。でも思ったより話しやすい方みたい――。
 グレースはシフォンブラウスの肩の力を抜き、わずかに腰をあげ、革の座面に身を預けた。耳元のイヤリングがしゃらりと揺れる。

 お互いに秘密を告白しあってフェイトの方も力が抜けたのか、眉間のシワも幾分か緩んだように見えた。
 
「君のいうように森を案内してもらうのもいいが、ついでに白状すると腹が空いてる。先に食事を済ませても?」
「もちろんですわ。実は私もウエストを締める為に朝を抜いたことを、早速後悔していたところです」
 
 グレースが口走った淑女らしからぬ秘密に、フェイトはまたもや一瞬面食らったような表情を浮かべたが、「それならちょうどいい」と愉快そうにいった。
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