婚約破棄寸前なので開き直ったら溺愛されました

迷井花

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14.グレース・サマーリーの変貌

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 突然の婚約発表が世間を賑わせた、その直後のこと。

 カサドラ湖を抱くシーフォードの屋敷に、数台の馬車が到着した。
 
 門前には、真っ黒な燕尾服に身を包んだ執事たちがずらりと並び、一斉に深々と頭を下げる。
  
 馬車から姿を現したグレースは、白い砂まじりの地面に優雅に足を下ろした。
 
 艶やかな亜麻色の髪は繊細に編まれ、上品に施された化粧が美貌を際立たせている。
 
 黒い燕尾服の並びの一番奥に、盛装姿のフェイトが待ち構えていた。

 グレースの心臓は鼓動を早め、頬が熱くなる。
 
 駆け出したい気持ちを抑え、ドレスの裾を軽やかにさばきながら執事たちの間を進み、彼の元にようやくたどり着いた。
 
 すっかり少女からレディへと変貌を遂げたグレースに、フェイトは軽く目を見張り、その目を眩しそうに細めた。
 
「やあ、グレース嬢。見違えたな」
「ごきげんよう、フェイト様」
 
 グレースは紅を乗せた唇にうっすらと弧を描いてみせた。
 
 内心では、ほっと胸を撫で下ろしていた。

 彼はグレースの淑女らしい振る舞いを見て、グレースを選んで間違いがなかったと満足してくれているようだった。

 短期間の猛特訓が実を結んだのだ。

 これから始まる生活のことを思うと不安はあったが、彼を前にすると心に羽根が生えて、ふわふわと飛んでいってしまいそうだった。
 
 ――仕方ないな、グレース。腕のいい家庭教師を紹介するよ。
 
 アランも結局は折れて、わざわざグッドマン家の筋から腕利きの家庭教師を紹介してくれた。
 
 逃げ出したくなるような厳しい人だったが、朝から晩までつきっきりで、頭の傾きから視線の置き方につま先の向きに至るまで、徹底的に矯正された。

『グレース、貴女の行動を決めるのは、貴女がどうしたいかではありません。どうあるべきか、です。妻は夫の意思に従い家を守る。それが淑女のあるべき姿なのです』
 
 家庭教師に何度も言われた言葉が、脳内で正確に再現された。
 
 好きなだけ読書することも、好きな時に馬に乗って走り回ることも、もうしない。
 
「エスコートをお願いしても?」
 
 グレースは白い手を流れるように差し出し、フェイトにエスコートを促した。


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