婚約破棄寸前なので開き直ったら溺愛されました

迷井花

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20.グレースの外出④

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 窓の外を見ればまだ見慣れたカサドラの屋敷を抜けておらず、孤児院まで距離がある。
 
 グレースは思い切ってマクベスに話しかけた。

「いつもあなたが料理を作ってくれているのよね。今日のチキン、ドラゴンヘッドのスパイスが効いていてとてもおいしかったわ」

 すると向かいに座っていたマクベスは、わずかに目を瞠り身じろぎした。

「いつも聞いてみたいと思っていたのだけど、ドラゴンヘッドはどこで手に入れているの? 私も手に入れたかったけど、あてがなくて諦めていたの」
 
 二人の視線が自分に集中している気がして、しゃべり過ぎだろうかとグレースは少し不安な面持ちで口を閉じた。
 
「あれはハーブの形じゃなかなか手に入りません。種から育ててるんです」

 わずかに考えた後、マクベスから大きな体に見合う低い声が返ってきた。
 
 種からだったのね……思わぬ盲点にグレースは目を丸くした。道理でハーブを探しても見つからないはずだ。

「でも屋敷の庭にあったかしら……」 
「観賞用ではありませんからね。キッチンの裏にハーブガーデンで育ててるんですよ」
「マクベスが育てているの?」
「ええ。わざわざ庭師に頼まなくてもハーブは強いですから」
 
 マクベスから話しかけてくることはなかったが、質問をすればひとつひとつ丁寧に答えてくれた。
 この分ならフェイトのことを聞けば、何か教えてくれそうな気もしたが、そうなるとおそらく足の怪我にも触れることになる。
 興味本位で訪ねていいものではないが、これぐらいならいいかとグレースは勇気を振り絞って訊いてみた。

「あなたは軍人だったと聞いたけど、もしかしてフェイト様と何か関係が?」 

 それには、「部下でした」とあっさり教えてくれた。そして、彼の眼にフェイトへの尊敬の念が浮かんでくる。

「怪我で使い物にならなくなった俺をフェイト閣下が拾ってくれたんです」 
「そんなご縁があったのね……」

 グレースは深くうなずきながら、夕食の席でフェイトがどこか誇らしげに料理について触れていたのを思い出した。
 フェイトのこういう一面が部下の心を惹きつけるのかもしれない。
 
「今度あなたのハーブガーデンを見てみたいわ」 

 そんな感想をついこぼすと、マクベスが戸惑うようにライリーと目を合わせた。
 そこで初めてグレースは自分が踏み込み過ぎたことに気づいた。
 普通、侯爵家の婚約者は厨房の裏庭に興味を示さないだろう。

「キッチンの裏なら見に行けないわね。これからもあなたのハーブを使った料理を楽しみにしているわ」
 
 慌てて言い直し、グレースはおしゃべりな口をそっと閉じた。
 
 ガタン、と馬車が揺れ、外から子供たちのにぎやかな歓声が響いている。
 孤児院に到着したのだ。
 グレースは深呼吸をし、車窓に手をかけ外の様子をうかがった。

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