Murders Collective(マダーズ・コレクティブ)

筑前助広

文字の大きさ
3 / 5

第三回 インビジブル・ウィーズル(上)

――お前は俺の女をりやがったんだ。文句は言わせねぇ――

<あらすじ>
本所深川今川町で料理茶屋を営む彦蔵は、かつて〔鼬目天〕と呼ばれた盗賊であった。
その彦蔵が足を洗って六年。堅気として生きてきたが、ある事件が男を裏の世界に引き戻す事となる。

◆◇◆◇◆◇◆◇

 目が覚めると、大量の汗をかいていた。
 まるで、水を被ったかのようで、のっそりと身を起こした彦蔵は、倦怠感を振り払うように、一つ深い溜息をついた。
 暮れとはいえ夏。寝汗をかいても不思議ではないが、夜から払暁ふっぎょうにかけて草雲雀くさひばりが鳴き、日に日に秋の気配が濃くなっている季節でもある。
 ただ、寝汗の原因が暑さではないという事は、彦蔵にはわかっていた。夢を見たのだ。それはかつての記憶。二十年前。十五歳だった彦蔵が弥太郎と名乗り、故郷の夜須で庭師の見習いをしていた頃のものだ。

(なんという日に、なんという夢を見たものか……)

 今日は妻だった喜勢きせの四周忌なのだ。正確に言えば、喜勢と彼女を死に至らしめたものの命日。今日はその四周忌となる。ただでさえ嫌な日に嫌な夢を見てしまった。
 彦蔵は立ち上がると、諸肌になり全身の汗を手拭いで丹念に拭き上げた。
 それから、戸を開けると、まだ薄暗い夜明け前の空があった。僅かに残った夜気を含んだ肌寒い風が、吹き込んでくる。

(やはり、暑さのせいではないな)

 昨夜の夢は、思い出したくない、それでいて忘れられない記憶ものだった。
 彦蔵は、まだ五つの歳が離れた妹の手を引いて、夜須城下郊外にある曩祖八幡宮のうそはちまんぐうの縁日に出掛けていた。
 妹は朝から大変なはしゃぎようであった。それもそのはずで、兄妹二人して出掛けるのは久し振りだったのだ。
 兄と妹、両親が流行り病で死んでから、貧しくも二人で生きてきた。唯一無二の家族。しかし、昼は庭師の見習いとなり、夜は夜で内職に励んでいる彦蔵にとって、妹に構う時間は殆ど作れなかったのだ。
 故に妹は喜び、それを彦蔵は苦笑して見ていたものだが、それが仇となった。

「もうあんちゃんったら、歩くの遅いよ。早く、早く」

 と、繋いだ手を振り払って走り出した妹は、酒屋から出て来た男にぶつかってしまったのだ。
 男は武士だった。それも、上士の者に見えた。立派な身なりで、数名の供を従えていた。
 彦蔵はすぐさま謝ろうと駆け出した時、男の腰から眩い光が伸び、妹の身体を両断した。
 まず、上半身がくるりとこちらに向いて傾き、下半身もその一呼吸後に崩れ落ちた。
 何が起こったのか。彦蔵には状況が飲み込めなかった。ただ、妹が二つ断たれ、たおれた。その光景だけが、視界にあった。
 一瞬の出来事に呆然とする彦蔵の思考を引き戻したのは、群衆の悲鳴だった。
 それで我に返った彦蔵は、妹に駆け寄ると、二つの身体を繋ぎ止めようとした。そうすれば、妹が息を吹き返すのかと思ったのだ。
 男は、酒気を纏わせていた。そして、座った目で彦蔵を見据え斬ろうとした。しかし、それは駆け寄った町人達や男に付き従う供によって止められたが、今思えばそこで死んでいた方が、世間様にとって良かったのかもしれない。
 あの瞬間、妹の身体から奔騰した鮮血が脳裏に浮かぶと、彦蔵は記憶を打ち消すように首を振り、井戸へ向かった。
 本所深川の今川町いまがわまちにある、彦蔵長屋ひこぞうながやの朝は遅い。まだ他の者は夢の中にいるようである。
 彦蔵は表店おもてだなの料理茶屋〔きせ〕の主であり、その裏店うらだなである彦蔵長屋の家主でもある。元は表店の一室で暮していたが、四年前に喜勢が死ぬと裏店に引っ越した。喜勢がいたので〔きせ〕にいたが、元々はこうした日陰が自分には似合う。
 井戸で顔を洗うと、すぐに身支度を始めた。
 袖を通すのは、裏長屋住まいの人間には似つかわしくない、上等な着物である。故郷の夜須にいた頃には触れる事さえ出来なかった代物だが、流行りの店の主なだけに、見栄えも気を遣わねばならない。
 それから彦蔵は、押し入れから白鞘の匕首ドスを取り出し、上着の裾に隠すように腰へぶち込んだ。
 匕首ドスは護身用である。そこそこの身代しんだいとなったからには、これぐらいの準備は必要であるし、事実これをちらつかせて避けれた危険もあった。そこまで用心深いくせに、裏長屋に棲むのだから、我ながらその矛盾がおかしくもある。
 匕首ドスを初めて使ったのは、妹が殺されて翌年。相手は、磯貝忠五郎いそがい ちゅうごろう。妹を無礼打ちにした、夜須藩士である。
 妹を殺され、天涯孤独となった彦蔵に残されたものは、復讐しかなかった。
 一年、磯貝という男を追った。上級藩士である大組に属し、当時夜須藩を牛耳っていた首席家老・犬山梅岳いぬやま ばいがくの側近の一人であった磯貝が、どこに住み、どう生活し、どこで狙えるのか。執念深く機会を待ち、そしてある日の夜、彦蔵は庭師で培った身軽さで屋敷に忍び込むと、寝ている磯貝の首を掻き切って殺した。
 それから夜須を抜けた彦蔵は、盗みを働きながら江戸へと下り、そこでも盗賊稼業を続けた。
 持ち前の身軽さと忍び込む妙技から、鼬の神様という意味の〔鼬目天ゆうもくてん〕と呼ばれ、裏で名を馳せるようになった。盗みは独り働きで、押し込み先は武家ばかり。武家を狙うのは、妹を武士に殺された恨みがあるからだ。その憎悪は激しく、磯貝を超え身分そのものに及んでいた。故に、町奉行所や火盗改からは、〔侍嫌いの鼬目天〕とも言われていた。
 だが、その盗賊稼業とも六年前に足を洗った。きっかけは、喜勢との出会いだった。
 喜勢は料理人の娘で、神田の料亭に奉公に出ていた。そこで彦蔵は喜勢と出会い、物静かな性格であるが、心細やかな気配りが出来る人柄に惚れた。彦蔵は没落した大店の妾腹の子という肩書で近寄り、実際その経歴も買った。江戸の裏世界には、そうした人生の売買もあるのだ。
 盗賊から足を洗って半年後、喜勢と夫婦になった。盗賊稼業でため込んだ銭で料理人を雇い、〔きせ〕を始めたのもその頃だった。暫く二人の穏やかな日々が続いたが、それも長くは続かなかった。四年前の今日。喜勢の中に宿ったものが、何よりも尊い喜勢の命を奪ったのだ。

◆◇◆◇◆◇◆◇

 店に出ると、板場で浜五郎はまごろうが一人、仕込みに追われていた。
 浜五郎は喜勢の弟で、彦蔵の義弟にあたる。十年ほど浅草の料亭で修行し、喜勢の死をきっかけに引っ張ってきたのだ。浜五郎は生真面目な一本気で、人当たりもいい。故に彦蔵はこの義弟を可愛がり、いずれ〔きせ〕を継がせようと、少しずつ店を任せている。その事で、店の者が依怙贔屓と不満を漏らしているという事は知っている。しかし彦蔵は構わなかった。これも主になる為に乗り越えるべき壁であり、浜五郎はいずれそうした雑音を実力で黙らせるであろうと彦蔵は信じている。

「旦那様、おはようございます」

 浜五郎が板場から顔を出した。出汁のいい香りがする。

「おう」

 彦蔵は土間席の一つに座った。〔きせ〕には土間席と、一階と二階を合わせた六つの座敷を有していた。座敷は一間貸し切りで、芸者を呼ぶ事も出来る。座敷の高級さと、土間席の気軽さ、その両方を兼ね備えた店が、江戸っ子に受けているのだという。
 彦蔵はそうした評判を、どこか他人事のように聞いていた。この店は、喜勢の為に作ったものなのだ。いつか女将をしてみたい。その夢を叶えてあげたのである。その喜勢がいない今、〔きせ〕を更に大きくしようという情熱は嘘のように消えていた。

「浜、二人の時は兄貴で構わんよ」

 そう言うと、浜五郎は「へへ」と笑みを浮かべた。
 今、〔きせ〕に住んでいるのは、浜五郎とその妻・美代の二人だけだった。美代はお腹が大きく、裏で休んでいる。奉公人も、まだ店に来ていない。

「兄貴、何か食べますか?」
「ああ。飯に沢庵と茶でいい」
「冷や飯しかないのですが」
「構わんよ。飯に熱い茶をかけて持って来てくれ」
「へい」

 浜五郎は奥へ引っ込み、暫くして二人分の茶漬けを運んできた。それを二人で啜った。古漬けの沢庵の酸味が、茶漬けにはよく合う。
 この食べ方を、喜勢はよく咎めたものだ。

「ちゃんと、菜を食べてくださいよ」

 あの時の声は、今でも鮮明に思い出す事が出来る。

「今日は店を任せていいか?」
「勿論です、兄貴。今日は姉さんの命日ですから」
「すまんね」
「でも、兄貴。そろそろいいんじゃないんですか?」
「そろそろって何だよ」
「やだなぁ。後添いですよ。いつも言っているじゃないですか」
「お前なぁ、あいつの命日にそれを言うか」
「姉さんに義理立てする事はないですよ」

 それは彦蔵の再婚話である。浜五郎は、どうも彦蔵に後添いを取って欲しいようだ。彦蔵に決まった女はいるが、生憎その女と所帯を持つ気は無い。

「俺はな、お前達夫婦に店を引き継がせると決めたのだ。俺に子が出来れみろ。色々面倒だぞ」
「何を言うんですか。その時は兄貴のお子が旦那様になるだけですよ。俺は料理人でいればそれで」
「そう簡単に行くかよ。お前の女房は、お前がこの店を引き継げるから夫婦めおとになったんだろ?」
「兄貴、お美代みよはそんな女じゃないですって」

 彦蔵は肩を竦めてみせ、席を立った。

「戻りはわからん。いいな」
「へい」

◆◇◆◇◆◇◆◇

 墓参の帰りだった。時分は既に夕刻である。
 中川町なかがわまちの木戸を潜った彦蔵は、盗賊稼業で身に付けた嗅覚で、その異変に気付いた。
 それは空気でわかる。人が集まり、動揺し、ひそひそと囁き合っている。不穏な気配が空気で伝わるのだ。
 得体の知れない胸騒ぎに、彦蔵は引き返すべきか迷った。異常や危険を避ける。足を洗ったと言えど、盗賊の習性は一朝一夕では無くなるものではない。
 中川町には、女に会いにきたのだ。亡き妻の命日に会うとは不謹慎だと思うが、もう喜勢が戻らない事実を突き付けられると、女体に飢えている自分がいて、足が自然と向いてしまう。
 女は〔あけり〕という名前だった。今年で十九になる。この女とは、一年前から男女の仲になっていた。
 きっかけは浪人に絡まれたあけりを助けた事だった。それから何度か会い、身体を許すまでに大した時間は掛からなかった。
 あけりは、芸者の娘だった。てて無し子として生まれ、十六の時に母を亡くした。その頃から、佐賀町さがちょうの小料理屋で働いていて、それは今も続いている。一度は客だった男と良い仲になったそうだが、月のものが来ないと告げると、次の日には姿を消したらしい。そして、その子は小料理屋の主人のはからいで寺に出した。

(何かあるな)

 裏店に入ると、胸騒ぎが一層強くなった。一瞬不安が胸を掠めたが、

(何を恐れる事がある)

 と、彦蔵は踵を返そうする自分を止めた。鼬目天は、この江戸に六年も現れてはいない。町奉行所も鼬目天は死んだ見ている。それに入念な後始末をしたので、自分と鼬目天を繋ぐものは何も残っていないはずである。
 彦蔵は。注意深く足を進めた。
 人だかりは、あけりの家からだった。彦蔵はその群衆に近寄り、後ろへまわって屋内を覗いた。
 家の戸は開け放たれ、その奥には数名の男がいた。一人は町方の同心。そして、残りは岡っ引きと下っ引きである。腰に指している十手の鈍い光が目に入り、彦蔵はどきりとした。

「何があったんで?」

 彦蔵は、小太りの女房に声を掛けた。

「女が一人、殺されたんですよ」
「へぇ、どこで?」
「ここでさ。後ろから刀でバッサリ。家に入る所を狙われたんだって言っているらしいね。しかし、何で殺されちまったのかねぇ。悪いじゃなかったんだけどさ」
「そうかい。そりゃ可哀想に……」

 彦蔵は長屋の中も見ずに、その場を足早に立ち去った。

(こんな事なら、あの時の話を受けるべきだったのだ)

 中川町から佐賀町を突っ切り今川町へ掛かる橋に至る辺りで、激しい後悔に襲われた。
 あけりが、先月一緒に住もうと言っていたのだ。別に〔きせ〕の女将さんになるつもりはない。ただ一緒にいたいのだと。彦蔵は、その申し出を断るでもなく、ただ笑って誤魔化していた。一人が気軽だっという事もあるが、あけりを独占したくないと思ったからだ。あけりは若い。歳も離れている。あけりの歳に見合った男が出来れば、身を引こうと思っていた。だから共に暮らす事は、その機会を奪うものだと思い誤魔化したのだが、結果としてその気遣いがあけりを殺す事になった。
橋を渡り今川町に入ると、後悔よりも憤怒の念が強くなってきた。
 下手人は誰なのか。何故、あけりは殺されなくてはならなかったのか。
 最近、女を狙った辻斬りが流行っている。町奉行所が血眼になって捜査しているそうだが、一向に捕縛出来ないでいる。もしかすれば、あけりをったのは、そいつなのだろうか。
感想 0

あなたにおすすめの小説

【時代小説】 黄昏夫婦

蔵屋
歴史・時代
 江戸時代、東北地方の秋田藩は貧かった。  そんな中、真面目なひとりの武士がいた。同僚からは馬鹿にされていたが真面目な男であった。俸禄は低く貧しい。娘二人と実母との4人暮らし。  秋田藩での仕事は勘定方である。  仕事が終わると真っ直ぐ帰宅する。 ただひたすら日中は城中では勘定方の仕事をまじめにして、帰宅すれば論語を読んで知識を習得する。   そんな毎日であった。彼の名前は立花清左衛門。年齢は35歳。  娘は二人いて、一人はとめ15歳。もう一人は梅、8歳。  さて|黄昏《たそがれ》は、一日のうち日没直後、雲のない西の空に夕焼けの名残りの「赤さ」が残る時間帯のことを言う。「|黄昏時《たそがれどき)」。 「黄昏れる《たそがれる》」という動詞形もある。    「たそがれ」は、江戸時代になるまでは「たそかれ」といい、「たそかれどき」の略でよく知られていた。夕暮れの人の顔の識別がつかない暗さになると誰かれとなく、「そこにいるのは誰ですか」「誰そ彼(誰ですかあなたは)」とたずねる頃合いという意味で日常会話でよく使われた。  今回の私の小説のテーマはこの黄昏である。  この風習は広く日本で行われている。  「おはようさんです」「これからですか」「お晩でございます。いまお帰りですか」と尋ねられれば相手も答えざるを得ず、互いに誰であるかチェックすることでヨソ者を排除する意図があったとされている。  「たそかれ」という言葉は『万葉集』に 誰そ彼と われをな問ひそ 九月の 露に濡れつつ 君待つわれそ」 — 『万葉集』第10巻2240番 と登場するが、これは文字通り「誰ですかあなたは」という意味である。  「平安時代には『うつほ物語』に「たそかれどき」の用例が現れ、さらに『源氏物語』に 「寄りてこそ それかとも見め たそかれに ほのぼの見つる 夕顔の花」 — 『源氏物語』「夕顔」光源氏 と、現在のように「たそかれ」で時間帯を表す用例が現れる。  なおこの歌は、帖と登場人物の名「夕顔」の由来になった夕顔の歌への返歌である。  またこの言葉の比喩として、「最盛期は過ぎたが、多少は余力があり、滅亡するにはまだ早い状態」をという語句の用い方をする。 漢語「|黄昏《コウコン》」は日没後のまだ完全に暗くなっていない時刻を指す。「初昏」とも呼んでいた。十二時辰では「戌時」(午後7時から9時)に相当する。  「たそがれ」の動詞化の用法。日暮れの薄暗くなり始めるころを指して「空が黄昏れる」や、人生の盛りを過ぎ衰えるさまを表現して「黄昏た人」などのように使用されることがある。  この物語はフィクションです。登場人物、団体等実際に同じであっても一切関係ありません。  それでは、小説「黄昏夫婦」をお楽しみ下さい。  読者の皆様の何かにお役に立てれば幸いです。  作家 蔵屋日唱    

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。