湯原と水野のダンジョン創世記

焼納豆

文字の大きさ
9 / 159

(8)

しおりを挟む
 あの不思議な空間で冒険者側のなんちゃって優等生吉川グループと、ダンジョンマスター側の金髪四宮グループは、個別に送還先を相談していた。

「おい、四宮。吉川達と情報共有しなくて良いのか?」

 あまり深く物事を考える事が出来ない四宮グループの辰巳がこう伝えてくる。

「バカだな。協力するとは言ったが、実際に向こうに行ったらどうなるか分からねーだろ?命がかかっている以上、安易に情報を渡すのはバカのする事だ。吉川達もそれをわかっているから、俺達とは別に話しているじゃねーかよ」

 顎で吉川グループを示すと、残りの星出と岡島もチラッとそちらを向いて頷く。

「それによ?俺達はダンジョンを展開して眷属を呼ぶまで最弱だ。向こうに着いた瞬間に裏切られて糧にされる可能性もあることくれー理解できねーか?」

「ま、まさか……でも、有りえるのかな?」

 四宮の最悪の想定に対して、流石に同郷でそれはないだろうと思いたい星出だが、湯原や水野相手であれば容赦なく始末したい気持ちになっている自分に気が付き、自信がなさそうになる。

 その予想は的中しており、かなり離れた位置で送還先を相談している吉川グループでは、あわよくば送還直後に人気が無ければ、始末してしまう事も選択肢として相談していた。

 彼らは、今この時点でレベル20。

 その力の一部を使える事に歓喜し、それ以上の力を容易に得る事が出来る餌があるのだから、真の優等生ではない吉川達の意識ではそうなる。

 互いに送還場所を打ち合わせると情報を相手に与えないようにする為か、無言で勝手にこの場から消えて行く。

 ダンジョンマスター側の金髪四宮グループは、国の外れにある少々寂れた場所

 冒険者側のなんちゃって優等生吉川グループは、王都の中央付近。

 何故か転移直後に服装も変わり、周囲からはそこにいて当然の存在と認識されているのか、突然現れているはずなのだが驚かれるような事は一切なく、時は流れている。

「これが、異世界……よし、俺達のレベルを上げる為、さっさと冒険者ギルドにでも行くか」

 これからの戦闘に心を躍らせている、けんかっ早い辰巳が暴走する。

「バカか?俺達は対極の立場だぞ?いきなり敵地に行ってどうするんだよ?先ずは、一刻も早くダンジョンを生成して、眷属を呼ぶんだ。それくらい分からねーか?何のために栄えていない場所に来たか位、考えろや!命がかかっているんだ」

「うっ、そうだった。悪い」

 一応正論っぽく聞こえる四宮の言葉に納得している辰巳。

 その後四人は、即ラスリ王国から出ている他国に向かう街道に沿って歩き始める。

……ガサガサ……

 同一方向に向かっている人がいるが、全員何かしらの武器を持っているか、武器を持っている人々と共に行動している。

「チッ、しくじったぜ」

 自分の認識が甘かった事に漸く気が付く四宮達。

 完全な丸腰で街道を移動するのは、この世界では有りえない事だと身を持って理解した。

 と言うのも、街道の脇から突然襲い掛かって来た巨大なネズミに見える魔物を、丁度横を抜かそうと歩いていた男が一刀両断したのだ。

 この男がいなければ、レベル1の自分達では手も足も出ずに蹂躙されていただろう事は想像に難くない。

「出流君……早く眷属を呼ばないと、私達、死んじゃうよ?」

 四宮に対し、非情な現実を見る事になった星出が涙を溜めながら訴える。

 四人共に、巨大なネズミの動きに反応できなかったのだ。

 一方簡単に対処した男は、そのネズミの体の中から奇麗な水晶の様な物を取り出した後、ネズミを燃やしてさっさと行ってしまった。

 四宮達以外はまるで日常の一風景であるのかのように誰も驚いていないのだから、その雰囲気が余計に四人に焦りを与える。

「だが……安易にこんな場所で実行するのは危険だ。クソ。こうなったら、なるべくこの世界の人間の近くを移動して戦闘を肩代わりしてもらい、日が落ちる前に街道から外れて奥に行くぞ。ここは賭けだ」

 街道にダンジョンを作ろうものなら、あっという間に攻略される事は間違いない。

 目の前で見た攻撃力の高い男の力を嫌でも確認させられたのだから、安全に対しては貪欲になるのは当然だろう。

 結果的に相当なリスクはあるが、街道から外れた位置でダンジョンを生成する他ないと考えたのだ。

 実は、この世界の服装になった時のポケットに白金貨が五枚(50万円)程入れてあるのだが、そこには気が付いていないので、その白金貨を報酬に護衛を頼むと言う選択肢は彼らの中にはない。

 丁度馬車で移動している一団の中に紛れ込み、街道をひたすら進む四宮達。

「これなら、あっち冒険者の方が良かったじゃねーかよ。しょっぱなからこんなに苦労するなんてあり得ねーよ」

「本当そうよね、出流君。でも、ここを乗り越えれば、きっと大丈夫よ」

 こんな事をコソコソ話しながら、ひたすら歩く。

 やがて馬車は停車して野営の準備をしているようで、これ以上は紛れる事は出来ないと判断した四宮達は、そのまま街道を進む。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

ガチャから始まる錬金ライフ

あに
ファンタジー
河地夜人は日雇い労働者だったが、スキルボールを手に入れた翌日にクビになってしまう。 手に入れたスキルボールは『ガチャ』そこから『鑑定』『錬金術』と手に入れて、今までダンジョンの宝箱しか出なかったポーションなどを冒険者御用達の『プライド』に売り、億万長者になっていく。 他にもS級冒険者と出会い、自らもS級に上り詰める。 どんどん仲間も増え、自らはダンジョンには行かず錬金術で飯を食う。 自身の本当のジョブが召喚士だったので、召喚した相棒のテンとまったり、時には冒険し成長していく。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...