湯原と水野のダンジョン創世記

焼納豆

文字の大きさ
97 / 159

(96)

しおりを挟む
 部屋から出て来たジッタを待ち構えていたハリアムとポガル。

 次は自分が呼ばれる番か?と二人共に思っていたのだが……

「直ぐにリエッタの所に戻るぞ!」

「え?どうしてだ?何か情報……」

「良いから!」

 ハリアムが色々言い始めそうになったので、有無をも言わさずに半ば強引に建屋から出ると、宣言通りにそのままダンジョンからも出て商人から馬車を引き取る。

「お客さん……今入ったばかりなのに、どうしたんだ?最近は商売繁盛だから、これだけ短い時間ならサービスにしておくぜ?でも、こんな時間に戻るとは……冒険者達が急激に増えたから街道は安全だろうが、気をつけてな」

「助かる。また近いうちに来るので、その時には世話になる!」

 既に日は落ちているので、こんな時間に移動する者は余程の事情がある者以外は存在しない。

 そこを理解している商人は、敢えて止めずに注意喚起したのだ。

 ジッタが御者、残りの二人が後ろの荷台に乗り込んで薄暗い街道を村方面に移動する。

 道中では中途半端な時間に村を出た者達が野営をしており、結果的に想像以上に街道周辺の安全は確保されているようだ。

「親父!突然どうしたの?」

「そうですよ、父さん。せっかくリエッタを治せる可能性が高い薬草を手に入れられる場所にまで到着したのに、撤退するなんて!」

 ジッタの勢いに呑まれて荷台に乗っているが、少々納得のいっていないハリアムとポガルに、前を見ながらも慎重に周囲を確認するジッタ。

 明らかに周囲を警戒している素振りなので、反射的にハリアムとポガルも周囲を警戒する。

「親父!何もなさそうだよ。ポガルはどう?」

「こっちも問題なしさ。父さん、ハリアム」

「わかった。ちょっと耳を貸せ。警戒は怠るな」

 異常なしと判断した上でこの緊張感。

 そもそも愛娘の為に命すら捨てる覚悟で行動していたのに、その回復手段を得られる場所から突然撤退した事が有りえない為、ハリアムとポガルも言われたとおりに周囲を警戒しつつ、ジッタの傍に近寄る。

 そして説明を受けたのが、ダンジョン関連の者である光族からの提案と回復薬の提供の話。

「それは……確かに誰にも言えないし、秘匿する必要があるね、親父」

「一刻も早く戻るこの行動も理解できたよ、父さん。良し!リエッタの為だ。もうひと踏ん張りだ!」

 喜びながらも、何時も以上に気合を入れて周囲の警戒を行いつつ、娘・妹の待つ村に向かって進んでいるのだが、御者は交代できても馬は連続で進ませる事は出来ない。

 はやる気持ちを抑えつつも時折休憩を挟んで進んでいる三人の話題は、やはり湯原と水野のダンジョン。

「実はな、今回リエッタとグリンもつれてあのダンジョンに戻って、一階層に永住しようと思っている。お前達は好きな選択をすると良い」

「ハハハ、実は俺もあの一階層に住んでみたいと思っていたんだよ。二階層で体力をつけて、三階層で癒せる。で、必要であれば四階層に向かって収入を得て……最高だと思う」

「確かに、ハリアムの言う通りかな。今の所は罠どころか俺達に配慮し過ぎだしね。ダンジョンマスターは余程のお人好しなのかな」

「実は、既に糧が必要ない程の力を持っている……なんてな?」

「ハハハ、親父、ないない!だって、出来て間もないって話だからね」

「ぷぷぷ、父さん。ハリアムの言う通り!もっと面白い事を言ってくれるのかと思っていたけど、期待外れだね。二点!」

「おいおい、何点満点だよ?」

 リエッタの為に行動し続けてきたのだが、成果が間もなく得られるとの期待から軽口を叩ける余裕が出ている三人。

 奇しくも正解に辿り着いてはいたのだが、やはり一般常識的には有りえない事なので一蹴されている。

 そんな旅も8日。

「戻ったぞ!」

「あなた!どうでしたか?もう薬草を手に入れたのですか?何とかなりそうですか?費用はどのくらい必要ですか?」

「落ち着いてよ、お袋!」

「そうだよ、母さん。気持ちは分かるけどね。落ちついて父さんの話を聞いて。悪い話じゃないから。その間俺達はリエッタの所に行ってくるから」

 こうしてジッタの妻であるグリンも、普通では考えられないダンジョンマスター側からの助力について聞かされた。

 証拠として、見た事もないような回復薬を見せられては信じるほかなく、慌てて旅の支度をするのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

ガチャから始まる錬金ライフ

あに
ファンタジー
河地夜人は日雇い労働者だったが、スキルボールを手に入れた翌日にクビになってしまう。 手に入れたスキルボールは『ガチャ』そこから『鑑定』『錬金術』と手に入れて、今までダンジョンの宝箱しか出なかったポーションなどを冒険者御用達の『プライド』に売り、億万長者になっていく。 他にもS級冒険者と出会い、自らもS級に上り詰める。 どんどん仲間も増え、自らはダンジョンには行かず錬金術で飯を食う。 自身の本当のジョブが召喚士だったので、召喚した相棒のテンとまったり、時には冒険し成長していく。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...