湯原と水野のダンジョン創世記

焼納豆

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 ここは、コッタ帝国にある美智のダンジョン。

「今日はどこまで行くつもりなのだ?吉川殿」

「そうだな。思った以上に手応えが無いから、もう少し行ってみるかな?あまり時間は無駄にしたくないし。笹岡は行けそう?」

「問題ない」

 侵攻しているのは、召喚冒険者である吉川と笹岡。

 地上のダンジョン同士の戦闘が始まる前からこのダンジョンに潜っており、ひたすら下層に向けて侵攻している。

 以前淫魔族に操られて袂を分けてはいるが、藤代と椎名、そして湯原と水野のダンジョン一階層で受付をしている星出と岡島と共に召喚された冒険者だ。

「一応俺達のレベルも上がったとはいえ、あの女三原信子はレベル40超え。片手を切り落としたとしてもまだまだ安全とは言えないし、藤代や椎名の動向も不明。もっと強くならないと」

「その通り」

 互いにレベル34にまで上昇しているが、レベル30近辺まで一気に引き上げてくれた召喚冒険者の三原 信子を裏切って始末しようとした挙句に逃げられている上、行動を共にしていた藤代と椎名に対しても嫌悪感を持ち別行動をして、隣国であるコッタ帝国の美智のダンジョンに来ているのだ。

 この場では冒険者向けの報酬がある程度手に入り、武具を少し前に購入した収納袋に入れている。

 倒した魔物の魔核も保存して生活の糧にしているのだが、二人が最も欲しているのはレベル上昇であり、最低でもレベル40にはならなくてはならないとダンジョンマスターを始末するべく乗り込んでいる。

 二人の事を把握しているコアルームでは……

「お姉ちゃん。ちょっと私が行って対応してこようか?」

「大丈夫よ。あの見た目……レベル40未満でしょう?召喚魔物で最強のマンティスの群れを差し向ければ、一発じゃない?」

 美智のダンジョンで召喚可能な魔物は、レベル30が上限。

 ダンジョン内部で自然交配させて増えているマンティスであれば、レベル39であったとしても群れの力で圧倒できる事は間違いない。
 
 運良く、吉川と笹岡が進もうと決意した次の階層は背丈ほどある草むらの階層。
 マンティスが身を隠すにはもってこいの階層なのだ。

 そこに眷属である自然族も送り込み、より視界を奪うように草木を育てて時折その草木を使って攻撃させ、場合によっては侵入者の二人の動きを阻害するように、足を掴むような動きをさせる事も出来る。

 同郷の者とは言え手加減すると自分が死ぬ事を知っているので、狙いに来た者は容赦なく倒すと決めている美智。

 眷属の命が大切なのは当然だが、妹である朋美の命はもっと大切なので、ここは自らが持つ最強の召喚魔物の群れと眷属の力で一気に始末しようと企む。

 この自然族はレベル43なので、何かあっても隙を見て転移で逃げる事は可能だと判断した。

 中途半端な魔物を向かわせては二人のレベルを一気に上げる糧になるだけでより危険になってしまうからだが、逆に二人の召喚冒険者が侵入している事で、美智のダンジョンの糧にもなっている。

 まだまだ気持ちに余裕があるので、改めて全階層のチェックを行うダンジョンマスターである渡辺 美智。

「余計な戦闘のせいで冒険者達が数多く来てくれるのは良いですが、おかげで浅層の魔物の数が不足気味ですよ。分裂速度が追い付かないなんて……」

 弦間達が起こした戦闘の余波から逃げる様にして来ている冒険者達に対して少々愚痴をこぼすのだが、突然得体の知れない恐怖に襲われる。

「何者か、相当なレベルの侵入者ですね。ダンジョンマスターの私にその気配を完全に察知されない者。ひょっとしたら、ゴーストかもしれませんね」

 魔法に長けているゴーストであれば、その気配を消す事は容易い。

 どんな者であれ、ダンジョンに侵入されればマスターは気が付くが、その詳細が把握できるかは別だ。

 大量のスキートが侵入しても、どこかの配下か、勝手に増えた野良のスキートかは判別がつかないし、一体一体に対して詳細を知るような手間をかける事はしない。

 逆にレベルが自らのダンジョンよりも高く隠蔽している様な侵入者であれば、侵入の事実は分かるのだが、今どの程度まで侵入されているのか、どれ程の強さなのかは一切わからない。

 これは相当な恐怖だ。

 各階層に配置している魔物からの目撃情報も上がってこない事から、自分の居場所を悟られるような行動はせず侵攻している魔物、つまりは相当知能の高い魔物である事が窺える。

 最悪は相手の何処かのダンジョンマスターの眷属である可能性もあるし、召喚冒険者かもしれないのだ。

 言葉は落ち着いてはいるが、表情は非常に厳しくなっている美智。

 レベル52になっている妹の召喚冒険者の朋美でも対処できない可能性が高いと思い至り、どうすべきかを必死で考える。

「お姉ちゃん。私に任せてよ」

 そこに、余りにもあっさり朋美はこう告げたのだ。

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