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「うーん。一応一階層の建屋の中で犯罪厳禁等の説明はしているはずだけど、やっぱり身の危険が無くなって余裕が出ると、ああいった輩が出て来るんだね」

「本当に困りましたね。でも皆さんのおかげで他のどこよりも安心して暮らせているのではないですか?」

 階層を増やした事でダンジョンの設定を変更するには大量の内包魔力を使用するが、一応ある程度対応できるように転移魔法陣のように亜空間にため込んでいる物もあれば、イルーゾによって生み出された魔道具で対応できる事もある。

 少し前にハライチとミズイチから聞いた情報によれば、地上にも大きな被害を出していたダンジョン同士の争いも終わり、その余波を少々受けていた各国も落ち着きを取り戻しているかのように見えるらしく、このまま安定すれば良いと思いつつ散策を続けている二人。

「お、お二人さん!あの時の薬、どうだった?」

 つまらない冒険者が撃退されて少し歩くと、とある店から声がかかる。

「……あ!!あの時の!!あの薬、本当によく効きましたよ。ありがとうございました。イーシャ、プリマ、おいで!!」

 そう、村でイーシャとプリマの傷を悪化させない薬を販売してくれた薬師であるジョーザがいたのだ。

「この二人に使わせてもらいました。もうすっかり良くなりました」

「「薬、ありがとうなの」」

「そうか!良かったな。怪我や病気をしない事が何よりだけど、今後も俺の店を贔屓にしてくれよ?っと、そうだ。疲れをとる薬なんかもあるから、よろしくな!」

 湯原と水野の本当の力を知らないジョーザが店の宣伝をしてしまうのは仕方がない。

 欠損すら即座に治せる薬を持っていますとは言えない二人は、笑顔で頷きこの場を後にする。

 どうやらこの薬師のジョーザも寂れた村にいるより、こらから間違いなく発展するだろうダンジョン内部の一階層に移住する方が良いと判断したようで、既に店も賑わいを見せている。

 こうした嬉しい出会いもありつつ散策し、長蛇の列ができている一階層入り口の巨大な建屋の中に入る。

「うわぁ~、想像以上……だね。あの二人、大丈夫かな?」

 あの二人とは、この建屋の二階に住んでいる元ダンジョンマスターの星出と岡島だ。

 他の受付とは異なりただの人族なので疲労の蓄積はあるし、精神的にも弱い所があるはずだ。

「でも、見た感じは大丈夫そうですね?きっと、アイズさんが大人しそうな人を二人に振り分けているのですよ」

 水野の予想通り、人族の二人に大きな負担がかからないように配慮されており、アイズからの情報を基にどの受付に並ぶかを淫魔族の一人で元岡島の眷属であるオカイチが捌いていた。

 時折そのオカイチの均整の取れた顔にやられて声をかける女性や、見た目細い男性とバカにしてからむ冒険者がいるのだが、あまりにひどいものは何処からともなく鎖族が現れて捕縛の上、ダンジョン外に放り出されている。

 今は休憩時間なのか、業務から外れているホシイチがどこからか連絡を受けたようで、奥から出てきて湯原と水野の対応をする。

 ホシイチによれば、チェーによって捕縛されて放り出されると言った姿を見ている入場者は絡む事はしないが、いかんせん人が多く、目撃者が全て捌けると同じような事が起きる……の繰り返しである事を教えられる湯原と水野。

「おい、テメー何してんだ?俺達はしっかり長時間並んでんだぞ?それを突然入ってきて、受付の一人を捕まえる……調子に乗るなよ?」

 第三者から見れば、長い時間我慢して並んで漸く受付が見えた所に突然横から入って来た湯原と水野が受付の一人を独占しているように見えるのだが、この場で湯原達と嬉しそうに話をしているホシイチから見ればそうではない。

 尊敬できる新たな主である湯原と水野と直接話をする機会を邪魔され、その理由が庇護下に入ると言っても過言ではない立場の者からの暴言であれば、殺気だってしまう。

「ホシイチ、良いよ。普通に見れば正しい事を言っているからさ」

「そうですね。申し訳ありませんでした」

 湯原と水野は、ホシイチだけではなく少々離れた位置で殺気を漂わせているイーシャとプリマとチェーとスラエ、そして他からは見えないが空中にいるアイズ達に抑える様に指示を出し、建屋を出て裏手に回り中に入る。

「申し訳ございませんでした」

 そこには既にホシイチが待機しており、深々と謝罪している。

「いやいや、ホシイチは何も悪い事はしていないんだから、頭を上げて」

「そうですよ。それで、申し訳ありませんが、受付の事を色々教えて頂けると嬉しいです。お願いできますか?」

 ホシイチとしては至福の時間、他の魔物達からは相当羨ましがられる時間を過ごす事が出来ており、湯原と水野としても現場の生の声を聞く事が出来て、非常に満足できていた。

 いつの間にかハライチとミズイチもこの場に現れており、どう改善すべきかを話し始めていたのだ。

「フフフ、セーギ湯原君。私達、本当に恵まれていますよね?」

「本当だよね。嬉しい限りだ」
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