湯原と水野のダンジョン創世記

焼納豆

文字の大きさ
155 / 159

(154)

しおりを挟む
 流石に毎晩酒盛りをしているわけではない女子会組。

 今日は休肝日のようで、水野カーリもダンジョン最下層の城で寛いでいる。

「そう言えばカーリ、少し前に普通の冒険者が5階層に至ったそうだよ」

「そうなのですか?とっても凄いですね。それで、魔法のスクロールは入手できたのでしょうか?」

「いや、流石にそこまで余裕はなかったみたいだけど、前に5階層の情報を持ち帰った岩本が広めた情報が正しいのか検証したようだね」

 時折出現するスクロール持ち、スケルトン一体が一個持っている個体を素早く倒せば、そのスクロールを得る事ができると言う情報を検証してから撤退した冒険者一行。

 慎重に行動しているようで、迷路の階層入り口付近で行動し、深追いせずに撤退した慎重なパーティーらしい。

 この頃には1階層の住民ほぼ全てに二人がダンジョンマスターである事は知れ渡っており、本当に一部の冒険者が、二人が1階層の建屋にあるギルドを視察に来た際にもっと安全に下層に行けるように要求していた。

 上には上がいるもので、他には3階層までに十分な宝を今の安全度のままで配置するように要求してくる者もいたのだが、その全てを無視している。

 ギルド支部長であるトレアリナとしても、ダンジョンと冒険者は共存共栄が基本であると理解しており、その中でもこの番のダンジョンは異常とも言える高待遇で冒険者を迎えている。

 慎重に自分の実力を判断してダンジョン下層に向かえば絶対に死亡する事は無いし、不測の事態で大怪我を負っても三階層まで戻れば安全な環境で回復する事ができるのだ。

 湯原セーギとしてもこのような冒険者の欲望を聞いていると無償で益を配れと言う事に繋がる事、この世界の常識に照らし合わせても不条理な事を言っている事から一切対応していない。

 そのような冒険者は無視されると例外なく湯原セーギに詰め寄ろうとするので、即座に鎖族によって捕縛の上でダンジョン外部に放り出されており、二度と内部に入る事は出来なくなっている。

 一時期そう言った移住者が増えたのでスキートを使ってハライチとミズイチが情報収集した結果、その大半がラスリ王国の王都にあるギルドを拠点としていた冒険者達である事が判明した。

 とは言え、その全てがこのような人材であるとは思っていない湯原セーギ達は、以前の拠点がどうであれ1階層への移住を拒否する事はしなかった。

「随分と賑やかになりましたね」

「確かにね。ダンジョンの攻略階層も増えて来たし、楽しみではあるね」

 護衛を引き連れて散策している二人のダンジョンマスターだが、今回召喚冒険者ではない普通の冒険者が5階層に侵入できるとは思っていなかったので、ギルド視察のついでに詳しく事情を聞こうと思っていた。

 ハライチやミズイチに聞けば、ダンジョン内部の事であれば完璧な回答を貰えるのだが、住民達との触れ合いの意味もあって自らギルド支部に向かっている。

 湯原セーギ水野カーリが向かっている事は1階層の建屋で働いている者達には情報が即座に流れるので、この場での二人の安全を確保すべく緊張が走る。

 最近は同じクラスメイトであった星出と岡島も湯原セーギ水野カーリを最大限尊重するような行動を自発的に取るようになっており、そのおかげかこの職場の雰囲気は非常に良い。

「あ、今日はあっちギルドだったのね」

 湯原セーギ水野カーリがギルドに向かったのを視認した岡島の一言で、今日この場所に湯原セーギ水野カーリが来たのはギルド支部側に用があったのだと理解した同郷の星出だが、ギルド支部は隣接しているので警戒態勢を解く事は無い。

 ギルド支部側では、トレアリナを始めとした職員が緊張した面持ちで周囲の冒険者を注意深く見ており、この状況になっている理由を知っている慣れた冒険者達は意にも介していないのだが、移住後間もない冒険者は少しオロオロしている。

「忙しい所ごめんね、トレアリナさん。今日はちょっと聞きたい事があって」

「承知しました。こちらへどうぞ」

 護衛と共に奥にある個室に案内するトレアリナ。

 部屋に入ると、何故か護衛の立ち位置のハライチが紅茶とお菓子を用意し、トレアリナの分も配る。

「あ、いつもありがとうございます。この紅茶を飲むと、何故か疲れが無くなった気がするのですよ」

 もちろんビー特性の回復薬入りの紅茶だ。

「無理をしないでくださいね。人が足りなければ、こちらから出す事もできますので」

「ありがとうございます、カーリ様。それで、今日はどう言ったご用件でしょうか?」

 こうして5階層初侵入の状況を聞く二人のダンジョンマスターだが、改めてトレアリナの有能さを知る事になった。

 全ての冒険者の依頼内容、達成状況を完全に把握した上で、時折各自に練武や模擬戦を課して最新の実力も踏まえたうえで、適正な依頼を提示しているとの事だったのだ。

 今回の5階層初侵入は確かに冒険者の力量が上がった事も一つの要因なのだろうが、最大の功労者はギルド支部に有った事がわかり、非常に優秀な人材が来てくれた事を喜んでいる湯原セーギ水野カーリ

 既にこの事実を把握しているミズイチやハライチは何も言わないが、湯原セーギ水野カーリと同じ考えであり、ダンジョン侵入階層が増えた事を怯えるような者は誰一人としていなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

ガチャから始まる錬金ライフ

あに
ファンタジー
河地夜人は日雇い労働者だったが、スキルボールを手に入れた翌日にクビになってしまう。 手に入れたスキルボールは『ガチャ』そこから『鑑定』『錬金術』と手に入れて、今までダンジョンの宝箱しか出なかったポーションなどを冒険者御用達の『プライド』に売り、億万長者になっていく。 他にもS級冒険者と出会い、自らもS級に上り詰める。 どんどん仲間も増え、自らはダンジョンには行かず錬金術で飯を食う。 自身の本当のジョブが召喚士だったので、召喚した相棒のテンとまったり、時には冒険し成長していく。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...