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龍と高ランカーの集い
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「今日もお疲れ様。さっ!片づけをして休みましょう!」
「「「「「はい!」」」」」
閉店後の“龍と高ランカーの集い”店内で店長のハルミュレが号令をかけると、シシリー、アロッサーラを始めとした従業員がコップや食器を片付ける者、洗うもの、机を綺麗にするもの、床を清掃する者と別れて作業を始めるのだが、やはり話は本物のクロイツ達三人の話ばかりだ。
「でも、ちょっと不安だわ?」
机を拭きながら、隣で椅子を拭いているシシリーに話しかけるアロッサーラ。
「それって、あのベルヘルトの事かしら?それとも……ポーションの話?」
ベルヘルトがシシリーをしつこく狙っているのは誰しもが知っている話であり、そのベルヘルトが流しただろう噂、ポーションは供給過多で暫く生成しないが、次回清算時には今回同様ダンジョン町の魔核が絶対に必要であると流した噂がもう聞こえてきている。
「今の所は、このお店にいる限り私は危険じゃないと思っているけれど、ポーションは消耗品だからやがて尽きるでしょう?消費期限もあるし。こんな勝手な言い分をリージョ様が聞いてしまったら、絶対にこの国を嫌いになってしまうわよ」
「確かに、リサ様も同じ感情になる可能性が高いわね。困ったわ……」
ベルヘルトの行動によって自分達が崇拝している人物からこの国がどう思われるかが非常に気になってしまっているのだが、この生活が長いので無意識ながらもしっかりと体は動いている。
「さ、終わったわね。休みましょう」
最後にハルミュレが全体を確認すると、全員が階段を上がって行く。
このお店は二階より上が従業員の生活スペースになっているので、余程の事がない限りは店員が店の外に出る事は無いのだが……それにはいくつかの理由がある。
表向きはこれほどの人気店になっており、客層は白套や黒套を羽織ってフードまでしている者がほとんどなので、店の外で万が一襲われたり攫われたりすることが無いようにと言う自衛のため。
実際は……確かにそのような理由も少々あるのだが、彼女達の立場にある。
「今日は疲れたわね」
各自が個室を持っており、その中にはトイレやお風呂も完備されているのだが、時折近くの部屋に遊びに行って共に過ごす事もある。
今日はベルヘルトが再び来襲した事を知っているので、シシリーを心配してアロッサーラが遊びに来ていた。
互いにセミロングの髪を乾かしているのだが、二人共その項には赤の紋章が見えている。
実はこの店にいる人達、店長のハルミュレを始めとした全従業員は赤の紋章持ちだったのだ。
全員の髪が長いのは、もちろん赤の紋章を隠すため。
そして店内が薄暗く淡い赤い光が照らされているのも、雰囲気を出すと言うよりも、赤の紋章を隠す為と言う意味合いの方が大きい。
この店を始めた当初は何とか自活できるようにと言う一心で始めたこの店も、クロイツ達が赤の紋章を救っていると言う噂が聞こえ始めてから、店の名前も元も店の名前の龍を残して彼らにちなんで“龍と高ランクの集い”に変更した。
店員全員が三人の熱狂的なファンであるのは、彼等が自分達と同じ立場の者を積極的に救っているからなのだ。
店に来るのは紋章持ちではない者達なので店名が変わった時にその理由を聞かれるのだが、正直にクロイツ達に肖っていると全員が答えると、その後徐々に普通に彼らのファンが装いをまねて集いはじめ、今では何もしていない普通の客として来店するのは既に出禁になっているベルヘルト他数人になっていた。
そのおかげで、本当に尊敬する人物の話をするだけで客も喜んでもらえ、逆に客から尊敬する人物達の情報を得られる事から、全員が前向きに楽しく仕事、生活をする事が出来ている。
クロイツ一行も店ではしっかりと楽しむために無駄に周囲の気配を察知するような事はしておらず、そもそも彼等の認識では赤の紋章を背負った人が独立して普通に店を開くなど想像できるわけもないので、彼女達全員が赤の紋章持ちであるとは夢にも思っていない。
「あのベルヘルトの行動、今後は直接聞く事は出来ないから……むしろ嬉しいけれど、情報が間接的にしか仕入れられないのは痛いわよね」
「本当に、リサ様にご迷惑が掛からなければ良いのだけれど……」
シシリーの心配をしてこの部屋に来たアロッサーラだが、最終的にはベルヘルトの暴走によって彼女達が崇拝するクロイツ達からこの店の有るグアトロ王国が嫌われないかと言う心配をする結果になってしまった。
実は彼女達だけではなく、この店の全員の意識が同じ方向を向いていたのだが……これ以上何ができる訳でもなく、何事も起こらないようにと願う他ないのだ。
店長のハルミュレでさえ同じ考えで、彼女もベッドの上に座りながらベルヘルトが今後どう動くのかを考えていた。
「何れにしても、私達ではどうしようもないですね。はぁ、あのクロイツ様達に本当にそっくりの三人が本人であれば、次に来られた際に事情をお話できるのですが……」
本人でないとは思いつつも、三人に関する話で盛り上がった時に噂話程度で事情は話していたのだが、いくら悩んでも解決策が出てくる事はなかった。
シシリーとアロッサーラの二人は、店が終わると互いの部屋に集まって同じような話を繰り返し、どうすればこの窮地を乗り越えられるかを話していたのだが、この行為が自らの身に降りかかった窮地を脱するきっかけになるとはわかる訳もない。
「「「「「はい!」」」」」
閉店後の“龍と高ランカーの集い”店内で店長のハルミュレが号令をかけると、シシリー、アロッサーラを始めとした従業員がコップや食器を片付ける者、洗うもの、机を綺麗にするもの、床を清掃する者と別れて作業を始めるのだが、やはり話は本物のクロイツ達三人の話ばかりだ。
「でも、ちょっと不安だわ?」
机を拭きながら、隣で椅子を拭いているシシリーに話しかけるアロッサーラ。
「それって、あのベルヘルトの事かしら?それとも……ポーションの話?」
ベルヘルトがシシリーをしつこく狙っているのは誰しもが知っている話であり、そのベルヘルトが流しただろう噂、ポーションは供給過多で暫く生成しないが、次回清算時には今回同様ダンジョン町の魔核が絶対に必要であると流した噂がもう聞こえてきている。
「今の所は、このお店にいる限り私は危険じゃないと思っているけれど、ポーションは消耗品だからやがて尽きるでしょう?消費期限もあるし。こんな勝手な言い分をリージョ様が聞いてしまったら、絶対にこの国を嫌いになってしまうわよ」
「確かに、リサ様も同じ感情になる可能性が高いわね。困ったわ……」
ベルヘルトの行動によって自分達が崇拝している人物からこの国がどう思われるかが非常に気になってしまっているのだが、この生活が長いので無意識ながらもしっかりと体は動いている。
「さ、終わったわね。休みましょう」
最後にハルミュレが全体を確認すると、全員が階段を上がって行く。
このお店は二階より上が従業員の生活スペースになっているので、余程の事がない限りは店員が店の外に出る事は無いのだが……それにはいくつかの理由がある。
表向きはこれほどの人気店になっており、客層は白套や黒套を羽織ってフードまでしている者がほとんどなので、店の外で万が一襲われたり攫われたりすることが無いようにと言う自衛のため。
実際は……確かにそのような理由も少々あるのだが、彼女達の立場にある。
「今日は疲れたわね」
各自が個室を持っており、その中にはトイレやお風呂も完備されているのだが、時折近くの部屋に遊びに行って共に過ごす事もある。
今日はベルヘルトが再び来襲した事を知っているので、シシリーを心配してアロッサーラが遊びに来ていた。
互いにセミロングの髪を乾かしているのだが、二人共その項には赤の紋章が見えている。
実はこの店にいる人達、店長のハルミュレを始めとした全従業員は赤の紋章持ちだったのだ。
全員の髪が長いのは、もちろん赤の紋章を隠すため。
そして店内が薄暗く淡い赤い光が照らされているのも、雰囲気を出すと言うよりも、赤の紋章を隠す為と言う意味合いの方が大きい。
この店を始めた当初は何とか自活できるようにと言う一心で始めたこの店も、クロイツ達が赤の紋章を救っていると言う噂が聞こえ始めてから、店の名前も元も店の名前の龍を残して彼らにちなんで“龍と高ランクの集い”に変更した。
店員全員が三人の熱狂的なファンであるのは、彼等が自分達と同じ立場の者を積極的に救っているからなのだ。
店に来るのは紋章持ちではない者達なので店名が変わった時にその理由を聞かれるのだが、正直にクロイツ達に肖っていると全員が答えると、その後徐々に普通に彼らのファンが装いをまねて集いはじめ、今では何もしていない普通の客として来店するのは既に出禁になっているベルヘルト他数人になっていた。
そのおかげで、本当に尊敬する人物の話をするだけで客も喜んでもらえ、逆に客から尊敬する人物達の情報を得られる事から、全員が前向きに楽しく仕事、生活をする事が出来ている。
クロイツ一行も店ではしっかりと楽しむために無駄に周囲の気配を察知するような事はしておらず、そもそも彼等の認識では赤の紋章を背負った人が独立して普通に店を開くなど想像できるわけもないので、彼女達全員が赤の紋章持ちであるとは夢にも思っていない。
「あのベルヘルトの行動、今後は直接聞く事は出来ないから……むしろ嬉しいけれど、情報が間接的にしか仕入れられないのは痛いわよね」
「本当に、リサ様にご迷惑が掛からなければ良いのだけれど……」
シシリーの心配をしてこの部屋に来たアロッサーラだが、最終的にはベルヘルトの暴走によって彼女達が崇拝するクロイツ達からこの店の有るグアトロ王国が嫌われないかと言う心配をする結果になってしまった。
実は彼女達だけではなく、この店の全員の意識が同じ方向を向いていたのだが……これ以上何ができる訳でもなく、何事も起こらないようにと願う他ないのだ。
店長のハルミュレでさえ同じ考えで、彼女もベッドの上に座りながらベルヘルトが今後どう動くのかを考えていた。
「何れにしても、私達ではどうしようもないですね。はぁ、あのクロイツ様達に本当にそっくりの三人が本人であれば、次に来られた際に事情をお話できるのですが……」
本人でないとは思いつつも、三人に関する話で盛り上がった時に噂話程度で事情は話していたのだが、いくら悩んでも解決策が出てくる事はなかった。
シシリーとアロッサーラの二人は、店が終わると互いの部屋に集まって同じような話を繰り返し、どうすればこの窮地を乗り越えられるかを話していたのだが、この行為が自らの身に降りかかった窮地を脱するきっかけになるとはわかる訳もない。
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