元王子クロイツとその弟子達

焼納豆

文字の大きさ
上 下
187 / 214

龍と高ランカー

しおりを挟む
「久しぶりに店に行かねーか?リージョも向こうに出ずっぱりだしな」

「賛成です、師匠!」

『行ってらっしゃい。僕はこの町を守っているよ!』

 ダンジョン町の自宅にいるクロイツ、リサ、ポチは流れでグアトロ王国の“龍と高ランカーの集い”の話になると、久しぶりに店に顔を出そうかと言う方向に進んでおり、基本的にこの町から出ないポチがやる気を漲らせて安全を守ると宣言する。

……ガラッ……

「ポチ殿、今回は私が残りますので、折角ですから同行されては如何ですか?」

「お、リージョ。お疲れ。って、向こうの護衛はどうしたんだ?ポチの眷属だけか?」

「お帰りなさい、お兄ちゃん。狼さんだけでも大丈夫だとは思いますけど、シシリーさんやアロッサーラさんが不安になっていませんか?」

「実はその件でお話がありまして……師匠、あの時に師匠が配下にした幼龍ですが、人化して店に来たのです。私は気が付いていましたがお店に沢山の客がいたので店員の皆さんを動揺させる事もないと思った事と、幼龍自らが名乗らないのも相まってハルミュレさん達には黙っていたのですが、一般客が帰った後にその姿を現して皆さんと涙を流して再会を喜んでいました」

「そっか、そりゃよかったが、まさか、自分のダンジョンをほっぽってリュー幼龍が護衛についてくれる事になったのか?」

「いいえ、そうではなく……もう一体龍を同行させていたのです。感覚的にはポイズナックと同格の強さを持っているので、Sランクに分類される魔獣でしょうが、見た目は穏やかに見える比較的小さな魔獣です」

「そうなのか?で、そいつが店を守る事になった……と言う事か?」

「そうです。ですので、今後はポチ殿の眷属とあのダンジョン管理者の眷属で店を、人々を守護する事になりますね」

「流石は師匠ですね、お兄ちゃん。いつの間にか勝手に問題が解決しているのですから。それに、新しい護衛の魔獣の見た目が恐怖を与えないのであればお店に来て頂いているお客様にも影響はなさそうですし」

「だがよ、リサ。見た目がそうだとすれば、他の得体の知れねー連中へのけん制にならねー場合もあると言う事だぞ?」

 少し油断が見えるリサに知識を与えるつもりで説明したクロイツだが、リージョがその辺りも問題ないと告げる。

「フフフ、師匠。そこも大丈夫ですよ。私が護衛をしている間、この町の入国を断られた一行が嫌がらせ目的だとわかる態度で店に来たのですが、その全てをきっちりと二度と逆らいたくないと思えるほどに痛めつけていましたし、それが路上であった事もあってしっかりと噂になっていますから」

 今の所は店も繁盛しており従業員達に対する素行が悪い客も来ていない事から、一旦リージョは報告も兼ねてこの場に戻ってきたのだ。

「ポチ、ある程度は知っていただろ?お前の眷属から見た状況はどうだ?」

『えっとね、仲良く一緒にお店を守れるって随分と喜んでいるみたいだよ』

 眷属から直に詳しい情報を得る事が出来るポチがここまで断言するのであれば問題ないと判断したクロイツは、リサと、残ると言っていたリージョも共に……と言っても町の住民を安心させるために自分だけは建屋から転移で町を出てグアトロ王国の“龍と高ランカーの集い”に向かう事にした。

「いらっしゃい、クロイツ、リサ、リージョ

 店長のハルミュレが三人を出迎えるのだが、この店の従業員はこの三人が本物であると知っているので敬称は変わっているが、リージョがクロイツの性格を見越して説明済みなのか過度な遜りはなく、呼び方が多少変わった程度以外の変化はないまま取りあえず案内されて席に着き、シシリーとアロッサーラの状態を聞くクロイツ。

「あの二人はどうだ?落ち着いているか?」

「ふふ、大丈夫ですよ、クロイツ様。おかげさまで私達の事情赤の紋章についても漏れていませんし、今まで通り……じゃないですね。今迄以上に楽しくさせて頂いています。ありがとうございます」

 久しぶりに自らの主に会えて嬉しいのか、この店を守っているポチの眷属である狼の魔獣も顕現しており、暫くクロイツに纏わりついた後でクロイツ、リサ、リージョに付き従っている魔獣とも遊び、そこに小さい龍も混ざって遊んでいる。

「アレか。なるほどな。ポチの眷属とあの龍がいりゃー、問題ねーな」

「狼さんも龍さんも結構有名になっていますので、余程の新顔でない限りトラブルは起きないと思います」

 クロイツの呟きに店長であるハルミュレが同意し、その言葉通り確かに周囲の客は狼や龍の魔獣を見ても少し数が増えているな?程度の認識らしく驚くようなそぶりは見せずに各自が楽しんでいた。

 そこからは仕事のような話は一切せずに純粋に楽しむのだが、従業員側が前のようにクロイツ達の内情について質問をしてくる事は無かった。

 今までは“そっくりさん”と言う認識でいたので、本物に対する知識を披露する場と言う事で問いかけていたのだが、本人に直接聞くのは秘匿するべき情報もあるだろうと言う店側の配慮によるものだが、三人が自ら話すのであれば話には乗っている。

「んでよ?今回新たに四人を町に迎え入れたわけだ。まったく、この国の錬金術師組合はどうなっていやがるんだ。なぁ?ハルミュレはどう思う」

「そうですね。最近は注文した魔道具の納入も大幅に遅れていると結構な人数のお客様が嘆いていましたから、素材が入らないのか、大きなトラブルに見舞われているのかだと思いますが、まさか組合が赤を準備していたとは……本当に残念ですね」

 結構話が際どい事になっている為にさりげなくリージョが魔法で周囲に声が漏れない様に配慮しているのに気が付いているので、クロイツはそのまま話を続けていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

普通の男子高校生が悪役令嬢に転生した話

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:376pt お気に入り:52

赤貧令嬢の借金返済契約

恋愛 / 完結 24h.ポイント:930pt お気に入り:1,986

愛することを忘れた彼の不器用な愛し方

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:56

【完結】枕営業のはずが、重すぎるほど溺愛(執着)される話

BL / 完結 24h.ポイント:3,514pt お気に入り:1,377

乙女ゲーム攻略対象者の母になりました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,680pt お気に入り:6,675

【完結】聖獣人アルファは事務官オメガに溺れる

BL / 完結 24h.ポイント:3,706pt お気に入り:1,764

俺様エリートは独占欲全開で愛と快楽に溺れさせる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:1,545

処理中です...