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回想
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俺は、昔の事を思い出している。
母さんとヨナ、そして俺があのクソ王に追放されてこの宿屋に来た頃だ。
服装はある程度良い物を着ている俺達を見て、宿の主人は一瞬怪訝そうな顔をした。
というのも、貴族連中は何かと難癖をつけるやつばかりだったかららしいが、母さんの笑顔を見て、そんな警戒心は一気に薄れたと言っていたっけ。
母さんは飾らずに全て事情を話した。
あまり隠しても、万が一があった時に問題があると考えたのだろう。
つまり、王族・貴族による嫌がらせなどだ。
この説明をして、宿泊を断られたらその時はその時だということらしかった。
でも、今思えばヨナの<闇魔法>で、安全に城壁外の森でも宿泊できたはずだが、当時のヨナはまだ小さく修行時間が短かったためか、剣の機能を使いこなせるほどではなかったので、無理をさせたくなかったのだろうな。
そして、あえて母さんは事情を話してこのエリアで活動する事を選んだ。
宿屋の主人は母さんの実直な姿勢に心を打たれ、他の貴族とは全く違う真直な心と慈愛に満ち溢れた母さんの心に感動したのか、否応なく宿泊を許可してくれた。その男気に惚れて、今も俺は同じ宿に宿泊し続けているんだが・・・
幸運にも複数の高価な装飾品があったため、後日ギルドで換金して長期の宿泊契約をすることができた。
しかし、母さんの危惧した通り、王族や貴族連中は暇なのか宿には影響はなかったが、俺たちには細かい嫌がらせをしてきた。
その頃の母さんは、俺とヨナと冒険者登録をしてパーティーとして活動していた。ヨナや母さんに実地を含めて色々教えてもらったな。
実際<体術>なんかは今でもヨナにはかなわないが・・・(涙)
あるダンジョンの階層のみに生息している薬草や、魔獣の素材を取りに行くんだが、わざわざ俺たちの依頼を調べて先行して狩りつくしたりされた。
そんな状況が続けば、ギルドもあいつらとつながっているのがすぐにわかる。
当時俺は気が付かなかったが、ヨナが暗躍して、かなり早い時期に事実に気が付いていたらしい。
それからはヨナが依頼の素材を先行して入手しておくことで難を逃れた。
だが、ギルドや、ある程度ギルドと長くつながっている高ランクの冒険者からは、あまりよく思われていなかった。
そんな中、ある時、悪魔の手下である高ランクの魔族が、あっという間にこの都市の一番外側にある防壁を易々と破壊して侵入してきた。
当然騎士や高ランク冒険者が出動するが、手も足も出ずに撤退したのだ。
あれだけ偉そうにしていた奴らが、市民を守らずにより防御能力が高い防壁の内部に一目散に逃げていった。
だが、一部のプライドだけは本当に無駄に高いかつての異母兄弟の一人である兄は残っていた。本当に残っていただけだ。いや、きっと震えて逃げることができなかったんだろう。
こいつらからもさんざん嫌がらせをされてきたので、魔族襲撃のどさくさにさらに嫌がらせでもしに来たんだろうと俺は思っている。
そんな中立ち向かったのが俺の母さんだ。
俺とヨナは・・・まだ小さくて戦闘に参加させてもらえなかった。この時の事を俺ま未だに悔み続けている。
その時に母さんはこう言った。
「ロイド君、これからお母さんは皆のためにあの魔族をやっつけてくるね。大丈夫、お母さんは強いから。それから、ヨナの言うことをよく聞いて隠れていてちょうだい。大好きよロイド」
そう言って、俺の額にキスをしてくれて、ヨナに何かを言っていた。
その時の話をヨナに聞いたら、ヨナも母さんと一緒に戦いたかったらしい。
何より、母さんの身を守るのが自分の務めだからと強く食い下がったんだが、母さんは俺を守るようにと初めてきつく命令してきたそうだ。
この話をなかなか話してくれなかったヨナに、俺も初めて命令してしまったくらいだ。
母さんは本当に強かった。よく考えれば最強の無剣の所有者なんだから強いに決まっている。
だが、母さんは優しすぎたんだ。
魔族は母さんにはかなわないと思ったのだろう。俺をターゲットにしようとしたらしいが、俺のそばにはヨナがいる。
ヨナも小さいながら相当な強さなので、こちらもあきらめて、今だこの場に残っている王族に狙いを定めた。
そして、王族を人質にとると母さんに抵抗をしないように言ってきたんだ。
ここの辺りからは残念だが鮮明に覚えている。
その兄、いやクソ野郎は、
「おい、何をしているこの出来損ないの女。誰がどう考えてもお前らよりも俺の方が高位であり重要な人物だろうが。お前なんかが生き延びても何の価値もない。今すぐ降伏しろ」
一字一句覚えている。今思い出しても血管がブチ切れそうだ。
母さんは、かつて王城で生活をしていた時に見た事のある異母兄弟を見て、隙ができてしまった。
その隙を見逃すほど魔族は甘くない。一気に近接すると瘴気をまとった爪で母さんを切りつけた。
一瞬反応が遅れた母さんは、その爪を食らってしまったが、魔族が離脱しようとした隙をみて逆に無剣で完全に魔族を消滅させた。
だが、魔族の瘴気には毒素がある。
力なく倒れた母さんに俺とヨナは駆け寄る。
そして、防壁際で震えていた逃げ遅れた市民も駆け寄ってくれて、そのうちの何人かが、市民にしたら家宝ともいえるポーションを家に急いで戻って母さんのために使い続けてくれたんだ。
そんな中、隙の原因となったクソ野郎は、
「よし、よくやった。少しは俺の役に立てたな。光栄に思うが良い。魔族討伐についてはこの私が止めを刺したと報告しておいてやる。ハハハハ」
そういって、あっという間に馬に乗って防壁の中に消えて行った。
母さんが心配であんな奴に構っている暇はなかったが、今思えば手足を切り落としておけばよかった。
そして、残念ながらその傷が原因で、その後一か月程度で母さんは逝ってしまった。
本当は、もっと高価なポーションや、宮廷魔術師レベルの回復スキルがあれば助かったかもしれないが、王族が助けてくれるわけもなく、高価なポーションもギルドが管理しており、一切出してくれることはなかった。
この時は、さすがに怒った若手冒険者がギルドで暴動を起こして、実際の戦闘で逃げまとっていた高ランク冒険者たちが若手を投獄していた記憶がある。
弱い物には強く、強い物にはめっぽう弱いクズの典型だ。
その短い間、母さんは俺に対して、指輪とその中身の説明、ヨナの本当の能力等全てを説明してくれた。
と同時期に、あのクソ野郎の報告を鵜呑みにしたクズ王は、魔族討伐の記念として大々的なパーティーを開催しやがった。
といっても、真実を知っている平民がいるエリアではだれも参加しなかったが。
あいつらの報告によれば、あっという間に逃げていった高ランク冒険者と騎士たちが、力を合わせて魔族の脅威から市民を守り、止めはクソ王族が刺したということになっているらしい。
どうだ?高ランクの冒険者、ギルド、王族、騎士、どれもまともな人間がいない国だろ?
俺はこのエリアにいる人たちや、あの時俺達の為に本気度怒ってくれていた冒険者が守れればそれでいい。
そうそう、投獄された冒険者は暫くして開放された後、即母さんを見舞いに来てくれた。
もちろん市民のみんなも、毎日必ず大勢が来てくれていたんだ。
本当にこの場所を命がけで守ってくれたのが誰なのかをわかってくれていた。
そんな皆に見守られながら、母さんは微笑みながら息を引き取った。
この時初めてヨナが涙するのを見た。
俺も、周りの人たち、冒険者たちも大号泣だったのを覚えている。
そして、市民のそんな感情をかき乱すようにパーティーは続いていた。
でも母さんは最後に俺にこう言ってきた。
「ロイド君、ロイド君はあなたの思う通りに、しがらみなく好きに生きてほしいな。そして、幸せになってほしい。それと、長く仕えてくれているヨナの事もよろしくね?最後まで一緒にいてあげられなくてごめんね。大好きだよ」
母さんとヨナ、そして俺があのクソ王に追放されてこの宿屋に来た頃だ。
服装はある程度良い物を着ている俺達を見て、宿の主人は一瞬怪訝そうな顔をした。
というのも、貴族連中は何かと難癖をつけるやつばかりだったかららしいが、母さんの笑顔を見て、そんな警戒心は一気に薄れたと言っていたっけ。
母さんは飾らずに全て事情を話した。
あまり隠しても、万が一があった時に問題があると考えたのだろう。
つまり、王族・貴族による嫌がらせなどだ。
この説明をして、宿泊を断られたらその時はその時だということらしかった。
でも、今思えばヨナの<闇魔法>で、安全に城壁外の森でも宿泊できたはずだが、当時のヨナはまだ小さく修行時間が短かったためか、剣の機能を使いこなせるほどではなかったので、無理をさせたくなかったのだろうな。
そして、あえて母さんは事情を話してこのエリアで活動する事を選んだ。
宿屋の主人は母さんの実直な姿勢に心を打たれ、他の貴族とは全く違う真直な心と慈愛に満ち溢れた母さんの心に感動したのか、否応なく宿泊を許可してくれた。その男気に惚れて、今も俺は同じ宿に宿泊し続けているんだが・・・
幸運にも複数の高価な装飾品があったため、後日ギルドで換金して長期の宿泊契約をすることができた。
しかし、母さんの危惧した通り、王族や貴族連中は暇なのか宿には影響はなかったが、俺たちには細かい嫌がらせをしてきた。
その頃の母さんは、俺とヨナと冒険者登録をしてパーティーとして活動していた。ヨナや母さんに実地を含めて色々教えてもらったな。
実際<体術>なんかは今でもヨナにはかなわないが・・・(涙)
あるダンジョンの階層のみに生息している薬草や、魔獣の素材を取りに行くんだが、わざわざ俺たちの依頼を調べて先行して狩りつくしたりされた。
そんな状況が続けば、ギルドもあいつらとつながっているのがすぐにわかる。
当時俺は気が付かなかったが、ヨナが暗躍して、かなり早い時期に事実に気が付いていたらしい。
それからはヨナが依頼の素材を先行して入手しておくことで難を逃れた。
だが、ギルドや、ある程度ギルドと長くつながっている高ランクの冒険者からは、あまりよく思われていなかった。
そんな中、ある時、悪魔の手下である高ランクの魔族が、あっという間にこの都市の一番外側にある防壁を易々と破壊して侵入してきた。
当然騎士や高ランク冒険者が出動するが、手も足も出ずに撤退したのだ。
あれだけ偉そうにしていた奴らが、市民を守らずにより防御能力が高い防壁の内部に一目散に逃げていった。
だが、一部のプライドだけは本当に無駄に高いかつての異母兄弟の一人である兄は残っていた。本当に残っていただけだ。いや、きっと震えて逃げることができなかったんだろう。
こいつらからもさんざん嫌がらせをされてきたので、魔族襲撃のどさくさにさらに嫌がらせでもしに来たんだろうと俺は思っている。
そんな中立ち向かったのが俺の母さんだ。
俺とヨナは・・・まだ小さくて戦闘に参加させてもらえなかった。この時の事を俺ま未だに悔み続けている。
その時に母さんはこう言った。
「ロイド君、これからお母さんは皆のためにあの魔族をやっつけてくるね。大丈夫、お母さんは強いから。それから、ヨナの言うことをよく聞いて隠れていてちょうだい。大好きよロイド」
そう言って、俺の額にキスをしてくれて、ヨナに何かを言っていた。
その時の話をヨナに聞いたら、ヨナも母さんと一緒に戦いたかったらしい。
何より、母さんの身を守るのが自分の務めだからと強く食い下がったんだが、母さんは俺を守るようにと初めてきつく命令してきたそうだ。
この話をなかなか話してくれなかったヨナに、俺も初めて命令してしまったくらいだ。
母さんは本当に強かった。よく考えれば最強の無剣の所有者なんだから強いに決まっている。
だが、母さんは優しすぎたんだ。
魔族は母さんにはかなわないと思ったのだろう。俺をターゲットにしようとしたらしいが、俺のそばにはヨナがいる。
ヨナも小さいながら相当な強さなので、こちらもあきらめて、今だこの場に残っている王族に狙いを定めた。
そして、王族を人質にとると母さんに抵抗をしないように言ってきたんだ。
ここの辺りからは残念だが鮮明に覚えている。
その兄、いやクソ野郎は、
「おい、何をしているこの出来損ないの女。誰がどう考えてもお前らよりも俺の方が高位であり重要な人物だろうが。お前なんかが生き延びても何の価値もない。今すぐ降伏しろ」
一字一句覚えている。今思い出しても血管がブチ切れそうだ。
母さんは、かつて王城で生活をしていた時に見た事のある異母兄弟を見て、隙ができてしまった。
その隙を見逃すほど魔族は甘くない。一気に近接すると瘴気をまとった爪で母さんを切りつけた。
一瞬反応が遅れた母さんは、その爪を食らってしまったが、魔族が離脱しようとした隙をみて逆に無剣で完全に魔族を消滅させた。
だが、魔族の瘴気には毒素がある。
力なく倒れた母さんに俺とヨナは駆け寄る。
そして、防壁際で震えていた逃げ遅れた市民も駆け寄ってくれて、そのうちの何人かが、市民にしたら家宝ともいえるポーションを家に急いで戻って母さんのために使い続けてくれたんだ。
そんな中、隙の原因となったクソ野郎は、
「よし、よくやった。少しは俺の役に立てたな。光栄に思うが良い。魔族討伐についてはこの私が止めを刺したと報告しておいてやる。ハハハハ」
そういって、あっという間に馬に乗って防壁の中に消えて行った。
母さんが心配であんな奴に構っている暇はなかったが、今思えば手足を切り落としておけばよかった。
そして、残念ながらその傷が原因で、その後一か月程度で母さんは逝ってしまった。
本当は、もっと高価なポーションや、宮廷魔術師レベルの回復スキルがあれば助かったかもしれないが、王族が助けてくれるわけもなく、高価なポーションもギルドが管理しており、一切出してくれることはなかった。
この時は、さすがに怒った若手冒険者がギルドで暴動を起こして、実際の戦闘で逃げまとっていた高ランク冒険者たちが若手を投獄していた記憶がある。
弱い物には強く、強い物にはめっぽう弱いクズの典型だ。
その短い間、母さんは俺に対して、指輪とその中身の説明、ヨナの本当の能力等全てを説明してくれた。
と同時期に、あのクソ野郎の報告を鵜呑みにしたクズ王は、魔族討伐の記念として大々的なパーティーを開催しやがった。
といっても、真実を知っている平民がいるエリアではだれも参加しなかったが。
あいつらの報告によれば、あっという間に逃げていった高ランク冒険者と騎士たちが、力を合わせて魔族の脅威から市民を守り、止めはクソ王族が刺したということになっているらしい。
どうだ?高ランクの冒険者、ギルド、王族、騎士、どれもまともな人間がいない国だろ?
俺はこのエリアにいる人たちや、あの時俺達の為に本気度怒ってくれていた冒険者が守れればそれでいい。
そうそう、投獄された冒険者は暫くして開放された後、即母さんを見舞いに来てくれた。
もちろん市民のみんなも、毎日必ず大勢が来てくれていたんだ。
本当にこの場所を命がけで守ってくれたのが誰なのかをわかってくれていた。
そんな皆に見守られながら、母さんは微笑みながら息を引き取った。
この時初めてヨナが涙するのを見た。
俺も、周りの人たち、冒険者たちも大号泣だったのを覚えている。
そして、市民のそんな感情をかき乱すようにパーティーは続いていた。
でも母さんは最後に俺にこう言ってきた。
「ロイド君、ロイド君はあなたの思う通りに、しがらみなく好きに生きてほしいな。そして、幸せになってほしい。それと、長く仕えてくれているヨナの事もよろしくね?最後まで一緒にいてあげられなくてごめんね。大好きだよ」
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