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新たな六剣所持者候補とギルドのトラブル

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 久しぶりに<隠密>を解除した状態でダンジョンから帰還した。



 既にある程度剣の機能を使いこなして、自らのレベルを上げている俺とヨナであれば、姿を晒した状態でもBランク程度の魔獣はまとめて襲い掛かってきても敵ではない。



 もちろんこの娘を守りながらでも何の問題もなく地上に帰還することができた。

 道中の討伐した魔獣については、日銭ボーナスとして当然ヨナに収納されている。



「お二人とも、とてもお強いんですね。でも残念ながらあまりの強さに動きが見えないので、何の勉強にもなりませんでした」

「これでも俺達はAランクだからな。気にするな。君は・・・そういえば君の名前を聞いていなかったな。教えてもらえるか?俺はロイド、こっちのパートナは訳有って簡単には本名を明かせない。すまないな」



「いいえ、問題ありません。でも、失礼しました。命の恩人に対して自己紹介もしていないなんて。私、スミカと言います」

「ダンジョンの中でも言ってたけど、苦しんでる人の助けになりたいって、どういう事?」



 ヨナの問いかけに対して、少し考る素振りを見せたスミカは、



「実は、私の両親、妹がいたんですが、行商の途中で魔獣に襲われて大怪我をしたんです。私は荷馬車の奥にいたので、荷物が運良くクッションになって怪我はなかったんですが・・・その魔獣自体は護衛で雇っていた冒険者の方々が退けて下さったのですが、その方々も小さくない怪我を負ってしまいまい、何故か割に合わないと護衛任務を放棄して彼らの町だと思うんですが、帰還してしまったんです。彼らと違って体力のない私達は、何とか町までたどり着くことはできましたが、怪我の影響で私以外の家族は亡くなってしまったんです」



 この世界では、良くあるありきたりな話だ。防壁に守られていない場所は常に命の危険に大きく晒されている。



「あの時は、なんで報酬も既に受け取っているのに助けてくれないで帰っちゃったのかって、冒険者の方々を恨みもしました。正直もう少し早く町に到着出来て治療することができれば、命は助かったかもしれないんです。でも、それから私は考えました。過ぎた事をくよくよするより、同じ境遇になってしまう人を助けられればいいんだって。そうすることで、天国のお父さんお母さん、そして妹も喜んでくれるかなって。なので、私は強くなりたいんです。人々を守って、癒して、決して逃げない冒険者に!」



 熱く語ったスミカの話に、嘘偽りはなさそうだ。家族を思い出しているのか、少しだけ悲しそうな顔をして若干目が赤くなっている。



「よくわかりました。ありがとうございました。あなたの気概は素晴らしいと思いますよ」



 ヨナは一礼すると、依頼達成の報告と素材換金のためにギルドに向かって歩き始めた。



 しかし、ヨナが自ら進んで赤の他人に話をするのは珍しい。

 俺が知る限りヨナ自ら話しかけたのは、母さんが亡くなってしまった後に激怒して最初にギルドで暴れた冒険者と、宿屋の主人だけだ。

 話をせざるを得ない冒険者ギルドの受付は除外しているがな。



 そう考えると、結構ヨナはスミカを気に入っているようだ。

 話を聞く限りでは水剣を持つための素養は十分だと思う。



 俺とヨナに続いて、スミカも後ろを付いてくる。

 とりあえずダンジョン内部での危機的状況からは助けたが、今のところはパーティーメンバーでもなければ剣の保持者でもないので、赤の他人ではある。



 スミカとしては、今後どうすればいいのかわからずに惰性でついてきているのだろう。



 あまり気にかけてもしょうがないので、そのままギルドに入り依頼達成の報告をする。



 そして、横のカウンターで有り余る魔獣を出しで換金作業が始まる。

 当初は魔法による収納から相当数の魔獣を出して驚かれたが、最近は慣れたもので、何の驚きもなく黙々と作業をしてくれる。

 嫌悪感は隠せていないがな。



 そして、相変わらず明らかにピンハネしている金額を渡してくる。

 ここでグダグダ言っても改善はされないし、この町の滞在がこれ以上しにくくなると、復讐のチャンスを逃すかもしれないので我慢している。



 と、後ろの方から声が聞こえる。



「え、冒険者って、Bランクの魔獣をあれだけの量を素材として持ってきて、これっぽっちの金額しかもらえないんですか?とすると、皆さんもっと強くてランクの高い魔獣を持ってきているか、極貧生活しているんですか?」



 冒険者デビューしたばかりのスミカだ。



 受付は怪訝そうな表情でスミカを見て、確認してきた。



「あなたはこのパーティーメンバーですか?」

「いいえ、ダンジョンであそこにいる人達に置き去りにされて、命の危険があった所を助けて頂いたものです」



 そう言って、入口近くの席で酒を飲んでいる四人組を見つめる。



「そんなはずはありませんね。あの方々はこのギルド最強のAランク冒険者で、どこかのパーティーと違ってこのギルドに多大な貢献をして頂いているんです。そんな方々がそのような行為をするはずがありません」

「そうですか、あなた方もあの時の護衛の冒険者達と一緒で、逃げるような人みたいですね・・・」



 スミカの過去の話を知らないと、何を言っているかわからない事を言われて、首をかしげている受付。

 しかし、ある意味助かった。スミカがこのまま暴走すると、俺の復讐の障害になる。



 ヨナに目配せし、受付からスミカを遠ざける。

 相変わらずのクズっぷりを発揮しているギルト、そして受付共に腹は立っているが、復讐の為と自分に言い聞かせてやつらを一瞥してその場を去る。



 だが、かなりピンハネされているとはいえ、実際にはある程度の纏まった金額になっている。

 これは、母さんの時から良くしてくれているこの宿屋の主人、そしてしょっちゅう顔を出してくれる冒険者に還元している。

 ご主人には多めに宿泊費を支払い続けているし、冒険者の人にはこの宿屋での食事、そしてお酒をしょっちゅう驕らせてもらっている。



 実は、この彼も明らかに俺達と懇意にしていることがギルドにばれているので、冷遇されているんだ。そして俺達と違って隔絶した力を持っているわけではないので、幾ら依頼を達成しても本当に二束三文しか褒賞を得ていない。



 その他の冒険者は、ギルド、国に対しての怒りと俺達への感謝の気持ちはある物の、自分たちの生活もある為に、この冒険者程あからさまに懇意にはしていない。



 これもしょうがないことだ。だが、敵対することもなく、彼らなりに良くしてくれている。もちろん母さんに対する恩、そして母さんを失った俺に対する申し訳ない気持ちは十分に伝わっているので不満はないぞ。



 そんな彼は、ヘイロンと言うDランク冒険者だ。

 もちろん実力はCランク程度はあると思うが、如何せんギルドの覚えが悪いので、俺達みたいに明らかに異常な成果を上げられない限り、昇格は難しいだろう。



 実はこのヘイロン、俺の中で炎剣所持者候補になっている。

 俺達への恩と裏切らない態度、そしてギルドからの冷遇にも耐えている強い心と真直ぐな信念が決め手だ。



 一気に二人も候補者が出て、少々浮かれた気持ちになって宿に戻る。



「スミカ、お前わざと受付煽ったろ?」

「あ、バレましたか?いくら初心者冒険者の私でも行商人の娘ですから、物の価値は分かります。あれは明らかに不当な対価ですよ。でもロイドさん達は分かっていらっしゃる上で受け入れているようなので、一応何か考えがあるのかな・・・と思い引いてみました」



 なかなか頭も切れて、観察力もあるらしい。



「それで、お前はこれからどうするんだ?」

「えっと・・・」



 急に少し下を向いてモジモジしだすスミカ。



 「きっとスミカはお金が無くて、泊まる場所もなければこれからどうやって強くなっていくかもわかっていないんでしょ?」



 ヨナに指摘されて図星だったのか、ついには顔を赤くして真下を向いてしまった。 
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