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修行と王国

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 早速六剣の洞窟を後にし、再度人気のないSランクダンジョンにやってきた。

 修行をするならばやはりここだろう。



 だが、一応注意はしておく必要がある。



「ヘイロン、スミカ、それぞれの<基礎属性>である炎と水系統の魔法も全て使えるようになっているはずだが、まずは特化スキルを重点的に鍛えてくれ。問題なく使えるようにならないと意味がないからな。それと、後半は魔法も使用していくが、いきなり全力でぶっ放すと、このダンジョン自体が壊れかねないから気をつけろ!」

「そんなにか?」

「わかりました!!」



 驚くヘイロンと、なぜか素直なスミカ。

 そんな対照的な二人を先頭に、修行の為のダンジョン踏破を開始する。



 ダンジョンの中にいると時間の経過が良く分からなくなる。

 階層によっては日の光があったり、薄暗かったりするからだ。



 だが、ここに入ってからかなりの時間がたっているのは間違いないだろう。

 二人の修行も順調に進んでおり、やはり水剣の<回復>の力があるおかげか、相当無理をした修行でも達成することができている。





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 一方、ロイドが悪魔を待ち続けていたフロキル王国では、洞窟内部で目覚めた冒険者や人々が驚愕していた。



 そう、自分たちが抜こうと躍起になっていた剣が、気が付けば石から抜かれなくなっているからだ。

 もちろん誰も剣が抜けた瞬間は目撃していない。

 ヨナにより眠らされていたからだが、そんなことを知るはずもない人々はただただ驚愕していた。



 すでに抜かれている無剣と闇剣と同じように、石には剣が刺さっていた穴がある。



 そんな状況も、時間がたつにつれて洞窟の外から新たな挑戦者を迎えた状態で終わりとなった。



「おい!剣がないぞ!!抜いたのは誰だ!?」

「あっちの水剣も抜かれているみたいだぞ!!」

「なんだと!一晩で二本も抜かれたのか?誰がどうやって抜いたんだ??」

「今が抜きやすい時期なのか?すると俺にもチャンスが・・・」

「やっぱり伝説は本当だったんだ」



 もはや収集が付かない状態になっている。

 更に時間が経過すると、この洞窟周辺国にこの噂が流れつき、残っている伝説の六剣である、光剣、風剣、土剣の洞窟には身動きが取れない程の人が殺到した。



 もちろんその中にはクズ王国の魔族を倒したと嘯いた王子もいる。



「おい、貴様らじゃまだ。どけ!!わざわざこの私が来てやったんだ。お前ら雑魚共は無駄なことはやめてこの場を去れ!!」



 同行してきた近衛騎士を総動員して、光剣の洞窟から殺到していた人々を強制的に排除する。



「ふふふ、まさか本当に水剣と炎剣が抜けているとはな。炎剣を取られたのは少々惜しいが、光があれば問題ない。誰だか知らんが雑魚に抜ける状態ならば、この私に抜けない道理がない」



 そう言って、光剣の封印されている石に近づくクズ王子。

 だが、彼の場合は石の周りに張られている結界を通過する事ができずに、剣、いや、石にすら触れない状態になっている。



 額に青筋を浮かべたクズ王子は、近衛たちに指示を出す



「おい、貴様ら、中に入れるものは偉大なる私の代わりに剣を抜いてこい。入れないやつらは、この結界を破壊しろ!!」



 破壊しようとしている結界内部で作業をするような、とんでもない指示を出しているが、近衛達に拒否する権利は一切ない。

 クズ王子に異を唱えた瞬間に、自らの首が飛ぶのだから当然だ。



 結局結界内部に入り込めた近衛は一人のみで、その他の近衛達はクズ王子と共に必死に結界に攻撃を入れている。



 結界の中に入れた近衛は、実はユリナスに仕えたことがある近衛で、貧しい家族を養うためにこの王族に仕え続けているのだ。



 ユリナスに仕えていた頃は心身共にありえないほど充実していたが、ユリナスとロイドが追放された後に仕えることになったこのクズ王子の下に来てからは、不調が続いている。

 実はこの近衛、ユリナスとロイドが追放される前に、家族の不調・・・もともと病弱だった両親の最後を看取る為に少々王都から離れていたのだ。

 もちろん、当時の上司となるユリナスはとても暖かい目をして彼女・・・アルフォナを送り出してくれた。

 そして、両親を供養して、いざ王都に帰還したら、自らの主が追放されていた。



 なぜか不在中に魔族が来襲し、その魔族を討伐した英雄王子に仕えることにさせられていたのだ。

 ユリナスの事を仲間に聞くが、この国のどこかに子息であるロイドと共にいるらしい、という事以外の情報を得ることができなかった。



 当然、すでに亡くなっているユリナスに関する情報統制がされているからだ。

 もちろん近衛騎士として行動も制約があるために、その情報を確かめに行くこともできずに現在に至る。



 当然アルフォナも武の心得があるので、このクズ王子が魔族を倒せるわけがないと確信している。

 むしろ、ユリナスの奥に秘められた強大な力こそのみが、この王国の中で唯一魔族と対抗できるのではないかと思っていた程だ。



 そんな彼女も、今現在の主であるクズ王子の命令には歯向かえず、必死に光剣を抜こうとしているがビクともしない。



 苛立った王子は、八つ当たりを始める。



「おい、アルフォナ!貴様を拾ってやった俺に少しは報いてみろ!!それができないようならば、貴様はクビだ。あんなクズの近衛騎士から栄誉ある私の騎士になれた恩を今すぐ返せ!!!」



 全く自己評価が惨過ぎると思いながらも、アルフォナは養っている家族のために必死で力をこめて剣を抜こうとする。

 全身が震えるほどの力を出し尽くすが、残念なことに微動だにしない光剣。



「ちっ!所詮クズに仕えていた近衛騎士などこの程度か!!!おい、アルフォナ、貴様は今この瞬間をもって近衛騎士から除名する。だが俺は慈悲深い。今ある装備はそのまま持って行っていいぞ。だが、城に帰還することは許さん。今すぐにここから消えろ!!」



 愕然とするアルフォナ。

 しかし、命令に背くと物理的に首が飛ぶ。

 いや、抵抗することは容易だが、そうするとクズ王子は家族にまで害を及ぼしかねないのだ。

 近衛騎士であるアルフォナは、給金のほぼ全てを家族である弟と妹に仕送りしているために、自らに与えられた部屋に価値のあるものはない。

 しかし、さすがに替えの服は部屋に置いてあるので、実質鎧の下に来ている物のみの服を着たまま無職状態で追い出されるのだ。



 残された最後の家族・・・まだ幼い弟、妹の顔が浮かぶ。



 しかし、ここで発言することも、行動を止めることもクズ王子の機嫌を損ねる事を分かっているので、軽く一礼して光剣の洞窟を後にする。



 遥か後ろでは、さらに癇癪を起して騒ぎ立てているクズ王子の声が聞こえるが、最早どうでも良い。



 彼女は今すぐにでも、お金を稼がなくてはならないのだ。

 とすると、高ランクの魔獣を討伐すればかなりの金額を得ることができる。

 普通に探すと大変な場合があるので、高ランクダンジョンに行けば手っ取り早く遭遇できるだろう。



 アルフォナが今までそうしなかったのには、理由がある。



 彼女は力はあるから冒険者としての活動に問題ないように見えるのだが、冒険者家業は死と隣り合わせであり、万が一があった場合に残された家族を養えなくなるリスクがあった。

 更に、初めて仕えたユリナスは、自らの命を捨ててでも守るべき存在にまでなっていた為、近衛騎士という仕事に誇りを感じていたからだ。



 しかし、今は安定のみを追求してしまい、あのクズ王子に仕え続けた挙句にこんな状態だ。



 自らを攻めつつも、魔獣を討伐するためにダンジョンに向かおうとするアルフォナ。



 だが、程なくしてアルフォナは、あのクズ王子に感謝することになる。
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