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騎士アルフォナ(3)
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細切れになってしまった魔獣をしばらく見つめていたアルフォナだったが、気を取り直していつものルーチンである双剣の状態を確認する。
当然<身体強化>まで使用して魔獣を討伐してしまったので、かなりの刃こぼれがある。
同じように正座をして砥石を出し、双剣を地面に丁寧に置くと刃を研ぎなおす作業を始める。
しかし、その双剣は限界だった。いや、既に限界は来ていたのだが、アルフォナの弛まぬ努力の結晶である技術をもって、今の今まで使えていたのだ。
そんな状態の双剣が、<身体強化>まで行った全力のアルフォナの攻撃に耐えられるわけがない。
丁寧に研いでいる状態から、突然真っ二つに折れてしまったのだ。
パキン・・・・
「えっ・・・・」
呆然とするアルフォナ。
「ユリナス様との唯一の絆が・・・」
やがて折れた双剣を持ったままの状態でハラハラと涙を零し、やがてその場に突っ伏してしまった。
「ユリナス様・・・私はあなた様から頂いた大切な双剣を折ってしまいました。なんて、なんてダメなんでしょうか。これはあのクズ王子に仕えることを甘んじて受け入れた事に対してお怒りになっているのでしょうか?確かに私はあなた様のご子息であるロイド様にも未だにお会いできておりません。しかし、これはあんまりです。今、唯一のあなた様とのつながりであり、私の心の支えであるこの双剣が使えなくなってしまうなんて・・・」
凛としていたアルフォナも、かなりのショックだったようで今はその影もない。
更に、常にしていた全方位の警戒も今はできていない状況だ。
「ロイド、この嬢ちゃんこのままだとまずいぞ。さすがにこの場所で<拳闘士>や魔術系統のスキル持ちでもない限り、武器無し、しかもこんなに腑抜けた状態で無事にいられるわけがない」
ヘイロンの言う事は当然だ。
ここはSランクダンジョンなのだ。少しでも油断していい場所ではない。
しかも三階層。出口まで突っ走れば、今であれば魔獣はいないが、奥から魔獣が迫っている気配がある。
悩んでいる時間は残されていない。
ロイドはヨナに確認する。
「ヨナ、直感でいい。この人は信頼に値する人か?」
ヨナの目を見て真剣にロイドが問いかける。
ヨナもその真意を一瞬で把握する。
つまり、信頼に値できるとヨナが回答すれば、この場で<隠密>を解除して自分がユリナスの子供である事を打ち明けるのだ。
その後、六剣所持者にするかどうかまではわからないが、ヨナは迷わず回答する。
「ロイド様、この方は信頼できる人です」
迷いない回答に、ロイドは決心する。
「わかった。皆、これから<隠密>を解く。あっちから来ている魔獣は継続して修行としてヘイロンとスミカで頼む。その間に俺とヨナで状況を説明してこの人を助けようと思う」
「ああ、任せておけ」
「わかりました」
二人共快諾してくれて、そのまま奥へ突っ込んでいった。
ここに残っているのは、未だに双剣を持って涙を流し続けているアルフォナと、ヨナ、そしてロイドだけだ。
ヨナとロイドは、アルフォナを驚かせないように若干距離をとってから<隠密>を解除する。
と同時に、ダンジョンの奥で修行と言う名の蹂躙が始まったようで、なかなかの衝撃と音がした。
さすがに放心していたアルフォナも反応してその方向を見ると、<隠密>を解除したヨナとロイドがいる。
見かけ普通の冒険者である俺達は、未だに少々放心状態であるアルフォナに話しかける。
「申し訳ないが、少々話が聞こえてしまったので俺達から話をさせてもらいたい。驚くかもしれないが落ち着いて聞いてほしい。あなたが先程話をしていたユリナスは俺の母で、俺はユリナスの息子のロイド、そしてここにいるのは母であるユリナスから俺達に仕えてくれているメイドだ」
そう言ってヨナを紹介する。もちろん本人の名前は伝えていないし、ヨナも相変わらず<闇魔法>を使用して、自分の存在を曖昧にしている。
「え??あなたがロイド様??とすると、あなたがユリナス様の専属メイドだった人???言われてみれば、何となくとしか認識できないのは似ている気がするが・・・」
突然なので、状況が呑み込めていないのはしょうがない。
「ああ、言葉だけでは信じてもらえないだろうから、証拠を示そう。この指輪、見た事があるだろう?」
そういって、指と同化している指輪をアルフォナに見せる。
「そ、それは!!」
母さんがこの指輪をしていた時も同じように同化している状態だったので、アルフォナには見覚えがあるはずだ。
「ああ、あなた様がユリナス様のご子息だったのか。ユリナス様をお助けできなくて申し訳ない。本来ならば身命を賭してお守りするのが騎士の務めなのだが・・・私は・・・」
「いや、良い。そちらの状況は完全ではないが把握している。すでにあの事件から10年以上経っているが、尚母であるユリナスに対するその忠心、こちらこそ礼を言いたい。ありがとう」
アルフォナは、自分しかいないと思っているこの場所で心の内をさらけ出したのだ。母さんに対する忠心はまぎれもない事実であると感じた。
ヨナも俺と同じくアルフォナに頭を下げている。
「ちょ、私のような者にそのような事をしてはなりません」
「いや、これでも足りない位だがな。しかし正直俺達も時間がないので礼は改めさせてもらおうと思う。それで、率直に聞くが、あなたはなぜこんなところに一人でいるんだ?」
「お恥ずかしながら、今まで仕えておりましたフロキル王国の近衛騎士を解任されまして・・・間も無く独り立ちできる予定の家族に少々金子を送ろうかと・・・」
「なぜあなたの様な優秀な・・・いや、あそこは実力ではなくいかに上に媚び諂うかが優秀か否かの判定基準だったな。なにか護衛対象の機嫌を損ねたと言ったところか?」
「その通りでございます。ロイド様はご存じでしょうか?あの伝説の六剣のうち二つが抜けた事を。すでに王都では大騒ぎになっており、自称魔族討伐の王子もあの洞窟へ出向いたのです。そして私が抜剣の任を仰せつかりましたが簡単に抜ける物ではなく・・・希望を叶えられずにその場で解任されました」
「相変わらずで嬉しいぞ。心置きなく復讐できるからな。逆に善人になってしまっては困る。しかしアルフォナ、この三階層に来るまで魔獣はほぼいなかったと思うが、少なくとも階層ボスは討伐したのでいい金額を稼いだんじゃないか?」
「はい、金額についてはわかりかねますが・・・既に送った金貨と今回の魔獣の金額を合わせれば独り立ちするには十分だと思います」
「それで、そのあとはどうする予定だ?」
「ユリナス様に頂いた私の唯一の武器もこのような状態ですし、一旦ユリナス様の冥福を祈りに埋葬されている地を目指そうかと思います」
「そうか、そこまで母を想ってくれて俺としては嬉しい次第だが・・・残念ながら母は埋葬はされていないし、埋葬される予定の地も場所はわからないだろう?」
・・・ヨナを除いて誰も知らないはずだ・・・
「おっしゃる通りです」
ズーン・・・と音がしそうなほどに落ち込んで下を向いてしまったアルフォナ。
「そこで相談だ。今俺達は母さんを襲った魔族に連なる者、そしてあの惨状を間接的にでも作り出した第三防壁内部の者達に復讐を計画している。もちろん近衛騎士であったアルフォナには復讐などとは許せない行為かもしれないがな。どうだアルフォナ?お前も俺達の仲間になる気はないか?」
落ち込んだ顔を上げて俺を見つめるアルフォナ。しかし、数秒の後に迷いなく返事をする。
当然<身体強化>まで使用して魔獣を討伐してしまったので、かなりの刃こぼれがある。
同じように正座をして砥石を出し、双剣を地面に丁寧に置くと刃を研ぎなおす作業を始める。
しかし、その双剣は限界だった。いや、既に限界は来ていたのだが、アルフォナの弛まぬ努力の結晶である技術をもって、今の今まで使えていたのだ。
そんな状態の双剣が、<身体強化>まで行った全力のアルフォナの攻撃に耐えられるわけがない。
丁寧に研いでいる状態から、突然真っ二つに折れてしまったのだ。
パキン・・・・
「えっ・・・・」
呆然とするアルフォナ。
「ユリナス様との唯一の絆が・・・」
やがて折れた双剣を持ったままの状態でハラハラと涙を零し、やがてその場に突っ伏してしまった。
「ユリナス様・・・私はあなた様から頂いた大切な双剣を折ってしまいました。なんて、なんてダメなんでしょうか。これはあのクズ王子に仕えることを甘んじて受け入れた事に対してお怒りになっているのでしょうか?確かに私はあなた様のご子息であるロイド様にも未だにお会いできておりません。しかし、これはあんまりです。今、唯一のあなた様とのつながりであり、私の心の支えであるこの双剣が使えなくなってしまうなんて・・・」
凛としていたアルフォナも、かなりのショックだったようで今はその影もない。
更に、常にしていた全方位の警戒も今はできていない状況だ。
「ロイド、この嬢ちゃんこのままだとまずいぞ。さすがにこの場所で<拳闘士>や魔術系統のスキル持ちでもない限り、武器無し、しかもこんなに腑抜けた状態で無事にいられるわけがない」
ヘイロンの言う事は当然だ。
ここはSランクダンジョンなのだ。少しでも油断していい場所ではない。
しかも三階層。出口まで突っ走れば、今であれば魔獣はいないが、奥から魔獣が迫っている気配がある。
悩んでいる時間は残されていない。
ロイドはヨナに確認する。
「ヨナ、直感でいい。この人は信頼に値する人か?」
ヨナの目を見て真剣にロイドが問いかける。
ヨナもその真意を一瞬で把握する。
つまり、信頼に値できるとヨナが回答すれば、この場で<隠密>を解除して自分がユリナスの子供である事を打ち明けるのだ。
その後、六剣所持者にするかどうかまではわからないが、ヨナは迷わず回答する。
「ロイド様、この方は信頼できる人です」
迷いない回答に、ロイドは決心する。
「わかった。皆、これから<隠密>を解く。あっちから来ている魔獣は継続して修行としてヘイロンとスミカで頼む。その間に俺とヨナで状況を説明してこの人を助けようと思う」
「ああ、任せておけ」
「わかりました」
二人共快諾してくれて、そのまま奥へ突っ込んでいった。
ここに残っているのは、未だに双剣を持って涙を流し続けているアルフォナと、ヨナ、そしてロイドだけだ。
ヨナとロイドは、アルフォナを驚かせないように若干距離をとってから<隠密>を解除する。
と同時に、ダンジョンの奥で修行と言う名の蹂躙が始まったようで、なかなかの衝撃と音がした。
さすがに放心していたアルフォナも反応してその方向を見ると、<隠密>を解除したヨナとロイドがいる。
見かけ普通の冒険者である俺達は、未だに少々放心状態であるアルフォナに話しかける。
「申し訳ないが、少々話が聞こえてしまったので俺達から話をさせてもらいたい。驚くかもしれないが落ち着いて聞いてほしい。あなたが先程話をしていたユリナスは俺の母で、俺はユリナスの息子のロイド、そしてここにいるのは母であるユリナスから俺達に仕えてくれているメイドだ」
そう言ってヨナを紹介する。もちろん本人の名前は伝えていないし、ヨナも相変わらず<闇魔法>を使用して、自分の存在を曖昧にしている。
「え??あなたがロイド様??とすると、あなたがユリナス様の専属メイドだった人???言われてみれば、何となくとしか認識できないのは似ている気がするが・・・」
突然なので、状況が呑み込めていないのはしょうがない。
「ああ、言葉だけでは信じてもらえないだろうから、証拠を示そう。この指輪、見た事があるだろう?」
そういって、指と同化している指輪をアルフォナに見せる。
「そ、それは!!」
母さんがこの指輪をしていた時も同じように同化している状態だったので、アルフォナには見覚えがあるはずだ。
「ああ、あなた様がユリナス様のご子息だったのか。ユリナス様をお助けできなくて申し訳ない。本来ならば身命を賭してお守りするのが騎士の務めなのだが・・・私は・・・」
「いや、良い。そちらの状況は完全ではないが把握している。すでにあの事件から10年以上経っているが、尚母であるユリナスに対するその忠心、こちらこそ礼を言いたい。ありがとう」
アルフォナは、自分しかいないと思っているこの場所で心の内をさらけ出したのだ。母さんに対する忠心はまぎれもない事実であると感じた。
ヨナも俺と同じくアルフォナに頭を下げている。
「ちょ、私のような者にそのような事をしてはなりません」
「いや、これでも足りない位だがな。しかし正直俺達も時間がないので礼は改めさせてもらおうと思う。それで、率直に聞くが、あなたはなぜこんなところに一人でいるんだ?」
「お恥ずかしながら、今まで仕えておりましたフロキル王国の近衛騎士を解任されまして・・・間も無く独り立ちできる予定の家族に少々金子を送ろうかと・・・」
「なぜあなたの様な優秀な・・・いや、あそこは実力ではなくいかに上に媚び諂うかが優秀か否かの判定基準だったな。なにか護衛対象の機嫌を損ねたと言ったところか?」
「その通りでございます。ロイド様はご存じでしょうか?あの伝説の六剣のうち二つが抜けた事を。すでに王都では大騒ぎになっており、自称魔族討伐の王子もあの洞窟へ出向いたのです。そして私が抜剣の任を仰せつかりましたが簡単に抜ける物ではなく・・・希望を叶えられずにその場で解任されました」
「相変わらずで嬉しいぞ。心置きなく復讐できるからな。逆に善人になってしまっては困る。しかしアルフォナ、この三階層に来るまで魔獣はほぼいなかったと思うが、少なくとも階層ボスは討伐したのでいい金額を稼いだんじゃないか?」
「はい、金額についてはわかりかねますが・・・既に送った金貨と今回の魔獣の金額を合わせれば独り立ちするには十分だと思います」
「それで、そのあとはどうする予定だ?」
「ユリナス様に頂いた私の唯一の武器もこのような状態ですし、一旦ユリナス様の冥福を祈りに埋葬されている地を目指そうかと思います」
「そうか、そこまで母を想ってくれて俺としては嬉しい次第だが・・・残念ながら母は埋葬はされていないし、埋葬される予定の地も場所はわからないだろう?」
・・・ヨナを除いて誰も知らないはずだ・・・
「おっしゃる通りです」
ズーン・・・と音がしそうなほどに落ち込んで下を向いてしまったアルフォナ。
「そこで相談だ。今俺達は母さんを襲った魔族に連なる者、そしてあの惨状を間接的にでも作り出した第三防壁内部の者達に復讐を計画している。もちろん近衛騎士であったアルフォナには復讐などとは許せない行為かもしれないがな。どうだアルフォナ?お前も俺達の仲間になる気はないか?」
落ち込んだ顔を上げて俺を見つめるアルフォナ。しかし、数秒の後に迷いなく返事をする。
応援ありがとうございます!
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