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 リスド王国に向かうため、今だ睡眠中のナユラ王女をヨナの<影魔法>で保護しつつ宿を後にする。



 明日の朝には<土剣>まで抜けてしまった六剣の洞窟が割れんばかりに騒がしくなるのは容易に想像できるが、見られないのが残念ではある。

 既に残っているのは<風剣>と<光剣>のみだ。



 きっとあのバカ王子も<光剣>を抜くのに必死になっているんだろうな。

 次の六剣所持者には、あのバカの前で抜いてもらうのも面白いかもしれない。



 そんな事を思いつつ、俺、ヨナ、アルフォナ、ヘイロン、そして<影魔法>で運ばれているナユラはリスド王国へ高速移動する。

 流石は神の化身である伝説の六剣だ。基礎能力が大幅に上昇しているので、移動速度も今までの比ではない。



 道中の魔獣も余程進路上で邪魔になっていない限り、無視して駆け抜ける。



 朝日が昇る頃には、進行方向に城壁が確認できる位置まで移動することができた。



「嬢ちゃん、そろそろ王女を起こしたほうがいいんじゃないか?」



 ヘイロンは第三者の気配を感じ取っているのか、ヨナを名前で呼んでいない。



「いえ、既に起きていますが移動速度が遅くなるのでそのままでいてもらいました」



 ヨナの言う通り、<影魔法>が解除された場所には既に起きている王女がいる。



「おはようございます皆さん。おかげさまでゆっくりすることができました。まさかこんなに早くここに帰ってくるとは思ってもみませんでした」

「王女さん、このままあんたが王城に戻ったとするとかなり身の危険があるんじゃないのか?時間がないから作戦を考えずにここまで来たが、今後どうする?」



「もし可能であれば、お兄様、第一王子を回復して護衛しつつ第二王子の排除ができればいいのですが・・・一旦皆さんは私の従者ということで城内に同行いただくことはできますでしょうか?」

「願ってもないが、もし悪魔と遭遇したら即戦闘になるぞ?それでもいいならついてこう。ロイド、それでいいな?」

「ああ、問題ない」



 基本的な行動は、経験豊かなヘイロンに任せておいた方が良い事は今までの経験からわかっている。



「では、申し訳ありませんがご一緒頂けますでしょうか」



 王女を先頭に城門まで歩くと、少し驚いた顔をした門番が一礼する。



「ナユラ王女様、このようなお時間に・・・何かありましたでしょうか?その者達は?」

「この方達は、道中私をお助けくださった冒険者の方々であり、今は暫定的ではありますが私の従者になっていただいております。くれぐれも粗相のないように」



「承知しました」



 門番は何やら魔道具を使用して城内の同僚?に伝言をしているようだ。



 そのまま入門すると、複数待機している馬車の中から一際豪華な馬車に全員が乗り、王城に向かった。

 その中で、王女は俺達にしか聞こえないような小さな声で囁く。



「実はあの門番も第二王子の配下です。私が無事に生還した事は既に第二王子に伝わっているでしょうから、申し訳ありませんが王城内では警戒度を上げてください」

「フン、どこの国にも腐った連中はウヨウヨしてるもんだな。俺はてっきりフロキル王国だけかと思っていたんだが・・・」



「いや、きっと母さんの祖国ではそんな連中はいないだろう」

「ユリナス様の母国に限って、そのような輩は決していないと断言できる」



 俺の囁きにアルフォナは激しく同意し、ヨナやヘイロンも頷いている。



「それで、第一王子やあんたの味方は王城内にいるのか?」

「う・・いえ、申し訳ありません。正直いないと思います。第二王子の勢力が強すぎて、私と第一王子の味方と言える者達は既に辺境に飛ばされています」



 成程、好都合だ。俺は思ったままを告げる。



「ナユラ王女、その状況はむしろ俺達には好都合だ。あの王城に今現在悪魔がいるとしよう。そこで戦闘になった時に味方がいると非常に戦いづらい。場合によっては人質を取られる可能性もあるからな。だが味方がいない状態ならば、周りを気にせず全力で排除することができるわけだ」

「そういわれるとそうですね。すべてが悪い方向ではないと思えてきました」



「そうだろう?それでどうする??第一王子のみ味方と考えると、王子自身が人質になる可能性が高い。俺達の実力を知られていない今のうちに、王子を保護する方が良いだろう。王城について即第一王子の元に行けるのか?」

「ええ、問題ないと思います。あれほど弱ってしまった王子に対して見張りもつけていないでしょうし・・・」



「あの、すみません。王女様の味方がいなくなってしまったこの状態で、本当にすみませんが・・・第一王子様を更に悪化させるような事はされていないのでしょうか?」



 おずおずとスミカが聞いている。



「それはきっと大丈夫でしょう。第二王子は、他国へのアリバイかどうかはわかりませんが、ここ数日の間は第一王子への他国からの見舞いを受け付けていましたので・・・それが終わってしまえば相当危険であると言えますが、まだ大丈夫のはずです」



「つまり、ただ単に体調が悪くなっているという事を他国に実際見て貰って、第二王子の手ではなく自然死である事を印象付け用としていると言ったところか?」

「はい、残念ながらそうです。ヘイロンさん」



 そう言いつつ、馬車は王城前に到着する。



「では、こちらです皆さん」



 王女の後ろについて王城内に入る。

 すると、俺の耳元に小さなスライムが飛んできた。



「ロイド様、テスラムでございます。この王城にも私の使い魔が多数おりますので、もし宜しければ情報をお伝えいたしますが如何でしょうか?」



 気配察知に長けているヨナとヘイロンは気が付いたようだが、殺気のないスライムなのでアルフォナとスミカ、そしてもちろん王女もこの状態に気が付いていない。



 俺はこのテスラムはどうしても悪い奴には思えないので、助力の申し出は素直に受け取ることにした。



「ああ、助かる。頼む」

「承知いたしました。今皆様が向かわれている第一王子の寝室には、この国に来ている悪魔が変化した状態のメイドが一名おります。おそらく王女様の無事な帰還の報を受けて用心のためにいると推測します。そして、肝心の第二王子ですが、こちらは国王の執務室にいる状態で動きはございません」



「その悪魔の戦力はわかるか?」

「第六階位の悪魔でございます故、六剣所持者の方々であれば取るに足らない相手でございます。特段気を付ける事も不意打ち以外はないでしょう」



「そうか、メイドが悪魔と分かった時点で不意打ちを受ける可能性はないからな。ありがとう。助かった。だが、なぜ俺達に有利な情報を教える?追い出されたとは言えお前の同胞だろう?」

「元同胞でございます。彼らは私の主の仇でありますれば・・・詳しくはまたお時間のある時にでもご説明させて頂ければと存じます」



 これからは会話をする余裕もなくなりかもしれないからしょうがないか。



 テスラムから来た情報を、さりげなく全員に伝える。



「それじゃあ王女の護衛は俺に任せてもらおうか。俺から離れるなよ?」

「よろしくお願いします。ヘイロン様」



「じゃあアルフォナも王女の護衛に回ってくれ。スミカは第一王子の回復、俺と闇は第一王子と回復中のスミカの護衛だ」



 一応第三者の目があるかもしれないので、ヨナの事は本名では呼ばない。



「悪魔は一体。もしロイド様や闇、そしてスミカ殿に向かった場合は王女の護衛はヘイロン殿にお任せしてもよろしいか?」

「ああ、その力存分に発揮して見せろ。・・・でいいなロイド?」



「大丈夫だ。それで頼む」



 会って間もないメンバーに背中を任せられるのだから、六剣の絆は素晴らしい。そう思いつつも第一王子がいる寝室に到着した。

 当然部屋の中には横たわっている王子と、テスラムの情報通りメイドの姿をしている者が一名いる気配がある。



 全員に目配せをすると、ナユラ王女が扉を開く。

 いよいよご対面だ。
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