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リスド王国と<光剣>(1)

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 俺はロイドだ。

 <風剣>所持者のテスラムさんのおかげで、俺達は今まで知り得なかった六剣や無剣の情報を得ることができている。



 その中には、以前軽く教えてくれた<無剣>の驚くべき特化能力の詳しい情報もあった。

 もちろん、<時空魔法>の話だ。

 全ての<六剣>が解放された時に、初めて顕現する力だが、今の俺は<光剣>所持者がいない状態なので、まだ使えるに至っていない。



 歴代<無剣>所持者でもこの力について知っているのは初代のみ。母さんの手紙にもその辺りの情報は書かれていなかったのは、母さんもこの能力については知らなかったからだ。



 その詳細は、時間を止めたり流れをゆっくりにすることができるが、残念ながら未来や過去に行くことはできないそうだ。

 更に、空間転移と空間収納も使えるようになる。空間収納に関しては指輪があるからあまり必要性を感じない・・・とテスラムさんに言ったのだが、指輪と違って生物も入れることができるらしい。

 しかし、強大な力を持つ者は空間収納自体を破壊する事が出来るみたいだが・・・



 そうすると、例えば多数の魔族や魔獣に囲われたとしても、無駄な戦闘をせずに全て空間収納にいれてしまう事が出来るわけだ。相手の力が弱ければだが。

 指輪とは違った使用方法ができるので、大いに活用できそうだ。



 当然収納された内部は時間の流れは制御できるらしいので、必要に応じて時間を経過させたり経過させなかったりしよう。



 俺の事情を全て知っているテスラムさんは、俺が空間収納の使用用途を魔族等の戦闘を回避するのに使うと言ったら、それ以上に素晴らしい案を提示してくれた。



「ロイド様、先代<無剣>所持者であるユリナス様は指輪の中にいらっしゃると思いますが、<時空魔法>を習得された暁には、そちらに移されるとよろしいかと思います。ロイド様はお好きな時に自ら空間収納内部に赴きユリナス様とお会いすることができます」



 この指輪の<無限収納>は、生者は入れることができない。だが<無剣>の<時空魔法>であれば俺も入ることができる。

 そういう事だ。



 流石は初代<風剣>所持者。俺の知らない知識を膨大に持っているのでかなり助かっている。



 そんな情報をテスラムさんから貰った後に、俺達は王城の豪華な部屋に呼ばれた。



 その部屋にはキルハ王子・・・いや、国王となったキルハ王、ナユラ、そして呼ばれた俺達が座っている。

 ナユラは、キルハ王就任の際に自ら王族から外れたのだ。



 本人曰く、

「私は今回の騒動で何の力にもなれませんでした。王国の危機であるにもかかわらず、王族としての義務を果たせなかったのです。今のままではまた同じことになってしまうかもしれなせん。なので、私は王族から外れ、厳しい環境に身を置いて自分を鍛えたく思います」



 だそうだ。

 キルハ王は、自らも同じだと言って引き止めたのだが、ナユラの意思は固かった



「まったくお前は、言い出したら聞かないのは誰に似たのだか?」



 キルハ王は、最後は諦めのセリフを吐いていた。







 彼らには今まで散々お礼を言われたので、今回呼ばれた理由は他の話があるからだろう。

 俺達の前には、相変わらずうまそうな匂いのする料理が並べられている。



「冷めないうちに食べようか」



 キルハ王の宣言でこの美味しい食事を頂く。

 この味に慣れてしまうと、いつもの生活に戻った時に食事に大きな不満が出そうで困るかもしれない・・・等と思っていると、キルハ王は本題を話始めた。



「ロイド殿、貴殿の話はテスラム殿からある程度聞かせて頂いた。我が国としても傲慢で責任感の一切ない現在のフロキル王国には辟易していた処だ。貴殿の祖国を悪く言ってしまい申し訳ないが・・・」



 テスラムさんには、六剣所持者である事を明かしたキルハ王とナユラには俺達の事情を話していいと伝えてある。



「いや、気にしないでくれ。俺も全く同感だからな。いや、むしろキルハ王が思っている以上に俺はあの国の連中が嫌いだ。俺が活動していた第四防壁の仲間は別だが、それ以外は復讐対象でしかない」

「そうか。そこで提案があるのだが。今回妹のナユラが王族から外れた事も関係がある」



 キルハ王は、心配そうにナユラを見ている。

 自分と血の繋がりがあり、信頼ができる者はナユラだけになっているようなので、仕方がないだろうな。



「今回の悪魔襲撃で、我らの防御が非常に甘いことが浮き彫りになった。もちろん騎士達の練度も上げるための鍛練を行っているが、それだけでは不足だと思っている。そこで、ロイド殿が活動していた冒険者達をこの国に勧誘したいと思う。更にはリスド王国の活性化の為、ロイド殿が信頼できるであろう第四防壁の住民全ても受け入れる準備がある。どうだろう?」



 思いもよらない提案だ。だが、即位したばかりのキルハ王が考え付くことではないだろう。

 宰相はいるにしても、まだそこまで意思疎通はできていないはずだ。



 とすると・・・

 俺はテスラムさんを見ると、微笑みながら頷いている。



 やはり彼か。

 実はこの案を受け入れると、俺達、そしてリスド王国双方にメリットがある。



 俺達にしてみれば、復讐対象国家であるフロキル王国内部にいる味方を避難させることができる事。そうすれば、復讐時に余計な心配をせずに全力で仕掛けることができる。



 更にはフロキル王国の住民や冒険者がいなくなることにより、国家としての税収減少や、魔獣討伐による素材の入手量の激減、その他の雑務が完全に滞る為、あの国に経済的にもダメージを与えられる。



 一方彼らリスド王国にしてみれば、住民移住によって国家の活性化、そして彼らが持つ技術や技能、そして冒険者の戦力を国家の物とできるのだ。



 俺は、俺についてきてくれている仲間を見る。

 テスラムさん、ヘイロン、アルフォナ、ヨナは大きく頷く。



 スミカは・・・口の中に大量の料理を入れた状態で苦しんでいる。無駄に<回復>を自分にかけている状態だ。ホントにこいつは!!



「わかった。双方にメリットがあるな。その案、乗らせてもらおうか」

「それはありがたい。第四防壁の市民の住居はヒルア配下の者達が使っていた場所や、悪魔によって滅された者達の場所を提供しよう」



 ヒルア第二王子は悪魔の助力を得るために、あろうことか一部の市民を生贄に差し出していたのだ。

 生贄にされていた町は大幅に住民を減らしている。そこに移住者をあてがうという事だ。

 とすると、いつ実行するかだな。



「移住は即実施しても問題ないのか?」

「幸か不幸か、住居は使用できる状態なので問題ない。可能な限り迅速にお願いしたい」



 俺としても、あのような国に仲間を置いておきたくはない。それに、悪魔の情報はテスラムさんから得ることができるようになったので、俺自身もあの国に身を置く必要はなくなった。



 だが、ここリスド王国とフロキル王国は、馬車で3日程必要とする距離になっている。

 俺達であれば一瞬だが、俺達が全員を運ぶわけにはいかない。



 テスラムさんによれば、1000人程が第四防壁内部に住んでいる。

 本来はもっと多い人数がいても不思議ではないのだが、フロキル王国に既に見切りをつけた者は既に出て行っているし、今住んでいる者達は第三防壁より内部のやつらに搾取されているので、第四防壁内部の人口は減少する一方だ。



 移住対象者には高齢者も存在するので、馬車で三日は少々厳しいかもしれない。



「健康な者、力のある者、冒険者達は馬車や徒歩で移動するにしても、その他については馬車を使用することになると思う。だが、一部は三日も馬車に乗ることができない人々もいるだろう。道中の護衛も必要だが、そこは支援してもらえるのか?」

「もちろんです。いや、もちろんだ。護衛には訓練も兼ねて騎士を派遣させる予定になる」



 キルハ王は、王としての威厳を出すために話し方を変えている最中らしいので、時々柔らかい言葉が出て来てしまう。

 俺達は必死に取り繕うキルハ王を生暖かい眼差しで見つめている。
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