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リスド王国と<光剣>(3)

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 六剣の残り一本である<光剣>所持者も決定した。



 彼女の地力については、スミカの<回復>によって強制的に回復させつつ自らの力で上げて貰うことになる。

 この工程を行う事により、スミカ自身の能力向上にも繋がる。



 リスド王国からフロキル王国に向かう途中に六剣の洞窟は存在するが、俺達はその時フロキル王国で移住についての指示や準備に追われているので、逆にフロキル王国からリスド王国に移住者と一緒に移動中に立ち寄って抜いてもらおうかと思っていた。



 この案をテスラムさんに相談したら、やんわりと否定されてしまった。



「その場合、ヨナ殿の力で洞窟周りの面々を眠らせたとしても、移住者の目撃は避けられないでしょう。余計なトラブルになる可能性も捨てきれませんので、我らだけで行動した方が良いと思います」



 つまり、六剣所持者として俺達は明るみになってもしょうがないが・・・いや、何れ力を完全に使いこなせるようになり、悪魔を討伐し始める際には、彼らに恐怖を与えるためにも情報は公開するつもりだが、それ以前にナユラが不要な疑いを第三者から受けるのは良くない・・・と言っているのだ。



 やり方によっては、目撃者なく抜剣出来るとは思うのだが、万が一があるといけないので素直に従っておくことにした。



 今俺達は、俺の家に集合している。

 ヨナ、ヘイロン、テスラムさんだ。

 スミカとアルフォナ、そしてナユラは移住のための馬車をかき集めている所だろう。



 今回の移住に関してフロキル王国第四防壁内の仲間に広めるために、どの様にするかを考えている。

 とは言え、テスラムさんはこの国の情報は得ているが、この国の面々はテスラムさんの事は知らないので、彼にはこの場に残ってもらって情報収取とその展開をお願いした。



 正直俺達の力があれば一軒一軒回っても十分に対応ができるつもりだが、どこかの家で立ち話好きな人につかまってしまったら間に合わなくなる可能性がある。その為、道行く人に伝えることにした。

 これであれば、その人が帰宅する途中で情報をばらまいてもらう事ができる。

 その情報は当然テスラムさんは得ることができる。

 更に、情報が誰に伝わったかについてもテスラムさんが情報収集し、まだ情報を得ていない者を俺達に知らせる。



 こうすることにより、1000人程度に情報を広めるには大した時間を必要とせずに拡散させることができる。

 もちろん第三防壁内部の人間やギルドの人間には情報を渡さないように付け加えておくが、こんなことは言わなくとも彼らは理解している。だが、念のためだ。



 全ての確認が終わって、俺、ヨナ、ヘイロンは町に繰り出す。

 ヨナに関して言えば、<闇魔法>で認識阻害をかけているが、ヨナ本人を認識できない状態ではなくヨナの素顔等を認識できないようにしているだけだ。

 長い間この状態で第四防壁内で活動していたので、この姿のヨナは多数の人間に認知されている。



 三人が分かれて、早速情報を拡散し始める。



 万が一の第三防壁より内側や、ギルドへの情報漏洩に関しても、テスラムさんが監視している。

 <無剣>の力を使って辺りを<探索>してみると、膨大な数のスライムの存在を探知することができる。

 これであれば、情報を取り逃すことはないだろう。



 俺とヨナ、そしてヘイロンはテスラムさんの指示に従い移動し、情報を拡散し、移動しを繰り返す。

 やがて二時間程したころ、一旦帰還の指示が出た。



「テスラムさん、どうした?まだ二時間しかたってないぞ?」

「戻ったぞ。皆移住を喜んでいたな。いや、この国を出られることを喜んでいたな」

「戻りました」



「皆様お疲れさまでした。既に情報が伝わっていない方は数名のみとなりましたので、帰還頂きました。その数名も・・・既に情報を得たようですな」



 こんなやり方もあるのだ、と感心した。



「情報漏洩も今の所ございません。この国の民はよほど扱いが良くなかったのですな。冒険者達もギルドにはいきますが、一切情報は漏らしておりません」

「そうだ、出払っている冒険者はどうする?」



 ヘイロンが思い出したかのように叫ぶ。



「ん、問題ないです」

「なんだ嬢ちゃん、もしかしてお前がもう伝えているのか?」



 コクリと頷くヨナ。



「ええ、ヨナ殿には私のほうから城壁外にいる方々に情報を直接伝えて頂きました」

「くぁ~、流石だな。今では俺が戦略的な物を練っていたが、これからはテスラムさんが担当した方が効率的だな」
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