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リスド王国と<光剣>(5)

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 このクズ兄は、六剣であればどの属性でも構わないんだ。

 名声と、労せずに尋常でない力を得ることができるので、手に入れたいだけだ。



 まさか、この場にいる俺達全員が伝説の剣の所持者であるとは一切思っていない、いや、思えるはずがない。



 そう考えると、滑稽に思えてざわついた心が少し落ち着いてきた。



「貴様は地べたを這っているのがお似合だ。お前の母であったあの使えない女の最後と同じようにな」



 そう、最後のこの言葉を聞くまでは・・・



 気が付いたら、俺はあのクズ兄を殴り飛ばしており、ヘイロンとヨナ、テスラムさんまで追撃している。

 しかし、かろうじて手加減はできているので死んではいない。



 ここで殺してしまうと、三日後の移住に障害が出ることは間違いないので何とか堪えることができた。

 いや、こんなにボコボコにしてしまったので、既に移住には多少なりとも支障が出る可能性があるのは否定できないが。



「貴様ら何をしている。あろうことか偉大なる魔族討伐の大英雄であるゾルドン王子に対するその所業!!貴様らはフロキル王国での冒険者を剥奪する。今すぐにギルドカードを出せ!!」



 このギルドで発行した身分証明書にもなるギルドカードを没収し、更には完全に冒険者資格すらも剥奪すると、腰巾着であるギルド長であろう男は騒いでいる。



「フン、良いだろう。こんな物は俺達には必要ない」



 そう言って、ギルド長の顔にギルドカードを叩きつける。

 もちろんヨナ、ヘイロンもだ。



 残念ながらテスラムさんは初めからギルドカードは持っていない。



 ギルト長としては、予想もしていない俺達の行動にわなわなしている。

 こいつは、俺達が泣いて謝ることを想定していたんだろう。



「なんだ、ロイドがカードを返すなら俺もいらねーな。そもそもあいつは震えていただけでお荷物にしかなっていない。あいつのせいでユリナスさんは死んだんだ。人質になって震えていただけの癖に魔族討伐をしたなんて平気で言い続けることができる神経が理解できねーな。そんな奴にヘーコラ尻尾振ってるお前も気に入らねー」



 既に移住を決意している冒険者達は、口々に同じことを言いながら自分のカードをギルド長に投げつけている。



「な、おい、お前らまで何をする。私が資格を剥奪したのはこいつらだけだぞ!」



 そう言って俺達を指さすが、更にこの場にいる他の冒険者からも同じようにカードを投げつけられている。



「良いのかお前ら!このカードがないとこの国での冒険者活動は一切できないんだぞ!!」



 ギルド長を含むギルドの連中は、冒険者達が全員移住する事を知らないので未だに強気だ。

 だが、これ以上あいつらを煽ると更に移住に障害が出かねない。



「それくらいにしておいてくれ。今後に差し障る」



 一応俺が注意を促すと、真意を理解してくれたのかカードを投げつける行為は一旦止まった。

 しかし、カード自体はギルド長ではなく、このギルドの壁に向かって放り投げている。



「あ~あ、ここにいても達成できそうもない同じ依頼しかないから暫くは休業だな」



 これ見よがしにある冒険者が大声で言いながらギルドを出ていく。

 言っていることは正しい。

 ほぼ全てが、六剣関連の依頼なのだ。達成できるわけがないだろう。



 他の冒険者も同調するような事を口にしながらギルドを後にする。

 とは言え、既にギルドカードを持っていないので依頼を受けることはできないのだが・・・



 残されたのは、ボコボコになって気絶しているクズ兄とギルド職員一同、そして俺達だ。



 俺達も長居する必要はないので、奴らを睨みつけた後にこの場を後にする。



「悪いロイド。思わず手がでた」

「ユリナス様をあのように貶めるとは・・・許せない」

「私も思わず手と足が出てしまいましたな」



 三人とも母さんのために怒ってくれていた。テスラムさんは足まで出していたらしい。



「ああ、俺も手が出たんだ。文句はないさ。だが、手加減してくれてありがとう」

「ロイド様、そうは言いましても私としてはこのやり場のない怒りをどうすればいいのか困っております。先代様を悪く言うなど・・・私が仕えた初代様の遺志を継ぐ人を貶めたのです。このまま済ますわけにはいきません。どうでしょう、あの王子とか言う者に目の前で絶望を与えるのはいかがでしょうか?」



「大いに賛成だが・・・どうすればいいんだテスラムさん」

「あの王子は異常に六剣に執着している様子でした。あの王子が決して持つことのできない六剣を目の前で見せるか、<光剣>を抜いて見せてはいかがでしょうか?」



「わざわざこのフロキル王国に来る途中で抜剣しないと決めたのは、目撃者があると要らぬトラブルに巻き込まれるからじゃなかったのか?」

「確かにその通りでございます。しかし、最早そんなことは言ってられませんな。多少魔王城の連中に情報が漏れたとしても、あの王子に絶望を与えることの方が重要です。念のためにヨナ殿の<闇魔法>で少々偽装しておけば対策になるのではないでしょうか?」



 テスラムさんとしては俺の母さんをバカにした事を決して許すことはできないらしく、話し方は落ち着いているが、あのクズ王子に対して絶望を与えなくては気が済まないようだ。

 俺としても母さんのためにここまで言って貰えて嬉しいし、実施する内容に依存はない。



「そうか。俺としてもテスラムさんの案を採用させてもらいたいが、みんなはどう思う?」

「良いじゃねーか。大賛成だぜ。嬢もそう思うだろ?」

「もちろん!」



「向こうも賛成のようですな」



 アルフォナとスミカにもテスラムさんが確認してくれた。



「今回は、ナユラが抜剣するところを目の前で見せようと思う。俺達もその場にいてあいつの無様な様子をこき下ろしてやる予定だ。ただし、安全のためにナユラはヨナの<闇魔法>で少々顔の認識を変えておく。それでいいか?」



 全員頷く。

 向こうも反対はなさそうだ。



「だが、どうやってあのクズに抜剣の場面を見せるんだ?」

「当然の疑問だなヘイロン。だが、あの依頼書を見る限り、あのクズは<光剣>を諦めることは無いだろう。六剣の洞窟を監視しておけば、近いうちに現れるのは間違いない。そこを急襲すればいいだろう」

「では、監視については私の眷属にお任せください。それにしても楽しみですな。<六剣>が揃い<無剣>が完全開放される事、更にはあの王子の無様な姿が見られるのです。フフフ」



 テスラムさんの黒い笑顔が少々怖いが、実際に俺も楽しみだ。



 ギルドでの怒りを完全に抑えることに成功した。

 もしかしたら、テスラムさんはこれを狙って提案してくれたのかもしれないな。



 ギルドを出て残り少ないフロキル王国での散策を楽しむ。







 一方、ボコボコにされたゾルドン王子は、ギルド長が持ってきた高級ポーションにより完全復活した。

 もし、このポーションを惜しげなくユリナスに使用すれば、彼女の命は助かったに違いない。



「おい、ギルド長!あのクズ共はどうした?この魔族討伐の実績ある高貴な俺に対して手を上げるなど言語道断だ。冒険者資格の剥奪は当然として、この俺様直々に罪を裁いてやる。すぐに冒険者共を使って奴らを捕獲しろ」

「承知いたしました」



 ギルド長は恭しく一礼すると、ロイド一行捕獲の依頼書をボードに張り出すとともに、レベルの高い冒険者に指名依頼を行う手続きを開始した。

 その様子を見たゾルドン王子は満足したようだ。



「おい、あいつらを捕獲したらすぐに王城に連絡を寄こせ。わかったな」



 そう言い残して、ゾルドン王子は王城に帰還していく。



「ふぅ、嵐の様だったな。だが、ロイドの奴・・・いやヘイロンもいたな。あいつらこのフロキル王国では活動できない状態だから、出国するかもしれんな。門番に伝えておくか」



 変な所で頭が良いギルド長はすかさず門段に連絡を入れつつ、冒険者の到着を待つ。

 普段であれば、この時間でもある一定の人数は必ずギルド内にいるのだが、今日は一人もいない。

 期待している高ランクの冒険者も未だに現れないが、こんな時もあるか・・・程度にしか思っていない。



 このギルドに二度と冒険者は現れないのを知る事になるのは、もう少しだけ時間が必要だ・・・
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