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ゾルドン王子の醜態

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 <光剣>の洞窟に入った時点で、俺達の存在は一切隠していない上にお茶まで啜ってるんだから、そろそろ気が付いてくれてもよさそうな所だが、その気配は一切見えない。



 あいつらときたら、全く同じ行為の繰り返しで捻りがないので、飽きてきたのが正直なところだ。



 ここにいる他の面々も同じような感想を持っている。



「ロイド、あいつら学習能力がないのか?一切障壁にダメージを与えられていないこと位わかるだろう。俺なら、攻撃方法を変えるとか、魔術に対しての知識が深い者を呼ぶとか、元から防壁を問題なく超えられそうな者を呼ぶけどな」

「そこまで知恵が回らないのがあいつ等なんだよ」

「私が所属していた時と同じだ。あの中では唯一防壁を超える事ができたのが私なので、ひたすら私に抜剣を命じていただけだったな」



 そういえば、アルフォナはあのクズ兄と一緒に<六剣>の洞窟に来ていたんだったな。



「ロイド様、お茶の時間も十分とれたので、皆様の喉も潤った事かと思います。見学当初は少々滑稽で楽しめましたが、余りにもレベルが低すぎて飽きるのも早かったですな。どうでしょう、ここらでこちらか存在を明らかにしてみては?」

「俺もそう考えていたところだよ、テスラムさん。いや、この目で実際に見ると・・・ここまで酷いとは思わなかったんだ」



 だが、ヨナはもう少し楽しむ方法があると言うので、その案を聞いてみた。



「一旦全員六剣を顕現させるのはいかがでしょうか?そうすれば<光剣>の宝玉が更に大きく輝くはずです。それを見たあのクズ達は、<光剣>が自分たちの呼び声に応えたと勘違いして更に面白い行動をするのではないでしょうか?」

「「流石お姉ちゃん!!」」

「そうでもない」



 スミカとナユラは絶賛している。

 それに対するヨナの返事は少し冷たい感じはするが、スミカとナユラに対しては大体こんな感じだ。

 年齢の近い同性が仲間になり、姉と慕ってくれているので、いまだにうまい距離間が掴めていないのだろう。なんだか可愛らしい一面を見られることができて嬉しい。



 ヨナの案に一同が頷き、<六剣>所持者が全員変形状態ではない剣を顕現させた。

 俺の<無剣>は、今の所顕現させていない。

 <無剣>の存在は伝承に残っているが、その状態を見た事が有る者はあまりいない。

 フロキル王国では母さんが顕現させて戦闘をしていたが、あんな状態だったので誰も剣に目は行っていなかっただろう。

 そう考えると、顕現させても意味がないと思ったのだ。



 そして、それぞれの剣を各自の目の前の地面に突き刺し、柄の上に両手を乗せて待機する今代六剣所持者達。

 <闇剣>のヨナ、<炎剣>のヘイロン、<風剣>のテスラム、<土剣>のアルフォナ、<水剣>のスミカ。

 ここに間もなく<光剣>のナユラが加わる。



 目の前で封印されている<光剣>を含めて、全ての宝玉が激しく光り輝く。

 すると、ヨナの思惑通りにクズ共の動きに変化があった。



「おい、見ろ!!あの宝玉の激しい光を!!ようやくこの俺、魔族討伐の英雄であるゾルドンを認めたか!!!」

「なんて美しい剣だ!流石はゾルドン王子!!この状態であれば、防壁を超えることができるかもしれませんな!!ひょっとすると、あきらめない強い心があるかを試していたのかもしれません」



「そうだな。その通りだ。良く言った近衛騎士隊長。お前は状況を把握する能力に長けているようだ。俺が<光剣>所持者になった暁には、更なる地位を約束しよう」

「ありがたき幸せ」



 テスラムさんが一切姿勢を変えないまま、<風魔法>を使用してお茶のおかわりを配ってくれる。

 <六剣>の柄に手を置いていた者達は、柄から手を放してお茶を受け取りつつ、目の前で繰り広げられている新たな喜劇の第二ステージに夢中だ。



 ちょっとしたスパイスを与えることで新たな展開を生み出切る事を提案したヨナのファインプレーだ。



 少し横を見ると、全員お茶を飲みながら更なる新たな展開に期待をしている目だ。まぁ、俺もそうなのだが。



 そこに、いよいよ真打が御大層な演説を始めた。



「良いかお前達、お前達は伝説の<六剣>の一つである<光剣>の封印を解き、所持者となる奇跡的な瞬間の目撃者となれるのだ。心して見るがいい!!最近<六剣>は立て続けに抜かれているが、これは魔王との戦闘に向けて<六剣>が真の所持者に巡りあったためだ。そして、いまだに残り続けている最後の一本である<光剣>!!我がフロキル王国で最も重要とされている基礎属性の<炎>と<光>の内の一つを司る物だ」

「「「「「おぉ~」」」」」



 ざわつく近衛騎士達。



 無駄に手を胸の前で大きく広げて、自分の言葉に酔いしれているように見える。

 クズ兄の立ち位置は、<光剣>が封印されている石を背にして洞窟の入口を向いている。

 そして、目の前にいる騎士達に演説をしているのだが、ちょっと注意すれば俺達の存在に気が付くはずなんだが、一切気が付く様子がない。

 あいつの頭の中では<光剣>所持者になる事で一杯になっており、それ以外は一切見えていないんだろう。



 どこからそんな無駄な自信がわいてくるのかわからないが、本当に面白くなってきた。



「今から<光剣>に認められたこのゾルドンの奇跡に刮目せよ!!!」



 そう言って、ゾルドンは踵を返して全力で<光剣>の石に向かって走り出した。



「さあ、今こそこの英雄である俺の元に来い!!」



 こんなことを言いながらだ。恥ずかしいったらない。



 雰囲気にのまれたのか騎士達のテンションも最高潮である一方、俺は少々恥ずかしさを覚え、他の面々は爆笑している。

 こんな状態でも、異常なテンションであるあいつらには気が付かれることはない。



 そして、大した距離もなかったゾルドンは当然のごとくあっと言う間に防壁に弾かれる。



 ドン・・・「ぐぎゃ」



 自分の走った勢いがそのまま無防備な体に帰ってきたので、弾き飛ばされて仰向けに地面に横たわっている。



 いや、なんでそんなに無駄に自信満々なんだよ。本当に問題なく防壁を通れると一切疑っていなかっただろうこの状況に、更に恥ずかしくなる俺。そして、更に爆笑する面々・・・



 近衛騎士はゾルドンの醜態を見て一気に静かになったので、流石に大爆笑の面々に気が付いた。



「グハハハハ、苦しい、おいスミカ!!フハハハ、俺を<回復>してくれ。苦しすぎる。ハハハ、”英雄である俺の元に来い”だってよ。俺もしっかりと”刮目”しちゃったよ!!ギャハハハ」

「ちょっと!フフフフ、止めて下さいよヘイロンさん。フッフフ、そんなんで<回復>なんてかけてもすぐにまた同じ状況になるでしょう?でもそのセリフの後、”キリッ”って音が聞こえませんでした?」

「おい!!スミカ!!ふざけんなグハハハハ、笑いすぎて死んじまうだろ!!!!ギャハハハ」



「いや、しかしあの不思議な程の自信の持ちように関してのみは、騎士道精神に通じるものがあるな。己を信じる強い心だ。だが、実際に聞こえた音は”キリッ”ではなく”ぐぎゃ”だったがな」

「クク、アルフォナ殿中々良いことを仰いますな。ですが、結果がアレでは少々騎士道精神とは言い難いのかもしれませんぞ」

「なんだかすごい物を見させて頂いた感じです。力、権力に溺れる者の末路なのでしょうか?私は決してこのようになってはならない、いえ、決してならないと改めてここに誓います」



 ナユラだけは未だ<六剣>所持者になっていない上に、これから目の前で抜剣を行う工程が残っているので少々真面目なコメントだ。いや、アルフォナもか?



 だが、俺の仲間である<六剣>所持者達の話を聞いて、恥ずかしく思っていた気持ちもなくなった。

 きっと、俺の中で少し、ほんの少しだけあいつを身内と認識してしまっていたからだろうが、完全に吹っ切れた。



 いよいよ復讐の始まりだ。
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