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ゾルドン王子、謁見の間に到着する
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「クソ、クソが~、」
俺は全力で宝物庫から走り去り、謁見の間に向かう。
途中の置物などに八つ当たりをしたいところだが、国王から睨まれる可能性があるので、貴族と言っても下っ端の子女でありこの王城に勤務しているメイドに当たっておく。
「邪魔だ。どこ見て歩いている」
俺の怒りに触れたくないのか、素早く壁際に寄り非礼を詫びてくる。
「大変申し訳ございませんでした。ゾルドン王子」
本来、未来の国王で英雄である俺に対する態度はこれが普通、いや、これでも足りないくらいだ。しかし、さっきまではどうだ?
思い出してイライラが止まらない。
くそが、今は片腕を失っているおかげでうまく全力で走り切ることができない。
そのことが、俺のストレスをより一層高めている。
なぜこの魔族討伐の英雄であるこの俺様が、このような無様を晒さなくてはならない。
難なく<光剣>を抜剣して英雄の地位を確たるものにするはずだったのが、どこから表れたのか、基礎属性を持たずにこの王家を追放された奴が姿を現した。
あろうことか、俺達が何の力も持つことのできなかったと思っていたクズが、実際は最強の剣の<無剣>の所持者だったのだ。
あの現実を目の当たりにしてしまった以上、腸が煮えくり返るが、この事実だけは認めなくてはならないだろう。
とすると、英雄であるこの俺が<炎剣>だけでなく<光剣>すら抜剣できなかったのは理解できる。できてしまう。
伝説の<六剣>は<無剣>に従っているのだ。
つまり、<無剣>所持者があのクズである以上、俺を含む王族達には<六剣>をもつ資格は与えられないのだ。
クソ、あのクズが<無剣>所持者であるとわかっていれば、追放などせずに洗脳等やりようがあったのだが・・・当時の対応が非常に悔やまれる。
ようやく謁見の間の入口に辿り着いた俺は、入口を固めている近衛騎士に発見される。
「ゾルドン王子、どうなされた?その腕は??王子は魔獣討伐に出かけられていたのでは・・・さすがの王子でもこの量の魔獣は対応できなかったという事か・・・」
後半は俺に聞こえないように呟いていたようだが、しっかり聞こえているぞ。
だが、俺は反論しない。
実際は<光剣>の洞窟に行って必死で抜剣を試していたなどと言おうものなら、俺の運命は火を見るよりも明らかだからだ。
今この謁見の間にいる連中は、高位貴族がほとんどだろう。
ここぞとばかりに、自分の地位を上にあげるべく・・・そう、つまり俺の地位を下げるべく攻撃してくるに違いない。
俺の配下である貴族もいるとは思うが、今の俺の状態を見た瞬間に手のひらを反す可能性もある。
今まで、散々俺も奴らに同じことをしてきたので、あいつらの考えなど手に取るようにわかる。
俺にしてみれば、高貴なるこの俺についてこられるか選別する必要がある為に行った行為だが、崇高な考えを理解できる人材はいやしないだろう。
すると、どう切り抜けるかという事だが、そんなことは簡単だ。
俺の素晴らしい頭脳をもってすれば、この様な状況は危機でもなんでもない。
まずは、入口に陣取っている使えない騎士に伝えておこう。
「案ずるな。俺と同行していた騎士の命を救おうとした名誉の負傷だ。流石の俺でも残念ながら騎士達の命は救えなかったが・・・俺が腕を失った事より、忠実な部下を失った事が悔やみきれない」
「流石は英雄。感服いたしました。ご報告があるのでしょう?どうぞご入室ください」
何やら感動しているようだ。実際チョロいもんだ。
大きく扉が開かれると、全員の視線がこちらを向く。
一瞬期待の目を向けるが、俺の右腕に視線を移すと皆驚愕の表情をしている。
「まさか、あの魔族討伐の英雄であられるゾルドン王子でさえも・・・」
「緊急事態、いや、異常事態ではないか!」
途端に騒がしくなった謁見の間だが、国王が一括する。
「静まれ!ゾルドンよ、その状態を見るに完全に魔獣共を討伐することはできなかったようだな」
「はっ。身命を賭して任務にあたりましたが、近衛騎士達も全滅です。私は身内ともいえる近衛騎士を助けるべく少々無理な動きをして不覚を取ってしまいました」
そう言いつつ、失ってしまった右腕の肩口をさする。
奴らは痛みを取り除いたままにしてくれていたので、痛みに邪魔されることなく思った事を言うことができる。
ここだけはいい仕事をしてくれたと思う。だが、片腕を失った原因はそもそも奴らのせいなのだ。
英雄の片腕を奪っておいてこのままで済むとは、さすがの奴らも思ってはいないだろう。
「うむ、流石は英雄たる我が息子だ。近衛騎士を助けるために体の一部を失うことなど、そうそうできる事ではない」
「その通りでございます。ですが、実際の所魔族討伐の英雄であらせられるゾルドン王子でさえこのような状態になってしまっては、最早打つ手がないのでは?」
「フハハ、公爵よ、案ずるな。良いか?今現在の報告によれは魔獣共は第五防壁の内部にこそ侵入しているが、あの陳腐な第四防壁すら突破できていない。そして、我らがいるここはどこだ?最も屈強な第一防壁内部の王城だぞ?ドーンと構えて対策をゆるりと考えれば良い」
「さ、流石でございます。先ほどまでは我らの醜態を国王の眼前で繰り広げてしまい大変申し訳ない」
こいつらの事だから、誰が戦闘を行うかで揉めていたに違いない。
だが、父上たる国王の言う通りだ。
ここはどこよりも屈強な第一防壁内部なのだ。
以前、あの基礎属性のないクズと思っていた奴の母親が魔族と戦った場所ですら第四防壁内部。つまり、第三防壁を超えてこなかったことになる。
魔族も第三防壁の屈強な防御力に恐れをなして、あの場で戦闘を始めたに違いない。
流石は我がフロキル王国だ。
続く国王の言葉に、一瞬俺は冷や汗を搔く。
「万が一第三防壁内部に侵入された場合には、商人の安全を守るために我が国王直属の騎士を出動させる。万全を期すために国宝よりいくつかのドロップアイテムを貸与しよう。当然貴公らにも出兵を願うことになるが、異存はないな」
まずい。国宝の中身は空っぽだ。
しかし、ここで俺がそのことを報告するわけにはいかない。
なぜ俺がそんな事を知っているか疑われるし、事実としてクズが侵入して根こそぎ持っていった事を伝えたとしても、なぜ止められなかったのか、なぜ俺が宝物庫にいたのか、疑われることは多数あるので、口にするわけにはいかない。
だが、あのクズ共の情報はある程度伝える必要がある。
この辺りのストーリーも出来上がっている。流石は英雄に相応しい頭脳の持ち主だと言えるだろう。
討伐中に邪魔をされたことにすればいいのだ。
俺と近衛騎士が、国王の指示通りにフロキル王国周辺に湧き出した多数の魔獣を討伐している最中、悪魔を引き連れて俺達の邪魔をした。
実際に奴ら一行の中に、悪魔がいるとは思わなかった。
本来、悪魔の頂点たる魔王を討伐するための伝説の剣である<六剣>所持者に悪魔がなっているとは露ほどのにも思っていなかったが、奴らの口から出た言葉なので、真実に違いない。
とすれば、真実を織り交ぜることにより、俺達の魔獣討伐に対する障害行為を行ってきたという俺の発言の信憑性が増す。
更には、ここにいる貴族共の共通した明確なる敵として認識されることになるのだ。
宝物庫の一件については、何れ表に出てしまった時に、きっと奴らが奪っていったという事にすれば俺の関与は一切疑われないだろう。
そう、俺が疑われることなどあってはならないのだ。
俺は英雄だぞ。
それに、ここにいる高位貴族共は、少なくとも王族と同レベルの騎士を多数抱えている。
王国の危機となれば、否が応でも出兵せざるを得ない。
現実的に、今この場で国王より出兵の要請を受けており、断っている者はいない。いや、当然断れないのだ。
そうすれば、俺自身が剣を振るうなどと言う余計なことはしなくて済む。
高位貴族と王族の近衛騎士を中心とした出兵だ。
あの程度の魔獣の群れなど襲るるに足らんだろう。
俺は全力で宝物庫から走り去り、謁見の間に向かう。
途中の置物などに八つ当たりをしたいところだが、国王から睨まれる可能性があるので、貴族と言っても下っ端の子女でありこの王城に勤務しているメイドに当たっておく。
「邪魔だ。どこ見て歩いている」
俺の怒りに触れたくないのか、素早く壁際に寄り非礼を詫びてくる。
「大変申し訳ございませんでした。ゾルドン王子」
本来、未来の国王で英雄である俺に対する態度はこれが普通、いや、これでも足りないくらいだ。しかし、さっきまではどうだ?
思い出してイライラが止まらない。
くそが、今は片腕を失っているおかげでうまく全力で走り切ることができない。
そのことが、俺のストレスをより一層高めている。
なぜこの魔族討伐の英雄であるこの俺様が、このような無様を晒さなくてはならない。
難なく<光剣>を抜剣して英雄の地位を確たるものにするはずだったのが、どこから表れたのか、基礎属性を持たずにこの王家を追放された奴が姿を現した。
あろうことか、俺達が何の力も持つことのできなかったと思っていたクズが、実際は最強の剣の<無剣>の所持者だったのだ。
あの現実を目の当たりにしてしまった以上、腸が煮えくり返るが、この事実だけは認めなくてはならないだろう。
とすると、英雄であるこの俺が<炎剣>だけでなく<光剣>すら抜剣できなかったのは理解できる。できてしまう。
伝説の<六剣>は<無剣>に従っているのだ。
つまり、<無剣>所持者があのクズである以上、俺を含む王族達には<六剣>をもつ資格は与えられないのだ。
クソ、あのクズが<無剣>所持者であるとわかっていれば、追放などせずに洗脳等やりようがあったのだが・・・当時の対応が非常に悔やまれる。
ようやく謁見の間の入口に辿り着いた俺は、入口を固めている近衛騎士に発見される。
「ゾルドン王子、どうなされた?その腕は??王子は魔獣討伐に出かけられていたのでは・・・さすがの王子でもこの量の魔獣は対応できなかったという事か・・・」
後半は俺に聞こえないように呟いていたようだが、しっかり聞こえているぞ。
だが、俺は反論しない。
実際は<光剣>の洞窟に行って必死で抜剣を試していたなどと言おうものなら、俺の運命は火を見るよりも明らかだからだ。
今この謁見の間にいる連中は、高位貴族がほとんどだろう。
ここぞとばかりに、自分の地位を上にあげるべく・・・そう、つまり俺の地位を下げるべく攻撃してくるに違いない。
俺の配下である貴族もいるとは思うが、今の俺の状態を見た瞬間に手のひらを反す可能性もある。
今まで、散々俺も奴らに同じことをしてきたので、あいつらの考えなど手に取るようにわかる。
俺にしてみれば、高貴なるこの俺についてこられるか選別する必要がある為に行った行為だが、崇高な考えを理解できる人材はいやしないだろう。
すると、どう切り抜けるかという事だが、そんなことは簡単だ。
俺の素晴らしい頭脳をもってすれば、この様な状況は危機でもなんでもない。
まずは、入口に陣取っている使えない騎士に伝えておこう。
「案ずるな。俺と同行していた騎士の命を救おうとした名誉の負傷だ。流石の俺でも残念ながら騎士達の命は救えなかったが・・・俺が腕を失った事より、忠実な部下を失った事が悔やみきれない」
「流石は英雄。感服いたしました。ご報告があるのでしょう?どうぞご入室ください」
何やら感動しているようだ。実際チョロいもんだ。
大きく扉が開かれると、全員の視線がこちらを向く。
一瞬期待の目を向けるが、俺の右腕に視線を移すと皆驚愕の表情をしている。
「まさか、あの魔族討伐の英雄であられるゾルドン王子でさえも・・・」
「緊急事態、いや、異常事態ではないか!」
途端に騒がしくなった謁見の間だが、国王が一括する。
「静まれ!ゾルドンよ、その状態を見るに完全に魔獣共を討伐することはできなかったようだな」
「はっ。身命を賭して任務にあたりましたが、近衛騎士達も全滅です。私は身内ともいえる近衛騎士を助けるべく少々無理な動きをして不覚を取ってしまいました」
そう言いつつ、失ってしまった右腕の肩口をさする。
奴らは痛みを取り除いたままにしてくれていたので、痛みに邪魔されることなく思った事を言うことができる。
ここだけはいい仕事をしてくれたと思う。だが、片腕を失った原因はそもそも奴らのせいなのだ。
英雄の片腕を奪っておいてこのままで済むとは、さすがの奴らも思ってはいないだろう。
「うむ、流石は英雄たる我が息子だ。近衛騎士を助けるために体の一部を失うことなど、そうそうできる事ではない」
「その通りでございます。ですが、実際の所魔族討伐の英雄であらせられるゾルドン王子でさえこのような状態になってしまっては、最早打つ手がないのでは?」
「フハハ、公爵よ、案ずるな。良いか?今現在の報告によれは魔獣共は第五防壁の内部にこそ侵入しているが、あの陳腐な第四防壁すら突破できていない。そして、我らがいるここはどこだ?最も屈強な第一防壁内部の王城だぞ?ドーンと構えて対策をゆるりと考えれば良い」
「さ、流石でございます。先ほどまでは我らの醜態を国王の眼前で繰り広げてしまい大変申し訳ない」
こいつらの事だから、誰が戦闘を行うかで揉めていたに違いない。
だが、父上たる国王の言う通りだ。
ここはどこよりも屈強な第一防壁内部なのだ。
以前、あの基礎属性のないクズと思っていた奴の母親が魔族と戦った場所ですら第四防壁内部。つまり、第三防壁を超えてこなかったことになる。
魔族も第三防壁の屈強な防御力に恐れをなして、あの場で戦闘を始めたに違いない。
流石は我がフロキル王国だ。
続く国王の言葉に、一瞬俺は冷や汗を搔く。
「万が一第三防壁内部に侵入された場合には、商人の安全を守るために我が国王直属の騎士を出動させる。万全を期すために国宝よりいくつかのドロップアイテムを貸与しよう。当然貴公らにも出兵を願うことになるが、異存はないな」
まずい。国宝の中身は空っぽだ。
しかし、ここで俺がそのことを報告するわけにはいかない。
なぜ俺がそんな事を知っているか疑われるし、事実としてクズが侵入して根こそぎ持っていった事を伝えたとしても、なぜ止められなかったのか、なぜ俺が宝物庫にいたのか、疑われることは多数あるので、口にするわけにはいかない。
だが、あのクズ共の情報はある程度伝える必要がある。
この辺りのストーリーも出来上がっている。流石は英雄に相応しい頭脳の持ち主だと言えるだろう。
討伐中に邪魔をされたことにすればいいのだ。
俺と近衛騎士が、国王の指示通りにフロキル王国周辺に湧き出した多数の魔獣を討伐している最中、悪魔を引き連れて俺達の邪魔をした。
実際に奴ら一行の中に、悪魔がいるとは思わなかった。
本来、悪魔の頂点たる魔王を討伐するための伝説の剣である<六剣>所持者に悪魔がなっているとは露ほどのにも思っていなかったが、奴らの口から出た言葉なので、真実に違いない。
とすれば、真実を織り交ぜることにより、俺達の魔獣討伐に対する障害行為を行ってきたという俺の発言の信憑性が増す。
更には、ここにいる貴族共の共通した明確なる敵として認識されることになるのだ。
宝物庫の一件については、何れ表に出てしまった時に、きっと奴らが奪っていったという事にすれば俺の関与は一切疑われないだろう。
そう、俺が疑われることなどあってはならないのだ。
俺は英雄だぞ。
それに、ここにいる高位貴族共は、少なくとも王族と同レベルの騎士を多数抱えている。
王国の危機となれば、否が応でも出兵せざるを得ない。
現実的に、今この場で国王より出兵の要請を受けており、断っている者はいない。いや、当然断れないのだ。
そうすれば、俺自身が剣を振るうなどと言う余計なことはしなくて済む。
高位貴族と王族の近衛騎士を中心とした出兵だ。
あの程度の魔獣の群れなど襲るるに足らんだろう。
応援ありがとうございます!
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