75 / 125
フロキル王国、惨状の始まり
しおりを挟む
おいしい夕食を食べた後に、再び王城の俺の部屋に全員で帰ってきた。
都度全員が俺の部屋に来る必要はないと思うのだが・・・何故かいつの間にか集合場所が俺の部屋になっている。俺達には全員一人でいるには広すぎる部屋を与えられているはずなんだが・・・
「それではロイド様、そろそろフロキル王国に変化が見られ始めましたので、就寝前に少々映像をお楽しみください」
「こんなに早く変化が現れたのか?」
「その通りでございます。変化としてはわずかではございますが、この小さな綻びがやがて大きな亀裂となるでしょう」
「こいつら祝勝会?だか何だかをやってやがったんだよな。魔族討伐から二日目か?割と早く変化があったんだな。楽しみじゃねーか」
面白そうに映像を見ようとしていたヘイロンに、テスラムさんから思わぬ質問が浴びせられる。
「ヘイロン殿は、どのような変化が起こったか推測できますか?」
「え~っとだな。う~んと・・・スミカどうだ?」
「え!私ですか?えっと、皆さんお腹一杯で苦しんでいる・・・とかでしょうか?」
「そうか!わかったぜ!!ナイスヒントだスミカ!全員酔っぱらって大惨事!!!そうだろテスラムさん??」
残念な者を見るような目でテスラムさんに見られているスミカとヘイロン。
「まったく違いますな。アルフォナ殿はどう考えますか?」
「少々難しいが、彼らは備蓄の食料や飲料を出していた。その絡みのトラブルではないだろうか?」
ナユラは微笑みながら頷いている。
元王族であったので、常に頭を働かせていた経験があるナユラであれば、答えにたどり着くことができるのだろう。
「なかなかですな。ナユラ殿は既に理解しているご様子。今回は、状況の変化を推測できるようになるために敢えて質問させていただきました。アルフォナ殿のおっしゃる通り、彼らは備蓄の食料や飲料を出してまで盛大に祝っておりました。外部への連絡ができない上に来訪もない状態で、です。つまり・・・」
ここまで言われればわかるな。当初想定した通りなのだが・・・なぜヘイロンとスミカは理解できなかったのかが不思議だ。
今後食料や飲料は外部から一切入手することができない。にも拘わらず、魔族討伐と言う偉業と直近の恐怖から解放された喜びからか、後先考えずに全て放出してしまったのだ。
つまり、今から食料と飲料が不足する事態が起こると言う事だ。
「・・・と言うわけですな」
「「お~!!」」
テスラムさんの説明に対して感嘆するスミカとヘイロン。
ここまで言われてるまで、理解していなかったらしい。
「それじゃあさっそく見せてもらおうかな」
「承知しました」
いつもの通り、テスラムさんとヨナが飲み物を準備してくれる。
やがて、目の前にはいくつもの映像が映し出された。
ぱっと見は、ヘイロンの言う通り飲み過ぎた連中の大惨事が散見されるが、一部の高位貴族共や王族は青い顔をしているのが見えた。
決して飲み過ぎが原因の体調不良による顔色ではない。
「国王陛下、これは少々まずいことになったかもしれません」
謁見の間の映像には、宰相も青い顔をしつつ国王に報告を入れている。
「大失態です。このままでは食料は数日分の蓄えすらありません」
「第二防壁の貴族達も備蓄はあるだろう。かき集めろ!」
「いえ、それが今回その貴族達も喜びのあまり備蓄を放出しておりまして・・・」
「宝物庫の中身もなければ、食料の中身もない・・・魔族襲来の前に自滅する可能性すらあると言う事か」
宰相と国王は苦い顔をしてお互いを見ている。
「国王陛下。ここはまだ少量の備蓄があるうちにこちらから打って出るべきです。諸外国からの救援は数日ではやってこないでしょう。とすれば、弱った状態で魔獣達から防衛するか、餓死するかしかありません」
「そうだな。だがあの冒険者達はどれほど連戦できるのだ?」
「少なからず魔力回復のポーションを貴族が持っていましたので、それさえあれば数回の連戦は可能かと」
「では、手の者に第三防壁上部から第四防壁内の状態を探らせろ」
宰相は、すぐさま謁見の間を後にして命令を遂行しに行く。
「バッカだなこいつら。魔獣の群れは増える一方。キュロス辺境伯の助力もあるしな。それに、本当に万が一あの冒険者共が防壁から抜けることができたとしても、戻ってくるわけねーだろ。自分の身が一番の奴らだからな」
「そうだな。まぁ、僅かな希望を見出してその希望がダメになる。その過程で与える絶望も復讐の一環だ」
ヘイロンは俺の呟きに頷く。
あの腐った王国の密偵?は移動速度だけは早いらしく、宰相と共に謁見の間に現れた。
片膝を床につけ、頭を下げて報告を入れている。
「報告申し上げます。第四防壁内部には第三防壁に近い位置から大量の魔獣達で埋め尽くされております。中には魔族も存在しているようで、一部統制が取れた動きをしているのを確認しました。ですが、さすがに第三防壁は簡単に超えられる物ではないようで、防壁に対する攻撃などは散発的な物に抑えられております」
こいつは、つい先日魔族が第四防壁から第三防壁内部に移動してきたことを忘れているのだろうか?
それとも、Sランク冒険者達がいるから大丈夫と思っているのか?
何れにしても相当考えが甘いと言わざるを得ない。
当然宰相と国王はその程度は理解している。
「馬鹿者!つい先日に魔族が討伐された場所はどこだ!第三防壁内部だろうが!!」
「も、申し訳ございません」
慌てふためく密偵?をよそに、宰相は国王に問いかけている。
「しかし国王陛下。これではこちらから打って出る事はできそうにありません」
「う、む。そうだな、確かにその通りだ。とすると、食料と飲料水の確保が急務になる。今の時点で残っている食料については至急徴収しておけ」
再び謁見の間を出る宰相。
この宰相、国王にクビにさせられるはずだったのだが、そうとも知らずに必死に働いている。
こんな環境でも、一応あのクズ国王のために働いているんだから大した奴だ。
こんな状況の映像を見た俺は、これ以上面白い動きはないと判断した。
「今日はこれ以上の動きはなさそうだな。まだかなりの人数が第二防壁内部にいるが、そいつらが現状を理解するのには時間がかかるだろう」
「そうですな。未だ酔いから醒めていない者が多数おりますので、面白くなるのは明日の昼過ぎ位でしょうか?」
二日酔いの連中は、朝は水程度で食事はあまりとらないだろう。
だが、ある程度体力のある連中は昼はしっかりと食べるはずだ。そこであまり食料がない事に気が付き始める・・・と。
「そんじゃあ、今日はもう終了ってことか?テスラムさん??」
「そうですな。ですがもう少し起きていたいのであれば、夜の修行などいかがですかヘイロン殿?」
テスラムさんの笑顔が怖い。
「い、いや、今日は疲れたから俺はすぐ寝ることにするよ。うん」
「あ、私もヘイロンさんと同じです。ぐっすり眠れそうな気がしますです」
慌てて返事をするヘイロンと、なぜか聞かれてもいないのに、同じく焦りながら返事をしているスミカ。
「フフフ、冗談でございますよ。それでは一旦解散でよろしいでしょうかロイド様?」
「ああ、じゃあまた明日」
スミカとヘイロンが長く息を吐いている姿が見える。
良かったな!
映像を映し出していたスライムを回収したテスラムさんと、他の<六剣>所持者達も部屋を出て、各自に与えられている部屋に向かっているようだ。
俺は、フロキル王国の今後について少し考えた。
かなりの面々が酔っている状態で食料・水を収集した王城に住む連中は暫くは大丈夫だろう。
だが、市場には出てこない。とすると、あの冒険者共は王族すら脅してくるような気がしている。
現実的には、あいつらの力が唯一魔族に対抗できる状態だからだ。
俺は、ここ数日のうちにそのような状態になると確信しつつ眠りについた。
都度全員が俺の部屋に来る必要はないと思うのだが・・・何故かいつの間にか集合場所が俺の部屋になっている。俺達には全員一人でいるには広すぎる部屋を与えられているはずなんだが・・・
「それではロイド様、そろそろフロキル王国に変化が見られ始めましたので、就寝前に少々映像をお楽しみください」
「こんなに早く変化が現れたのか?」
「その通りでございます。変化としてはわずかではございますが、この小さな綻びがやがて大きな亀裂となるでしょう」
「こいつら祝勝会?だか何だかをやってやがったんだよな。魔族討伐から二日目か?割と早く変化があったんだな。楽しみじゃねーか」
面白そうに映像を見ようとしていたヘイロンに、テスラムさんから思わぬ質問が浴びせられる。
「ヘイロン殿は、どのような変化が起こったか推測できますか?」
「え~っとだな。う~んと・・・スミカどうだ?」
「え!私ですか?えっと、皆さんお腹一杯で苦しんでいる・・・とかでしょうか?」
「そうか!わかったぜ!!ナイスヒントだスミカ!全員酔っぱらって大惨事!!!そうだろテスラムさん??」
残念な者を見るような目でテスラムさんに見られているスミカとヘイロン。
「まったく違いますな。アルフォナ殿はどう考えますか?」
「少々難しいが、彼らは備蓄の食料や飲料を出していた。その絡みのトラブルではないだろうか?」
ナユラは微笑みながら頷いている。
元王族であったので、常に頭を働かせていた経験があるナユラであれば、答えにたどり着くことができるのだろう。
「なかなかですな。ナユラ殿は既に理解しているご様子。今回は、状況の変化を推測できるようになるために敢えて質問させていただきました。アルフォナ殿のおっしゃる通り、彼らは備蓄の食料や飲料を出してまで盛大に祝っておりました。外部への連絡ができない上に来訪もない状態で、です。つまり・・・」
ここまで言われればわかるな。当初想定した通りなのだが・・・なぜヘイロンとスミカは理解できなかったのかが不思議だ。
今後食料や飲料は外部から一切入手することができない。にも拘わらず、魔族討伐と言う偉業と直近の恐怖から解放された喜びからか、後先考えずに全て放出してしまったのだ。
つまり、今から食料と飲料が不足する事態が起こると言う事だ。
「・・・と言うわけですな」
「「お~!!」」
テスラムさんの説明に対して感嘆するスミカとヘイロン。
ここまで言われてるまで、理解していなかったらしい。
「それじゃあさっそく見せてもらおうかな」
「承知しました」
いつもの通り、テスラムさんとヨナが飲み物を準備してくれる。
やがて、目の前にはいくつもの映像が映し出された。
ぱっと見は、ヘイロンの言う通り飲み過ぎた連中の大惨事が散見されるが、一部の高位貴族共や王族は青い顔をしているのが見えた。
決して飲み過ぎが原因の体調不良による顔色ではない。
「国王陛下、これは少々まずいことになったかもしれません」
謁見の間の映像には、宰相も青い顔をしつつ国王に報告を入れている。
「大失態です。このままでは食料は数日分の蓄えすらありません」
「第二防壁の貴族達も備蓄はあるだろう。かき集めろ!」
「いえ、それが今回その貴族達も喜びのあまり備蓄を放出しておりまして・・・」
「宝物庫の中身もなければ、食料の中身もない・・・魔族襲来の前に自滅する可能性すらあると言う事か」
宰相と国王は苦い顔をしてお互いを見ている。
「国王陛下。ここはまだ少量の備蓄があるうちにこちらから打って出るべきです。諸外国からの救援は数日ではやってこないでしょう。とすれば、弱った状態で魔獣達から防衛するか、餓死するかしかありません」
「そうだな。だがあの冒険者達はどれほど連戦できるのだ?」
「少なからず魔力回復のポーションを貴族が持っていましたので、それさえあれば数回の連戦は可能かと」
「では、手の者に第三防壁上部から第四防壁内の状態を探らせろ」
宰相は、すぐさま謁見の間を後にして命令を遂行しに行く。
「バッカだなこいつら。魔獣の群れは増える一方。キュロス辺境伯の助力もあるしな。それに、本当に万が一あの冒険者共が防壁から抜けることができたとしても、戻ってくるわけねーだろ。自分の身が一番の奴らだからな」
「そうだな。まぁ、僅かな希望を見出してその希望がダメになる。その過程で与える絶望も復讐の一環だ」
ヘイロンは俺の呟きに頷く。
あの腐った王国の密偵?は移動速度だけは早いらしく、宰相と共に謁見の間に現れた。
片膝を床につけ、頭を下げて報告を入れている。
「報告申し上げます。第四防壁内部には第三防壁に近い位置から大量の魔獣達で埋め尽くされております。中には魔族も存在しているようで、一部統制が取れた動きをしているのを確認しました。ですが、さすがに第三防壁は簡単に超えられる物ではないようで、防壁に対する攻撃などは散発的な物に抑えられております」
こいつは、つい先日魔族が第四防壁から第三防壁内部に移動してきたことを忘れているのだろうか?
それとも、Sランク冒険者達がいるから大丈夫と思っているのか?
何れにしても相当考えが甘いと言わざるを得ない。
当然宰相と国王はその程度は理解している。
「馬鹿者!つい先日に魔族が討伐された場所はどこだ!第三防壁内部だろうが!!」
「も、申し訳ございません」
慌てふためく密偵?をよそに、宰相は国王に問いかけている。
「しかし国王陛下。これではこちらから打って出る事はできそうにありません」
「う、む。そうだな、確かにその通りだ。とすると、食料と飲料水の確保が急務になる。今の時点で残っている食料については至急徴収しておけ」
再び謁見の間を出る宰相。
この宰相、国王にクビにさせられるはずだったのだが、そうとも知らずに必死に働いている。
こんな環境でも、一応あのクズ国王のために働いているんだから大した奴だ。
こんな状況の映像を見た俺は、これ以上面白い動きはないと判断した。
「今日はこれ以上の動きはなさそうだな。まだかなりの人数が第二防壁内部にいるが、そいつらが現状を理解するのには時間がかかるだろう」
「そうですな。未だ酔いから醒めていない者が多数おりますので、面白くなるのは明日の昼過ぎ位でしょうか?」
二日酔いの連中は、朝は水程度で食事はあまりとらないだろう。
だが、ある程度体力のある連中は昼はしっかりと食べるはずだ。そこであまり食料がない事に気が付き始める・・・と。
「そんじゃあ、今日はもう終了ってことか?テスラムさん??」
「そうですな。ですがもう少し起きていたいのであれば、夜の修行などいかがですかヘイロン殿?」
テスラムさんの笑顔が怖い。
「い、いや、今日は疲れたから俺はすぐ寝ることにするよ。うん」
「あ、私もヘイロンさんと同じです。ぐっすり眠れそうな気がしますです」
慌てて返事をするヘイロンと、なぜか聞かれてもいないのに、同じく焦りながら返事をしているスミカ。
「フフフ、冗談でございますよ。それでは一旦解散でよろしいでしょうかロイド様?」
「ああ、じゃあまた明日」
スミカとヘイロンが長く息を吐いている姿が見える。
良かったな!
映像を映し出していたスライムを回収したテスラムさんと、他の<六剣>所持者達も部屋を出て、各自に与えられている部屋に向かっているようだ。
俺は、フロキル王国の今後について少し考えた。
かなりの面々が酔っている状態で食料・水を収集した王城に住む連中は暫くは大丈夫だろう。
だが、市場には出てこない。とすると、あの冒険者共は王族すら脅してくるような気がしている。
現実的には、あいつらの力が唯一魔族に対抗できる状態だからだ。
俺は、ここ数日のうちにそのような状態になると確信しつつ眠りについた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
118
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる