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リアナ王女への提案

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 王族としての権限を全て奪われ、その扱いも、とても王族とは思えない扱いを受けていたリアナ姉さん。



 そのきっかけは、俺が基礎属性無しと判断されて王族から追放された事に対して、国王に意見を言ったからだ。

 残りの兄弟は、ゾルドンを筆頭にリアナ姉さんをバカにし続けた態度を取っており、今に至っている。



 そんな姉さんが、豚共の心配をしている。

 だが、こいつらを救う事だけは認められない。



 俺と母さんがどのように第四防壁で暮らしていたか、魔族襲来時には母さんがどのような目にあったか。テスラムさんの情報によれば、姉さんは今は殆ど知っていると言う事だ。



 なので、俺に対して豚共を救ってくれとは言ってこない。

 だが、自分だけが助かって良いのかと言う葛藤があるのだ。

 姉さんは、この場に置き去りにされれば100%の死が待ち受けていることは理解しているから、悩んでいるんだろう。



 俺に言わせれば悩む必要は一切ないし、こいつらを残して避難しても良いに決まっているのだが・・・



「でも、私だけこの場を去るのは・・・」

「そうだぞリアナ。お前は俺達を救う義務がある。お前だけ逃げるなど王族として認めることはできない」

「自分さえよければいいの?そんな訳はないわよね」



 豚共は姉さんだけが助かることがない様に必死で騒ぎ立てる。



「ブーブーと随分とウルセー豚共じゃねーか。今はロイドとリアナさんが話してんだよ。黙ってろ豚!」



 ヘイロンが一喝して、殆ど体力がなくなっていたであろう豚共はおとなしくなった。



「姉さん、もう一度言う。こいつらの事を考える必要は一切ない。こいつらのせいで落とさなくても良い命を落とした母さん。そして長きに渡り苦しめられてきた第四防壁の住民。今までの行いが引き起こした結果なんだ。それを、一切関係がない姉さんが気に病む必要はない」

「そう・・・なのでしょうか?」



 まだ迷いがあるようだ。

 ここは、姉さんの心が少しでも軽くなるような処置が必要かもしれない。



 『テスラムさん、この宝物庫の武器を一部戻したとして、こいつらはあの魔獣や魔族と対抗することができると思うか?』

 『一時的には可能でしょう。ですが、我ら<六剣>とは違いそこそこ・・・・の武器ですので、やがて消耗してじり貧になるでしょう。』

 『それじゃあ、第六防壁の外へ出ることもできないと言う事で良いか?』

 『ええ、それは間違いないでしょう。』



 姉さんに聞かれたくないので、スライムを通して確認した。

 もちろんこの会話は他の<六剣>所持者達も聞いている。



「わかった。姉さん、俺にできる最大の譲歩をしよう。この宝物庫に会った武器はゾルドンの命と引き換えに俺達が受け取ったんだが、その一部を返却しようと思う。その武器があれば、魔獣と戦うこともできるだろう。あとは自分の今までの努力の成果を見せれば、道は切り開かれるはずだ」



 俺が収納している武器の一部・・・剣、杖、盾、槍を二種類ずつだして床に置いた。



 その瞬間、王族共と近衛騎士隊長は目の色を変えたのがわかった。

 特に、近衛騎士隊長にとっては、俺が出した槍があれば数匹の魔獣に囲われても勝てる位にはなるだろう。



「豚共!ロイドの恩情に感謝しろ。これでリアナさんを俺達が連れていくことに文句は言わせねーぞ。あとは自分達で何とかしろ」

「言われなくともわかっておるわ」



 急に元気になる国王とその配下の豚共。



「姉さん、これで良いか?」



 少しだけ考える仕草をしたものの、頷いてくれた。



「ロイド、長い間助けることができなくてごめんなさい。そしてユリナス様もあんなことになってしまって・・・本当にごめんなさい。私にもっと力があれば、こんな事にはなっていなかったはずなの」



 涙を流しながら俺に向かって謝罪してくる姉さん。



「さっきも言ったが、姉さんのせいじゃない。姉さんは俺・・・そして母さんを助けようと必死になってくれたんだ。感謝こそすれ、謝って貰うことなんて何もない」



 そんな会話の中、豚共と国王、そして近衛騎士隊長はそれぞれの武器を取る。



「これなら勝てる!!扉の向こうにいる何の役にも立たない冒険者共も蹴散らしてくれる」

「そうだ!扉を開けろ!!」



 一気に気勢を上げて扉に群がり始めた。

 だが、所詮は豚共。いくら武器の力があるからと言って、体形は変わらない。

 動き自体は早くなってはいるが、剣や槍を使いこなすにはあの腹は邪魔だろう。



 俺達は、一旦リスド王国に戻ってゆっくりと観戦させてもらうことにしよう。

 本当にさよならだ!!



「じゃあ行くよ姉さん!」

「ありがとう・・ロイド」



 皆でリスド王国の俺の部屋に戻ってきた。



「本当に転移できるなんて・・・ロイド、凄い力を持っているのね」

「ああ、俺は<無剣>所持者で、ここにいる仲間は全員<六剣>所持者だ」



「あの伝説の??凄い!!」



 目をキラキラさせている姉さん。

 すると、テスラムさんがスライムで話しかけてきた。



 『ロイド様、リアナ殿に私の事を説明された方がよろしいのではないでしょうか?後々悪魔がこの場にいると第三者から聞いてしまうと、疑惑を持たれかねません。』

 『この人はそんな人じゃなさそうだけどな。』

 『私もそう思いますが、念のためでございます。』



 次の復讐対象である魔王の配下である悪魔。その悪魔が俺達の味方をしており、伝説の<六剣>まで所持しているのだ。

 確かにテスラムさんの言う通り説明しておいた方が良いかもしれない。



「姉さん、一応俺の仲間の皆を紹介するよ」

「ええ、よろしくお願いいたします。こんな私の為にフロキル王国まで来ていただきましてありがとうございました」



 美しい所作で礼をする姉さん。

 続いて俺は皆を紹介する。当然テスラムさんの事も詳細を話すつもりだ。



「まずは、母さんの時代から俺に仕えてくれているヨナ。ヨナは姉さんの事を覚えているみたいだ。彼女は<闇剣>を持っている」

「私も覚えています。ユリナス様とロイドと一緒に遊んだことがありますね?」



 ヨナは恥ずかしそうに微笑んでいる。

 姉さんには、ヨナの本名を伝えることにした。



「次は、第四防壁に住むようになってからの長い付き合いのヘイロン。<炎剣>所持者」

「ロイドとは腐れ縁で仲良くさせてもらっています」



 いつもの口調ではないのが面白い。



「彼女は見た事があるかもしれないな。ゾルドンの近衛騎士にさせられていたアルフォナ。<土剣>所持者だ」

「ロイド様の近衛騎士をさせて頂いています。リアナ様の安全もお任せを!」



「次は、最近仲間になった<水剣>のスミカ、そして王族から離脱したばかりの元リスド王国王女で、<光剣>を持っているナユラだ」



 元王族と聞いて、さすがの姉さんも目を丸くしている。



「最後に、初代<無剣>時代から<風剣>所持者であり、魔王を討伐した経験のあるテスラムさん。素晴らしい情報収集能力で助けてくれて、<六剣>の使い方も教えてくれる。種族は悪魔だ」

「まぁ、素晴らしいお方なのですね。<六剣>の皆様が尊敬している眼差しを向けておりましたので、指導も適切なのでしょうね」



「今回、あの宝物庫から姉さんを救うように提言してくれたのもテスラムさんだ」

「・・・ありがとうございます。こうしてロイド、そして皆様と共にお話ができるようになって幸せです。正直に申しますと、あの場で果てるのは悔しくて、怖くて、どうしようもなかったのです。そんな私をお救いくださいまして、本当にありがとうございました」



 やはり姉さんは怖かったんだな。

 救えてよかった。
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