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近衛騎士隊長
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私は栄誉あるフロキル王国国王直属近衛騎士隊長であるコギンだ。
由緒正しい家柄出身であり、基礎属性はフロキル王国で最も重要と言われている<炎>を持っている。
そんな私も大多数の面々と同じように、伝説の<六剣>を手中に収めようと人知れず努力を重ねていた。
だが、その日は今の今まで来ていない。
伝説と言われているだけに、誰も<六剣>を抜くことなどできないのではないかと思い始めていた頃、立て続けに抜剣されたことが確認された。
抜かれた瞬間を見た者はいないのだが・・・
確かに<六剣>の洞窟へ向かうと、<光剣>を残して全ての<六剣>が消えていた。
これにはゾルドン王子の機嫌がすこぶる悪くなり、私を含む主力の近衛騎士達が抜剣の為に駆り出された。
しかし、結果は同じだった。
そして、知らず知らずのうちに第四防壁の住民がフロキル王国を去り、入れ替わるように魔獣の群れがフロキル王国の王都外周を囲うようになった。
私は王命を受けて我が近衛騎士隊と共に討伐に向かったが、魔獣の群れの中に飲まれて落馬する騎士が多数おり、やむなく地に足をつけて戦う戦法に変更した。
こうした臨機応変に対応できる力こそが、近衛騎士隊長に求められる力なのだ。
だが、こうした私の采配を容易に覆す一体が現れた。
魔獣の群れが突然統制の取れた動きをして、一体の魔獣・・・いや、魔族に進化した個体がこちらに向かってきたのだ。
私は本能でこの個体を倒すことは不可能であると理解した。
瞬時に宝物庫の中にある国宝武具を使う必要がある・・・と言う作戦に変更したのだ。
この作戦を確実に実行するには、不本意ではあるがこの私自らが国王陛下に陳情しなくてはならない。
騎士達を奮い立たせ、断腸の思いで第一防壁を目指すことにした。
国王陛下は私の陳情を即座に受け入れてくださり、魔族殺しの英雄であるゾルドン王子と共に宝物庫に向かった。
だが、我らの希望である宝物庫の中にある武具だけではなく、全ての宝がなくなっていたのだ。
実は、ゾルドン王子の報告によって、あの基礎属性すら持つことができなかった出来損ないの元王子であるロイドが来襲したことはわかっている。
そして、あろうことかロイドに従っている面々が<六剣>を持っていたことも聞いた。
この情報を総合すると、この宝物庫の中身はあのロイドとか言う出来損ないによって奪われてしまった可能性もある。
だが、この場では私の推測に過ぎないので黙っておくことにした。
空の宝物庫を見て唖然とした国王陛下。もちろん私も、部下である近衛騎士隊の隊員を救うことができないことに愕然とした。
だが、さすがは国王陛下。即座に近衛騎士の救出に魔族殺しの英雄であるゾルドン王子を向かわせる決断をされた。
ゾルドン王子は直前の戦闘により隻腕となっているが、彼の実力であれば隻腕でも問題ないはずだ。
国王陛下の命令に渋るゾルドン王子。
だが、彼の動きによって私の手駒・・ではない。可愛い部下の命がかかっているのだ。何としても動いてもらわなくては・・・
そこでゾルドン王子を持ち上げて、半ば強引に防壁近くに同行した。
第三防壁上部には、Sランク冒険者共が待機している。
私は魔族殺しの英雄の到着を高らかに宣言し、第三防壁の外にゾルドン王子を出した。
もちろん足手まといになっては騎士の名折れ。すかさず私は第三防壁の中に戻りしっかりと門を閉じて、ゾルドン王子が華麗に近衛騎士達を救出する様を冒険者達と共に第三防壁上部から見ることにした。
だが、防壁上部から見た光景は地獄だ。
既に私の手こ・・・部下は一人もおらず、魔獣の群れが見えるだけ。
私は防壁上部から攻撃を仕掛けていたはずのSランク冒険者達を問い詰めた。
だが、彼らの返事は、「私達は十分貢献した」だの、「最早魔力切れだ」だのと言う言い訳や、あろうことかこの私が一目散に逃げたなどと宣ったのだ。
私は苦渋の決断、断腸の思いであの場を離れたのだ。
しかし、冒険者如きに私の崇高な思いがわかるわけもない。それに今は緊急事態だ。こんな状況ではゾルドン王子も無駄死にになってしまう。
すかさず門の近くにいる商人に開門を要求したが、冒険者がそれを認めなかった。
防壁上部から叩き落してやろうと思ったが、その瞬間凄まじい轟音と共に魔獣、いや魔族と思われる個体が現れた。
Sランク冒険者達は腰を抜かしつつも、全力で攻撃をし始めた。
私もゾルドン王子を救うべく、愛槍を魔族めがけて果敢に投擲した。
しかし、魔族には一切のダメージを与えられずに、再び苦渋の決断で撤退することにしたのだ。
そんな苦労を継続的に味わった、味あわされた私だが、ついに宝物庫の中にあった最高の槍を手にする時がやってきたのだ。
あのロイドから受け取ったのだけは忌々しいが、今の状況を打破するためには少々の事は目を瞑ってやろう。
この槍さえあれば、私の真の姿を国王陛下をはじめとした王族の皆様にも見せることができる。
手始めに、我らが一時的に避難していた宝物庫の外から不敬にも脅しをかけてきた冒険者共を血祭りにあげてやった。
やはりこの槍は最強だ。いや、この槍を持ったこの私が最強なのだ。
この状態の私は、あの伝説の<六剣>を超えているだろう。
その勢いのまま、防壁の外から我が物顔で王都を包囲している魔獣の掃討作戦に出ることにした。
当然この私の攻撃に耐えられる魔獣などいるわけもなく、補助的な役割の王族の皆様も十分に活躍されていた。
しかし、量が凄まじい。終わりの見えない戦いは少々疲れる物だ。
初日にあまり無理をする必要もないだろう。それに、この魔獣討伐により食料についても目途がついたのだ。
安全を見て一旦撤退し、十分な休息を取った後に再度作戦を実行すれば良い・・・と思っていた。
そう、思っていたのだ。
だが現実はどうだ!!
狩れども狩れども魔獣は増え続ける。
そして、時折感じる魔族の気配。
魔族に囲まれてしまっては、いくら最強の私でも遅れをとる可能性があるので、気配を感じた瞬間に撤退することにしている。
もちろん、この槍を手にした瞬間から最強の私は、気配察知などお手の物だ。
今日も今日とて、数十匹の魔獣を仕留めて第一防壁に戻る。
肉を焼き、魔獣の種類によっては水分を取り出し・・・いつもの作業だ。
こんな日を、既に二週間以上?続けている。
正確な期間はもう忘れてしまった。
「コギンよ、いつになったら魔獣を一掃できるのだ?」
初日以外は第二防壁にすら来ていない国王陛下、そして醜く太った王族連中が同じような質問をしてくる。
どいつもこいつも全てを私一人に押し付けやがって。
あの数に一人で挑んでいる状態がおかしいのだ。
そうだ、おかしいのだ。こいつらは最強であるこの私に守ってもらっている立場にもかかわらず、偉そうに命令するだけ。
こんな連中に食料を提供する必要もないのではないか?
そう気が付いた最強の私は、翌日いつも通りの狩りを行った後は第一防壁に戻らずに、第二防壁にある別邸の隠し部屋に帰ることにした。
そんな日々を更に一週間ほど続けただろうか?
奴らは私が魔獣討伐に失敗して死亡したと思っているようで、自ら出撃して食料確保を行うことにしたようだ。
だが、魔獣といっても食える魔獣、飲める魔獣、そうでない魔獣がいるのだ。その程度は近衛騎士隊長であるこの私には容易いが、彼らはそうではない。
「フハハハ」
思わず笑いがこぼれてしまう。
何故ならば、様子を見に第一防壁内部の王城に入ってみると、全員青白い顔をして震えているのだ。上から下から何やら放出しており、匂いも酷い状態だ。
これは笑わずにはいられないだろう。
有能で最強のこの私をこき使ったのだ。この程度の罰は受けて当然だろう。
由緒正しい家柄出身であり、基礎属性はフロキル王国で最も重要と言われている<炎>を持っている。
そんな私も大多数の面々と同じように、伝説の<六剣>を手中に収めようと人知れず努力を重ねていた。
だが、その日は今の今まで来ていない。
伝説と言われているだけに、誰も<六剣>を抜くことなどできないのではないかと思い始めていた頃、立て続けに抜剣されたことが確認された。
抜かれた瞬間を見た者はいないのだが・・・
確かに<六剣>の洞窟へ向かうと、<光剣>を残して全ての<六剣>が消えていた。
これにはゾルドン王子の機嫌がすこぶる悪くなり、私を含む主力の近衛騎士達が抜剣の為に駆り出された。
しかし、結果は同じだった。
そして、知らず知らずのうちに第四防壁の住民がフロキル王国を去り、入れ替わるように魔獣の群れがフロキル王国の王都外周を囲うようになった。
私は王命を受けて我が近衛騎士隊と共に討伐に向かったが、魔獣の群れの中に飲まれて落馬する騎士が多数おり、やむなく地に足をつけて戦う戦法に変更した。
こうした臨機応変に対応できる力こそが、近衛騎士隊長に求められる力なのだ。
だが、こうした私の采配を容易に覆す一体が現れた。
魔獣の群れが突然統制の取れた動きをして、一体の魔獣・・・いや、魔族に進化した個体がこちらに向かってきたのだ。
私は本能でこの個体を倒すことは不可能であると理解した。
瞬時に宝物庫の中にある国宝武具を使う必要がある・・・と言う作戦に変更したのだ。
この作戦を確実に実行するには、不本意ではあるがこの私自らが国王陛下に陳情しなくてはならない。
騎士達を奮い立たせ、断腸の思いで第一防壁を目指すことにした。
国王陛下は私の陳情を即座に受け入れてくださり、魔族殺しの英雄であるゾルドン王子と共に宝物庫に向かった。
だが、我らの希望である宝物庫の中にある武具だけではなく、全ての宝がなくなっていたのだ。
実は、ゾルドン王子の報告によって、あの基礎属性すら持つことができなかった出来損ないの元王子であるロイドが来襲したことはわかっている。
そして、あろうことかロイドに従っている面々が<六剣>を持っていたことも聞いた。
この情報を総合すると、この宝物庫の中身はあのロイドとか言う出来損ないによって奪われてしまった可能性もある。
だが、この場では私の推測に過ぎないので黙っておくことにした。
空の宝物庫を見て唖然とした国王陛下。もちろん私も、部下である近衛騎士隊の隊員を救うことができないことに愕然とした。
だが、さすがは国王陛下。即座に近衛騎士の救出に魔族殺しの英雄であるゾルドン王子を向かわせる決断をされた。
ゾルドン王子は直前の戦闘により隻腕となっているが、彼の実力であれば隻腕でも問題ないはずだ。
国王陛下の命令に渋るゾルドン王子。
だが、彼の動きによって私の手駒・・ではない。可愛い部下の命がかかっているのだ。何としても動いてもらわなくては・・・
そこでゾルドン王子を持ち上げて、半ば強引に防壁近くに同行した。
第三防壁上部には、Sランク冒険者共が待機している。
私は魔族殺しの英雄の到着を高らかに宣言し、第三防壁の外にゾルドン王子を出した。
もちろん足手まといになっては騎士の名折れ。すかさず私は第三防壁の中に戻りしっかりと門を閉じて、ゾルドン王子が華麗に近衛騎士達を救出する様を冒険者達と共に第三防壁上部から見ることにした。
だが、防壁上部から見た光景は地獄だ。
既に私の手こ・・・部下は一人もおらず、魔獣の群れが見えるだけ。
私は防壁上部から攻撃を仕掛けていたはずのSランク冒険者達を問い詰めた。
だが、彼らの返事は、「私達は十分貢献した」だの、「最早魔力切れだ」だのと言う言い訳や、あろうことかこの私が一目散に逃げたなどと宣ったのだ。
私は苦渋の決断、断腸の思いであの場を離れたのだ。
しかし、冒険者如きに私の崇高な思いがわかるわけもない。それに今は緊急事態だ。こんな状況ではゾルドン王子も無駄死にになってしまう。
すかさず門の近くにいる商人に開門を要求したが、冒険者がそれを認めなかった。
防壁上部から叩き落してやろうと思ったが、その瞬間凄まじい轟音と共に魔獣、いや魔族と思われる個体が現れた。
Sランク冒険者達は腰を抜かしつつも、全力で攻撃をし始めた。
私もゾルドン王子を救うべく、愛槍を魔族めがけて果敢に投擲した。
しかし、魔族には一切のダメージを与えられずに、再び苦渋の決断で撤退することにしたのだ。
そんな苦労を継続的に味わった、味あわされた私だが、ついに宝物庫の中にあった最高の槍を手にする時がやってきたのだ。
あのロイドから受け取ったのだけは忌々しいが、今の状況を打破するためには少々の事は目を瞑ってやろう。
この槍さえあれば、私の真の姿を国王陛下をはじめとした王族の皆様にも見せることができる。
手始めに、我らが一時的に避難していた宝物庫の外から不敬にも脅しをかけてきた冒険者共を血祭りにあげてやった。
やはりこの槍は最強だ。いや、この槍を持ったこの私が最強なのだ。
この状態の私は、あの伝説の<六剣>を超えているだろう。
その勢いのまま、防壁の外から我が物顔で王都を包囲している魔獣の掃討作戦に出ることにした。
当然この私の攻撃に耐えられる魔獣などいるわけもなく、補助的な役割の王族の皆様も十分に活躍されていた。
しかし、量が凄まじい。終わりの見えない戦いは少々疲れる物だ。
初日にあまり無理をする必要もないだろう。それに、この魔獣討伐により食料についても目途がついたのだ。
安全を見て一旦撤退し、十分な休息を取った後に再度作戦を実行すれば良い・・・と思っていた。
そう、思っていたのだ。
だが現実はどうだ!!
狩れども狩れども魔獣は増え続ける。
そして、時折感じる魔族の気配。
魔族に囲まれてしまっては、いくら最強の私でも遅れをとる可能性があるので、気配を感じた瞬間に撤退することにしている。
もちろん、この槍を手にした瞬間から最強の私は、気配察知などお手の物だ。
今日も今日とて、数十匹の魔獣を仕留めて第一防壁に戻る。
肉を焼き、魔獣の種類によっては水分を取り出し・・・いつもの作業だ。
こんな日を、既に二週間以上?続けている。
正確な期間はもう忘れてしまった。
「コギンよ、いつになったら魔獣を一掃できるのだ?」
初日以外は第二防壁にすら来ていない国王陛下、そして醜く太った王族連中が同じような質問をしてくる。
どいつもこいつも全てを私一人に押し付けやがって。
あの数に一人で挑んでいる状態がおかしいのだ。
そうだ、おかしいのだ。こいつらは最強であるこの私に守ってもらっている立場にもかかわらず、偉そうに命令するだけ。
こんな連中に食料を提供する必要もないのではないか?
そう気が付いた最強の私は、翌日いつも通りの狩りを行った後は第一防壁に戻らずに、第二防壁にある別邸の隠し部屋に帰ることにした。
そんな日々を更に一週間ほど続けただろうか?
奴らは私が魔獣討伐に失敗して死亡したと思っているようで、自ら出撃して食料確保を行うことにしたようだ。
だが、魔獣といっても食える魔獣、飲める魔獣、そうでない魔獣がいるのだ。その程度は近衛騎士隊長であるこの私には容易いが、彼らはそうではない。
「フハハハ」
思わず笑いがこぼれてしまう。
何故ならば、様子を見に第一防壁内部の王城に入ってみると、全員青白い顔をして震えているのだ。上から下から何やら放出しており、匂いも酷い状態だ。
これは笑わずにはいられないだろう。
有能で最強のこの私をこき使ったのだ。この程度の罰は受けて当然だろう。
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