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ヘイロンの日常(1)

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 のんびりと旅をして、必要に応じて助力し……を繰り返している<六剣>達。



 今日は全員がフロキル王国に戻ってきていたので、とある王城の中にある一室にロイドと<六剣>達が揃って話をしている。



「ヘイロン殿、今日は絶好の修行日和ではないか?久しぶりになまった体を解してみては?」

「いやアルフォナ。実は俺、今日は非常に、ひっっじょーに都合が悪い。本当に残念ではあるが、こればかりは仕方がないと言えるかもしれない事もないだろう。と言うかお前、どんな日だろうが修行日和って言っているよな?雨だろうが、雪だろうが……」



 勢いが凄いアルフォナに対し、呆れるように返すヘイロン。

 動揺からか、少々何を言っているのかはよく分からなくなっているのもいつもの事だ。



「何を言っている?ヘイロン殿、当然ではないか?雨には雨の対処ができる修行日和。雪には雪の対処ができる修行日和。何も間違ってはいないが?」



 微妙に真剣な表情をして普段の荒い言葉も控えているヘイロンだが、アルフォナには何を言っても無駄だ!と思わせる回答をあっさりと得てしまった。



 その直後、他の<六剣>からも突っ込みが入るのだ。



「そう言って修行したくないだけでしょ?ヘイロンさん!いつも通りと言えばそうですけど、本当にやる気がゼロですもんね?」

「バ、バカ言うなよ、スミカ。俺のやる気はゼロではないぜ!」



 自信満々に言うヘイロンだが、さりげなく部屋の出口近くに移動している。



 そんな事位は他の<六剣>達が、気が付かないわけもなく、逆に全てを把握されている事に冷や汗をかくヘイロン。



「ではヘイロン殿。やる気がゼロでないならばさっそく修行としゃれこもうではないか?思い立ったが吉日だ!」

「くっ、お前は毎日が吉日じゃねーかアルフォナ。良いか!良く聞いてくれ。俺のやる気はゼロじゃねー。そこは疑いようがない。俺のやる気は……マイナスだぜ!!」



 そう言って一気に逃げるためにドアを開こうとするのだが、何故か扉が開かない。



「あれ?あれ??」



 無駄に<炎剣>の力を使って周囲の状態を探っても異常は見当たらないため、混乱していた。



「フフフ、甘いですな、ヘイロン殿。何も我らの力、魔力を伴う物だけが技ではありません。そこの所も今後の修行で身に付けなければなりませんな」



 流石に部屋を力技で破壊するわけには行かずに、一般的な行動を取っているが故にこの部屋から逃げられないヘイロンに対し、テスラムが優雅に今回の事象について説明している。



 その内容は、単純に鍵をかけていただけなのだが……



「ヘイロン殿の行動は、この部屋に入る前から予測されていたという事です。そこもギリギリの闘いでは大きく不利になるでしょう。つまり……」



 興が乗ってきたテスラムの話は少々長くなるが、目をキラキラさせて成程と頷くアルフォナと、口から魂が抜けたような表情をしているヘイロンの二人が非常に対照的だ。



「ウフフ、ヘイロンさんも全く変わっていませんね」



 良い意味で言ったつもりのナユラだが、スミカが被せて来る。



「本当にそうですよね!修行って言葉を聞いた瞬間にヘタレるんですよ?全く。普段は本当に頼りになる素敵な人なのに……」



 何のかんのと、無意識の中でもヘイロンを信頼している思いが溢れ出ているスミカ。



 扉の前でテスラムからのありがたい話を聞かされて動けないヘイロンをよそに、勝手に話が進んでいる。



「確かに、ヘイロンさんは修行嫌い」



 止めはヨナに刺され、その能力故かテスラムのありがたい話と共に、女性陣の話も耳に入っていたヘイロンは軽くダメージを受ける。



 その言葉を理解していたのはヘイロンだけではない。

 同格の<土剣>アルフォナ、そして<六剣>全ての師匠と言っても過言ではない<風剣>テスラムにも聞こえている。



「ヘイロン殿、ここは男を見せる時ではないですかな?そして一気に彼女達の印象を変える。そのくらいの漢気、見せても良いと思いますが?」

「流石はテスラム殿!良い案だ。よしっ、ならばダンジョンなどとぬるい・・・事を言わずに、この私との直接戦闘訓練が良いのではないか?」



 Sランクダンジョンの修行すら既に“ぬるい”と言い切るアルフォナ。



 修行嫌いのヘイロンも同格の強さを持っており、同じ事が言えるのだが、代替案が最悪だと天を仰ぐヘイロン。



 時折断り切れずにアルフォナとの実践訓練を行うのだが、互いに譲らず、一時も気を緩められる時がない。



 その周囲には他の<六剣>が控え、被害が拡大しないように全員で防衛した状態、更には、結果的に<水剣>スミカの<回復>が必要になるので、その存在なしには本気を出せないのだ。



 もちろん<六剣>従える<無剣>のロイドも同じ事が出来るが、やはり餅は餅屋。

 スミカの方が流れるように能力を行使できるので、正直安心できる。



 アルフォナとしても、本気を出して訓練できるのは<六剣>が揃った時しかチャンスはないと分かっており、ここぞとばかりに攻めるのだ。



 最早断ったり逃走したりすることは不可能だと思い、諦めるヘイロン。



「ク~、わかったよ。やってやるよ!」



 ここで相手をスミカ達に押し付けるような事はしない。

 <六剣>の力は同等だが、やはり夫々の属性に応じた得手不得手が存在する。



 <土剣>の特殊能力の<重力>を相手にしつつ攻撃できるのは、やはり<炎剣>が最も適しているのだ。



「だがよ?前回は不覚をとったが、今回はそうは行かねー。やるからには俺もしっかりとやらせてもらうぜ?」



 実は前回の修行時にはアルフォナに敗北して、結果的には右腕を切飛ばされているヘイロン。

 すかさずスミカによって修復されているが、明確に敗北したのだ。



 修行嫌いで有名になっているヘイロンだが、敗北をそのまま放置するような男ではない事は<六剣>や<無剣>ロイドは知っている。



「流石はヘイロン殿だ。当然前回のように行かない事位、私もわかっている。改めて全力で行かせてもらうつもりだ」



 抑えきれない喜びを露わにしつつ、アルフォナが見るだけならば惚れそうになる笑顔を浮かべる。



 こうしてヘイロンとアルフォナ、そして防御と回復要員としてロイドや<六剣>も続く。



「今日はどのステージだ?」

「久しぶりに正面からぶつかりたい気分だが、どうだ?ヘイロン殿」



 実は紳士のヘイロン。戦闘ステージも今迄全てアルフォナに選択させていた。



 そして今回もアルフォナの希望通りに、何も遮蔽物がない広いだけの空間で修行を行う事になった。



 ある意味覚悟を決めたヘイロンの表情を見てスミカが赤い顔をしているのは、他の全員に気が付かれていたりする。

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