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(69)第二王子ミラージュ  (ミラージュ視点)

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 僕は、このソシケ王国の第二王子、ミラージュです。

 僕には兄がいて、名前は確かハンブルだったと思いますが、気が付けばもう相当長い期間会っていません。

 もちろん父上であり国王でもある方にも同じように長い間会った事はありませんが、昔に会った際、毎回言われた言葉は今でもよく覚えています。

「おい、お前の様な野心の無い日和見の腑抜けは我がソシケ王国の王族には不要だ。何故余の血が流れているのに、そこまで腑抜けているのだ!兄であるハンブルを少しは見習ったらどうだ?己が野心を隠さないで屈強な姿勢を保ち続けている。これぞ正しい王族の在り方だ!」

 僕としては欲が抑えられない我儘な人にしか見えなかったのだけれど、きっと僕の見えない王族に必要な何かが父上には見えていたのでしょうか?

 この頃は会うたびに同じような事を言われてはいましたが、生活については何ら不自由する事は無く、読みたい本は自由に読めていたので知識を沢山仕入れる事が出来ていました。

 もちろん僕には絶対に成れない、立場上もそうですし、恐らく実力的にもそうでしょうが、冒険者と言う職業についても学ぶことが出来、自分の力で成り上がり生計を立てるその在り方に感銘し、絶対に成れないからこその憧れかもしれませんが、日々自分が冒険者になった時の事を勝手に妄想していました。

 素晴らしい魔法を使い、敵や魔獣を難なくなぎ倒して民に尊敬される様を……

 でも、現実は非情でした。

 暫くしてから、父上に呼び出された際に言われた言葉もよく覚えています。

「お前は何時まで経っても余の言葉を真摯に受け止めていないようだな。ハンブルから聞いたぞ?貴様、ハンブルの事をバカにしていたようだな?」

「え?そんな事はありません。兄上の事をバカにするなどある訳ないではありませんか?」

「黙れ!野心がないように見えて裏でコソコソするような腑抜けの言う事など信用できるわけがないだろう!貴様からは今をもって王位継承権を剥奪する。居城も離れとし、王城に入る事は禁止する。だが、立場上王族である事はどうあっても捨てる事は出来ない。よって、貴様に許される行動範囲は別邸から貴族の住む領域までとする。わかったな!」

 これだけ言うと、さっさとこの場から消えてしまったのです。

 兄上の事をバカにした事など一切ありませんし、そもそも誰かと話す事もほとんどないのに、何を言っているのか良く分かりません。

 どうすれば誤解を解く事が出来るのか考えていたのですが既に色々と手を回されていたようで、薄汚れた離れ……暫く誰も済んでいなかった離れに騎士によって連行されて放り投げられました。

「ミラージュ王子。陛下の温情でこの離れの中身は好きにして良いとの事です。食料の入手については貴族が利用している市がありますので、この離れにある家財を売り払い仕入れてください。使用人が付く事も護衛が付く事もありませんので悪しからず」

 僕をここに連れてきた騎士もこれだけ言うとさっさと消えてしまい、唖然としながら中を見ると、埃をかぶりながらも一応販売できそうなものが多数あったのだけは助かったと思った記憶があります。

 同時に、ここまで手回しが良いのであれば早く市に行ってある程度の金銭を手に入れておかなければ、事情を知った者達が家財を有り得ない程の金額で買い叩いて来る事も容易に想像が出来たので、即座に持てるだけの品をもって何往復もして、お金に換えました。

 きっとこの時に行動できていなければ、僕の命は持って数日だったでしょう。

 その証拠に、翌日からは食料を購入しようにも相当渋られ、挙句にかなりの金額を吹っ掛けられていたからです。

 正直相当な金額を手に入れていたのですが、お風呂がある訳でもなく着替えも無いので、周囲の目が痛くなってきた頃に、兄上が離れに騎士を伴ってやってきました。

「あ~、無様だな。俺の一言だけでここまで一気に落ちるとは思ってもいなかったぞ?」

「あ、兄上!何故父上にありもしない事を告げたのですか?」

「ははは、ちょっと冗談で言っただけだ。父上もその程度は理解した上で、自らの考えがあってお前をここに連れてきた」

 確かに兄上の言葉には説得力があり、あの父上であれば自分に理があると踏んだうえで行動しているはずで、そこから導き出されるのは、僕は父上にとって邪魔な存在であったと言う事です。

 母上も相当長い間見かけておりませんし、きっと兄上にかかりっきりなのでしょうか?

 こうなると僕の立場は悪化する事はあっても改善する事は無いと思って行動した方が良いと思い、なるべく保存のきく食料を一気に購入して離れの奥に隠し・・、その上で日々食料を買い付ける行動をとっていました。

 日々命を繋いでいたある日から何となく王城の方が騒がしくなっていたのですが、僕が入る事は許されていないので何時もの通りに市に向かったのですが、何故か苛烈に迫害されて困っていた所、憧れと言っても良い冒険者のリーンさんに助けて頂けたのです。

 相当珍しい収納魔法を姉弟共にお持ちで、残念ながら弟のロイさんは何も収納する事も出来ずに出す事も出来ないようですが、まごう事なき収納魔法持ちなので尊敬の眼差しを向けていた所、リーンさんから大量の食糧や着替えが入っていた収納袋を頂きました。

 その姉弟が視界から消えると、周囲から僕に聞こえる様な声で色々言っているのですが、一部聞きなれない言葉が聞こえてきました。

「おい、あの袋……奪う訳にはいかないか。あのリーンがまた出てきたら厄介だからな」

「全くだぜ。こんな事なら、万屋に頼んであのゴミを始末してもらったらどうだ?」

「お?お前も万屋の話しは聞いているのか?受注すれば達成率は100%らしいな。願いの内容は何でも良いが、受けるか否かの基準は万屋が都度判断するってやつだろう?」

「あぁ、眉唾だと思ったが、実際に依頼を受けてもらえた奴がいるからな」
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