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モフモフと麻袋
しおりを挟むん?
昼寝をしていたら、腹の当たりが、ポカポカと温かくなった。
目を開けて見ると、小さな子供が、僕の毛に顔を埋めて寝ていた。
靴すら履いてなくて、穴を開けた麻袋に、頭と両手を通している。
あぁ、なんて、不恰好な姿だ。
しかも、臭い。
前足を少し動かし、体を揺すってみた。
むっ、起きない。
別に、重いわけじゃ無い。
むしろ、木の葉の様に、軽い。
眠りを妨げられて、僕は、腹が立った。
けど・・・・・まぁ、いっか。
気紛れを起こした僕は、再び目を閉じた。
どうせ、この魔物が蔓延る森では、人間の子供なんて、そう長く生きられない。
放って置いても、いつか、土に帰るだろう。
短い命。
せめて、眠る様に死ねたら、この子も幸せかも。
それに・・・僕、血が、苦手なんだ。
ぐーーーーーーーーーーーーーーー
お腹が鳴って,少女は、目を覚ました。
顔を上げると、目の前に、真っ白なフワフワがいる。
『あぁ、しょうだった』
森を彷徨って力尽き、全てを諦め、ひと思いに食べてもらおうと、巨大生物に身を投じたのだった。
少女は、天を仰ぐと、両手を、祈る為に組んだ。
『どーか、おかあしゃまのそばに、いけましゅように』
先の戦争で、亡国の皇女だった母と、娘である少女は、戦利品として敵国に連れ去られた。
その後、後宮の奥底で、息を潜める様に生きてきた。
しかし、母が亡くなり、小間使いすら出来ない幼児は、タダ飯食いとして、邪険に扱われた。
『ヴィ』
母が付けてくれた名前を呼んでくれる人は、一人もいない。
ヴィは、残飯を漁り、なんとか命を繋ぐ。
そんなある日、丸裸で麻袋に入れられ、この森に捨てられた。
煌びやかな後宮の中で、薄汚い子供が彷徨くのが、余程目障りだったのだろう。
一生出られないと思っていた監獄の様な世界から、外に出られただけで、ヴィは、幸せを感じた。
袋に穴を開け、服の代わりにし、わずかな花の蜜を啜り、雨水で喉を潤し、数日間生き延びた。
美味しそうな木の実や果物は、彼女の背では、届かない。
指を食わえ、見上げても、落ちてくる気配さえなかった。
ぐーーーーーーーーーーーーーーー
再び、腹の虫がなった。
すると、白いモフモフの目が開いた。
血の様に赤い目。
大きな口が開いて、巨大な舌が、ヴィの方に伸びてくる。
「あわわわわ」
心算はしていたが、食われると思った瞬間、腰が引けた。
しかし、中途半端に噛まれるよりも、一噛みで食いちぎられる方が、マシだと気付く。
「えいっ!」
ヴィは、自ら、白いモフモフの口に飛び込んだ。
ガブリ
と噛まれる予定が、
ペッ
と吐き出された。
コロコロコロコロ
地面を転がった後、
ウォーーーーーーーーー!
大きな唸り声が、頭の上から降り注いだ。
「はへ?」
「ぺっ、ぺっ」
顔を顰め、唾を何度も吐く相手に、
「およよ。たべましぇんの?」
ヴィは、ションボリと肩を落とした。
魔物にすら、不要と言われ、存在価値のない自分が、情けなくなった。
「うえっ、うぇ、うわーーーーーーん」
何処に、それだけの力を残していたのか。
幼な子の泣き声が、森中に響く。
ザワザワザワザワ
木の葉が揺れ、あちこちで、魔物の咆哮が響いた。
それでも、ヴィは、泣き止まない。
白いモフモフは、眉間に深い皺を寄せた。
そして、前足の爪を一本伸ばすと、頭上にあった林檎の木を、大きく揺らした。
ボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタ
大量の林檎が、雨の様に降って来た。
ヴィは、ビックリして、泣き止んだ。
見つめ合う一匹と一人。
暫く経って、ヴィは、
「たべても、よぃのでしゅか?」
と聞いてみた。
「ふん」
鼻息を返事とみなし、ヴィは、林檎を一つ手に持ち、カプリと噛み付いた。
「おいひぃ」
久しぶりの新鮮な食べ物に、ヴィは、鼻を啜って、笑顔を見せた。
ペッペッ
もぉ、いきなり口に飛び込んでくるから、ビックリしたよ。
思わず噛みそうになって、慌てて、吐き出しちゃった。
んー、まだ、口の中で,変な匂いがする。
うがいしたいなぁ。
そうだ、泉に行こう。
よいしょっと。
僕が立ち上がると、何故か、女の子も、立ち上がった。
そして、慌てて麻袋を脱ぐと、林檎を中に詰め始めた。
馬鹿じゃないの?
入れても、入れても、別の穴から転げてている。
結局諦めて、両腕に三個だけ抱えて、僕を見上げて来た。
あのさ、君、真っ裸なんだけど。
せめて、その麻袋、着ようよ。
うーって唸って、前足で、麻袋を突くと、首を傾げる。
理解しろよ、お前、人間だろ。
こんなんじゃ、置いてけない。
きっと、この子、他の奴が来たら、また、自分から相手の口に飛び込むんだ。
麻袋を着て、林檎を抱えて、ヴィは、白いモフモフに付いて歩く。
時々、小走りにならないと、置いてけぼりを食いそうだ。
でも、ヴィが離れ過ぎると、何故か、後ろを振り返って、待ってくれる。
心も、言葉も通じないのに。
もしかしたら、非常時の食料として、側に居る事を許されたのかもしれない。
後宮で学んだのだ。
利がなければ、誰も、動かないと。
自分にできるのは、少しでも太って、美味しく食べてもらう事。
ヴィは、お門違いな思い込みから、一生懸命、林檎を齧った。
泉に着くと、白いモフモフは、身を伏せ、水面に顔を近け、水を口に含んだ。
そして、顔を、激しく左右に振ると、地面に水を吐いた。
ヴィも、倣って、水面に顔を近づけた。
透明度の高い水は、彼女の哀れな姿を、そのままに映し出した。
バサバサの髪。
ガリガリの頬。
薄汚れた肌。
落ち窪んだ目は、虚ろ。
『おいしくなしゃしょう』
ヴィは、手で水を掬い、ゴシゴシと顔を洗った。
垢が剥がれ落ちると、下から、白い肌が見えた。
すると、何を思ったのか、麻袋を脱いで、ピョンと泉に飛び込んだ。
ドボン
ブクブグブク
沈んでいこうとするヴィを、白いモフモフが面倒くさそうに口で咥えた。
「お許しを、お許しを、お許しを」
ヴィを捨てた女官達が、兵隊に捕まり、縄で縛り上げられている。
「本当に、何処に行ったか、分からないのです。確かに、お仕置きの為に、麻袋に入れ、
森の入り口に置いたのは、我らです。しかし、数刻後、様子を見に行くと、既に、居なかったのです」
彼女達が、地面に額を擦り付けて謝る相手は、この国の王。
目的の為には手段を選ばず、人を人と思わぬ死神と呼ばれた男は、一番近い場所にいた女官の髪を掴み、力任せに引っ張った。
「代わりがおらぬ者を失うとは。どう、責任を取る。こんな事なら、神殿に預けておけば良かったわ!」
ヴィは、『神獣の番』であると神託を下された『愛し子』であった。
王が、旨味のない亡国に攻め入り、彼女をこの国に連れ去ったのも、神獣を我が物とせん為。
神獣は、番を匂いで探し出すと言われており、ヴィさえ居れば、向こうからのこのこやってくる。
そうなれば、番の側を離れられない神獣は、この地に縛り付けられる事になるのだ。
それ故に、ヴィを殺さず、後宮で、行儀見習いをさせ、
『決して王に逆らわぬように躾けよ』
と命じていた。
なのに、都合良く勘違いした者達が、日頃の不満の吐口に使っていたのだ。
「探し出すまで、戻ってくるな」
「そんな!森に入って、生きて帰った者は、おりません」
「お前ら百人とアレ。どちらに価値があるか、分かりきっておろう!兵が、森の入り口を見張る。逃げられると思うな!」
この日を境に、後宮の人間が、一人残らず消えた。
何処に消えたのか。
そんな愚問を聞く者は、この国には、居なかった。
あの子の名は、『ヴィ』と言うらしい。
何故かと言うと、自分を指差して、
「ヴィ、ヴィ、ヴィ、ヴィ、ヴィ」
と執拗に僕の目を見て繰り返すから。
虫の鳴き声みたいに、
ヴィ、ヴィ、ヴィ
って、言いながらついて来たりもする。
もう、分かったって。
「ヴァ」
「ちあう!ヴィ」
「ヴァ!」
「ヴィ!」
いい加減諦めて欲しい。
出会ってから数ヶ月。
上手く言えない僕を前に、得意げな顔をするのは、やめて欲しい。
僕だって、もう少し大きくなったら、君みたいな姿に、変身出来るんだからね!
そしたら、ちゃんと『ヴィ』って呼んでやるんだから!
その時は、すごーくビックリしてよね。
それにしても、今日も、彼女の周りは、賑やかだ。
どうも、森に住む妖精達は、彼女が気に入ったらしい。
甲斐甲斐しく色んな物を持ってくる。
服に、櫛に、靴。
食べ物も、飲み物も、絵本も、何でもござれ。
身なりを整えた『ヴィ』は、人間じゃない僕が見ても、綺麗だった。
それに、時々、とっても良い匂いがする。
ねぇ、ヴィ。
君・・・とっても、美味しそうだよ。
完
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