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悪役令嬢ガブリエーヌの真実3
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それから、次の作品を書き上げるまでの1年は、ドレスの中に詰め物を入れ、頬が膨らむよう口に綿を含み、徐々に太っていく印象を与えた。
『着ぐるみガブリエーヌ』をボタックに作らせるという当初の目的が、もうすぐそこまで来ている。
しかし、容姿が『貴族令嬢らしくない』私への風当たりは、益々強くなっていった。
ジーコ王子の暴力も度を越し始めたけど、服の中に詰め物をしていたことで、多少の打撲程度で済んでいた。
私にあまりダメージがないと見ると、ジーコ殿下は、今度は、顔を狙い始めた。
そろそろ『着ぐるみガブリエーヌ(防護服)』が必要なレベルになっていた。
私は、ずっと練ってきた物語を一気に書き上げた。
主人公は、王子相手でも旁若無人に振る舞い、殴られる前に殴り、蹴られる前に蹴り倒す強い女の子。
その実は、心根の優しい彼女が、王子の為に憎まれ役を買って出る悲恋。
ボタックにとっては、何処にでもありそうな恋愛物。
多分、お金を出すほどではない。
だから、裏表紙に悪役令嬢の姿絵を描いた。
『演じるのは私。この着ぐるみを作ってくだされば、貴方を億万長者にして差し上げます。1週間後、お伺いします』
一言で評するなら、『肉ダルマ』。
想像を絶する大きさで、目も、鼻も、口も、肉に埋もれて、人相すら定かでない。
そんな主人公が、暴言を吐き、愛を求め、暴れ狂う。
舞台上でも映える演出が幾らでも作れるだろう。
ラストは、報われぬ彼女の純真が、観客の涙を誘う。
案の定、報酬の入金は直ぐに確認された。
私は、1週間後、満を持してボタックの元を訪れた。
口の中の綿も抜き、普段身につける詰め物も取り去り、プライスレス先生が選んでくれた素敵な衣装を身に纏う。
十三歳になった本当の私の姿は、自分で見ても、驚くほど美しかった。
社交会の内幕を、隅から隅まで知っている私に、情報源を聞いてくるボタック。
『そのような情報を、どこから?』
『企業秘密ですわ。ふふふふふ』
あえて、可憐に、少女らしく微笑む。
人心掌握の手法は、王太子妃教育で嫌と言うほど学んだ。
今使わずに、いつ使う。
こうして、手駒を増やした私は、長年求めていたものを手に入れることができた。
この『着ぐるみガブリエーヌ』を着込み始め、分かったことがある。
人は、恐怖心をなくすと、心に余裕ができるのだと。
ジーコ殿下がどんなに暴力的な振る舞いをしても、私は、痛みすら感じない。
彼の腕にしがみつき、四六時中つきまとう。
「私だけを見て」
「他の婚約者候補なんて要らないわ」
口では愛の言葉を叫びながら、時々、ジーコ殿下に体当たりして吹っ飛ばした。
なんて楽しいのだろう。
そうして、ジーコ殿下に嫌がらせを始めた私は、あることに気づいた。
儚げで、清楚。
体付きも細く、気も弱い。
以前の私を彷彿とさせる女子生徒達が、三人も殿下の標的にされていることに。
家柄的に、良くても側妃。
興味がなくなれば、後宮の片隅で、死ぬまで飼い殺しにされてしまう。
私は、ジーコ殿下が彼女達に近づく度に、大声で叫んだ。
「まー、なんて無様なカーテシーかしら。何を学んでいらっしゃったの?」
「私に口答えするなど、何様なのかしら?」
「廊下を走るなど、淑女の風上にもおけませんわ!」
周りにいる生徒達の注目を集め、
「見るのも汚らわしい。さっさと、お行きなさい!」
と逃がす。
となりでジーコ殿下が舌打ちしたって気にしない。
だって私は、『悪役令嬢ガブリエーヌ・ニクズキー』。
この役を見事に演じきる。
プライスレス先生は、
「ガブリエーヌ、無茶は駄目よ」
と心配してくれるけど、今は、毎日が楽しくて仕方ない。
人々は、強烈な個性を放ちだした『ガブリエーヌ』を目にし、すっかり昔のお淑やかだった私を忘れてしまった。
昔から、こうだった。
そんな風に言われ出し、人の記憶は当てにならないと可笑しくなった。
その後、例の彼女達が私の思惑に気づき、3人で協力しあい、自分達の家族を巻き込み、婚約者の選定を始めたと知った。
やれば、出来るじゃない。
ジーコ殿下は、見た目は申し分ない王子様だけど、内面に問題を抱えている。
私への暴力行為なんて、まだ、序の口だった。
幼い頃から、虫を集めては水責めにしたり、犬を猛獣の檻に放り込んでみたり。
嗜虐趣味が隠しきれず、護衛につく騎士達は、半分、見張り役のようなものだった。
動物のみならず、人にも向ける怪しい光を宿した視線は、娘を持つ親達からすれば、恐怖でしかなかっただろう。
私の傍若無人ぶりを国王が許すのも、最近抑えが効かなくなってきたジーコ殿下の抑制力に繋がっているからだろう。
どうも、ジーコ殿下の弟君達の中に、見所のある子達が数名いるらしい。
そろそろ王家も、彼を見放しにかかった。
私は、王家の黙認をいいことに、公爵令嬢と言う立場を最大限利用し、他の婚約者候補をあの手この手で引きずり下ろした。
まんまとジーコ殿下の婚約者に成り上がった私を、良く思わない人間もいた。
しかし、それは、あくまで権力争いをする父親世代の話。
手駒として、無理矢理縁を結ばせようとされる令嬢達からは、密かに感謝されていた。
私は、『殿下のお心がご自身に向かないと察して、あえて、憎まれ役を買い、殿下に相応しいご令嬢を探していた』という内容の日記を毎日毎日毎日毎日書き続けた。
いつの日か、他人が読むことを想定して。
「ガブリエーヌ、貴女、最近やりすぎよ。このままじゃ、貴女の人生、苦しいものになるわよ」
プライスレス先生が、泣きそうな顔で私を叱ってくれる。
先生が、この『着ぐるみガブリエーヌ』を考えたのは、私に怪我をさせたく無かったから。
決して、旁若無人な悪役令嬢にするためじゃない。
でも、私には、一つ計画があった。
「私、死のうと思うんです」
「馬鹿!なんてこと言うの!」
「怒らないで先生。『ガブリエーヌ・ニクズキー公爵令嬢』が死ぬんです。私は、本当の私として生きていきます!」
ボタックの劇団から、執筆料として多額の現金を受け取った。
豪遊しなければ、一生食べていける金額だ。
それを元手に、私は、一つの事業を起ち上げていた。
プライスレス先生の前世の知識をフル活用した商品開発を行い、独占販売を行う商会。
ラインナップは、化粧品と健康食品が中心。
それも軌道に乗り始め、私は、『オチョボンヌ』という新しい名前で、登記も行っている。
「私、オチョボンヌとして生きていこうと思います」
「もう少し、ネーミング考えたら?」
「それ、『道楽息子』なんてペンネーム付けた先生に言われたくありません」
「懐かしい話、引っ張り出してくるわね」
クスクス笑う先生の手を、私は、両手で包み込んだ。
「プライスレス先生」
「なに?」
「私と生きてくれませんか?」
「プロポーズみたいなセリフね」
「そう受け取ってくれても、大丈夫です」
私の言葉に、先生は、優しく微笑んだ。
「それは………魅力的な言葉ね」
「新しい名前、何にしますか?」
「んー、オチョボンヌの夫でしょ?ガマグチとか?」
「すみません、意味が分かりません」
私達は、その後、先生の新しい名前について遅くまで語り合った。
私の死亡記事が出る、三日前のことだった。
都で一世風靡した歌劇『あぁ、麗しのガブリエーヌ~愛に生き、愛に殉じた我らの天使~』。
私の書いた最高傑作は、多くの貴族から多額の寄付が寄せられ、連日上映された。
寄付を率先して行ってくれたのは、ガブリエーヌのお陰でジーコ殿下から逃げられた令嬢たちの家だった。
平民達は、無料と言うこともあり、ゾクゾクと劇場に足を運び、噂を広めていく。
見せ場は、自分を思いやってくれたガブリエーヌを偲び、ジーコが、自ら弟に王太子を譲る場面。
我が最愛は、ガブリエーヌのみ
他の女を娶るなど、出来ようか!
この名台詞で、ジーコ殿下の名声は鰻登り。実際に、彼が、王籍を抜け、国境警備の最前線に身を投じた事で、物語に真実味が出た。
「盛況で、なによりですわ」
「それもこれも、ガブリ・・・いえ、オチョボンヌ様のお陰でございます」
ボタックの前で、私は、嫣然と微笑む。
「あちらの名前は、捨てましたの」
私は、人差し指を唇に当て、口角をほんのり上に上げた。
「私の脚本、なかなかのものね。自画自賛しても良いくらいには」
「それは、もう!」
手をハエのように擦り合わせ、ボタックは、頭をペコペコ下げた。
「歴代の悪役令嬢着ぐるみは、お約束通り、お譲りいただけるのでしょうか?」
ボタックは、私に媚びた笑いを向ける。
「えぇ、元は、貴方が作ってくださった物ですもの。有効活用して下されば嬉しいですわ」
「ありがたき幸せ」
深々と頭を下げるボタックの前に、私は、一冊の台本を置いた。
それは、『悪役令嬢ガブリエーヌの真実』と書かれた演目だった。
醜悪な着ぐるみを纏い、まんまと鬼畜王子を騙した希代のペテン師令嬢ガブリエーヌの物語。
「これも、上演して宜しいのでしょうか?」
「えぇ・・・でも、あくまで、二次作品としてね」
悲劇の悪役令嬢を憐れんで、せめて物語の中だけでも、彼女を主役に。
そんな一人の作家が作った創作の物語として、語り継がれるだろう。
これで、真実が、嘘に変わる。
「あぁ、そうだ、忘れる所でした」
ボタックは、ポンと手を打ち、顔を上げる。
「ずっと気になっていたのですが、何故、ジーコ殿下は、辺境領へ行かれたのですか?」
彼には、ガブリエーヌを愛していなかったジーコが、わざわざ表舞台から降りた理由が分からなかったようだ。
確かに、真実を知る者には、最大の謎。
不思議そうな顔の男を前に、私は、目を糸の様に細めて囁いた。
「自分から行ったなんて、誰が言ったのかしら?ふふふふ」
私の策略に、王家は、乗った。
不必要になった息子を体よく退けたのだ。
プライスレス先生が、兄である国王に何かを囁いたらしいが、それすら、どうでも良いくらい、今の私は幸せだった。
完
『着ぐるみガブリエーヌ』をボタックに作らせるという当初の目的が、もうすぐそこまで来ている。
しかし、容姿が『貴族令嬢らしくない』私への風当たりは、益々強くなっていった。
ジーコ王子の暴力も度を越し始めたけど、服の中に詰め物をしていたことで、多少の打撲程度で済んでいた。
私にあまりダメージがないと見ると、ジーコ殿下は、今度は、顔を狙い始めた。
そろそろ『着ぐるみガブリエーヌ(防護服)』が必要なレベルになっていた。
私は、ずっと練ってきた物語を一気に書き上げた。
主人公は、王子相手でも旁若無人に振る舞い、殴られる前に殴り、蹴られる前に蹴り倒す強い女の子。
その実は、心根の優しい彼女が、王子の為に憎まれ役を買って出る悲恋。
ボタックにとっては、何処にでもありそうな恋愛物。
多分、お金を出すほどではない。
だから、裏表紙に悪役令嬢の姿絵を描いた。
『演じるのは私。この着ぐるみを作ってくだされば、貴方を億万長者にして差し上げます。1週間後、お伺いします』
一言で評するなら、『肉ダルマ』。
想像を絶する大きさで、目も、鼻も、口も、肉に埋もれて、人相すら定かでない。
そんな主人公が、暴言を吐き、愛を求め、暴れ狂う。
舞台上でも映える演出が幾らでも作れるだろう。
ラストは、報われぬ彼女の純真が、観客の涙を誘う。
案の定、報酬の入金は直ぐに確認された。
私は、1週間後、満を持してボタックの元を訪れた。
口の中の綿も抜き、普段身につける詰め物も取り去り、プライスレス先生が選んでくれた素敵な衣装を身に纏う。
十三歳になった本当の私の姿は、自分で見ても、驚くほど美しかった。
社交会の内幕を、隅から隅まで知っている私に、情報源を聞いてくるボタック。
『そのような情報を、どこから?』
『企業秘密ですわ。ふふふふふ』
あえて、可憐に、少女らしく微笑む。
人心掌握の手法は、王太子妃教育で嫌と言うほど学んだ。
今使わずに、いつ使う。
こうして、手駒を増やした私は、長年求めていたものを手に入れることができた。
この『着ぐるみガブリエーヌ』を着込み始め、分かったことがある。
人は、恐怖心をなくすと、心に余裕ができるのだと。
ジーコ殿下がどんなに暴力的な振る舞いをしても、私は、痛みすら感じない。
彼の腕にしがみつき、四六時中つきまとう。
「私だけを見て」
「他の婚約者候補なんて要らないわ」
口では愛の言葉を叫びながら、時々、ジーコ殿下に体当たりして吹っ飛ばした。
なんて楽しいのだろう。
そうして、ジーコ殿下に嫌がらせを始めた私は、あることに気づいた。
儚げで、清楚。
体付きも細く、気も弱い。
以前の私を彷彿とさせる女子生徒達が、三人も殿下の標的にされていることに。
家柄的に、良くても側妃。
興味がなくなれば、後宮の片隅で、死ぬまで飼い殺しにされてしまう。
私は、ジーコ殿下が彼女達に近づく度に、大声で叫んだ。
「まー、なんて無様なカーテシーかしら。何を学んでいらっしゃったの?」
「私に口答えするなど、何様なのかしら?」
「廊下を走るなど、淑女の風上にもおけませんわ!」
周りにいる生徒達の注目を集め、
「見るのも汚らわしい。さっさと、お行きなさい!」
と逃がす。
となりでジーコ殿下が舌打ちしたって気にしない。
だって私は、『悪役令嬢ガブリエーヌ・ニクズキー』。
この役を見事に演じきる。
プライスレス先生は、
「ガブリエーヌ、無茶は駄目よ」
と心配してくれるけど、今は、毎日が楽しくて仕方ない。
人々は、強烈な個性を放ちだした『ガブリエーヌ』を目にし、すっかり昔のお淑やかだった私を忘れてしまった。
昔から、こうだった。
そんな風に言われ出し、人の記憶は当てにならないと可笑しくなった。
その後、例の彼女達が私の思惑に気づき、3人で協力しあい、自分達の家族を巻き込み、婚約者の選定を始めたと知った。
やれば、出来るじゃない。
ジーコ殿下は、見た目は申し分ない王子様だけど、内面に問題を抱えている。
私への暴力行為なんて、まだ、序の口だった。
幼い頃から、虫を集めては水責めにしたり、犬を猛獣の檻に放り込んでみたり。
嗜虐趣味が隠しきれず、護衛につく騎士達は、半分、見張り役のようなものだった。
動物のみならず、人にも向ける怪しい光を宿した視線は、娘を持つ親達からすれば、恐怖でしかなかっただろう。
私の傍若無人ぶりを国王が許すのも、最近抑えが効かなくなってきたジーコ殿下の抑制力に繋がっているからだろう。
どうも、ジーコ殿下の弟君達の中に、見所のある子達が数名いるらしい。
そろそろ王家も、彼を見放しにかかった。
私は、王家の黙認をいいことに、公爵令嬢と言う立場を最大限利用し、他の婚約者候補をあの手この手で引きずり下ろした。
まんまとジーコ殿下の婚約者に成り上がった私を、良く思わない人間もいた。
しかし、それは、あくまで権力争いをする父親世代の話。
手駒として、無理矢理縁を結ばせようとされる令嬢達からは、密かに感謝されていた。
私は、『殿下のお心がご自身に向かないと察して、あえて、憎まれ役を買い、殿下に相応しいご令嬢を探していた』という内容の日記を毎日毎日毎日毎日書き続けた。
いつの日か、他人が読むことを想定して。
「ガブリエーヌ、貴女、最近やりすぎよ。このままじゃ、貴女の人生、苦しいものになるわよ」
プライスレス先生が、泣きそうな顔で私を叱ってくれる。
先生が、この『着ぐるみガブリエーヌ』を考えたのは、私に怪我をさせたく無かったから。
決して、旁若無人な悪役令嬢にするためじゃない。
でも、私には、一つ計画があった。
「私、死のうと思うんです」
「馬鹿!なんてこと言うの!」
「怒らないで先生。『ガブリエーヌ・ニクズキー公爵令嬢』が死ぬんです。私は、本当の私として生きていきます!」
ボタックの劇団から、執筆料として多額の現金を受け取った。
豪遊しなければ、一生食べていける金額だ。
それを元手に、私は、一つの事業を起ち上げていた。
プライスレス先生の前世の知識をフル活用した商品開発を行い、独占販売を行う商会。
ラインナップは、化粧品と健康食品が中心。
それも軌道に乗り始め、私は、『オチョボンヌ』という新しい名前で、登記も行っている。
「私、オチョボンヌとして生きていこうと思います」
「もう少し、ネーミング考えたら?」
「それ、『道楽息子』なんてペンネーム付けた先生に言われたくありません」
「懐かしい話、引っ張り出してくるわね」
クスクス笑う先生の手を、私は、両手で包み込んだ。
「プライスレス先生」
「なに?」
「私と生きてくれませんか?」
「プロポーズみたいなセリフね」
「そう受け取ってくれても、大丈夫です」
私の言葉に、先生は、優しく微笑んだ。
「それは………魅力的な言葉ね」
「新しい名前、何にしますか?」
「んー、オチョボンヌの夫でしょ?ガマグチとか?」
「すみません、意味が分かりません」
私達は、その後、先生の新しい名前について遅くまで語り合った。
私の死亡記事が出る、三日前のことだった。
都で一世風靡した歌劇『あぁ、麗しのガブリエーヌ~愛に生き、愛に殉じた我らの天使~』。
私の書いた最高傑作は、多くの貴族から多額の寄付が寄せられ、連日上映された。
寄付を率先して行ってくれたのは、ガブリエーヌのお陰でジーコ殿下から逃げられた令嬢たちの家だった。
平民達は、無料と言うこともあり、ゾクゾクと劇場に足を運び、噂を広めていく。
見せ場は、自分を思いやってくれたガブリエーヌを偲び、ジーコが、自ら弟に王太子を譲る場面。
我が最愛は、ガブリエーヌのみ
他の女を娶るなど、出来ようか!
この名台詞で、ジーコ殿下の名声は鰻登り。実際に、彼が、王籍を抜け、国境警備の最前線に身を投じた事で、物語に真実味が出た。
「盛況で、なによりですわ」
「それもこれも、ガブリ・・・いえ、オチョボンヌ様のお陰でございます」
ボタックの前で、私は、嫣然と微笑む。
「あちらの名前は、捨てましたの」
私は、人差し指を唇に当て、口角をほんのり上に上げた。
「私の脚本、なかなかのものね。自画自賛しても良いくらいには」
「それは、もう!」
手をハエのように擦り合わせ、ボタックは、頭をペコペコ下げた。
「歴代の悪役令嬢着ぐるみは、お約束通り、お譲りいただけるのでしょうか?」
ボタックは、私に媚びた笑いを向ける。
「えぇ、元は、貴方が作ってくださった物ですもの。有効活用して下されば嬉しいですわ」
「ありがたき幸せ」
深々と頭を下げるボタックの前に、私は、一冊の台本を置いた。
それは、『悪役令嬢ガブリエーヌの真実』と書かれた演目だった。
醜悪な着ぐるみを纏い、まんまと鬼畜王子を騙した希代のペテン師令嬢ガブリエーヌの物語。
「これも、上演して宜しいのでしょうか?」
「えぇ・・・でも、あくまで、二次作品としてね」
悲劇の悪役令嬢を憐れんで、せめて物語の中だけでも、彼女を主役に。
そんな一人の作家が作った創作の物語として、語り継がれるだろう。
これで、真実が、嘘に変わる。
「あぁ、そうだ、忘れる所でした」
ボタックは、ポンと手を打ち、顔を上げる。
「ずっと気になっていたのですが、何故、ジーコ殿下は、辺境領へ行かれたのですか?」
彼には、ガブリエーヌを愛していなかったジーコが、わざわざ表舞台から降りた理由が分からなかったようだ。
確かに、真実を知る者には、最大の謎。
不思議そうな顔の男を前に、私は、目を糸の様に細めて囁いた。
「自分から行ったなんて、誰が言ったのかしら?ふふふふ」
私の策略に、王家は、乗った。
不必要になった息子を体よく退けたのだ。
プライスレス先生が、兄である国王に何かを囁いたらしいが、それすら、どうでも良いくらい、今の私は幸せだった。
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