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真実の行方
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「聞いた?奥さん」
「えぇ、聞きましたわ、奥さん」
「まさか、あの家で、あんな事がねぇ」
ゴミ出しに出てきた2人の女性が、互いの存在を確認し、小走りに近寄った。
そして、手に持つゴミ袋を、ポイッと指定箇所に投げ込むと、顔を寄せて数日前に起きた事件について話し出す。
「とっても仲の良さそうなご家族だったのに」
と一人が言った。
実際は、家族仲なんて良く知りもしない。
しかし、そう言った方が、この事件がより悲惨なものに聞こえる。
無意識に面白がっているのが、言葉の端々に見て取れた。
合いの手を打つ相手も、
「本当、理想の家族かと思ったのに。しかも、ご主人まで人殺しなんて!」
と更に言葉を重ねた。
実は、あの事件後、家宅捜索が入り、庭に埋められた遺体が見つかった。
死後、数日しか経っていない新しい遺体は、殆ど損傷せずに出てきた為、首を絞めた殺害だと、直ぐに分かった。
「庭から出てきたんですって?」
「そうそう、なんでも奥さんとやり直そうとして、邪魔になった愛人をご主人が殺して自宅の庭に埋めたらしいわ。」
「「ふふふふふ」」
一瞬言葉が止まった後、女性達の口から、何故か、小さな笑いが溢れた。
「ご主人も、馬鹿ね。わざわざ殺さなくても」
「余程、別れてくれなかったんじゃない?」
「そんなに良い男だったかしら?」
不確かな情報と勝手な想像で、二人の話は盛り上がっていく。
「そうそう、娘さんが、お婆ちゃんとご主人の妹さんを殺したんでしょ?」
「あら?お婆ちゃんは、心臓発作じゃなくて?」
「2人に漂白剤飲ませたって聞いたけど?」
新聞すらまともに読まず、聞きかじりと想像で物語を作る人間が、そこにいた。
しかも、最後に、
「まぁ、どっちでもいいわ。ね」
「そうね、どっちでも死んだことには変わりないものね」
と言葉を締めた。
「ほんと、あそこの奥さん、良い人だったのに可哀想」
「ねー、大人しいけど、清楚な美人さんだったわ」
「あら、明るくて快活な方だったじゃない」
「え?そうなの?私、ちゃんとお話ししたことなかったわ」
「私だって無いけど、おはよーございまーすって、ゴミ捨ての時に大きな声で挨拶してくれたもの」
「挨拶くらい、誰でもするんじゃないの?」
「そうだけど、そんな風に見えたのよ」
「まぁ、日差しも暑いし、お互い熱中症には気をつけましょう」
「そうね、じゃ、また」
彼女達にとっては、この事件も、日々の退屈を忘れさせてくれるスパイスでしかない。
どうせ、次の日には、何を話したかさえ忘れているのだ。
「わかりません」
「は?お前が殺したんだろ?分からないなんてことがあるのか?」
警察の尋問に、私は、頭を抱えた。
主張先に警察から電話があった時、最初、自分の罪を知られたのだと思った。
しかし、実際は、娘が、俺の妹を殺した件についての状況説明だった。
『少し、家を調べさせて頂くことになると思います』
その言葉に、絶望した。
庭に埋めたアレを掘り返されたら、俺は、終わりだ。
なんとか仕事を早く終わらせ、次の日に家に帰ると、既に、家の周りは黄色いテープで囲まれていた。
リビングで起こった事件のはずなのに、何故か、庭にスコップが突き刺さっていた。
それが、まるで、墓標のように見えた。
ドン!
警察官が机を叩いた音で、我に返る。
「お前が、首を絞めたのは、間違いないんだな?」
「多分…」
「いいかげんにしろよ」
怒りを込めた目が、俺を真っ直ぐに見ている。
「なぜ殺した?」
「………妻が……」
そう、妻が、言ったのだ。
『全てを無かったことにして、もう一度、やり直せないかしら?』
俺にしなだりかかり、頬を胸元に寄せて、上目遣いで。
髪の毛が汗で濡れて、頬に張り付いていた。
それが、なんとも、扇情的だった。
家出から帰ってきたアイツは、今までとは比べものにならないくらい、良い女だった。
日が経つにつれ、どんどん手放すのが惜しくなった。
使い古した愛人さえ居なくなれば、妻は、俺を許してくれる。
ずっと蔑ろにしてきた俺を、優しく包み込んで愛してくれる。
そう思ったら、いてもたってもいられなかった。
別れ話を持ち出したら、会社に言いつけると騒ぎ出した。
アレは、同じ会社の経理だった。
会社の金を流用するのにも、便利な女。
しかし、妻には代えられない。
なんとかしないとと必死になっていたら、いつの間にか、アレが床に倒れていた。
「今更、奥さんのせいにするのか?お前、本当に、最低だな」
「埋めるのは、どうやった?1人じゃ無理だろ?」
「その……たまたま、妻が、庭に畑を作る為に穴を掘っていて……そこに……」
「殺人の片棒を知らない間に担がされちゃ、奥さんも、たまったもんじゃないな」
呆れかえる警察官を前に、俺は、何も言えなかった。
「せめて、奥さんとは、離婚してやれ」
「な!なんで、そんな事言われなきゃならない」
俺の言葉に、警察官が、あからさまに侮蔑の表情を浮かべた。
「数ヶ月前、奥さんが、警察に保護されたのを知っているか?」
「え?」
「病院から、急患で運び込まれた女性に、暴行された形跡があるって連絡がはいってな。それが、奥さんだよ。」
警察官の目が『お前がやったんだろう』と言っている。
「ち、違う、俺じゃない」
「なら、他の家族か?奥さんに事情を聞いても『家庭内のことなので……』の一点張りだ。その後、病院に金だけ払って、勝手に家に帰っちまった。」
俺は、何も言えなかった。
朝会社に行って、帰るのが嫌で、愛人の家に入り浸って……。
家で、何が行われているかなんて、何も知らない。
「お、俺じゃない。それだけは、確かだ」
「それを娘が証明してくれたら良いな。他は、全員死んだからな」
鼻で笑われ、調書に何かが書き込まれていく。
俺に関係ないことまで、俺の罪になるのか?
トントントンと鉛筆で机を叩き、警察官が、
「考えてもみろ。ずっと家族に蔑ろにされた挙げ句、家族は、全員犯罪者。何処に救いがある?」
と言った。
その言葉に、やっと、現状を理解する。
「あ……」
そうだ、娘も、私も、殺人犯だ。
その事に、今更ながら、吐き気をもよおした。
「えぇ、聞きましたわ、奥さん」
「まさか、あの家で、あんな事がねぇ」
ゴミ出しに出てきた2人の女性が、互いの存在を確認し、小走りに近寄った。
そして、手に持つゴミ袋を、ポイッと指定箇所に投げ込むと、顔を寄せて数日前に起きた事件について話し出す。
「とっても仲の良さそうなご家族だったのに」
と一人が言った。
実際は、家族仲なんて良く知りもしない。
しかし、そう言った方が、この事件がより悲惨なものに聞こえる。
無意識に面白がっているのが、言葉の端々に見て取れた。
合いの手を打つ相手も、
「本当、理想の家族かと思ったのに。しかも、ご主人まで人殺しなんて!」
と更に言葉を重ねた。
実は、あの事件後、家宅捜索が入り、庭に埋められた遺体が見つかった。
死後、数日しか経っていない新しい遺体は、殆ど損傷せずに出てきた為、首を絞めた殺害だと、直ぐに分かった。
「庭から出てきたんですって?」
「そうそう、なんでも奥さんとやり直そうとして、邪魔になった愛人をご主人が殺して自宅の庭に埋めたらしいわ。」
「「ふふふふふ」」
一瞬言葉が止まった後、女性達の口から、何故か、小さな笑いが溢れた。
「ご主人も、馬鹿ね。わざわざ殺さなくても」
「余程、別れてくれなかったんじゃない?」
「そんなに良い男だったかしら?」
不確かな情報と勝手な想像で、二人の話は盛り上がっていく。
「そうそう、娘さんが、お婆ちゃんとご主人の妹さんを殺したんでしょ?」
「あら?お婆ちゃんは、心臓発作じゃなくて?」
「2人に漂白剤飲ませたって聞いたけど?」
新聞すらまともに読まず、聞きかじりと想像で物語を作る人間が、そこにいた。
しかも、最後に、
「まぁ、どっちでもいいわ。ね」
「そうね、どっちでも死んだことには変わりないものね」
と言葉を締めた。
「ほんと、あそこの奥さん、良い人だったのに可哀想」
「ねー、大人しいけど、清楚な美人さんだったわ」
「あら、明るくて快活な方だったじゃない」
「え?そうなの?私、ちゃんとお話ししたことなかったわ」
「私だって無いけど、おはよーございまーすって、ゴミ捨ての時に大きな声で挨拶してくれたもの」
「挨拶くらい、誰でもするんじゃないの?」
「そうだけど、そんな風に見えたのよ」
「まぁ、日差しも暑いし、お互い熱中症には気をつけましょう」
「そうね、じゃ、また」
彼女達にとっては、この事件も、日々の退屈を忘れさせてくれるスパイスでしかない。
どうせ、次の日には、何を話したかさえ忘れているのだ。
「わかりません」
「は?お前が殺したんだろ?分からないなんてことがあるのか?」
警察の尋問に、私は、頭を抱えた。
主張先に警察から電話があった時、最初、自分の罪を知られたのだと思った。
しかし、実際は、娘が、俺の妹を殺した件についての状況説明だった。
『少し、家を調べさせて頂くことになると思います』
その言葉に、絶望した。
庭に埋めたアレを掘り返されたら、俺は、終わりだ。
なんとか仕事を早く終わらせ、次の日に家に帰ると、既に、家の周りは黄色いテープで囲まれていた。
リビングで起こった事件のはずなのに、何故か、庭にスコップが突き刺さっていた。
それが、まるで、墓標のように見えた。
ドン!
警察官が机を叩いた音で、我に返る。
「お前が、首を絞めたのは、間違いないんだな?」
「多分…」
「いいかげんにしろよ」
怒りを込めた目が、俺を真っ直ぐに見ている。
「なぜ殺した?」
「………妻が……」
そう、妻が、言ったのだ。
『全てを無かったことにして、もう一度、やり直せないかしら?』
俺にしなだりかかり、頬を胸元に寄せて、上目遣いで。
髪の毛が汗で濡れて、頬に張り付いていた。
それが、なんとも、扇情的だった。
家出から帰ってきたアイツは、今までとは比べものにならないくらい、良い女だった。
日が経つにつれ、どんどん手放すのが惜しくなった。
使い古した愛人さえ居なくなれば、妻は、俺を許してくれる。
ずっと蔑ろにしてきた俺を、優しく包み込んで愛してくれる。
そう思ったら、いてもたってもいられなかった。
別れ話を持ち出したら、会社に言いつけると騒ぎ出した。
アレは、同じ会社の経理だった。
会社の金を流用するのにも、便利な女。
しかし、妻には代えられない。
なんとかしないとと必死になっていたら、いつの間にか、アレが床に倒れていた。
「今更、奥さんのせいにするのか?お前、本当に、最低だな」
「埋めるのは、どうやった?1人じゃ無理だろ?」
「その……たまたま、妻が、庭に畑を作る為に穴を掘っていて……そこに……」
「殺人の片棒を知らない間に担がされちゃ、奥さんも、たまったもんじゃないな」
呆れかえる警察官を前に、俺は、何も言えなかった。
「せめて、奥さんとは、離婚してやれ」
「な!なんで、そんな事言われなきゃならない」
俺の言葉に、警察官が、あからさまに侮蔑の表情を浮かべた。
「数ヶ月前、奥さんが、警察に保護されたのを知っているか?」
「え?」
「病院から、急患で運び込まれた女性に、暴行された形跡があるって連絡がはいってな。それが、奥さんだよ。」
警察官の目が『お前がやったんだろう』と言っている。
「ち、違う、俺じゃない」
「なら、他の家族か?奥さんに事情を聞いても『家庭内のことなので……』の一点張りだ。その後、病院に金だけ払って、勝手に家に帰っちまった。」
俺は、何も言えなかった。
朝会社に行って、帰るのが嫌で、愛人の家に入り浸って……。
家で、何が行われているかなんて、何も知らない。
「お、俺じゃない。それだけは、確かだ」
「それを娘が証明してくれたら良いな。他は、全員死んだからな」
鼻で笑われ、調書に何かが書き込まれていく。
俺に関係ないことまで、俺の罪になるのか?
トントントンと鉛筆で机を叩き、警察官が、
「考えてもみろ。ずっと家族に蔑ろにされた挙げ句、家族は、全員犯罪者。何処に救いがある?」
と言った。
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「あ……」
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その事に、今更ながら、吐き気をもよおした。
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