背伸びだとしても,私だって恋がしたいっ

初恋

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幼馴染みのやきもち

幼馴染みからのお誘い。

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居心地が悪いような,恥ずかしいような。

そんな初めての教室。

まるで知らない場所にでも足を踏み入れるように,私は自分の席へと向かった。



「おはよう七海ちゃん。どうしたの? 今日元気ない?」



クラスメートの1人が,私に声をかける。

びっくりして顔をあげると,その子は本当に心配そうな顔をした。



「えっなんで? 私今日もすっごく元気だよ!!!」



ご飯だって朝から2杯も食べちゃったんだから!!!



「だって,いつもなら皆に挨拶して回ってるのに……今日は真っ直ぐ自分の席に座ってたから。何かあったのかと思って」



ぴしりと表情筋が固まる。

そうだったっけ。



「ほ,ほんとに大丈夫。心配してくれてありがとね」



ううん,とその子は自分の席へと戻っていった。

本当に,分かりやすすぎる自分が嫌になる。

顔をあげると,大和くんが登校してきたのが見えて,つい目を伏せてしまった。

感じ,悪かったかも……

でも……


「おはよう」



大和くんの声。

自分にかけられた声だと気づくのが遅れて,私は変なタイミングでおはようと声を返す。

大和くん,普通だな……

私もああしなきゃいけないんだ。

どこか腑に落ちて,私は自分にカツを入れるように真っ直ぐ前を向いた。



「結城ちゃん。大和となんかあった??」



こそっと,名雪くんが私に話しかける。

私は小中くんに言われたことを守らなかったことを,まだ伝えていなかったと思い出した。



「名雪くん。名雪くんにはああ言ったけど,日曜日,やっぱり断れなくて」



今は,楽しかったからやっぱり断らなくて良かったと思っているけど。

それでもああやって頷いた以上,よくなかったなと小中くんに謝る。



「それで……?」



どきりとした。

だけど勝手に話すわけにもいかなくて,私は誤魔化すよう一瞬浮かんだのとは別の事実だけを返した。



「た,楽しかったよ」



声,ひっくり返っちゃった……っっ



「ふーん。……あ,ねぇ結城ちゃん」

「?」



良かった。

バレてないみたい。

そう安心しながら,切り替わった名雪くんの話を待つ。



「今週の土曜日って空いてる? 行きたいところがあるんだけど,1人だと入りづらくて」

「え……」



いいけど。

でも……



「よくないって,名雪くんが」

「俺達は幼馴染みでしょ……? 昔みたいに遊ぼうよ。……それとも,嫌……?」



珍しく,少し強引な名雪くん。

そんなに行きたいところなのかな……?


「ううん,嫌じゃないよ。土曜日の何時にどこに行けばいい?」

「10時に駅。近くにカフェがあるんだ」



そういって笑った名雪くんは,とても嬉しそうに見えた。

ホームルームの後,私は結奈と瑠菜から手招きを受ける。

ぴょこぴょこと寄ると,名雪くんの話だった。



「結城ちゃん,さっき何話してたの?」

「名雪くんが自分から話しかけるのって,結城ちゃんだけだよねぇ」

「ううん。そうでもないと思うけど。土曜日にね,昔はよく出掛けてたし,遊ぼうって」



これなら勘違いされないよね? 名雪くん。

これで,いいんだよね?

正解を求めてきょろきょろした先に,名雪くんはいなかった。



「……ふーん」

「結奈?」

「ううん,いいんじゃない。でも,最近井上くんとも仲いいよね。なんとも思わないの? ほら,委員会同じだし井上くんとかお似合いだと思うけど」

「え……そ,そうかなぁ」



どうして急に?

それとも……ほんとに私と大和くんが並ぶのかな。

告白されたことを思い出して,私はほんのりと困惑した。

まだ自分でも分からないのに……



「ゆっ結奈!」



瑠菜……?

焦ったように,瑠奈は結奈の腕に自分の両腕を絡めた。

驚いた顔の結奈は,真ん丸な瞳を私に向けたままくらりと身体を傾ける。




「結城ちゃん困ってるよっ! 2人ともそんなつもりじゃないんだから。ねっ。結城ちゃんは皆と友達だもんね! ね?」

「う,うん」

「結奈行こうっ。私,結奈に言わなきゃいけないことあるんだった!!!!」

「え……うん。どしたの」



2人とも……どうしちゃったの。

頷いて,見送るので精一杯。

そんな私には見向きもしないで




「いいからいいから」



そういって,瑠菜は結奈をつれていってしまった。



「……七海。次体育」



隣にそっと立った由里子の笑顔にほっとして,私は由里子と一緒に急いで着替えた。


「バレーって痛いから好きじゃないけど,皆とやるのは楽しいよね」

「まぁね。男子なんかは特に盛り上がるし」



キュッと響いたシューズ。

それは,点数係を務める私たちの目の前で,隣の暮らすの男の子が大きく球を上にあげたために発生した音。



「悪い! ちょっとズレたー!!」



大きく頭を逸らして叫んだそれを,誰かが爽やかに返す。



「大丈夫ー! さく!」

「ほいっ」



その声に応えて軽やかなトスが渡された。



ービーーッ



すかさず,由里子が隣で得点を知らせる音を鳴らす。



「わ,あ……」



当たり前のように自分に渡すよう頼んで,当たり前のように了承されて。

見事に鋭い一撃を,空中でブレずに打ち込んだ。

その景色を目の前に,私は思わず得点を捲るのを忘れて感嘆してしまう。



「名雪くんって,運動出来たんだ」

「今までも結構言われてたけどね」



……そうなの?

ちらりと目を向けて,また名雪くんへと視線を戻す。

既に切り替えて,次の得点を目指し生き生きと活動していた。



「ちなみに,井上くんのサーブも力強くて有名なのよ」



名雪くんの得点は,サーブ権を取り戻して。

ポジションが変わった先でサーブを打つのは,大和くんらしい。

小さく呼吸して,大和くんはポーンとボールを上に上げる。

そのまま落ち着いた様子で安定的に動き出し,突如飛び上がった。

ごう,と聞こえてきそうな程,獰猛にも見える力強いアタック。

相手側のチームは,何とかしたに潜り込んだものの,威力に負けてボールを弾き飛ばしている。



「ほんどだ」



名雪くんと大和くんが同じチームになれば,球技大会でトップを取ることも夢じゃないかもしれない。

ぼんやり思いながら名雪くんを見ると,無邪気に喜んでいた。



「……あんまり興味ない感じ?」

「え,あ大和くんのサーブ? 凄いよね。どれくらい続くのかな」



続きすぎると気まずさを感じてしまうこともあるけど,気にせず頑張っていいと思う。



「な,なに?」

「んーん。いいの」



じっと見つめられて,思わずたじろぐ。

そんな私から目を離して,由里子はぽつりと言った。



「2人が凄いのはいつもの事だけど。今日は気合いも入るよなと思って」

「何かあるの?」



私が尋ねると,由里子はまた私を見て。

はぁと肩を落とした。
  


「今度,小中にどこか誘われたの?」

「あ,うん」


変わった話題に,遅れて反応する。

結奈と瑠菜の反応を思い出して,私は何故だかするりと明かすことが出来なかった。

母親に怒られる子供のような気持ちになって,私は瞳を揺らして俯く。

由里子はそれ以上を聞かず,そっと私の頭を一瞬だけ慰めるように撫でた。



「ほら,また井上くんが入れたよ。……ちゃんと見てなきゃかわ……得点係でしょ」



あわあわと新しいページを捲る。

丁度位が変わるタイミングだったために,私は少しだけ手間取った。

ようやく終わってまたコートを見ると,名雪くんと目が合う。

私があたふたしている様子を目撃したのか,私に向かってころころと笑っていた。

何だか恥ずかしくなって,視線を逸らす。

もう一度視線を戻したとき,名雪くんの表情はより柔らかい笑顔へと変わっていた。

そして,自分のコートへと戻ってこようとしている球を見上げる。

そのボールが,ちゃんと相手に返されますように。

私はその様子から,目を離すことが出来なかった。

その日から,私は何かがおかしくて。

約束した日の前日は,2人で出掛けることの意味を今一度考えてしまった。

意識することない。

だってただ,幼馴染みとして,昔と変わらず,ちょっとお昼ごはんを食べに行くだけだから。

大和くんとの事は,ちょっとイレギュラーだったけど。

だけど,でも……

私たちは友達だし,名雪くんもそれを分かってるから。

1度くらい,いいんだよね……?

その答えに,なにより私が納得できていないまま。

夜はいつもより短く明けていった。


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