悲劇なのか喜劇なのか どう思う? 探偵(?)

ゆらぎなぎ

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「わぁっ、ななななにっ? こんなところになんで?」
「回収。帰るぞ。カバンはどうした? 教室じゃないだろうな」

 わぉ、口きいたよ。

「いや、教室でしょ、ふつう。私、ここには日誌出しに来ただけで。や、すみません、すぐ持ってきます」
「置いてけ、そんなもの」

「え、でも、サイフとか入ってたりするから、やっぱり」
「貴重品は持ち歩けっ。ほっとけ。行くぞ!」

 はいぃ?

 私に何が起きているのか。誰か兄様の行間を埋めて。しかしけれど何ができようこの私にってことで、後について歩くしかない。
 私だけではなく先生たちも異様に感じてくれているらしく、変な目で私たちを見てくれていた。いや、『くれてた』って、ありがたがる内容では全然ないような気がするけど、とりあえず同意してくれる人がいるというのは良いことだということで。

 顔合わせ済みのいっちゃんには、頭を下げてご挨拶。いっちゃんは迫力に圧されたらしく、応えと言えば半端に手を上げただけだった。

 次には手荒に扉を開けて、そんなわりには振り返って失礼しましたと発言をなさる。私もあわてて一緒にお辞儀をしてみたりした。変です、ヘンですって、私たち兄妹。

 ところで扉と言えば、佐々木がいるのだ。待ち構えていたようなそんなモノに、さすがの兄様も一歩退いた。

「こんにちはっ、小野里さん!」
「佐々木。君」

 刑事、そして、かつて捕らえられたことのある少年犯罪人とのご対面。しかし怯んでいるのは刑事の方だったりするこの異常、当然犯罪人の方に問題があったりする。(犯罪人なんだから当然だ)
 犯罪人、つまり佐々木は好調飛ばし、

「お久しぶりでーすっ。よろしかったらオレ、あとでカバン届けましょっか。いいっすよ、やりますよそれくらい。超おやすい御用です」

 これ一息だし。

 兄様はてっきり無視して歩き出すかと思ったのに、なにを言うやら、

「よし、頼んだ。庭にでも放り込んでくれればいいから」

 ひどすぎる。

「承ってございましょう!」

 いやでも、サイフ。サイフが、サイフ……。

 ええいッと、私は振り切ることを決めた。首を振って未練を断ち切り(切った気持ちに無理やりなって)、早足すぎる兄様の背中を追いかける。どうせ入っているのは、高校生だもん、現金だけだ。それもささやかなことこの上なし、ですから、どうせ。

 そして顔を上げれば、兄様はメートル単位で離れているのに決まっているのだった。私は追いかけ階段を駆け下りながら、訊いてみる。

「お兄ちゃん。仕事は?」
「抜けさせてもらった」

 待ってみたけど、解説は以上らしい。はぁ。そうでしょうケド。そうなんでしょうけれど、私が知りたいのはこの行動原因なのだと言うに。まだ生徒がたくさんいるに間違いない校舎内にまで、私を連れに来たその理由。

 声をかける友達らに、お兄ちゃんだよと私は答える。通常兄様はこんな事態、真っ先にかけって逃げ出す人なのだ。
 兄様、クールな性質なので、うきうききゃいきゃいの女子供なんて、苦手筆頭ぶっちぎりなのである。そしてこの人にとって不幸なことは、兄様、顔立ち良好なのである。騒がれちゃうんだよ、仕方ないでしょ。

 あまり似ていない妹としても、出現は避けて欲しかったことだ。兄様自慢も良いけれど、私のネガティヴな性質は血縁における類似あるいは相違点の論争に、傷ついてしまうのだ。かわいそうに。
 兄様の方がトツゼン変異で、私は小野里の血まっすぐなんだぞっ、と心で叫ぶが空しいものです。それがなんだと言うんですか。はは。

 コンパスが違うことなど気遣ってもらえるはずもない、最後には必死で走っていた。ちゅ、駐車場まで歩いた(走った……)のは初めてなのだけれど、だから先生方に同情なども初めてしてみた。朝夕、大変だ。

 あわてているなら校門前にでも止めてしまっても良いものだけれど、警察な人間としたらそれはできないことなのか。
 
 車通りなんてほとんどない道路だでも。そゆとことっても生真面目君な兄様は、誰の姿もない駐車場でもバックのための後方確認をとっても丁寧にしている。人間の首って伸びるなァとおよそバカな事を考えつつ、私は再度アプローチを試みた。

「どこに行くの? これ」

 この車。

「病院」
「病院?」

 おぉ、答えだ。しかし喜ぶ間の一瞬もなし、兄様は今度は出し惜しみせずに続ける。

「修平がアタマ殴られた」
「えぇっ?」

「おまえも連れて来いって祝子さんから連絡があったんだよ。通り道だし」
「頭、て……」

 殴られたって。

「状況は何も聞いてないんだ。行けばわかるだろ」
「ひどいの?」

「聞いてないって」
「あー」

 そう、言ったんだっけ。そうだっけ。

 口を開けばやだとかなんとか、脈絡ないこと言いそうで私はしっかり口を閉じたままにしておいた。両手をこぶしに握りしめ、膝の上に押し付ける。ぎゅう。

 兄様の行動を、ただ不思議がるばかりでなぜ悪い出来事に結び付けなかったのか。

 そんなのもちろん。
 私は怖いからだ。もちろんだ。

――どうするんだ、これから。
 頭の中から、いろいろ、消えた。
 だから考えないよう、消しといた。
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