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6.謎
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弟を軽く睨み、ルイーズは小さくため息をつくと、この面倒くさい会話を切り上げにかかった。
「お気にさわりましたら、重ねてお詫びいたします」
「気にしていない」
「それは何よりです」
「だが、気にくわない」
やはり厄介な男だ。自分より背が高いから、ただでさえ緊張するのに、口と性格まで可愛くない。
レオンハルトに夢中の令嬢たちの目を疑いたくなる。いや、可憐な彼女たちに罪はない。
きっと王太子が上手くだましているのだ。
「…………」
「何か言え」
「…………。そろそろ下がってよろしいですか?」
「なぜだ?」
「恐れながら、私がお気にめさないご様子ですから」
「……そんなことは言ってない」
「いいえ、大変失礼致しました。こうした席に不慣れなものですので、どうかご容赦ください」
「おい」
食い下がる王太子に、ルイーズはにっこりと笑った。
これ以上余計な事を言って絡むなよと目で語り、圧をかけながら、小柄な国王にはにこやかな笑みを向けた。
「では、陛下。失礼いたします」
「う、うむ……」
ようやく我に返った王の返答に言質を取ったルイーズは、弟を伴って颯爽とした足取りで去っていった。
もちろん、一度たりとも振り向かない。
逆に彼女の姿が人ごみの中に消えるまで見つめていたレオンハルトに、国王がとうとう堪えきれずに笑い出した。
「お前が女に振られるところなど初めて見たぞ」
「……そもそも口説いていませんよ。あのような生意気な娘など、お断りです」
「しかし、あのようにずけずけと物が言える娘がどれほどいるだろうな?」
「…………。単に礼儀知らずなだけでしょう」
ふてくされたように呟くレオンハルトに、国王は笑みを深め、
「そういうことにしておこうか」
と話を終えた。
一方、弟と共に彼らから距離を取ったルイーズの心中も、穏やかではない。
可愛い女の子と楽しく踊ってくださいというのが、一体どこが気に食わないのだろう。
心外である。
――私なんて、あの子たちと一緒に踊りたくてもできないのに!
喉もとまで出かかるが、どこで誰が聞いているか分からない夜会の場で叫ぶのは適当ではない。顔をしかめるに留めたが、リュンクスには十分それで通じたらしい。彼は苦笑を浮かべ、どこか安堵したような顔をした。
「あまり話が弾まなかったようで、残念でしたね」
「挨拶をしにいっただけだもの。長話をするような場でもないわ」
ルイーズはそれでもつい王太子の姿をまた目で追って、顔を曇らせた。
自分たちが去ってすぐに彼の周囲には着飾った令嬢たちが集まって、熱い視線を送っている。目をキラキラと輝かせて、一言でも王太子と話がしたいといわんばかりの彼女たちは、なんとも健気だ。
「でも……いいなぁ」
王太子を見つめてぽつりと漏らしたルイーズに、リュンクスは顔を強張らせ、
「まさか、羨ましいのですか?」
と尋ねた。
「……うん、少しね」
ルイーズは小さくため息をつき、憂いを帯びた顔をした。
凍りついていたリュンクスは大きく息を吐き、意を決したように頷く。
「分かりました。姉上がそこまでおっしゃるのでしたら、致し方ありません」
「なにが?」
「私も王宮に上がって間もない身ですので、伝手は多くありません。しかし、ありとあらゆる手段を使って、邪魔者を排除することはできます」
真顔で言う弟に、ルイーズは戸惑う。
「だから、何を言っているの?」
「隠さなくてもいいのです。姉上らしからぬことと思いますが、得てしてそういうものでもありますので」
ルイーズはさらに困った。
以心伝心だった弟が何を考えているのか、まったく分からない。
「お気にさわりましたら、重ねてお詫びいたします」
「気にしていない」
「それは何よりです」
「だが、気にくわない」
やはり厄介な男だ。自分より背が高いから、ただでさえ緊張するのに、口と性格まで可愛くない。
レオンハルトに夢中の令嬢たちの目を疑いたくなる。いや、可憐な彼女たちに罪はない。
きっと王太子が上手くだましているのだ。
「…………」
「何か言え」
「…………。そろそろ下がってよろしいですか?」
「なぜだ?」
「恐れながら、私がお気にめさないご様子ですから」
「……そんなことは言ってない」
「いいえ、大変失礼致しました。こうした席に不慣れなものですので、どうかご容赦ください」
「おい」
食い下がる王太子に、ルイーズはにっこりと笑った。
これ以上余計な事を言って絡むなよと目で語り、圧をかけながら、小柄な国王にはにこやかな笑みを向けた。
「では、陛下。失礼いたします」
「う、うむ……」
ようやく我に返った王の返答に言質を取ったルイーズは、弟を伴って颯爽とした足取りで去っていった。
もちろん、一度たりとも振り向かない。
逆に彼女の姿が人ごみの中に消えるまで見つめていたレオンハルトに、国王がとうとう堪えきれずに笑い出した。
「お前が女に振られるところなど初めて見たぞ」
「……そもそも口説いていませんよ。あのような生意気な娘など、お断りです」
「しかし、あのようにずけずけと物が言える娘がどれほどいるだろうな?」
「…………。単に礼儀知らずなだけでしょう」
ふてくされたように呟くレオンハルトに、国王は笑みを深め、
「そういうことにしておこうか」
と話を終えた。
一方、弟と共に彼らから距離を取ったルイーズの心中も、穏やかではない。
可愛い女の子と楽しく踊ってくださいというのが、一体どこが気に食わないのだろう。
心外である。
――私なんて、あの子たちと一緒に踊りたくてもできないのに!
喉もとまで出かかるが、どこで誰が聞いているか分からない夜会の場で叫ぶのは適当ではない。顔をしかめるに留めたが、リュンクスには十分それで通じたらしい。彼は苦笑を浮かべ、どこか安堵したような顔をした。
「あまり話が弾まなかったようで、残念でしたね」
「挨拶をしにいっただけだもの。長話をするような場でもないわ」
ルイーズはそれでもつい王太子の姿をまた目で追って、顔を曇らせた。
自分たちが去ってすぐに彼の周囲には着飾った令嬢たちが集まって、熱い視線を送っている。目をキラキラと輝かせて、一言でも王太子と話がしたいといわんばかりの彼女たちは、なんとも健気だ。
「でも……いいなぁ」
王太子を見つめてぽつりと漏らしたルイーズに、リュンクスは顔を強張らせ、
「まさか、羨ましいのですか?」
と尋ねた。
「……うん、少しね」
ルイーズは小さくため息をつき、憂いを帯びた顔をした。
凍りついていたリュンクスは大きく息を吐き、意を決したように頷く。
「分かりました。姉上がそこまでおっしゃるのでしたら、致し方ありません」
「なにが?」
「私も王宮に上がって間もない身ですので、伝手は多くありません。しかし、ありとあらゆる手段を使って、邪魔者を排除することはできます」
真顔で言う弟に、ルイーズは戸惑う。
「だから、何を言っているの?」
「隠さなくてもいいのです。姉上らしからぬことと思いますが、得てしてそういうものでもありますので」
ルイーズはさらに困った。
以心伝心だった弟が何を考えているのか、まったく分からない。
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