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15.五大家
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「ええと……違いました、ね」
まだ子供だと言うのに、何だろうか。凄まじい覇気と怒気を感じる。
「僕は女の人が好きだし、そちらの嗜好があったとしても、君の弟は絶対に嫌だ」
「何故ですか、殿下。リュンはこんなに可愛いのに!」
「……可愛い?」
思い切り耳を疑うような顔をして、まじまじとリュンクスを見返すアルエに、当の彼は優美な笑みを浮かべ、
「姉にとって、私はいつまでも可愛い弟にすぎませんよ」
と答えた。
アルエは小さくため息をつき、顔を赤くして抗議しているルイーズに視線を戻す。
「僕はただ、ロワ伯爵家の後見が欲しいと言うつもりだったんだけど」
「後見……ですか?」
「そう。僕の立場はここではずっと弱いんだ。王位継承権はもっているけど、兄上は母親の実家であるジェイド家の支援もあって盤石だからね。そんな権利は、あってないようなものなんだよ。ロワ伯爵家がついてくれると、安心なんだ」
ようやく合点が言ったルイーズは、冷静さを取り戻した。ここまで単刀直入に言って貰うと、理解も早い。
「なるほど。弟が殿下のお傍に仕えるようになれば、後ろ盾を得たと世間は判断するかもしれません。ですが、あくまで、ロワも一貴族に過ぎませんよ」
ロワ伯爵家は確かに名門だが、他の五大家とてそれは同様だろう。
ロワ伯爵家ひとつで解決できるものではあるまいというのがルイーズの見解であったが、アルエは薄っすらと笑った。
幼い少年のものとは思えない、冷めた笑みだった。
「そうだね。でも、グルナ家は僕についてくれるそうだよ」
「…………」
あえてその名を出した理由を、ルイーズは察した。
五大家と呼ばれてはいるが、実質的に影響力を持っているのはグルナ家と、ジェイド家、そしてロワ家の三つだ。
他の二家は古豪としての一定の名声は得ていても、長い歴史の中で経済的に苦しくなったり人脈が絶えてしまったりと、次第に力を落として今や形だけのものと化している。
ロワ伯爵家は、妾の子に過ぎない姉弟が後継者という点を除けば、名門に相応しいだけの力があった。
親戚には政府の高官や軍関係者も非常に多く、商人として才覚を発揮している者もいる。
ルイーズ姉弟の父親は家庭では問題だらけだったが、当主としては非常に優秀な人物でもあったらしく、親戚たちとも友好な協力関係を築いていた。
田舎でのんびり育った姉弟がいきなり伯爵家の頂点に立つなど、普通は猛反発されるか、あわよくばその地位を狙おうとする者が出るところだ。
だが、むしろ親戚一同が一丸となって支援してくれているのは、父の存在が大きい事はルイーズも認めざるをえなかった。
そして、もう一つ。
伝統あるロワ伯爵家の唯一の直系の血筋を絶やすまいという、彼らの執念だ。
いくら素行が悪くても伯爵の正妻の子であるからと、親戚たちが必死で擁護してきた跡取り息子が痴情のもつれで死に、伯爵も急死した事で、ロワ伯爵家の血筋は断絶の危機に陥った。
伯爵にルイーズとリュンクスという庶子がいる事は彼らも知っていたが、田舎で育ち、社交場にすら出たことがない彼らに務まる大任とは思えず、当初は呼び寄せる事も渋る者が多かった。
だが、正妻が自分の実家であるグルナ家から養子を迎え、自身の影響力を大きくしようと野心を見せた事で、親類一同の結束は固くなったのだという。
グルナ家にロワ伯爵家が乗っ取られるようなものだったからだが、事はそれだけにとどまらない。
グルナ、ロワ、そしてジェイドの三家の均衡が崩される事になりかねないのだ。
ジェイド家は王太子レオンハルトの生母の実家であり、当然のように彼の後見役であるし、産まれた当初から支援している。
嫡男であり、文武両道の呼び声高く、正妻の子である彼は非の打ちどころのない男で、ロワもグルナも表向きは彼を王太子に据えることを認めてきた。
だが、グルナがロワの力を吸収してしまえばどうなるか。
いかにジェイド家といえど、勢力が増した両家と相対するのは難があるだろう。
王太子もグルナ家の機嫌を取らざるをえなくなる。グルナ家は王国の最大派閥となって、意のままにする事も夢ではなくなるのだ。
そうした権力の偏りを、ロワ伯爵家の人々は嫌った。
五大家は王家を支えるために存在する。
王家と共に命運を供にし、忠節を尽くすべしというのが、ロワ伯爵家の代々の家訓である。
正妻の行いに猛反発し、彼女が実家へと帰ったのも好機とみて、彼らは姉弟を歓迎した。
グルナ家の者でなければもう誰でもいいという空気さえあったから、姉弟はそう言った点では助けられた。
親類一同は男装して女だてらに剣を振るうルイーズに頭を抱えたものだが、お小言で済んでいるのは、このためでもある。
彼らはルイーズたちに言った。
ある程度の事は大目に見る。
困難があれば、援けることも厭わない。
いくらでも頼ってもらってかまわない。
その代わり、王国を護り、王家を支えるように、と。
ルイーズは彼らの願いは理解できたし、王国を内乱状態に陥らせることは本意ではない。
政争に巻き込まれる事も覚悟してはいたが、あくまで仮初の立場であるし、よもやこうも短い間に決断を迫られるとは思ってもいなかった。
張本人たるアルエは優美な笑みを浮かべ、その瞳は少年のものとは思えない鋭さだ。
曖昧な返答で誤魔化せないと、ルイーズは直感した。
「グルナ家は僕の後見を父上に願い出て、許可を得てくれた。身寄りも何の伝手もない僕に味方してくれるなんて、本当に嬉しい限りだ」
つまり、グルナ家はアルエに大きな恩を売ったことになる。
今、ロワ伯爵家も後に続けば―――そんな誘惑をかけてくる少年をルイーズは見返して、重い口を開いた。
「それはよろしゅう御座いましたね。両殿下がそれぞれ大きな後ろ盾を得られた事は、頼もしい限りです」
「ロワはどうするのかな?」
「どう、とおっしゃいますと」
「五大家のうち、他の二家は優位な方に追従するのが常だから、数に入れなくていい。ロワ伯爵家は僕と兄上、どちらにつくのか聞きたいんだ」
天使のような柔らかな笑みを浮かべ、選べと迫る。
王家に生まれた者らしい、したたかさと覇気を滲ませる少年に、傍らで聞いていたリュンクスは息を呑んだが、ルイーズは変わらぬ穏やかな笑みを浮かべたままだった。
「おかしなことをおっしゃいますね。私どもはどうもいたしません。両殿下が後見をえられたという事だけです」
王太子が内外に認められた後継者であることは、どうあっても覆せるものではない。
レオンハルト王太子が廃嫡されるような事をしでかしたりしない限り、アルエがその座につくことはない。
もしアルエが私欲で王位簒奪を目論んでいるとしたら、ルイーズは全力で止めるつもりでいた。
そんな事は内乱を招くだけだからだ。
王太子がどうしようもない男で、国の未来がないと憂いているための行動だとしたら、まずは王太子を正すべきだと進言しただろう。
だが、アルエはそれ以上何も言わない。
踏み込んでこない。
ならば、目の前にある事実を認めること以外、ルイーズにできる事などないのだ。
だからきっぱりと答えたが、アルエは笑みを深めた。
「じゃあ、兄上につくの?」
「おっしゃっている意味が分かりかねますが」
「意地を張らないで。君は兄上が気になって仕方がないようだからね。妙齢の女性では無理もない話だけど」
ルイーズは目が点になった。思わず弟を見返すと、彼もまた同様に目を瞬いている。
「恐れながら……私が王太子殿下の何を気にしているのでしょうか?」
「隠さなくてもいいよ。先日の夜会で、兄上の周りに大勢の女性が集まっていた時、君は明らかに嫉妬していた」
「はぁ……」
よく分かったなぁとルイーズが感心すると、リュンクスも同様なのか後ろでくすりと笑っている声がした。
「それなのに、あえて僕に関わって来たのは、当て擦りかな?」
「滅相もない。そのように心が狭くはありません」
「だったら、もっとおかしいんだよ。君が僕に近づく理由があるはずだ」
今日の事を言っているのなら、招待されたから来ているだけなのに、アルエは何故か他意があるだろうと決めつけてくる。
ルイーズは困惑の眼差しを向け、
「恐れながら、理由がなければ、殿下とお話をしてはいけないのでしょうか」
と率直に尋ねた。
アルエは意表を突かれたような顔をして一瞬息を呑み、表情を消した。
「普通の人は、僕と話をしたいとは思わないだろうからね」
「そうでしょうか。私は殿下とお話が出来て嬉しいですよ?」
なにしろ、可愛い。
過去に見た事もない愛くるしさだ。
「……そんなはず、ないんだよ」
「どうして先に決めつけてしまわれるのですか。私は一言でもそのような事を申し上げましたか?」
それこそ心外である。誤解があったのなら解きたい。アルエが黙りこんでしまったから、ルイーズは更に続けた。
「殿下。先回りしたように考えを決めつけないでください。たとえそれが真意でなくとも、殿下が不快になられるのを避けるために、返答に気をつけなければなりません」
「……相手に気を遣わせると言いたいようだね」
「殿下は高貴なご身分でいらっしゃいます。目に見えないものも、人は恐れるのですよ」
「…………」
大きな瞳を軽く見開いて、アルエはしばらく固まっていた。
控えていた侍従長達など言うに及ばず、直立不動のままになっている。
ルイーズはそこまで反応しなくてもと思ったが、アルエが小さなため息を漏らしたので、そちらに意識が戻った。
「先回りは出来るよ。だって僕は、人の心が読めるんだから」
まだ子供だと言うのに、何だろうか。凄まじい覇気と怒気を感じる。
「僕は女の人が好きだし、そちらの嗜好があったとしても、君の弟は絶対に嫌だ」
「何故ですか、殿下。リュンはこんなに可愛いのに!」
「……可愛い?」
思い切り耳を疑うような顔をして、まじまじとリュンクスを見返すアルエに、当の彼は優美な笑みを浮かべ、
「姉にとって、私はいつまでも可愛い弟にすぎませんよ」
と答えた。
アルエは小さくため息をつき、顔を赤くして抗議しているルイーズに視線を戻す。
「僕はただ、ロワ伯爵家の後見が欲しいと言うつもりだったんだけど」
「後見……ですか?」
「そう。僕の立場はここではずっと弱いんだ。王位継承権はもっているけど、兄上は母親の実家であるジェイド家の支援もあって盤石だからね。そんな権利は、あってないようなものなんだよ。ロワ伯爵家がついてくれると、安心なんだ」
ようやく合点が言ったルイーズは、冷静さを取り戻した。ここまで単刀直入に言って貰うと、理解も早い。
「なるほど。弟が殿下のお傍に仕えるようになれば、後ろ盾を得たと世間は判断するかもしれません。ですが、あくまで、ロワも一貴族に過ぎませんよ」
ロワ伯爵家は確かに名門だが、他の五大家とてそれは同様だろう。
ロワ伯爵家ひとつで解決できるものではあるまいというのがルイーズの見解であったが、アルエは薄っすらと笑った。
幼い少年のものとは思えない、冷めた笑みだった。
「そうだね。でも、グルナ家は僕についてくれるそうだよ」
「…………」
あえてその名を出した理由を、ルイーズは察した。
五大家と呼ばれてはいるが、実質的に影響力を持っているのはグルナ家と、ジェイド家、そしてロワ家の三つだ。
他の二家は古豪としての一定の名声は得ていても、長い歴史の中で経済的に苦しくなったり人脈が絶えてしまったりと、次第に力を落として今や形だけのものと化している。
ロワ伯爵家は、妾の子に過ぎない姉弟が後継者という点を除けば、名門に相応しいだけの力があった。
親戚には政府の高官や軍関係者も非常に多く、商人として才覚を発揮している者もいる。
ルイーズ姉弟の父親は家庭では問題だらけだったが、当主としては非常に優秀な人物でもあったらしく、親戚たちとも友好な協力関係を築いていた。
田舎でのんびり育った姉弟がいきなり伯爵家の頂点に立つなど、普通は猛反発されるか、あわよくばその地位を狙おうとする者が出るところだ。
だが、むしろ親戚一同が一丸となって支援してくれているのは、父の存在が大きい事はルイーズも認めざるをえなかった。
そして、もう一つ。
伝統あるロワ伯爵家の唯一の直系の血筋を絶やすまいという、彼らの執念だ。
いくら素行が悪くても伯爵の正妻の子であるからと、親戚たちが必死で擁護してきた跡取り息子が痴情のもつれで死に、伯爵も急死した事で、ロワ伯爵家の血筋は断絶の危機に陥った。
伯爵にルイーズとリュンクスという庶子がいる事は彼らも知っていたが、田舎で育ち、社交場にすら出たことがない彼らに務まる大任とは思えず、当初は呼び寄せる事も渋る者が多かった。
だが、正妻が自分の実家であるグルナ家から養子を迎え、自身の影響力を大きくしようと野心を見せた事で、親類一同の結束は固くなったのだという。
グルナ家にロワ伯爵家が乗っ取られるようなものだったからだが、事はそれだけにとどまらない。
グルナ、ロワ、そしてジェイドの三家の均衡が崩される事になりかねないのだ。
ジェイド家は王太子レオンハルトの生母の実家であり、当然のように彼の後見役であるし、産まれた当初から支援している。
嫡男であり、文武両道の呼び声高く、正妻の子である彼は非の打ちどころのない男で、ロワもグルナも表向きは彼を王太子に据えることを認めてきた。
だが、グルナがロワの力を吸収してしまえばどうなるか。
いかにジェイド家といえど、勢力が増した両家と相対するのは難があるだろう。
王太子もグルナ家の機嫌を取らざるをえなくなる。グルナ家は王国の最大派閥となって、意のままにする事も夢ではなくなるのだ。
そうした権力の偏りを、ロワ伯爵家の人々は嫌った。
五大家は王家を支えるために存在する。
王家と共に命運を供にし、忠節を尽くすべしというのが、ロワ伯爵家の代々の家訓である。
正妻の行いに猛反発し、彼女が実家へと帰ったのも好機とみて、彼らは姉弟を歓迎した。
グルナ家の者でなければもう誰でもいいという空気さえあったから、姉弟はそう言った点では助けられた。
親類一同は男装して女だてらに剣を振るうルイーズに頭を抱えたものだが、お小言で済んでいるのは、このためでもある。
彼らはルイーズたちに言った。
ある程度の事は大目に見る。
困難があれば、援けることも厭わない。
いくらでも頼ってもらってかまわない。
その代わり、王国を護り、王家を支えるように、と。
ルイーズは彼らの願いは理解できたし、王国を内乱状態に陥らせることは本意ではない。
政争に巻き込まれる事も覚悟してはいたが、あくまで仮初の立場であるし、よもやこうも短い間に決断を迫られるとは思ってもいなかった。
張本人たるアルエは優美な笑みを浮かべ、その瞳は少年のものとは思えない鋭さだ。
曖昧な返答で誤魔化せないと、ルイーズは直感した。
「グルナ家は僕の後見を父上に願い出て、許可を得てくれた。身寄りも何の伝手もない僕に味方してくれるなんて、本当に嬉しい限りだ」
つまり、グルナ家はアルエに大きな恩を売ったことになる。
今、ロワ伯爵家も後に続けば―――そんな誘惑をかけてくる少年をルイーズは見返して、重い口を開いた。
「それはよろしゅう御座いましたね。両殿下がそれぞれ大きな後ろ盾を得られた事は、頼もしい限りです」
「ロワはどうするのかな?」
「どう、とおっしゃいますと」
「五大家のうち、他の二家は優位な方に追従するのが常だから、数に入れなくていい。ロワ伯爵家は僕と兄上、どちらにつくのか聞きたいんだ」
天使のような柔らかな笑みを浮かべ、選べと迫る。
王家に生まれた者らしい、したたかさと覇気を滲ませる少年に、傍らで聞いていたリュンクスは息を呑んだが、ルイーズは変わらぬ穏やかな笑みを浮かべたままだった。
「おかしなことをおっしゃいますね。私どもはどうもいたしません。両殿下が後見をえられたという事だけです」
王太子が内外に認められた後継者であることは、どうあっても覆せるものではない。
レオンハルト王太子が廃嫡されるような事をしでかしたりしない限り、アルエがその座につくことはない。
もしアルエが私欲で王位簒奪を目論んでいるとしたら、ルイーズは全力で止めるつもりでいた。
そんな事は内乱を招くだけだからだ。
王太子がどうしようもない男で、国の未来がないと憂いているための行動だとしたら、まずは王太子を正すべきだと進言しただろう。
だが、アルエはそれ以上何も言わない。
踏み込んでこない。
ならば、目の前にある事実を認めること以外、ルイーズにできる事などないのだ。
だからきっぱりと答えたが、アルエは笑みを深めた。
「じゃあ、兄上につくの?」
「おっしゃっている意味が分かりかねますが」
「意地を張らないで。君は兄上が気になって仕方がないようだからね。妙齢の女性では無理もない話だけど」
ルイーズは目が点になった。思わず弟を見返すと、彼もまた同様に目を瞬いている。
「恐れながら……私が王太子殿下の何を気にしているのでしょうか?」
「隠さなくてもいいよ。先日の夜会で、兄上の周りに大勢の女性が集まっていた時、君は明らかに嫉妬していた」
「はぁ……」
よく分かったなぁとルイーズが感心すると、リュンクスも同様なのか後ろでくすりと笑っている声がした。
「それなのに、あえて僕に関わって来たのは、当て擦りかな?」
「滅相もない。そのように心が狭くはありません」
「だったら、もっとおかしいんだよ。君が僕に近づく理由があるはずだ」
今日の事を言っているのなら、招待されたから来ているだけなのに、アルエは何故か他意があるだろうと決めつけてくる。
ルイーズは困惑の眼差しを向け、
「恐れながら、理由がなければ、殿下とお話をしてはいけないのでしょうか」
と率直に尋ねた。
アルエは意表を突かれたような顔をして一瞬息を呑み、表情を消した。
「普通の人は、僕と話をしたいとは思わないだろうからね」
「そうでしょうか。私は殿下とお話が出来て嬉しいですよ?」
なにしろ、可愛い。
過去に見た事もない愛くるしさだ。
「……そんなはず、ないんだよ」
「どうして先に決めつけてしまわれるのですか。私は一言でもそのような事を申し上げましたか?」
それこそ心外である。誤解があったのなら解きたい。アルエが黙りこんでしまったから、ルイーズは更に続けた。
「殿下。先回りしたように考えを決めつけないでください。たとえそれが真意でなくとも、殿下が不快になられるのを避けるために、返答に気をつけなければなりません」
「……相手に気を遣わせると言いたいようだね」
「殿下は高貴なご身分でいらっしゃいます。目に見えないものも、人は恐れるのですよ」
「…………」
大きな瞳を軽く見開いて、アルエはしばらく固まっていた。
控えていた侍従長達など言うに及ばず、直立不動のままになっている。
ルイーズはそこまで反応しなくてもと思ったが、アルエが小さなため息を漏らしたので、そちらに意識が戻った。
「先回りは出来るよ。だって僕は、人の心が読めるんだから」
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