王子様は恋愛対象外とさせていただきます【改稿中】

黒猫子猫

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18.巻き込まれた令嬢

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 王宮を辞してきた姉弟を出迎えたソロは、執務室で仔細を聞いて険しい顔をしたまま、黙りこんだ。
 弟と共に彼と向かい合わせでソファーに座ったルイーズは、そんな師に首を傾げる。そして、三人分のお茶を淹れてくれているローナを見返した。

「わたし、何か変なこと言ってきたかな?」
「大丈夫です。ルイーズ様が変わっているのは、昔からですから」
「ひど……あっ、先生も笑わないでください!」

 娘の容赦ない発言に、ようやくソロが表情を崩した。

「相変わらずだな。そんなに鈍くてこの先大丈夫か? 早速、王太子に口説かれたみたいだが」
「あれは喧嘩だと思うのですが」

「そうとは思えんな。少なくとも、王太子はお前を無視できない。それどころか厄介な事に巻き込まれつつあるぞ」
「どう言う事ですか?」

「レオンハルト王太子は、次期国王として盤石にみえる。何といっても正妃が産んだ嫡男だし、母親が早世していても、実家のジェイド家の権威は絶大だ。見目が良いし、剣の腕もたつ。まさに非のつけどころのない御方だ」
「……そうでしょうか?」

「まぁ、お前の好みかどうかは、とりあえずおいておけ。レオンハルト王太子が他国からさえも羨ましがられるほどの万能なかたであることは、疑いようもないことだ。普通に考えれば、未成年の庶子であるアルエ王子に勝ち目なんてない」
「可愛いらしさでは大勝利まちがいなしだと思いますが」

「だから、そういうのはおいておけ! 大体、アルエ王子を可愛いなんてほざくのはお前くらいだ」
「え。先生、それはないですよ!」

「黙れ。話が進まん!」

 ぴしゃりと言われたルイーズは渋々引き下がる。

「ただ、望み薄のアルエ王子にわざわざグルナ家が後見につく時点で、じゅうぶんきな臭い」
「……ロワにもついてほしいとおっしゃっていましたね」

「断って正解だ」
「別に双方の王子に後見がついたのは結構なことだと思いますよ。ただ、アルエ殿下は更にロワの助力を求めてこられましたから、他の二家も同様に選択を迫られただろうと推測しました」

「その通りだ。他の二家は、それぞれ王太子とアルエ王子に別れてついたらしいぞ」

 ルイーズは目を見張りリュンクスを見返せば、弟もまた肯定した。

「表向きはどちらも公言していませんがね」
「……つまり、五大家が二対二に別れたということ?」

「そうです。二家はもはや五大家の体裁を取り繕うのに手一杯なくらいの力しかありませんので、味方したかたが不利となれば、手のひらを返すでしょう。つまり、ロワがどちらにつくかで決まるかと」

 ルイーズは額に手を当て呻いた。

「ロワ伯爵家は王子殿下がたの王位争いに、巻きこまれそうになっているということかな……迷惑」
「そうなりますね」
「リュン。そういうことは、もう少し早く言ってほしいんだけど」
「別に、姉上が付きたいほうにすれば良いのですから、言う必要性を感じなかったんですよ」

 あっさりと言ったリュンクスに、ルイーズは目を見張った。

「ちょっと待って。次期伯爵は貴方だよ。私は代理に過ぎないんだから、本来は貴方が決めるべきこと……」

「現当主は姉上ですから、私は姉上の判断を全面的に支持しますし、姉上を困らせる者は全力で排除して差し上げます」

 にっこりと微笑むリュンクスに、ルイーズは困り顔である。

 そんな彼らのやり取りを聞いていたローナはお茶を出し終えると、自分もルイーズたちの斜め向かいに座った。

 本来侍女としてはあるまじきことだが、田舎で暮らしていた時も内々に相談事をしていたときは分け隔てなかったし、今は部屋に自分達四人しかいなかったから遠慮もない。

「父様、たとえアルエ殿下にグルナ家がついたとしても、レオンハルト様の圧倒的優位は変わりがないでしょう。勝負にならないのではなくて?」

「そのはずだ。国内の貴族たちは、レオンハルト王太子が後継となるのが順当であると思っているだろうし、あえてアルエ王子を推す理由もない。彼らに反意を求めても、相手にされないはずだ。それでもアルエ王子があえてロワの後援を求めてくるとなれば、何かしらの勝算があるはずだ」

 思案する父娘に、ルイーズは首を傾げた。

「アルエ殿下はそこまで権力に固執しているようには見えませんでしたが」

「あまり公然とはできないだろうな。兄への反逆になる。レオンハルト王太子も弟の不穏な動きに警戒しているはずだ」

 ソロの言葉に、ルイーズは苦々しい顔になる。

「兄弟喧嘩をするにしても、国を分断するような振る舞いは慎むべきです」

「だからこそ、今ロワがどちらかに肩入れするのは危険だと思うんだが……王子たちがこのまま放っておくとも思えないな。態度を決めろと言われ続けるぞ」

「迷惑ですねえ……伯爵家が絡むことなのですから、私の一存で決められるものではありませんし」

 当主の座におさまってはいるが何とかその任をこなせているのは、親戚の人々の協力もあるからだ。

 何としても伝統あるロワ伯爵家を護るという点で彼らは一致しているから、ルイーズやリュンクスにも熱心に力添えをしてくれている。
 政治的判断は彼らの方が経験も実績も上だし、ルイーズ一人で決める訳にはいかないことだ。

「奴らは、お前に決めろと言うだろうな」
「え。何故」

「お前が彼らの全幅の信頼を受けるほど、聡明かつ冷静で先見の明がある優れた当主だから―――じゃあ、もちろんない」

「いりません、そのくだり!」

「長年王家に仕えている連中ばかりだからな。あの両王子の物騒な側面もよく知っているわけだ。下手な態度をとって睨まれたくない、自分の身も可愛いからお前を矢面に立たせようと、こういうわけだ」

「え。それはずるいです!」

「諦めろ。当主の宿命だ」

 そう言うソロの口が軽いのも、自分へのとばっちりが少ないからに違いない。

 ルイーズは救いを求めて、弟を見返した。

「リュンは私を見捨てないよね⁉」

「もちろんです、姉上。先程も申し上げたではありませんか。姉上が潰せとおっしゃるなら、捏造してでも敵となる者を地獄に引きずり落とします」

「それ、犯罪……」

 ルイーズは頭痛をおぼえて呻くなか、ソロは更に
「お前が男にモテるなんて奇跡だな」
 と、余計な事を言った。

 それを聞いてローナが、
「あら、ただでさえルイーズ様は女性に人気がある方なんですから、これ以上は困りますわ」
 と、真面目に抗議する。

 この場に集まった者たちが誰一人としてあてにならない事実に、ルイーズは一人頭を抱えた。
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